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これぞ津軽の至宝。伝承料理を未来へつなぐ、頭巾姿のスーパーウーマンたち。[津軽あかつきの会/青森県弘前市]by ONESTORY

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これぞ津軽の至宝。伝承料理を未来へつなぐ、頭巾姿のスーパーウーマンたち。[津軽あかつきの会/青森県弘前市]by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から青森県弘前市の「津軽あかつきの会」を紹介します。

きっかけは、「今やらねば」という危機感から。

きっかけは、「今やらねば」という危機感から。 全員、おそろいのりんご柄の頭巾で厨房へ。茶目っ気たっぷりにおしゃべりを繰り広げつつ、着々と仕事を進める。
目にも留まらぬ早業とはこのことなのでしょうか……。総勢7名の女性たちが、わいわいと調理中の厨房の光景。他愛ない話に笑い合いながらも、手元では次々と料理が仕上がっていきます。それにしても見事な連携プレイ。あっという間に、全10品がのったお膳が完成しました。
献立表を確認。レシピは基本、メンバーの頭の中に。作って食べて、「津軽あかつきの会」の味を覚える。
ここは弘前市郊外の石川地区。料理を作っているのは、津軽の伝承料理を継承する活動をしている『津軽あかつきの会』のメンバーです。この場にいない人も含めて全部で29名の会員をまとめるのが、会長の工藤良子氏。工藤氏が会を立ち上げたのは今から23年前のこと。地元の道の駅で販売する餅や漬物などの商品開発や製造管理を担当する「友の会」のメンバーだった時でした。「新しい料理を考えるため、地域の高齢者の方に話を聞きに行くことになりました。そこで、津軽の保存食はすごいということに気付いたんです」と工藤氏。
取材するこちらも巻き込まれるほど、笑いの絶えない厨房。生き生きとした津軽弁が行き交い、心地いい。
冬場、厚い雪に閉ざされる津軽。農産物が何も採れなくなる中で発展したのが、干す、発酵させるといった工夫を凝らした保存食でした。春までの間を今ある食材でつなぎつつ、栄養的にもそん色なく提供するにはどうしたらいいか。昔の人の知恵が詰まった料理の数々に触れた工藤氏は、「そうした料理を集めて記録しよう。今やらないとなくなってしまう」と危機感を感じたといいます。

毎日活動し、書籍も刊行。津軽のお母さんたちの執念。

毎日活動し、書籍も刊行。津軽のお母さんたちの執念。 近所の国道沿いから、雪を被った津軽富士・岩木山の姿を眺めて。冬の津軽らしい風景が広がる一帯だ。
今の時代、少し移動すればスーパーマーケットがあり、コンビニエンスストアがあります。四季を問わず多くの食材が手に入る現代の日本で問題になっているのが、食品ロス。私たちは豊かになった一方、大きな矛盾を抱えながら生きています。『津軽あかつきの会』が作る伝承料理は、スーパーマーケットもコンビニエンスストアもなく、ごく限られた食材しか手に入らなかった時代に、農家のお母さんたちによって作られていたもの。時代の流れの中、人知れず消えていってしまう料理にもう一度光を当てたのが、工藤氏たちでした。
大根やにんじん、ごぼう、山菜、大豆をすった“ずんだ”を入れた「けの汁」。津軽ではおなじみの伝承料理。
「友の会」の仲間たちで高齢者の自宅を訪ね、料理とその調理方法をひとつずつ聞いて記し、実際に試食してみる。そんな地道な作業を続ける中、レシピは膨大な数になりました。2006年にはレシピをまとめた書籍も刊行。現在もほぼ毎日活動し、日中に集まって試食や食材の下ごしらえ、保存食作りに勤しみます。週に数日は、予約制の食事会を開催。工藤氏の自宅のダイニングで、貴重な料理の数々を味わえます。
厨房に干された大根と、大根の葉“しぐさ”。しぐさは干した後に茹で、軟らかくしてから刻んで汁の具にする。
「危機感から始めた会ですが、作っていると発見がたくさんあって本当に楽しい。ほとんどボランティアのような活動でお金にはならないけれど、楽しいからこそ続いてきましたし、みんなで楽しんで作る料理だからこそ健康にいいのかなとも思います」と工藤氏。地域のいいものを発掘して広める――。我々『ONESTORY』が目指すのも同じです。そんな活動を20年以上も前から個人的に続け、心から楽しむ工藤氏たちの姿勢には、編集に携わる立場として頭が下がる思いでした。

