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2016.10.14
全国1600軒以上の純喫茶をめぐった『純喫茶、あの味』著者、難波里奈さんに聞く、純喫茶の魅力とは?
昭和の文化遺産とも言われる、純喫茶。当時のインテリアが残る店内で味わえるのが、ナポリタン、オムライス、サンドイッチ、トーストなど、どこか懐かしさを感じる喫茶ごはんです。 そんな喫茶ごはんの魅力を伝える一冊が『純喫茶、あの味』(イースト・プレス)です。著者の難波里奈さん(以下、難波さん)が、これまで行った純喫茶は1600軒以上。なんと行きつけの純喫茶には、300回以上訪れているそう。 難波さんをそこまで夢中にさせる純喫茶の魅力について聞きました。
地元で長年愛されている昔ながらの喫茶店=純喫茶
日中は会社員、日暮れから東京喫茶店研究所二代目所長として活動する難波さん。平日は会社や家の周辺。休日は路線図を見て、まだ降りたことのない駅で降りて喫茶店を探すこともあるそう
―そもそも純喫茶とはなんですか?
一般的にはアルコールを出さない喫茶店と言われてるんですけど、私の場合はもっとゆるい定義で、昭和の時代から純喫茶のお店として創業していてずっと同じ場所にあって、近所の方たちに愛されている昔ながらの喫茶店ということにしています。
古着のワンピースがなじむ空間を探すうちに純喫茶の世界へ
「詩人写真家の沼田元氣さんは私の師匠。東京喫茶店研究所初代所長の沼田さんから“二代目所長”を譲り受けました。」(難波さん)
―地元の人たちに長い間愛されているお店という視点で考えると、純喫茶が身近なお店に思えてきました。純喫茶が好きになり、お店へ通うようになったきっかけは何かあったのでしょうか?
純喫茶に通うようになった大きなきっかけは2つ。ひとつは、沼田元氣さんの著書、純喫茶の世界を表現した写真集を見て、好きになったこと。そしてもうひとつは、好きな古着のワンピースが純喫茶の空間だと違和感なくなじむことを知ったのがきっかけです。
純喫茶は、どのお店も個性的。だから何度行っても飽きない
「シュガーポットの種類、うつわの形や模様も純喫茶めぐりのチェックポイント。 ドアノブの形や色、椅子やテーブルのデザイン、照明の明るさにも、お店の個性が出ます。」(難波さん)
―師匠の本との出会いと、洋服がきっかけで純喫茶好きになったのですね。それから十数年も純喫茶に通い続けるわけですが、そこまで好きな純喫茶の魅力って何なのでしょうか?
全国1600軒以上の純喫茶をめぐっていますが、どの純喫茶も「そこにしかない」お店です。外観、店内のインテリア、マッチやコースターのデザイン、マスター、メニュー…ひとつとして同じものはないので、お店の個性を感じます。だから飽きることがありません。
喫茶ごはんは、マスターたちのこだわりや努力から生まれる作品のようなもの
「『純喫茶、あの味』の中で紹介しているお店は、実際に何度も食べて、本当においしいと感じたお店の中から厳選してます。」(難波さん)
―たしかに純喫茶は、お店ひとつひとつに独特の世界観がありますよね。同じ名前のメニューでもお店によって全然違うと『純喫茶、あの味』の中でも書かれていましたが…
そうなんです。同じ名前のメニューでもお店によって味や盛りつけが全然違います。しかも、こんなに丁寧に作られた美味しいものが気軽な価格でいつでも食べられるのはすごい! メニューは、マスターたちのこだわりや努力がつまった作品なんだなと思います。
あるお店のマスターは「80点以上のものを毎回、毎時間、提供していきたい」と言ってたんですけど、80点ってところが、またいいなって。高級レストランとかとは違う、ゆるい隙間がお客のこちらにも生まれるじゃないですか。 過剰な期待はしないけど、出てくるものは期待以上のものという、すごさとおもしろさが純喫茶にはありますね。
行きつけの純喫茶は、神田の「エース」
「お世話になってるマスターたちの中には、メールやLINE、電話や手紙のやりとりをしたり、一緒に食事へ行くマスターもいます。」(難波さん)
―80点以上を目指すって、とってもいい言葉。純喫茶にはすてきなマスターがたくさんいそうですね。難波さんがよく通う、“行きつけ”の純喫茶にも魅力的なマスターがいるのでしょうか?
