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ミラノの鬼才・徳吉洋二氏が、自身の“分身”を描く。神保町の路地裏に誕生した新店『Alter Ego』。[Alter Ego/東京都千代田区]by ONESTORY

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ミラノの鬼才・徳吉洋二氏が、自身の“分身”を描く。神保町の路地裏に誕生した新店『Alter Ego』。[Alter Ego/東京都千代田区]by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から東京都千代田区の「Alter Ego」を紹介します。

あの徳吉洋二シェフが、満を持して東京に新店をオープン。

2019年2月4日、神保町の路地裏に『Alter Ego(アルテレーゴ)』という名のレストランがオープンしました。食に詳しい方ならば、かつてまさにこの場所にあった名店『傅』の名を思い出すかもしれません。あるいは重厚なメタルの扉と、その先に広がる深いグリーンの壁紙に、どこか既視感を覚えるかもしれません。そして、エントランスを抜け、オープンキッチンに立つ人物を目にして、全てが腑に落ちるのです。何しろそこに立って笑顔でゲストを迎えるのは、ミラノ『Ristorante TOKUYOSHI』のオーナーシェフ・徳吉洋二氏と、その右腕たる平山秀仁氏なのですから。
『Alter Ego』のエントランス。メタルの扉と深いグリーンのテーマカラーはミラノ『Ristorante TOKUYOSHI』と同じ。
そう、ここはイタリアで日本人オーナーシェフとして初のミシュラン一つ星を獲得した徳吉氏が満を持して東京に開いたレストラン。徳吉氏自身も、月の半分は東京に戻り、可能な限りキッチンに立つといいます。しかしこの店の主役は日本の食材であり、シェフを担う平山氏なのです。店名を、例えば『TOKUYOSHI TOKYO』のように知名度やブランド力を生かすものではなく、あえて『Alter Ego』とした理由も、そこにあります。徳吉氏が東京を舞台に描く夢、重責を担う平山氏の思い。二人の言葉から、この『Alter Ego』の在り方を紐解いてみましょう。

味、食材、ペアリング。重視するのは全ての「バランス」。

「いつか日本でやりたいとは思っていました。イタリアで日本人としてやっている自分が、日本でイタリアを表現したらどうなるか」と徳吉氏は話します。しかし、同じ徳吉氏の手がける店であっても、ミラノと東京ではコンセプトからして根本的に異なります。
土地の伝統を知り、それを再解釈することで生まれる徳吉氏の料理。必然的に食材は日本各地のものが中心となる。
それは、徳吉氏の料理が常に土地や歴史とともにあるから。徳吉氏は常々「伝統料理を学ぶのではなく、伝統そのものを学ぶ」と話します。ある土地の地理、歴史、食材、人物を深く知り、そこから流れの中で伝統料理へと到達する。例えば「カルボナーラは卵とチーズで作る」ことを学ぶのではなく「なぜ卵とチーズで作られたのか」という背景を理解し、その必然性をたどって料理に落とし込むのです。結果として、日本で日本の食材を使う『Alter Ego』では、ミラノではできない料理が登場するのです。
徳吉氏も月の半分は東京にいるが、この店では「裏方に徹するつもり」だと言う。
そんな東京で徳吉氏が打ち出したテーマは「エクイリブリオ(バランス)」でした。日本とイタリアのバランス、食材の味のバランス、ペアリングのバランス。そういったバランスを丁寧に組み立てることで、よりなじみやすい味を目指したのです。
基本は日本の食材だが、生ハムは徳吉氏のこだわりで欧州の一級品をセレクトした。

徳吉氏が自身の分身たる平山氏に寄せる思い。

「秀ちゃん」「洋二さん」と呼び合う徳吉氏と平山氏。平山氏は長く『Ristorante TOKUYOSHI』のスーシェフを務めてきましたが、その関係は師弟というよりは、親友同士や仲の良い兄弟に見えます。そしてこれこそが、徳吉氏が店名に込めた思い。『Alter Ego』の意味は、分身。「時には言い合いもしますし、僕が彼から学ばせてもらったことも多くあります。ここでは彼にしかできないことをやってほしい」と、徳吉氏は弟を見るような優しい目で話しました。
シェフを務める平山秀仁氏。『リストランテ・ヒロ』を経て、29歳でイタリアに渡った。
対する平山氏は「以前に『傅』があったこの場所と『TOKUYOSHI』の名前。もちろんプレッシャーはあります」と言いながらも、「しかしそこであれこれ考えるよりも、純粋に美味しいものを作ることに注力していきたい」と自然体で話します。29歳でイタリアに渡り、ひょんなことから徳吉氏と出会い、3年にわたってともに働いてきた二人は、きっと言葉では言い尽くせぬ絆で結ばれているのでしょう。
『Ristorante TOKUYOSHI』では長くスーシェフを務めた平山氏が、徳吉氏の思いを料理に落とし込む。
ちなみにオープンキッチンのカウンターで、誰でも、少しでも話せば伝わるのが、誠実で穏やかで、ユーモアもある平山氏の人柄の良さ。この店のペアリングワインのセレクトを担当した大橋直誉氏も「秀ちゃんだからこの仕事を請け負ったんです」と、平山氏の人柄に惚れ込んだひとり。こうして周りを惹きつける魅力もまた、オープンキッチンのカウンターに立つ上での才能といえるでしょう。
北海道産の花咲蟹をはじめ、日本各地の一流の食材が届く。
「洋二さんは天才肌で、答えが頭にパッとひらめくタイプです。僕はどちらかといえば細かく積み上げて答えを見つけるタイプ。しかし道筋は違っても、最終的に同じ答えにたどりつければ良いと思います」と話す平山氏の言葉に、気負いはありません。

