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暮らしを支えてきた会津木綿の新たな価値を提案する。[IIE Lab./福島県会津坂下町]by ONESTORY

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暮らしを支えてきた会津木綿の新たな価値を提案する。[IIE Lab./福島県会津坂下町]by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から福島県会津坂下町の「NEW GENERATION HOPPING・IIE Lab.」を紹介します。

伝統工芸のイメージを覆すオープンファクトリー。

田園地帯を蛇行しながら流れる阿賀川に主峰・飯豊山(いいでさん)を抱く飯豊連峰。のどかな景色の中に、突如現れる凸凹屋根のレトロな建物。ここは、廃校になった幼稚園を借り受け、現代のライフスタイルにも取り入れやすい会津木綿の商品を提案する研究所『IIE Lab.(イーラボ)』です。明るく開放的な空間は、織機のある工房、縫製を行うミシンルーム、商品を販売するショップの3エリアに分かれています。
左が代表取締役の谷津氏。「普段使いしやすい“会津木綿”の商品をみんなで考えています」と谷津氏。
こちらを運営する株式会社IIE代表の谷津拓郎氏は会津坂下生まれ。早稲田大学大学院環境エネルギー研究科在学中に東日本大震災が発生し、地元でボランティア活動を行う中でIIEを立ち上げました。取締役の千葉 崇氏は、ビジネスパートナーを探していた谷津氏と縁あって出会い、地元で新しい価値を生み出そうとしている新会社の話を聞いて「面白そう!」と思い、東京の出版社の仕事を辞め、奥さんの故郷でもあった会津にIターン。ペンキ塗りなどの改修を自分たちで行い、今では県内に3軒しかない「会津木綿」の工房の仲間入りを果たしました。主に谷津氏が営業や経営を担当、千葉氏が織りを担当し、新商品の企画は縫製担当のスタッフも参加してアイデアを出し合っています。
幼稚園時代の面影を残した明るく開放的なショップ内にカラフルな商品が並ぶ。右奥には古い織機をディスプレイ。
「会津木綿」は綿100%の平織物。その歴史は古く、1627年に会津藩主の加藤嘉明が伊予松山(愛媛県)から織師を招いたことに始まります。それからおよそ400年、「会津木綿」は、夏は暑く冬は寒さが厳しいこの土地で作業着や普段着として親しまれてきました。特徴でもある縦縞模様はそんな地元の人々の信頼の証。丈夫で縮みにくく、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の間に空気を含んでいるため保温性・通気性に優れているのも良い所です。さしずめ、元祖アウトドア発・高機能生地といったところでしょうか。
端を結べば弁当入れやバッグインバッグとして使える「あずま袋」(税込2,700円/縦約35×横約28×マチ約10.5cm)。

100年前の織機が紡ぎだす高品質の会津木綿。

もともとラボがある青木地区は藍の栽培が盛んでした。たびたび氾濫する阿賀川の水害に強い作物として育てられていたのです。やがてあたりには染屋が立ち並ぶようになり、紺地に白い縞を織りだした青い縦縞が特徴の「会津青木木綿」が生まれました。興隆を極めたのち、一時は衰退してしまった「会津青木木綿」ですが、谷津氏や千葉氏が地元の職人を訪ねて彼らの頭の中にしかなかったレシピを継承。更に新たな感性が吹き込まれた『IIE Lab.』の商品はカラーバリエーションが豊富です。ショップには従来の伝統工芸品とは一線を画す色味のストールやネクタイ、ハンカチやブックカバーが整然と並び、物欲が刺激されます。
柔らかな風合いのストール「5year stole」は膝かけにも。(税込1万3,824円/幅約70×長さ約180cm)。
『IIE Lab.』内には日がな一日ガション、ガションとゆっくりリズムを刻む機械音が響き渡ります。実はこの機械、豊田式鉄製小幅織機Y式と呼ばれる100年前の織機。70年稼働した後、使われなくなって30年間放置されていた10台を廃業した織元さんから譲り受けたのです。「この織機を直して再び使えるようにするため、米沢、桐生(きりゅう)、新潟といった木綿の産地を訪ね、諸先輩方にお話を聞いて回りました」と千葉氏は話します。それは、雑誌編集で培った足で稼ぐ取材とどこか似ていたといいます。廃工場から織機を移設し、一つひとつパーツを外しては錆を落とし、油を差し直してゆく……。コツコツと修理を重ねて1年半から2年ほどたったある日、再び織機はリズムを刻み始めました。時間と手間がかかるため、できる生地は1日にわずか12mほど。しかし、低速で丁寧に織り上げられた生地は、糸にストレスがかかっていないため風合いが良く、品質の良さは一目瞭然です。
ストールのフリンジは職人が一つひとつ丁寧に手作業で仕上げています。
とはいえ古い織機なので、故障しても新しい部品への交換は望めず、もっぱら使用していない織機からの部品取りに頼っています。「70年働いてきたのにまだ働かせようというのですから、ちょっとかわいそうな気もするんですけどね」と千葉氏。織機がスムーズに動くよう常に油を差すので、各パーツから汗のように油が滴ります。その様はまるで生きもののよう! ふと見ると、油で床が汚れぬよう小さなトレーがいくつも並べられていました。「自分たちでこの場所を作り上げてきたという気持ちが強いので、みんなで壁を塗り上げた日のことを思い出すと汚せないんですよ」と千葉氏。
昔から会津地方にあった農作業着・サッパカマをベースにした機能的なパンツ「ヤマハカマ」(税込15,120円/フリーサイズ)。
会津ではここでしか買えない「塗師一富」の商品「四分一たまり皿」の取り扱いも。
手入れ前の織機。時が止まったかのような状態からコツコツと修理を重ねていった。(千葉氏撮影)

