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花とともに理想の暮らしを。|福岡「花屋マウンテン」店主の繁森 誠さん

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花とともに理想の暮らしを。|福岡「花屋マウンテン」店主の繁森 誠さん
東京暮らし10年目にして福岡へ移住した、ライター寺尾えりかによる“福岡に住み、町を盛り上げようとしている人たち”を数珠繋がりで取材する連載『よかひとのともだちはよかひとたい』。

第五回目は、福岡を拠点に女優・ナレー ターなど幅広い分野で活躍している山本由貴さんのよかひと(友達)で、「花屋マウンテン」店主の繁森 誠さんです。

ひっそりと佇む花屋

ひっそりと佇む花屋 店内に足を踏み入れるとゆったりとした時間が流れ、異空間に来たかのような感覚に
―山本さんからバトンを受けられた繁森さんですが、繁森さんから見た山本さんはどういう方ですか?

繁森:
知り合いのカメラマンさんが“女優さんと花をいっしょに撮影したい”ということで連れてこられたのが山本さんだったんですが、もう幻を見ているかのようなかわいらしさでしたね。緊張しっぱなしでした(笑)
花屋マウンテンのショップカード。「『ぱんとたまねぎ』という屋号で活動されている、福岡在住のイラストレーター・林 舞さんにデザインしていただきました」(繁森)
―その気持ちわかります!たしかに妖精のような雰囲気をお持ちですよね。花屋マウンテンは2012年オープンですが、それまでは何をされていたんですか?

繁森:
オープンするまでの3年間は修行期間と決めて、花屋で働いていました。

―いつか花屋を経営したいという思いは以前からお持ちだったんですか?

繁森:
いやいやいや…実はまったく考えていませんでした。大学院を卒業してからは、会社員をしていたんですが、30歳を目前にしてこれからの人生についてふと考えたんですね。そしたら何となくお店を持ちたいな〜と思ったんですよ。いろいろはしょりますが(笑)、たどり着いた答えが花屋さんだったんです。
新旧のお店が立ち並ぶ、薬院新川と平尾一丁目の交差点に位置する「花屋マウンテン」
―えっと…はしょりすぎです(笑)

繁森:
ですよね…(笑)仕事とプライベートが分断されないようなことがしたかったんです。一軒家を借りて、1階にはお店を、2階には住まいを…というのが理想。そういう生活を頭の中で思い描いてみた時に「花屋だ」って思ったんです。そういえば、昔よく通っていた喫茶店があったんですけど、店内の一角で花の販売を始めることになったらしく、「へ〜」なんて思っていたら、その花屋スペースで働き始めたのが男性だったんです。花屋=女性というイメージがあったので、すごく衝撃で。その記憶も頭のどこかにあったのかもしれません。
店内には、繁森さんの審美眼で選ばれた植物が並ぶ
―会社員から花屋への転職。生活はがらりと変わったんじゃないですか?

繁森:
そりゃぁもう。本当にいいことばっかりでびっくりしました。何かこう…ずっと会社員をしていたわけですけど、遡ってみると中学・高校・大学・大学院・社会人…ずっと1週間に5日間は仕方なく通勤通学をして、土日で楽しむ、みたいなのが当たり前だと思っていたんです。けれど、花屋に転職してみて「毎日が楽しい!」に変わったんです。仕事中も楽しいし、休みの日も仕事のことを考えたりして。
植物の表情を確かめるように、ひとつひとつ手入れをする
―転職先となった花屋はどうやって見つけたんですか?

繁森:
最初は“いいな”と思う花屋さんに「スタッフ募集していませんか?」と聞いてまわっていたんですが、なかなかチャンスがなくって…トータルで100軒以上はまわりましたね。どうしたらいいのだろうと途方にくれていた時に、まわりの花屋さんに「経験がないなら、とにかくどこでもいいから入った方がいい」というアドバイスをいただいたんです。だから、最初の1年はとにかく花屋の仕事を覚える、そして2年目からは自分の働きたい花屋で働こうと心に決めて、スタッフを募集していた規模の大きな花屋に応募したところ雇ってもらうことができました。そしたら運良く(?)人手不足で、その1年の間にブライダルのブーケや装飾を任せてもらえたり、最後には店長までやらせてもらえて。ひと通りすべて経験できたので本当にありがたかったです。

偶然が引き寄せた奇跡

偶然が引き寄せた奇跡 「不思議な形をしたものがいっぱいあるでしょ?何か捨てられないんですよ」(繁森)
―2年目からはどうされたんですか?

