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【連載・暮らしと、旅と…】与論島、リゾートアイランドの雨の日は

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【連載・暮らしと、旅と…】与論島、リゾートアイランドの雨の日は
トラベルライター朝比奈千鶴による、暮らしの目線で旅をする本連載。今回から、鹿児島県屋久島と沖縄の間に位置する、奄美群島をめぐります。第一回目は奄美群島にある島のひとつ、与論島を訪れます。

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1972年に沖縄が返還されるまで“日本最南端”の島であった与論島は、昭和リゾートブームの際には、「東洋の海に浮かび輝く一粒の真珠」と謳われ、絶頂期を迎えた観光地でした。多くの旅の選択肢が増えた現在、若者がこぞってビーチで寝そべっているようなかつての風景は見られませんが、現在でもリピーターが多く、根強い人気のあるリゾートアイランドです。

近年では、2007年公開の映画『めがね』のロケ地で話題となりました。小林聡美さん扮する都会からやってきた主人公のタエコが民宿「ハマダ」にスーツケースをひきずってやってくるところから物語は始まります。人生の転換期を迎えたタエコは、そこで“たそがれ”、島人たちとの交流を通してゆっくりと心を開いていきます。そんな映画のストーリーに重ね合わせるかのように、海辺で“たそがれる”ひとり旅のお客さんも多いのだそう。

私も、タエコのように「ハマダ」のロケ地となった「ヨロン島ビレッジ」に出かけてみました。映画そのままに、日常を離れた世界にワープ!
沖縄からの船が岸壁に着く頃には妖しい雲行きでしたが、島に着いてしばらくすると案の定、どしゃぶりになりました。レンタルバイクも自転車も無理となれば、車を借りないと行きたい場所には行けない、とレンタカー屋に駆け込んだ私に、「1日じゅう、ずっと雨ってことはあまりないさ。さっと止むこともあるから」とレンタカー屋のおじさん。島の天気は変わりやすいといいますが、確かに、もう絶対に晴れないだろうと思うようなどしゃぶりの時間もあれば、ぱあっと青空が広がった時間もありました。周囲21㎞しかない島なので、ずっと晴れているようならば自転車が気持ちいいだろうな。
悩んだ挙げ句、レンタカーを選び、行ってみたかったカフェに出かけてみました。カフェの名前は「くじらカフェ」。可愛らしいその名前は、春先にやってくるザトウクジラが見える場所に立つカフェだから。
今から3年前に東京から移住した村上由季さんが営むこのカフェは、空間のセンスが抜群に素敵。お店のSNSページで見た写真に惹かれ、雨が降ってもここならばゆっくりとたそがれられそう、とやってきました。すると、同じことを考える人たちがいるようで、既にソファに陣取り、ゆったりと絶景を眺めながらたそがれていました。

「ひと目で気に入って、ここに決めたんです」と村上さん。浜で拾った流木をデザインした白い空間は、まるで地中海のリゾートホテルのよう。それもそのはず、ここはリゾートとして売り出された別荘地の一角にある建物なのだそうです。

お腹がすいたのでランチを頼むと、モリンガという植物の葉を練り込んだモリンガ麺をパスタ風にしたものが出てきました。ワサビノキ科に属するモリンガはインド原産。奇跡の木といわれており、さまざまな病気を予防する植物ともされています。フィリピンや天草などで栽培されているのを知っていましたが、与論島でも「薬草パパイヤ農園」の白尾元久さんが無農薬で育てているのだとか。3歳のお子さんのママである村上さんは、食材や調味料に農薬や添加物不使用の安全なものを意識して使っています。

なぜ、日持ちがよく比較的扱いやすい乾燥パスタでなく生のモリンガ麺を使っているのですか?と聞くと、「せっかく与論島まで来ているのだから、お客さんには島のものを出したいと思って、島の特産物であるモリンガ麺を看板メニューにしています。地元の農家さんを応援したいという気持ちもありますし、何よりも美味しいですよね」とにっこり。
このあと、モリンガを見に薬草パパイヤ農園を訪れてみました。生産者の白尾さん親子が早朝から畑に出かけて育てているモリンガは、麺やお茶などの加工食品にして茶花にあるお土産屋「サンコーラル」で販売しています。
実は、白尾さんは大病に罹って生死をさまよった過去があります。ふだんの暮らしぶりが健康を作るのだと気づいたときに、モリンガに出会いました。

