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2次元で3次元を描く!?大分から世界へ名を轟かせる、革新的な立体造形物。[FLATS/大分県国東市]by ONESTORY

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2次元で3次元を描く!?大分から世界へ名を轟かせる、革新的な立体造形物。[FLATS/大分県国東市]by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から大分県国東市の「FLATS」を紹介します。
CTスキャンで輪切りにしたような、インパクトある立体造形物「FLATS(フラッツ)」。セレクトショップやミュージアムショップで、あるいはアート展示会やデパートのショーウィンドウで、一度は目にしたことがある方も多いことでしょう。では商品を手に取って、そのパッケージの裏書きを見てみます。そこには、思わぬ文字が記されます。「大分県国東市」。いまや世界からも注目を集めるスタイリッシュで革新的な作品は、のどかな里山の風景が残る山間の町で生み出されていたのです。大分から世界に名を轟かせる「FLATS」、その誕生秘話や製作の背景を探りに、国東市を訪ねました。
国東時間株式会社の代表・松岡勇樹氏。設計士としての経験が、現在の作品に活かされている。

舞台は大分県の里山にある廃校になった小学校。

舞台は大分県の里山にある廃校になった小学校。 舞台は廃校となった小学校。給食室や保健室など、往時のままの施設も残されている。
大分県国東市。空港から少し離れるだけで、周囲は緑濃い山々と田園が織りなすのどかな景色に変わります。車に乗って30分ほど。聞いていた住所に到着すると、そこには小学校がありました。そう、この廃校になった小学校を拠点に「FLATS」を製作する国東時間株式会社は運営されているのです。

出迎えてくれた代表・松岡勇樹氏に案内され、まずは内部を一周。構想を練るアトリエがあり、過去の作品がずらりと並ぶ展示室があり、加工場があり、会議室があり、在庫が積まれた倉庫がある。つまり初期構想から企画、製作、梱包、発送まで、「FLATS」のすべてが、この校舎内で完結しているのです。文字通りのメイド・イン・国東。では、その誕生のストーリーを伺ってみましょう。
一から十まで「FLATS」の製作工程のすべてが、この場所に詰まっている。
もともと建築設計の仕事をしていた松岡氏。ある時、友人のデザイナーが出店する展示会でマネキンを使う必要に迫られました。しかし市販のマネキンは高額。ならば作ってしまおうと、マネキン製作に取り掛かります。「作ってみるか」というライトなスタートではありましたが、取り掛かってみるとそれは、簡単な道ではありませんでした。
社内にはショップも併設。小売店より手頃な価格で購入することができる。

試行錯誤を経て誕生した組み立て式段ボールマネキン。

試行錯誤を経て誕生した組み立て式段ボールマネキン。 「FLATS」の原点でもある段ボール製マネキン。滑らかな曲線が美しい。
素材として「いわば必然的」に選んだのは、身近にあり、安価で、加工が容易な段ボール。しかしいざ折り曲げてみると、どうしても滑らかな曲線ができない。曲面ではなく多角形になってしまう。何度も試行錯誤を繰り返す時間が続きます。

そんな時、突如松岡氏にあるアイデアが湧きました。それは2次元の平面を積み重ねることで立体を表現するという方法。仕事柄、立体を平面で考えることに慣れた建築家らしい発想です。
手書きでデザインを起こし、段ボールをカッターで切って作った第一号のマネキン。「段ボールのトルソー」の意味で「d-torso」と名付けられました。しかし当初は展示会で通常のマネキンとして使用するだけで、販売をする予定もなかったのだといいます。
組み合わされた平面を人間の想像力が補い、三次元の立体として認識される。
しかし売る気はなくとも、人々は放っておきませんでした。3次元を横にスライスして2次元にし、それを重ねることで再び3次元を作る。そして2次元同士を繋ぐ表面の部分は、人間の想像力で補完する。そんな独特な発想は、展示会の会場でも注目を集めたのでしょう。やがて松岡氏の元に、製作の依頼が次々と舞い込み始めます。
現在はレーザーカッターにより、段ボール以外のさまざまな素材の加工が可能。
しばらく後、松岡氏はPCで3Dデザインを起こし、レーザーカッターで加工する方法を採用しました。これにはさまざまな素材を加工できる上、金型などを必要としないため小ロットでも製作できるというメリットがありました。もちろん保管や配送のしやすさ、組み立て式段ボールマネキンというインパクトも作用したことでしょう。各界からの注目はさらに高まり、徐々に存在感を増した「d-torso(現在のFLATS)」。松岡氏は、この「d-torso」の製造、販売をする『有限会社アキ工作社』を、生まれ故郷である大分空港近くの安岐町(あきまち)に設立しました。1998年のことでした。