複数のコラボレーションに新ブランドも! 広がる『IIE Lab.』ワールド。

「“会津木綿”を使ったこんなものがあるといいな」をひとつずつ商品化している『IIE Lab.』では、主力商品の「会津木綿ストール」以外にも様々なアイテムがあります。例えば、赤ちゃんの産着のように柔らかな「5year stole」。「会津木綿」は糊づけした糸を使うため、最初は張り感があり、使い込むたびに柔らかくなっていく風合いの変化が楽しい布です。その特性を逆手にとり、この商品は購入から5年後の柔らかな風合いを最初から実現させるべく洗いをかけたアイテムです。12月1日からは「東北の山奥の織元」をコンセプトにかかげる「会津木綿 青㐂製織所」も始動します。新ブランドの第1弾は、サルエルのようなシルエットの「ヤマハカマ」。流行のワークスタイルを意識したデザインで、シンプルなトップスと合わせてもスタイルが決まります。
舟形の「杼(ひ)」に横糸をまいたボビンをセットし、ピンと張った緯糸の端から端まで通していく「シャットル織機」。
感度が高い企業とのコラボレーションも次々に実現しています。そのひとつが小学館刊行のハイライフマガジン『和樂』とのコラボレーションから生まれた「フェルメール会津木綿ストール」。フェルメールの名画『真珠の耳飾りの少女』の配色からインスピレーションを得た爽やかな色のストールは早々に完売し、現在は追加生産中なのだとか。ビームスと伊勢丹の共同プロジェクト「大縁起物市」には、「会津木綿」で作った「気持ちが伝わるご祝儀袋」で参加しました。これは贈られた人がハンカチとしても使える商品です。他にも多くのプロジェクトを手がけ、現在も複数のプロジェクトが進行中の『IIE Lab.』。その活動領域は更に広がりそうです。
山に入る際の通行証をイメージして作られたカードケース「ヤマモリ」の縫製を行う。
藍色のボビン。これを「杼」にセットする。織りあげた布に「耳」が出るのが「シャットル織機」の特徴。
各パーツから染み出た油がまるで汗のよう。そこに糸からふわりと舞い出た綿ぼこりが積もっていく。

価値あることをやって、きちんと稼ぐ。

「会津木綿」のバックボーンも製法も、それに関わってきた昔の人の知恵も「間違いなく価値あるもの」と考えている谷津氏と千葉氏。しかし、「この盆地を一歩出たら、認知度はまだまだ」と言います。「まずは『会津といえ“会津木綿”があるよね』と皆さんに思い浮かべて頂くことが我々の第一の使命。そのためには、ここにしかない人々の暮らしや田舎暮らしの良さを商品に乗せることができたらと考えています。混ぜた納豆を入れて食べる納豆餅だとか、イナゴを捕まえて遊ぶだとか、自分自身がここで生まれ育って常識だと思っていたことを他人に話すと驚かれたりする。そこに、地元の人間が気付かなかった価値が隠れているかもしれないので、日々、会津の魅力について考えています」と谷津氏は話します。
稲を刈り取った後の田んぼの中に佇む『IIE Lab.』。夏の田植えシーズンや実りの季節にも訪ねてみたい。
外から会津にやって来た千葉氏は、この土地の厳しい冬にこんなことを思うそうです。「僕がこっちに来て思うのは雪がすごいということ。なんだか自然に試されている気がします。そんな環境で生きてきた人々の知恵を投影した商品を作りつつ、きちんと儲かる会社にもしたい。僕たちはいつも『技術だけではなく、アイデアのある職人になりたい』という話をしているんです。こだわったもの、いいものを作っても、それだけでは意味がない。それをいろんな人に伝え、売っていくことも同じぐらい大切だと思っています。職人が技術を公開しないというのもあまり好きではなくて、“会津木綿”の輪を広げるために自分が身につけたものは広く伝えていきたい。今は一緒にやろうという人が増えてきて、嬉しく感じているところです」と千葉氏。
その言葉に頷き、「価値あることをやって、ちゃんとお金を稼いで、それを長く続けていくことが大事」と谷津氏。大量生産がかなわない昔ながらの製法を大切にしながら利益も上げる──相反する大事なことを両立させるため、2人の挑戦はまだまだ続きます。

(supported by 東武鉄道)

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