なかば使命のように愛情たっぷりにモリンガを育てる白尾さん。島の産業まつりでモリンガ麺を試食した村上さんは、その味や栄養の豊富さに魅力を感じ、ランチを提供する以前からふだんの暮らしのなかで使っていました。お子さんが風邪をひいたときや、忙しくて十分な食事が作れないときなどに、大変、重宝していたそうです。

「これからは島の農家さんを応援する意味でも、上質なお土産品を作っていきたいんですよね」という村上さんは、地元の生産者が丁寧に作った特産物に、オリジナルのパッケージデザインを施して販売する取り組みを始めました。
また、彼女自身も、自家製ハーブを使ったジュースや、マフィンやシロップなども作っています。どれも、東京・麻布の人気カフェで働いていたという彼女のカジュアルなセンスが光るものばかりでした。

◯くじらカフェ
[所] 鹿児島県大島郡与論町立長1622-3
[TEL] なし
[時間] 10:00 〜16:00
[休] 水曜・日曜・祝日 他
[HP] https://www.facebook.com/cafekujira

さて、夜は宿で食事をしたあとに、居酒屋へ。「与論に行ったら、やっぱり与論献奉でしょ!」と友人に言われ、与論献奉とはなんだろうと調べてみると、宮古島の「オトーリ」のようなものでした。つまり、口上を述べて黒糖焼酎(宮古島では泡盛)を一気に飲み干し、その盃を仲間内で回す一種の儀式のようなもの。
どうやったら参加できるかなと観光協会の窓口で相談してみたら、「島唯一の繁華街、茶花の居酒屋に行くと、できることが多いですよ」といわれたので、では、与論訪問の記念に、と同宿の女性と出かけていったのでした。
店にいる3組のお客さんと盃を組み合わしましたが、いずれも地元の方ばかり。
地元では女性も男性も関係なく、数人集まると与論献奉をすることになるのだそうです。参加して盃が回ってきたものに関しては飲み干さなければいけないのが掟です。もし、飲めなかったら盃を回した“親”となる人が代わりに飲まなければいけません。

以前、同様のようなことをする宮古島の儀式、オトーリをし、泡盛を一気飲みして最後は酩酊状態になってしまった私。今回はそれだけは避けたい、と思っていたら、シマンチュ(島人)からタビンチュ(旅人)への配慮として盃にたくさん氷を入れて薄めてもらったので事なきを得ました。こちらでは、泡盛ではなく黒糖焼酎を飲みますが、さらりとしていてしかも糖分がないのでダイエット中でも安心して飲めます!って、そんな問題ではありませんね……。
この写真で一気飲みをしているのは、私が与論献奉について問い合わせをした際に答えてくれた観光協会の町岡安博さん。もし、できなかったらと心配して仲間を連れて駆けつけてくれました。その町岡さん、実は昨年開催された「シマ博覧会」で与論献奉体験ツアーを行い、案内人を努めました。だから口上もとっても上手なんです。

「与論島にはハブがいないので酔っぱらって辺りで寝ても噛まれるということはないから与論献奉ができるんだよ」と奄美群島のなかでも与論島だけでこんな習わしが日常的に伝えられている理由を説明してくれた町岡さん。最後は「ミッシーク、トゥートゥガナシ」と言い、一巡が終了しました。その意味は、与論の言葉で「本当に、ありがとうございます」。与論島では、この言葉をたくさん聞いたので、もう覚えてしまいました。

翌朝は早起きして茶花海岸へ。雨が降っていましたが、そこでは海岸をゴミ拾いする人たちの姿がありました。任意団体「誇れるふるさとネットワーク」の人たちが2014年4月より「美ら島プロジェクト365」を立ち上げ、 365日欠かさずに60ヶ所の砂浜・海岸を順番にゴミ拾いし続けています。

