
吉祥寺・スワンボートの囁き【おさんぽ小説 #1】
2017.04.16

荻窪のブックカフェ「6次元」を運営しながら、ブックディレクターとして全国を旅しながら書籍や連載の執筆活動に取り組んでいる、ナカムラクニオさん。
そんなナカムラさんの記憶の断片を綴る連載「おさんぽ小説」がスタート。どこかの街のどこかの場所を舞台にした小さな物語。第一回目は、東京・吉祥寺です。
そんなナカムラさんの記憶の断片を綴る連載「おさんぽ小説」がスタート。どこかの街のどこかの場所を舞台にした小さな物語。第一回目は、東京・吉祥寺です。
【おさんぽ小説 #1】スワンボートの囁き

「桜は、なんでピンク色か知ってる?」
かわいいスワンボートが突然、僕に話しかけてきた。井の頭公園の桜は、満開。夢かと思ったが、そうではないのはすぐにわかった。にっこりと笑っているスワンの顔が、はっきりと見えたのだ。
「理由なんてあるの?」と僕は訊いた。
「どんなことにも理由があるわ。ピンクは、生命のはじまりを示す色よ。木に実った果物が熟れているか判断したり、顔色の良い異性を見極めるために開発された色なの」
「つまり、どういうこと?」
そのスワンは、何も言わずに僕の顔をじっと見つめた。風に吹かれた桜の花びらが、紙吹雪のように舞っていた。
「桜は、恋の合図よ。人間だけでなく、スワンにとっても」
「知ってるよ。それくらい」
僕たちは、ピンク色に染まった公園の池で微笑み合った。まさか、スワンボートが恋をするなんて人間は知らないと思うけど。
かわいいスワンボートが突然、僕に話しかけてきた。井の頭公園の桜は、満開。夢かと思ったが、そうではないのはすぐにわかった。にっこりと笑っているスワンの顔が、はっきりと見えたのだ。
「理由なんてあるの?」と僕は訊いた。
「どんなことにも理由があるわ。ピンクは、生命のはじまりを示す色よ。木に実った果物が熟れているか判断したり、顔色の良い異性を見極めるために開発された色なの」
「つまり、どういうこと?」
そのスワンは、何も言わずに僕の顔をじっと見つめた。風に吹かれた桜の花びらが、紙吹雪のように舞っていた。
「桜は、恋の合図よ。人間だけでなく、スワンにとっても」
「知ってるよ。それくらい」
僕たちは、ピンク色に染まった公園の池で微笑み合った。まさか、スワンボートが恋をするなんて人間は知らないと思うけど。

文・写真:ナカムラクニオ
ブックディレクター/荻窪のブックカフェ「6次元」店主。著書に『人が集まる「つなぎ場」のつくり方』『さんぽで感じる村上春樹』『パラレルキャリア』、責任編集短編小説集『 ブックトープ山形』など。
※この物語の一部は、フィクションです。登場する人物・名称などがすべて実在するとは限りません。
※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。
文:ナカムラクニオ