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日本の伝統技術を世界で評価されるブランドに。[suzusan/愛知県名古屋市] by ONESTORY

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日本の伝統技術を世界で評価されるブランドに。[suzusan/愛知県名古屋市] by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から愛知県名古屋市の「suzusan」を紹介します。

受け継いだ伝統を未来に残していくために。

受け継いだ伝統を未来に残していくために。 村瀬氏。『suzusan』のクリエイティブ・ディレクターとして生地の選定からデザインまで行う。
独特の白抜き紋様と、それに絶妙なアクセントを加える表情豊かな「絞り」。これは愛知県名古屋市の有松・鳴海地域で400年以上にわたって受け継がれてきた『有松鳴海絞り』をモダンに転換した、『suzusan』のファブリックです。

『有松鳴海絞り』を受け継ぐ鈴三商店の5代目として生まれた村瀬弘行(むらせ・ひろゆき)氏が、当初はアーティストを目指して渡った欧州の視点でアレンジ。ルームメイトだったクリスティアン・ディーチ氏とドイツで新たに起業して、『有松鳴海絞り』の伝統のプロダクトである浴衣ではなく、「欧州の暮らしの中で生きる日本の伝統工芸」として生まれ変わらせました。
村瀬氏の実家が担っていた「型彫り・絵刷り」の工程はデザインのパート。そのため『有松鳴海絞り』の技法を全て把握しており、それが『suzusan』のファブリックにも生きた。
かつては1万人もいたという職人が今では200人以下にまで激減してしまい、存続すら危ぶまれていた『有松鳴海絞り』。それを海外のニーズに沿って再解釈し、完全オリジナルのブランドとして再生させました。

多彩な伝統技術を背景に世界へ挑戦。

『suzusan』の強みは、『有松鳴海絞り』の100種類以上もの技法を生かした多彩な表情にあります。ストールやニットなどのファッションアイテムを中心に、ブランケットなどのホームファブリックや照明にいたるまで、幅広くラインナップしています。

従来の浴衣という形にとらわれない、それでいて、伝統の染めと絞りの美しさを堪能できるブランド。更に『有松鳴海絞り』の複雑な工程を簡略化して、デザインで魅了する手法も考案しました。それでも日本の手仕事は世界的に高い水準にあるため、欧州の市場で十分通用するそうです。

『有松鳴海絞り』の歴史は400年以上と、他の国の染めの産地と比べると新しいそうですが、尾張藩が定めた専売制によって、複雑な分業制が確立されていました。そのため、非常に多彩な技法が今も受け継がれています。
「ひとつの家にひとつの技法」といわれるほどに、多種多様な技法を誇る『有松鳴海絞り』。
通常はひとつの産地に多くて3つほどしかないという染めの技法が、最盛期の有松にはなんと200種類以上も存在。現在はその半数ほどが後継者不足によって失われてしまいましたが、それでも100種類以上もの技法が残っています。

『suzusan』は、これらの技法を駆使して多種多様な柄を表現。産業としてこれだけの技術が整っている産地は世界でも珍しく、世界で勝負する際に、これらの先人の遺産に支えられていることを強く実感するそうです。

豊富な技法を生かした大胆な戦略が当たった。

豊富な技法を生かした大胆な戦略が当たった。 パリの生地展示会ではエルメス、シャネル、ディオール、ロエベなど、そうそうたるラグジュアリーブランドから評価された。
村瀬氏は、「『有松鳴海絞り』の技法をどうやって世界に通用するブランドにしていこうか」と考えた際に、「従来の浴衣では、日本文化の枠から抜け出すことはできない」と思いいたったそうです。その発想を後押ししてくれたのが、当の『有松鳴海絞り』の柔軟性でした。

浴衣などの木綿地を染める技法として発展してきましたが、二次加工のための技術なので、どんな素材にも応用できるのです。そこでカシミアやアルパカなど、高い付加価値を与えられる素材を採用。それらに伝統の絞り染めを施すことで、人の手仕事の温もりを加えて、今の暮らしに生かせるアイテムへと転換したのです。
「“日本”や“伝統”といった型を押しつけずに、『風通しのいいデザイン』をモットーとしています」と村瀬氏。その謙虚さが、『suzusan』の美点や個性となっているのです。
モダンな日常に自然に溶け込みながらも、確かな存在感を放つ。
実際、村瀬氏のコンセプトと着眼点は高く評価されました。2012年からはパリ、2014年からはミラノファッションウィークでコレクションを発表し、ヨウジヤマモトをはじめとする多数のブランドとのコラボレーションや、クリスチャン・ディオールなどへの生地の提供を行っています。