繁森:
とあるテレビ番組の録画予約をしていたんですが、たまたま時間がずれてしまっていて、出だしの数秒だけ前の番組の次週予告が録画されていたことがあったんです。そこに福岡の花屋さんが映っていたんですよ。「何この花屋さん!」ってすごい衝撃を受けて、もうここしかないって思ったんです。それから、「雇ってください」と3度ほど足を運んで、運良く雇ってもらうことができたんです。
ふと見上げると、天井からもさまざまな植物がぶら下げられている
―どういうところがほかの花屋さんと違ったんですか?

繁森:
キーパーや冷蔵庫がなくって、さらにお店の中にずらりと花を並べているとうよりは、花瓶がポン・ポンと配置されている感じで。以前、転職先を探して100軒以上花屋をまわったといいましたが、そういうお店は1軒もなかったので度肝を抜かれましたね。

―そこで2年間働かれたんですか?

繁森:
そうですね。ただ、その花屋には週末だけ入って、そのほかにも花屋を4軒くらい掛け持ちしていました。
繁森さんの三種の神器
―もちろん、花屋によってやり方は違うわけですよね…?

繁森:
そうなんです、だから怒られますよね(笑)むこうのやり方の方がよかったな〜って思って勝手に取り入れてやっていたら、「うちではやめてください」っていわれたり(笑)3年間で6軒くらいの花屋で働くことができたので、いいところは自分の花屋にも取り入れています。
冬の冷たい水に触れて、手が真っ赤に
―みなさん、独立することには肯定的だったんですか?

繁森:
そうですね、すべての花屋に「独立します」ということを伝えて働かせてもらっていたので、応援はしてくれていたと思います。会社員を辞めたのが33歳の時だったんで、時間のなさを自分なりに感じていたんですよ。だから3年間修行したらお店を出そうと決めていました。そのリミットがあったからがむしゃらになれましたね。

―いざ独立となった時、物件探しはどうされたんですか?

繁森:
一軒家がいいと思っていたので郊外で探していました。そうするとどうしても住宅地になってしまうので、集客するのが難しいな、と思っていたんです。そんな時に、ちょこちょこ通っていた平尾の『abeki』の店主が“おそらく自分と同世代だし、1人でお店を切り盛りしてるっぽいな…”と思って、「店ってどうやって始めるんですか?」って思い切って声をかけてみたんです(笑)そしたら、店主がたまたま物件マニアで、それからabekiに通っては「ここよさそうじゃない?」なんて情報交換するようになったんです。
繁森さんのご自宅の庭で育てられたアリゾナイトスギ(ブルーアイス)
―abekiさんといえば、ここの斜め向かいのお店ですよね!

繁森:
そう、でもその時はこうなるなんて想像もしてなかったです。たしかにこの場所はテナント募集の貼り紙がしてあったんですけど、単なる銀色の塊だったので気にも留めてなかったんです。けれど、abekiさんと話しているうちに「あそこ、いいんじゃない?」っていう話しになって。以前にも借りようとしていた物件がタッチの差でほかの人に借りられてしまった経験があったので、次の日不動産屋に問い合わせて即決しました。

理想の暮らし…!?

理想の暮らし…!? 「同じ花なのに、めちゃくちゃかわいく咲く時があるんですよ。それを見つけるのが楽しいんです」(繁森)
―たしか2階を住居に…っておっしゃっていましたが、ここは…住んでいないですよね?

繁森:
それが、住んだんですよ(笑)しかも3年間。

―住んじゃったんですか!?お風呂もないですよね…おそらくですが、思い描いていた理想の暮らしとは程遠かったんじゃないですか?

繁森:
ん〜いろんな意味で刺激的な毎日でしたね(笑)それまで銭湯に行ったことがなかったですけど、銭湯生活をせざるを得なかったですし。ただ、基本的に何もいらないんですよ。モノがまわりに溢れていても何も満たされないんだなって気付いたことも、会社員を辞めた理由のひとつだったので。
2階スペース。天井・壁のドライフラワーたちはすべて販売されているもの
―今は2階がドライフラワーの販売兼喫茶スペースになっているので、別で家を借りられたということですね?

繁森:
やっぱり庭への憧れがあったので、ここに住みながらも水面下で探していました。それもabekiさんといっしょに(笑)今は庭で植物を育てていて、それが楽しいですね。

―お風呂付きの家、どうですか?

繁森:
やっぱめっちゃいいですね…(笑)ひと目も気にしなくていいし、日当たりもいいし、最高です。でもまぁ、思い返せばここも、そんなに苦痛じゃなかったですけどね(笑)

花屋なのにマウンテン…?

花屋なのにマウンテン…? 下から見上げた景色。絶景
―「花屋マウンテン」っていう店名の由来は何ですか?