北国の知恵が詰まった滋味深い料理たち。

北国の知恵が詰まった滋味深い料理たち。 ずらりと小鉢が並ぶお膳は圧巻! 10品のおかずの他、黒豆ご飯や高菜の粕汁、漬物、甘味などが揃う。
目の前に並ぶ食べ切れないほどの料理。津軽出身ではない人も、「初めて食べるのにどこか懐かしい」と感じるのではないでしょうか。使う野菜はメンバー宅で栽培したものを持ち寄るか、近所の道の駅や直売所で購入したもの。魚も地元のもので、味噌なども自家製です。もちろん化学調味料は不使用、肉や油も極力使っていません。
春に塩蔵しておいた「ばっけのとう」は、丸1日水に浸し塩抜きする。保存食を使うには、前準備が必要だ。
茹でたサメと大根を合わせ酢で和えた「さめなます」。塩蔵しておいたフキノトウの茎「ばっけのとう」を塩抜きしてサバのほぐし身と和えた「ばっけのとうとサバの酢味噌和え」。サツマイモやにんじんをほのかに甘く炊いた「練り込み」は、砂糖が贅沢品だった頃のおもてなしの料理だそうです。ニシンを塩3:麹5:米8の割合の「三五八(さごはち)漬け」にした「ニシンの飯寿し」は、濃厚で酒に合いそうな味わい。まだ寒風が吹く3月から4月にニシンを1ヵ月ほど干した後に漬け込む、津軽の代表的な保存食です。
ひと通り調理が終わると、にぎやかな試食タイムが始まる。この日は、工藤さんのご主人も一緒に食卓を囲んだ。
春は山菜、ニシンやホッケなどの魚、秋は根菜や秋魚……。食材がなくなる冬のため、他の季節は保存食の仕込みで大忙し。更に、大根は葉や皮の部分も乾燥させ、刻んで汁ものに入れたり煮て切り干しにしたりと、食材を全て使い切る工夫を凝らしています。驚くのは、その深く優しい味わい。「昔の農家は肉体労働だったから塩気を強くしていたけれど、今は違いますから。塩は味を締める程度にしています」と工藤氏。昔の料理をそのとおりに作るだけでなく、時代に合わせ、食べ手の健康を考える。一過性の再現にとどまらず、受け継がれ、作り続けられることを見据えるのが、『津軽あかつきの会』のやり方なのです。

明るく楽しく自然体。だから人が集まる。

長年活動を続けてきた工藤氏に、一昨年に嬉しいことがありました。それが、20代の若手メンバー、吉田涼香氏の加入です。千葉県出身の吉田氏は、城下町らしい文化が残る弘前に魅了されて移住。地域おこし協力隊の活動の一環として週4日ほど『津軽あかつきの会』に参加し、今ではすっかりレギュラーメンバーに。お母さんたちの早業のような動きにも難なく溶け込み、津軽弁の会話に加わります。

「ここにいると、津軽の食文化は本当に豊かだと感じます。自分が感銘を受けた『津軽あかつきの会』の考え方を多くの人に伝えることで、もっと多彩な津軽の文化を知ってほしい。でも、一番はこうやってみんなで作って食べるのが美味しくて。楽しいからご飯も美味しい、そんなことを改めて感じます」と吉田氏。吉田氏曰く「東北の人は閉鎖的といわれますが、ここのお母さんたちはすごく明るい! みんなで東京のイベントに遠征した時は、遠足みたいな楽しさでした。道の駅の『友の会』は、今はもっと若手に任せていて、きちんと後進に受け継ぐことができています。そんな風通しの良さも、いいなあと思うんです」。
吉田氏と談笑する工藤氏。吉田氏の参加を、「今までやってきたことが前進したようで、本当にうれしい」と話す。
よく「昔は貧しくて、何もなかった」と話す人がいます。でも手をかけ、食べる人のことを考えた『津軽あかつきの会』の料理を食べると、こういった伝承料理にこそ、歴史や風土に根差した真の豊かさがあることをはっきりと感じられます。それと同時に、地方の団体で若手不足が叫ばれる今、いとも自然体で後進を育てるお母さんたちの手腕に学ぶことがたくさん。「みんな、ここが好きで来てくれる人たちだから」。そう言って笑った工藤氏に、津軽の女性の強さを感じました。

津軽あかつきの会

青森県 弘前市石川家岸44-13 MAP

0172-49-7002

木、金、土、日の12:00~14:00。4名から受付、3日前までに要予約。 1食1,500円~


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