手探りで立ち上げたブランドが、世界の一流ブランドとショップに認められた。

手探りで立ち上げたブランドが、世界の一流ブランドとショップに認められた。 高級セレクトショップが並ぶミラノ・モンテナポレオーネの中心にあるBiffiの姉妹店BANNERで、今季ミラノファッションウィークの最中にウインドーを飾った。
こうして村瀬氏が立ち上げた『suzusan』は、当初こそ売り込みに苦心したものの、世界に名だたるブランドやショップに採用されるようになりました。

留学先のドイツの学生寮で企画して、ボロボロの車にサンプルを詰め込んで、アポイントメントなしでヨーロッパ中を売り歩いた日々。それが10年もの歳月を経て、大きく実を結んだのです。

「当初は展示会に出るお金もなく、電話をかけてもアポイントメントも取れず、そうやって売り込むしか方法がありませんでした。お金も知識もなく、『有松鳴海絞り』の職人も日々廃業していくという最悪の状況でしたが、こんなに大変だと知っていたら挑戦しなかったと思います。今思えば、それがラッキーでしたね」と村瀬氏は振り返ります。
イベント開催中の店内にて。左から Biffi バイヤー Rosy Biffi 氏、村瀬氏、Pitti ディレクター Antonio Cristaudo氏、Biffi オーナー Tiziano Cereda氏。

先の見えない苦労を重ねた日々が、今の『suzusan』を創り上げた。

先の見えない苦労を重ねた日々が、今の『suzusan』を創り上げた。 羽のように軽いカシミアのストール。幅150cm・長さ250cmもの超大判だが、わずか100gしかない。
村瀬氏曰く、「当時は家賃も払えないのに8万円もするストールを売っていたので、本当にしんどかったです。そんな中、ミラノのBiffiというブティックに売り込みに行った際に、『いつかここに僕のブランドが置かれるようになれば、本当に嬉しいです』と話しました。すると、『あなたのブランドを置けるように祈って待ってるわね』と言って頂けたんです。その言葉を励みに頑張り続けたところ、その後Biffiのオーナーがパリの生地展示会に来てくださって、その上オーダーまでしてくださいました。そうして現在は、Biffiに『suzusan』が陳列されています」とのこと。
繊細な生地の上に夢幻の染めと絞りを描く。
このBiffiとは、古くはケンゾーやヨウジヤマモト、近年ではステラ・マッカートニーやシモーネ・ロシャなどを見出した、目利き中の目利きです。そんな世界中のファッション関係者が注目する老舗で、2018年、『suzusan』のウィンドウディスプレーと特別なイベントが、ミラノファッションウィークの期間中に開催されました。

「数本のストールから始めた小さなブランドが、2018年で10周年を迎えることができました。当時の私からすると、夢のようです」と村瀬氏は語ります。

常に最高級の素材を追求。

常に最高級の素材を追求。 挑戦と変化を続けることで、新たな伝統を生み出す。
村瀬氏は「素材は常に最高級のものを追求しており、私自身が工場に行ったり素材を探しに行ったりと、様々なリサーチをしています」と言います。そうやって見出した素材から、コレクションがスタートすることも多いそうです。続けて「『この素材をどう染めようか?』という発想につながるんです」とも話します。

まるで一流のシェフが、その技術に適した食材を探しに行くようなスタイル。例えば定番アイテムのカシミアのストールは、幅150cm・長さ250cmもの超大判ですが、重さはわずか100gしかありません。極細のカシミア糸をネパールの職人が空気を含ませながら手織りすることで、エアリーな軽さと最高級の品質を実現しています。
シンプルな染め柄の陰にも多くのトライ&エラーがある。失敗や試行錯誤が新たなコレクションになることも。
また、ニットウェアは愛知県のニット工場で編んでもらっていますが、繊維が長く上質な原毛を、あえて甘く撚(よ)ることで、洗うたびに膨らみや軽さが出るよう計算しています。加えてアンティークな紡績機を改良して編み上げているので、一度触ったら忘れられない、独特の風合いとなっています。

失敗すら新たな表現の糧に。奥深い絞り染めの世界。

「こういった厳選した素材を使っているので、染めの工程も真剣勝負です。あらゆる過程に神経を尖らせていますが、それでも手仕事ですので、残念ながら失敗することもあります。数日かけて準備して、染める時間はほんの15分ほど。その一瞬のコンディションで、柄の出方が左右されます。まるで焼き物のような不確定要素がありますね」と村瀬氏は語ります。

