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さらり、ふわり。一度触れると忘れられない、癒し系リネン小物の生みの親。[TSUGARU Le Bon Marché・リネン作家 岡詩子/青森県鶴田町]

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さらり、ふわり。一度触れると忘れられない、癒し系リネン小物の生みの親。[TSUGARU Le Bon Marché・リネン作家 岡詩子/青森県鶴田町]
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から青森県鶴田町の「TSUGARU Le Bon Marché・リネン作家 岡詩子さん」を紹介します。

でこぼこや不規則な繊維があるから、リネンが愛しくなる。

津軽エリアで取材を進めていると、ちょくちょく耳にする名前があります。「ウタちゃんのアトリエにはもう行った?」「ウタコがまた面白そうなこと始めたの、知ってる?」――青森県で開催されるイベントにはひっぱりだこ、講演会に呼ばれたり、地域で活躍する女性に贈られる内閣府の賞を受賞したり。これまで「TSUGARU Le Bon Marché」でも紹介してきた「キープレイス」姥澤 大氏や「弘前シードル工房kimori」高橋哲史氏など、津軽エリアで活躍するキーパーソンたちとも顔見知り。多くの人が注目する気鋭の若手クリエイターこそ、岡 詩子(おか・うたこ)氏その人です。
アトリエがあるのは、ハクチョウ飛来地の近く。冬は、頭上を飛んでいくハクチョウの鳴き声が寒空に響く。
くりっとした大きな目にくるくるとよく変わる表情。岡氏と話していると、小さな身体から溢れ出すチャーミングな魅力に圧倒されます。そんな彼女が一転して黙り込み、集中する瞬間。それが、大好きなリネン生地と向き合うひと時です。「リネンの表面をよく見ると、ほら、こんな風に小さくぽこっと出ている“ネップ”があって、1本ずつの繊維も細い部分と太い部分があって……生地自体にデザインがあるというか、絵画みたい。綺麗に整いすぎていない感じがいいんです。……あ、ごめんなさい! 私、リネンが好きすぎて、リネンの話になると止まらないんです(笑)」と岡氏。
ナチュラルなブランドの世界観が伝わるアトリエの内装。この畳の上に直に座って作業をするのが、岡氏定番のスタイル。
彼女が生まれ育ったのは、弘前市から車で北へ30分ほどの北津軽郡鶴田町。現在もこの街に暮らしアトリエを構えていますが、リネンに魅了されたのは、東京でひとり暮らしをしていた学生時代でした。当時は小物を作っては自分で使ったり、人に配ったりする程度。まさか自分がリネン作家になろうとは、夢にも思わなかったといいます。
岡氏が「絵画のよう」と表現するリネンの独特の風合いには、予定調和にならない不思議な魅力が。

好きなものだから、迷うことなく仕事にできた。

転機は大学卒業後。岡氏曰く「新卒で事務職に就きましたが、これが合わなくて。そもそも私、“なぜやるのか”とか“何が目的か”とか、全ての行動に理由がないと動けないんです。でも初めての就職で、理由を理解するにも時間がかかるし、人一倍仕事も遅くて。結局1年ほどで退社し、実家に戻りました」。家でできることをやろう。自分が好きなもので、やる理由もあること――そう、リネンです。
長く通う東京・日暮里の問屋で仕入れたリネン地。「本当に綺麗」と呟く岡氏の表情には、リネンへの愛がにじむ。
幸い、リネンには人一倍、いや二倍も三倍も思い入れが。「リネンは速乾性、吸湿性があって、雑菌が繁殖しづらいので衛生的。ストローのような構造が体温を溜め込むから、風さえ通さなければ冬でも快適なんです。実際に自分がリネンの大判ストールで吹雪の鶴田の冬を乗り切った体験談も添え、“冬リネン”としてインターネットで売り出しました」と岡氏。更にもうひとつ、岡氏のリネンを世に広めたのが、「縫い目の見えない手縫い」作品でした。「リネンの生地の世界観を壊さないよう、どんなに小さい縫い目も外に出したくない」と、縦糸と横糸が重なる部分にくぐらせて縫う独自のやり方を考案。縫い目が見えないアイテムを作り、反響を呼びました。
実際に触れてみると、様々な感触のリネンがあることがわかる。ウールのように温かな風合いのものも。
小さな街で、とにかくリネンが大好きな23歳の女の子が立ち上げたブランド「KOMO」の揺るぎない世界観は徐々に評判に。セレクトショップから注文が入ったり、イベント出店を依頼されたりと、青森県中に広まっていきました。
布の端は数センチ幅で糸を抜いてフリンジを作り、ほつれないようにする。無縫製ゆえ、肌当たりがいい。

考え事に明け暮れた子供時代が原点?