繁森:
頭に“花屋”はつけたかったんですよ。だからこそ、逆に“花屋”ってつけないとよくわからない名前にしたかったんです。あとは、片仮名にしたいという思いがあったんで、自分が好きな“山”という意味のマウンテンをつけました。
「Q合目休憩所」というロゴの入った手ぬぐい
―2階が「Q合目休憩所」って表現されているのもいいですね。

繁森:
そうなんです。今2階ではドライフラワーの販売と、喫茶をやっています。日が暮れてからの19時〜21時が喫茶タイム。1時間500円で、飲み物とちょっとした食べ物がついているっていうシステムなので、利用される方にはストップウォッチを持って2階に上がってもらっています。
喫茶スペースを利用する際に手渡されるストップウォッチ
―花屋マウンテンのある平尾・薬院付近は、福岡市内の中でも特に盛り上がりを見せている地域ですが、何か変化は感じますか?

繁森:
すごく感じますね。若い女性が明らかに増えました。ただ、店内から外を見ての感想であって、うちのお店は特に変化はないですかね(笑)

時間とともに変化する花・店の表情

時間とともに変化する花・店の表情 ユニークな形をしたドライフラワーが、まるで植物図鑑のように壁に貼り付けられている
―花屋にしては珍しく、遅い時間まで営業されているんですよね?

繁森:
そうですね。基本営業時間は15:00〜21:00です。それぞれの時間帯に表情があるから、スタッフさえいれば本当は24時間開けたいくらいなんです。繁華街の花屋さんって暗くなると店内を蛍光灯でバッチリ明るく照らしていることが多いと思うんですが、みんな家の中ってそんなに明るいのかな?って思うんですよね。だからうちは敢えて家っぽい照明にしています。もちろん花だけではなく、お店の感じも時間によって見え方が変わりますからね。日が暮れてからのお店の外観が、実は結構自慢だったりします(笑)
繁森さんが実際に撮影された、男性が花束を持った写真
―花屋マウンテンさんのブログやFacebookページに定期的にアップされている男性が花束を持った写真。撮影を始めようと思ったきっかけを教えてください。

繁森:
オープン当初はあまり気にならなかったんですけど、徐々に男性のお客さんが増えてきたんですよ。しかも自分の家に飾るためではなく、大切な人に贈る花を買いに来ている場合が多くて。そういうお客さんと会話するのがすごく楽しいんですよ。「贈り物ですか?」と話しかけるとすごく恥ずかしそうにしながら答えてくれるんですが、「どんな人?」「何色が好きなの?」とか聞いているうちに、男性も「どうだったかな〜?」なんて、相手のことを改めて考える時間にもなるみたいで。大切な人を頭の中でイメージして、形容詞にして表現してくれる姿が素敵だなって思ったんです。それからカメラで記録するようになりました。

―結構撮りためられていますよね?

繁森:
そうなんです。実はエピソードもちょこっとメモしたりしているので、いつか展示ができたらな〜って思っています。
夜の「花屋マウンテン」。昼間とは一転、幻想的な雰囲気に
―福岡の魅力ってどういうところだと思いますか?

繁森:
生まれも育ちも福岡なのでなかなか客観的に見るのが難しいんですが…花屋マウンテンを始めてから、毎年8月はまるっとお休みをいただいて国内をいろいろ旅するんです。その中で感じるのは、福岡って元気なんだな〜ってことですね。シャッター街がほとんどないじゃないですか。お店がなくなったとしてもまたすぐに入って。色々変化があって楽しい街ですよね。
お店の看板代わりにつけられている、お花の形をしたネオンサイン
―最後に、今後の展望を教えてください。

繁森:
今年は人を雇いたいと思っています。イベントの装飾やウェディングなど、お仕事の幅が広がってきている中で、1人でやるにはちょっと限界が見えてきてしまっていて。1人スタッフが増えることで、やれることは2倍にも3倍にもなると思うんです。いつかはもうちょっとお店の規模も大きくしていいな〜なんて思っています。
※取材後、無事にスタッフが決まりました

【お話を伺った人】
花屋マウンテン 店主
繁森 誠
会社員時代を経て、33歳で花屋の世界に飛び込む。2012年、36歳で「花屋マウンテン」をオープン。以後、ウェディングや店内装飾など幅広い分野で活躍中。
寺尾えりか

寺尾えりか

福岡市在住のフリーライター。東京から福岡への移住を機に、出版社を退社しフリーランスの道へ。ベレー帽をトレードマークに日々奮闘中。雑貨とアクセサリー、インスタグラムの中の猫(飼っていない)を愛でるのが至福の時。

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