更に、常に新たな素材を追求しているため、失敗と改良の繰り返しです。今季の2018年秋冬コレクションの中には中央に細い線を染め抜いたシンプルなニットウェアがありますが、この柄を実現するまでには、なんと5回もの失敗を重ねたそうです。ほとんど諦めかけていた時に、ようやく作り出せた柄なのだとか。
村瀬氏の取り組みによって、寂れていた有松の地にも活気が戻った。スタッフと日々切磋琢磨しながら新しい技法を探る。(hoto by Miaki Komuro)
「もっとも、こうした試行錯誤が新たな柄を生み出すこともあるんです」と村瀬氏。例えば染料の分量を間違えた染めが、驚くほど有機的で独特な雰囲気の柄になることもあるのだとか。それをパリやミラノで発表したところ、非常に高い評価を得たそうです。

一過性のブームではなく、永続的な価値として根付かせるために。

一過性のブームではなく、永続的な価値として根付かせるために。 染めと絞りの妙を最新のファッションと素材に映す。
「日本の伝統工芸や手仕事は、世界的に見ても素晴らしい技術です。ですが、日本ではそれが当たり前になりすぎていて、正しく評価されていないように思えます」と村瀬氏。

「幸い私は一度日本を離れたため、改めてその価値に気付くことができました。でも、そのように国内外で改めて評価されつつある動きすら、“伝統工芸ブーム”や“made in Japanブーム”といった一過性のものに終始してしまうのではないか、と危惧しています」と村瀬氏は話します。

価値あるムーブメントも、流行として消費されがちな日本のマーケット。村瀬氏は「そんな風潮の中でも、時間をかけて作られたモノの価値を見出して頂きたい」と願っているそうです。
日本の手仕事の価値をいかに海外に広めるか――その答えが『suzusan』の中にはある。
「更に“ジャパン・アズ・ナンバーワン”という考え方についても、ぜひ再考して頂きたいですね。かつて欧州の印象派の画家たちは、日本の浮世絵を参考にして数多くの傑作を生み出しました。ですが、彼らが評価したのは“フジヤマゲイシャ”といった形骸化したイメージではなく、空間の切り取り方や色使いなど、それまで西洋にはなかった独特の美意識でした。ですが、当の日本では『ステレオタイプのモチーフを売り出せば評価される』と勘違いされているように思えます。そういった国内外の温度差や意識の違いを、ぜひ見極めて頂きたいのです」と村瀬氏は語ります。

日本的なモノ、日本的な考え方はますます世界の注目を集めています。そんな中で作り手・売り手・使い手の全てが、こうした考え方を見つめ直す必要がある――村瀬氏はそのように考えているそうです。

世界で人気のsuzusanのコレクション。それに触れられる絶好の機会が到来!

世界で人気のsuzusanのコレクション。それに触れられる絶好の機会が到来! あらゆるファッションアイテムに魅力を加える、可能性に満ちた技法。
現在『suzusan』の商品は、パリのL'eclaireur、ミラノのBiffi、ニューヨークのTiina the Store、ロンドンのMouki Mouなど、23ヵ国、120店舗以上の一流ショップで販売されています。「伝統工芸」というややレトロなカテゴリーに留まりがちな存在にも明るい未来がある――それを若い世代に伝えるために、常に新しい展開を心がけているそうです。

「今後は海外の拠点であるドイツのデュッセルドルフと、地元の有松に直営店をオープンする予定です。『suzusan』の顧客には『商品が作られている現場を見たい!』と有松まで訪ねて来てくださるような熱心な方もいらっしゃいますが、これらの直営店を“使い手と作り手の交差点のような場所”にしたい、と考えています」と村瀬氏。
1枚のファブリックに凝縮された伝統が世界の人々を魅了する。
更に現在、「現象」をテーマとした2018年秋冬コレクションを東京のポップアップイベントで販売中。『有松鳴海絞り』と『suzusan』ならではのストーリーを感じられる絶好の機会です。「ぜひ直接手に取って、選び抜かれた素材と伝統の手仕事の融合を感じてください」と村瀬氏は語ります。

●10月31日(水)~11月6日(火) (日本橋三越本館 1F 天女像前)

ニッチでラグジュアリーなブランドとして再生した『有松鳴海絞り』。その実物と世界にムーブメントを起こし続ける実力を、目と肌で感じてみてはいかがでしょうか?
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「ONESTORY」は「ONE SPOT,ONE TRIP」をテーマに日本に潜むONE=1ヵ所を求めて旅するトラベルメディアです。そのONEは地域で活躍する人との出会いや宿、レストランのような場所など様々。ONEを深く知ることによって生まれるSTORY=物語の感動をお伝えします。

http://www.onestory-media.jp/

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