世の中にゴマンとあるリネン生地の中からこれぞというものを探し出し、下処理をして形を整え、無縫製ストールに仕立てるのが、現在の「KOMO」の主な作業。そんな作品作りの工程も、岡氏にかかれば愛情たっぷり、ユニークなものに。例えば、「地直し」という下処理ならこんな具合です。「生地をひと晩水に浸けてから乾かすと、生地に柔らかさと風合いが出るんです。ちょうど『整列ー!』となっている繊維を『休め~』にする感じ。生地をちょっと自由にしてあげるんです」。
新たなブランド「素のまま」では、瓶詰めの惣菜などを販売。野菜の色を生かした彩りが美しい。1瓶500円~。
彼女の魅力にもなっている、独特の視点や解釈。それらは小さい頃から育まれた筋金入りのもののよう。「ひとり遊びが好きで、『タライはなぜ地面に落ちるのか』をずっと考察するような子でした。結局、地球はタライのことがめっちゃ好きなんだという結論に達して。当時はよくボーッとしていたから、親は心配だったと思いますよ」と笑う岡氏。布と自分だけの世界に没頭できる作品作りの時間は、子供時代のひとり遊び同様、今も自身にとってたまらないひと時なのです。
「素のまま」のプロダクトの他、ワインやお茶を販売するテイクアウトショップ「回」。こちらもセルフリノベーション。
「理由がないと動けない」分、好きなものには一直線。しかし、そんな岡氏唯一の例外が、故郷の鶴田という街への想い。「どんな地域に行っても『いい所だな』と思うのに、帰ると不思議と『鶴田が一番』と感じるんです。もちろん家族も友人もいる大切な場所だけれど、なぜ一番なのか、確かな理由は自分でもわからない。だからこそ、この街に居続けるのかも」と話します。代表を務める「つるた街プロジェクト」では、地元開催のキャンドルナイトやハンドメイドイベントを企画。作家活動にとどまらない活躍ぶりで、今や地域を引っ張る存在となっています。
人々が気軽に立ち寄れるコミュニティスペースにしたいと、あえてラフにりんご箱を置いたイートインエリア。

衣食住にまつわる活動で、津軽に新たな風を吹かせる。

昨年、新たにリネン服のブランド「UTAKO OKA」を立ち上げるとともに、鶴田町の中古一軒家をセルフリノベーション、アトリエとした岡氏。更に今年、料理人でもあるパートナーの川口潤也氏と一緒に、「素のままproduct」というプロダクトブランドをスタートしました。「素のまま」と書いて読み方は「そのまま」、テーマは「質素は贅沢に引けをとらない」。リネンのあるがままの表情を生かした「KOMO」のストール同様、食材本来の自然な味わいを大切にした瓶詰めの総菜やお茶などを製造し、美しいパッケージに包んで販売しています。
川口氏お手製のスイーツを食べながらひと息。アトリエでは、不定期で川口氏による予約制・会員制茶寮「澱と葉」も開催され、話題を呼んでいる。
11月には鶴田の街中にテイクアウトショップ「回」をオープンし、「素のまま」のプロダクトの他、日本各地のお茶や世界中から選りすぐった自然派ワインを提供。今後はアートイベントの開催や、自身のものに限らない様々なクリエイターの雑貨販売を予定しているそうです。「いいものを人に言わずにはいられない性格なんです。これまで出会ったクリエイターさんの作品や自分たちが好きなものを、単純に『見て見て!』って知ってもらいたくて。ある意味自分勝手な場所なんですよ(笑)」と岡氏。

彼女がいう自分勝手とはつまり、自分に正直ということ。自らの感情に耳を傾けて「好き」を拾い、素直に従う、そんなことの積み重ねが「KOMO」であり、街おこしイベントであり、「素のまま」や「回」であるのでしょう。自宅のリビングでリネンストールを作り始めてから丸8年、岡氏の活動は、ライフスタイル全般・衣食住にわたるものとなりました。もう8年、でもまだ8年。津軽エリアのこれからを考えた時、彼女の存在感はますます増し、更に多くの人々が口々に言うはずです。「ウタコがまた面白そうなこと、やってるよ!」と。

「KOMO」アトリエ

北津軽郡鶴田町鶴田前田10-6

https://komo.stores.jp/

※訪問は予約制


※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。

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