目指したのは都会の時間に縛られない、国東らしい働き方。

目指したのは都会の時間に縛られない、国東らしい働き方。 のどかな里山の中にある会社。ここからあのスタイリッシュな作品が生み出される。
独創的なスタイルで世界に名を轟かせる組み立て式マネキンですが、それを手がける会社にもまた、さまざまなオリジナリティが潜んでいます。そのひとつは、やはり廃校となった小学校を拠点としていることです。

2002年頃からは海外取引も盛んになり、2004年にアトリエを新築。5年ほどそこを本社として製造をやっていましたが、だんだんと手狭になって来たときに折よく、この廃校の話が舞い込んできました。廃校を事業所に転換して再利用する、という国東市の方針によるものです。「すでにインターネットも普及していましたから、どこでも同じことはできます。ならば少しでも地元のためになるように」と松岡氏。事実この場に移ったことで地域との接点が増えたといいます。校庭ではお祭りも開催され、地域交流の拠点にもなっています。
週休3日制という国東らしい時間の使い方が業績のアップに繋がっている。
2011年の震災も転機でした。「それまで前提としていた社会が一瞬で崩れ去りました。そこで考え方も変えることにしたのです」松岡氏はそう振り返ります。そして松岡氏はひとつの決断をします。「せっかく環境の良い場所にいるのだから、東京のシステムに合わせる必要はない。国東には国東固有の時間があるはず」と、自身の会社を週休3日制にしたのです。「4日はオン。残りの3日は地域に入って、さまざまな体験をしてほしい」松岡氏は社員たちにそう伝えました。この“国東らしい時間の使い方”が功を奏したのでしょう。勤務時間が4/5となりましたが、社の収益は3割増加。「これだけが理由とは特定できませんが」と言いながらも、確かな手応えを感じていたようです。

のどかな里山で、週休3日で運営される会社。そう聞くと、どこかのんびりした地方企業を思い起こします。世界で話題を集めるクールな作品が、ここから生み出されていることに、改めて驚かされました。

世界のマーケットから日本の伝統まで。終わることのない挑戦。

世界のマーケットから日本の伝統まで。終わることのない挑戦。 おなじみのキャラクターとのコラボレーションもいろいろ。
「しょうがないから作るか、というモチベーションの低いスタート」と松岡氏が笑う組み立て式段ボールマネキン。しかしその斬新な発想は、瞬く間に各所からの注目の的となりました。ミキモト銀座本店のマネキン、エルメスのディスプレイなどを手がけたことで、さらに知名度に拍車がかかりました。
LEXUSのノベルティのパッケージとしても採用された。
また新たに制作したミニチュアキットではサンリオ、東宝、ムーミンなど、さまざまなキャラクターとのコラボレーションも実現。とくにビジネスパートナーの選定にシビアなことで知られるディズニーは、相手側からオファーがあったといいます。さらに同様の構造を使ったパッケージは、ワインや自動車メーカーのノベルティにも採用されました。まさに大躍進といえる活躍です。
現在構想中の「老松」。まず平面を立体として捉えるイメージからスタート。
松の複雑な形を表現する難しさだけではありません。もともと2次元である「老松」を一度3次元のデザインにしてから、それを再び2次元に。さらに組み立てて3次元にするというステップが、松岡氏の新たな挑戦なのです。あるいは海外からも高い評価を得た「FLATS」が日本の伝統芸能に立ち返るという挑戦でもあります。
作品の構造を明快に解説してくれた松岡氏。卓上に見えるのはペンギン型のシャンパンケース。
「平面パーツを組み立てて3次元を表現する」という基本構造は変えず、さまざまなジャンルに果敢に挑む国東時間株式会社と松岡勇樹氏。地名を冠した社名と共に続くその活動は、いまや地域の方々の誇りとなっていることでしょう。

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