この日は団体の代表である池田龍介さんはいなかったのですが、出張先の東京の公園でも同時間にゴミ拾いをしていたそうです。「毎日、これでもかというくらいゴミが漂着しますが、それでも少しずつやっていけたら」と話すのは、参加していた井上静香さん。
集まるものはペットボトルや大きな什器、浮き、外国語の書かれた袋などなど。雨合羽を来て、海の中にまで入ってゴミを拾っている井上さんたちのあとから2人ほどぽつぽつとやってきて黙々とゴミ拾いを始めていました。
周囲は珊瑚礁に囲まれており、遠浅のコバルトブルー色の海が美しい与論島。その海を自分たちの財産として守り続ける活動は、雨の日も風の日も休まずに行われています。
イベントではなく、文化・習慣としてのゴミ拾いを目指して、子どもたちの代に誇れる島を残したいという池田さんたちの願いに私も少しだけ突き動かされて行ってみましたが、雨で装備もなく断念。情けないと思いつつ、このようにして、“たそがれる”場所は保たれているのだと納得しました。

◯美ら島プロジェクト365〜ゴミ拾い365日〜 
[HP] https://www.facebook.com/tyurazima365
2日目のランチは、宿泊したホテル「ヨロン島ビレッジ」内食事処の「ヨロンの味 たら」へ。
ここで一度は食べておきたいメニューは鶏飯。料理漫画で知られる『ひよっこ料理人』でも描かれた、知る人ぞ知る秘伝の味で、細かく裂いた鶏のささみや錦糸卵、パパイヤ漬け、青ネギ、干し椎茸の甘辛煮、刻み海苔などを白いご飯の上に乗せ、その上から鶏ガラスープをかけていただきます。余計な油分のないあっさりと透き通ったスープは前夜から煮込み、何度も濾したという手間ひまがかかったもの。これは、ご飯を何杯も食べられそうです。

映画『めがね』の撮影スタッフがここに泊まったときにも鶏飯を始めとした与論の料理は大好評だったとのこと。実は、この場所ありきで映画が考案されたという逸話があるそうです。
宿の代表である池田大吾さんによると、「最初は何もないところを両親が開墾して民宿にしていたんですけど、あとからホテルにしたんです。それで色んな年代の人たちが来られるようになって。映画の話もそれからきました」とのこと。映画で重要な場所となっていた食堂は、ふだんは使われていないそうですが、この日は、地元の人たちがバーベキューを行っていてとてもにぎわっていました。
池田さんは与論島に来るなら3泊してほしい、と提案します。
「与論島の海がいいのは写真でわかるでしょう? 空気と人とここにあるムードは感じるもので、言葉で説明しても伝わりにくい。それは、与論島にしかない良さなんです。映画『めがね』では、その空気感はちゃんと現れていますよね。与論島は真心に課金しない島。土地に少しずつなじんだら、みんなよくしてくれる。だからリピーターになる人はまた来てくれるんだと思う。3泊してくれるとそれがわかるんだけどな〜」。

真心に課金しない島という言い回しに、なるほどな、と思いました。その意味は、四国巡礼の「お接待」の精神にも似た、旅人に対するもてなしを指すもの。ふと誰かが車に乗せてくれたり、与論献奉に混ぜてもらったり。少しずつ島に溶け込んでいけるような、そんな懐の広いムードは確かに感じられました。

「ヨロンの味 たら」のテーブルで、ここに何度も足を運んでいるというリピーターの方何人かとテーブルを同じにして食事をしましたが、「ふっと色んなことが重荷になったときに、ここに来ると解放されるんです。青い海を眺めたり、誰かとおしゃべりしたりする時間が、いいんですよね」と言っていた人もいれば、「ヨロン島ビレッジが帰省先みたいな感じ。ここに来て、女将さんたちと話をするとほっと安心する」と言っていた人もいました。

◯ヨロンの味 たら
[TEL] 鹿児島県大島郡与論町茶花2904-6 ヨロン島ビレッジ内
[時間]  11:00〜15:00/18:00〜21:00
[休] なし
[HP] http://yorontouvillage.jp/
与論島は、リゾートアイランドでありながら雨降りでも十分に楽しめる土地でした。
島内には素敵なレストランやカフェもいくつかあり、昼間はそんな場所をめぐっても楽しいと思います。人と出会って話していくうちにどんどん島の空気になじんでいく、そんなふうに島のムードを体感できるといいですね。

映画『めがね』で小林聡美さんが演じた主人公タエコのようにひとりでたそがれていても、やっぱり誰かと触れ合うことになり、そしてどんどん島になじんでいく。通りすがりの旅人を抱いてくれるような場所でした。

さて、次は与論島の美しい情報誌『かなしゃ』をご紹介します。どこか切ない、悲しげな響きのあるタイトルにこめられた発行人の想いとは? 次回もお楽しみに。

※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。

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