場所が変われども燦然と輝く、おなじみの徳吉イズム。

場所が変われども燦然と輝く、おなじみの徳吉イズム。 540日間熟成して甘みを引き出す北海道産ジャガイモ「五四〇」を使用した「ポテトチップスとトリュフ」。
場所が変わり、コンセプトが変わり、食材が変わり、シェフが変わりました。しかしそれでもなお、料理の根底にある徳吉氏らしさの輝きは失われません。ゲストを驚かせる仕かけがあり、食材の組み合わせの妙があり、ブレることのない美味しさの芯があり、どこかアートの香りが潜む。そんな徳吉イズムは、ここ『Alter Ego』でも健在です。
かつてこの場所にあった『傅』で出されていたスッポンのスープを、ラビオリと合わせた一品。
鴨の絵を描いた皿に盛られた鴨肉、エディブルフラワーが美しく飾られた前菜。少しの遊び心と大胆な発想で、まずは見た目で驚かせる料理の数々。マグロのヅケにスライスしたての生ハムを合わせたひと皿は、異なる方向性を持つ山海の「旨味」を、絶妙に調和させてみせました。イノシシ肉を包んだラビオリにはスッポンのスープを合わせ、日本とイタリアの高次元の融合を演出しました。ミラノでイタリアの食通たちを魅了した徳吉氏らしさは、ここ『Alter Ego』でも遺憾なく発揮されているのです。
サプライズやワクワク感を形にした「デリバリーピザ」はコースの幕開けに登場する。
食材には徳吉氏が2017年、2018年と2年続けて参加した野外レストランイベント『DINING OUT』のコネクションが生かされています。例えばアペリティフで登場する「デリバリーピザ」は、徳吉氏自身の故郷である鳥取で開かれた『DINING OUT TOTTORI-YAZU』でゲストを驚かせた一品。「子供の頃のデリバリーピザの箱を開ける時のワクワク感」を形にした、米粉生地と多彩なハーブ、エディブルフラワーのピザです。また、トリュフを合わせたポテトチップスに使うジャガイモや、バターと合わせたカニは、『DINING OUT NISEKO』の際に発掘したもの。そして徳吉氏は今後も、イタリアと日本を往復しながら日本各地を巡り、食材を探していく予定だといいます。
ゲストの前で作るリコッタチーズで仕上げる「カンノーロ」。美しいプレゼンテーションが徳吉氏らしい。
「生ハムとマグロ」はマグロのヅケと生ハムの旨味が複雑な美味しさを奏でる『Alter Ego』を象徴する一品。

ワインとスープ。2つのペアリングが料理を輝かせる。

料理と並び『Alter Ego』の看板となるのが、2つのペアリングでしょう。
鴨の絵皿に盛りつけられた鴨肉に、大橋氏セレクトのワインが優しく寄り添う。
ひとつはワインペアリング。セレクトを担当したのは、オープニングのアドバイザーを務めた大橋氏です。徳吉氏とも親交のある大橋氏は「(徳吉さんは)イタリアンというジャンルにとらわれない、自由な発想がある人。料理が解放されているから、ワインも国を限定せずに、純粋に綺麗でエレガントな料理に合わせてセレクトできました」と話します。ワインと合わせていっそう輝きを増す料理は、更に深い印象をゲストに与えることでしょう。
徳吉氏をよく知る大橋氏だからこそ「味の着地点を想像して選びます」と言う息の合ったペアリングが実現。
そして徳吉氏が『Alter Ego』で仕かけたもうひとつのペアリングが、スープです。実はミラノの『Ristorante TOKUYOSHI』では、それぞれの料理を小さなブロード(出汁)と合わせて提供されています。そこから更に一歩踏み込み、コースの中のそれぞれの料理とスープを合わせるのが、今回の試み。香りを寄り添わせる、味の隙間を埋める、余韻を残す、油分を補うなど、様々な視点から仕立てられるスープが、料理にひときわ深みを加えてくれるのです。
徳吉氏と平山氏、タイプの異なる二人の才能が組み立てる新たな味に期待が尽きない。
『Alter Ego』の料理は全6~8品の日替わりコース1本。数々の挑戦を込めた徳吉氏のアイデア、若き平山氏の技、これからも日々増加するであろう食材たち、そして2つのペアリング。様々な要素が絡み合い、かつてない店となりそうなこの店。「行列のできる店よりも、また来たくなる店にしたい」と徳吉氏が語る展望は、そう遠くないうちに現実となるに違いありません。

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