行きつけの純喫茶、神田の「エース」のマスターも魅力的です。長年通っているので、今やマスターとは家族のような関係。電話のやりとりもしてます。 純喫茶通いを十数年していますが、「エース」に訪れた回数は300を超えていると思います。マスターの顔が見たいという理由もありますが、通勤圏内にあるので立ち寄りやすいんです。
会話のポイントは、お店の良いところをみつけて、伝えること
―難波さんみたいにマスターたちと仲良くなれたら楽しそう!マスターと仲良くなるためのコツを教えてください。
もしマスターと仲良くなりたいなら、そのお店に感じたすてきなところを伝えることが大切。お世辞ではなく、本当の気持ちを伝えていけば、最初は謙遜されていたマスターでも、わりとおしゃべりをしてくれます。 みなさんご自分のお店のことが好きですから、ほめられるとうれしい。そういうやりとりからマスターに顔を覚えてもらい、少しずつ交流を深めてみてはいかがでしょうか。
純喫茶で過ごす時間は、日常の中でできる最大限のぜいたく
ふんわり軽い食感のシュー皮に濃厚なチーズ入りカスタードクリームがたっぷり「古瀬戸オリジナル シュークリーム」(470円)
―マスターたちとおしゃべりを楽しんだり、珈琲を飲んだり、純喫茶で過ごす時間は難波さんにとってどんな時間と場所なのでしょうか?
気持ちを整理してフラットになれる時間と場所ですね。仕事でうまくいかないことがあっても、自分の好きな場所にいれば自信を取り戻せる。自分にはこういう好きなものがあって、大事な人もいるって思うと、落ち込んだことが自分の世界のすべてじゃないから、大丈夫だなって。 あとは、次の旅に出るまでの小休止というか。日常と非日常の間の小さな逃避行でもあります。本当は毎日旅に出たいけれど、平日は難しい。だから純喫茶で過ごす時間は、日常の中でできる最大限のぜいたくですね。
自分が暮らす街に、お気に入りの純喫茶をみつけてほしい
「ひとつのお店には、たくさんのおいしい喫茶ごはんがある。いろんな味に出会って欲しいです。」(難波さん)
―難波さんにとって純喫茶は、ひと息つく場所であり、心のよりどころなのかもしれませんね。最後に『純喫茶、あの味』に込めた思いをひとこと、いただけますか?
喫茶店は無理して行くところではないと思っていて、自宅と職場や学校の間にあるような、ふらっと立ち寄れる場所にあるから、あそこに行こうって思い出せる。特別過ぎず、日常を感じさせるくらいがちょうどいい。
「今はお店に行くことができない人でも、自宅で純喫茶ごはんを楽しんで欲しくて、本の中で名店のレシピをいくつか紹介しています。」(難波さん)
今は純喫茶へ行くことが人気になってきて、有名店に行くことはイベントのようで楽しいですよね。けれど、そこからさらに、自分の町にもいい喫茶店があることを知って、みんながそれぞれのお店に通うようになればいいなと思っています。 どんな町にも、すてきな喫茶ごはんや純喫茶があると思っています。 ありふれた日常の中に寄り添ってくれる純喫茶の「そこに行けば会える人」「変わらないもの」「その店でしか味わえない味」を、本を通じて多くの人に知ってもらえたらうれしいです。 ************************ 来週は今週に引き続き、難波さんに聞いたとっておきの“喫茶ごはん”5選をご紹介します。どうぞお楽しみに♪ (撮影協力:古瀬戸珈琲店 駿河台下店)
古瀬戸珈琲店 駿河台下店
コセトコーヒーテンスルガダイシタテン
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島田零子 写真:青柳喬
難波里奈『純喫茶、あの味』(イースト・プレス)
純喫茶を巡って十数年、訪ねたお店は全国1600軒以上の著者が「いま食べておきたい純喫茶の味」を全国57店紹介。定番の真っ赤なナポリタンから、昭和を感じるゴージャスな盛り付けのフルーツパフェまで、愛され続ける名店の一皿をご堪能ください。さらに、いくつかのお店については、貴重なレシピも掲載しました。「読んで」「訪ねて」「作って」楽しめる、純喫茶グルメの決定版です。
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