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母なる山に導かれて。津軽の人気ハンバーガー店が紡ぐ、奇跡のストーリー。[TSUGARU Le Bon Marché・ユイットデュボワ 八幡崎店/青森県平川市]by ONESTORY

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母なる山に導かれて。津軽の人気ハンバーガー店が紡ぐ、奇跡のストーリー。[TSUGARU Le Bon Marché・ユイットデュボワ 八幡崎店/青森県平川市]by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から青森県平川市の「TSUGARU Le Bon Marché・ユイットデュボワ 八幡崎店」を紹介します。

材料はほぼ青森県産。毎日でも食べたい「田舎のハンバーガー」。

材料はほぼ青森県産。毎日でも食べたい「田舎のハンバーガー」。 平川市は「気の流れがいい」と話す井上氏。店舗の2階は自身が運営するデザイン会社に。社名の『0172』は一帯の市外局番から拝借したそう
「『デュボワ』のハンバーガー食べた? めちゃくちゃ旨いよ」。私たち取材班にそう教えてくれたのは、2018年取材した『弘前シードル工房 kimori』の代表・高橋哲史氏。その後、私たちは津軽のあちこちでその店の名前を聞くことになりました。「他にはない味わいにハマった」、「オーナーのこだわりがすごい」。多くの人がそう絶賛するハンバーガーとはいったいどんなものなのでしょうか? 対面すべく向かった先は、弘前市中心部から車で15分ほどの平川市。田んぼが広がるのどかな景色の中、突然こじゃれたカフェが姿を現したのです。
青森県産牛の赤身肉の風味を生かすため、味付けは潔く塩・こしょうのみ。平川市の店では炭火でパティを焼くが、炭も香りがよく長持ちする近隣の大鰐町(おおわにまち)産を使う
ここ『ユイットデュボワ 八幡崎店』は、弘前市にある『カフェデュボワ 上白銀店』の姉妹店として、2019年2月にオープンしたばかり。青森県産牛100%のパティや青森県産の野菜、弘前市内のパン店に特別に注文したバンズを使用するなど、とことん「青森」にこだわったグルメバーガーの美味しさで、既に根強いファンを持っています。「グルメバーガーといっても、東京の人気店で出すようなリッチなタイプとは違うんです」と話すのは、オーナーの井上信平氏。曰く「目指すのは、僕がアメリカの地方都市に住んでいた頃毎日のように食べていた“田舎のハンバーガー”。シンプルであっさりしているから、もの足りないという人もいます。でもひとつ食べたら『しばらくいいや』と思うようなハンバーガーより、健康的だしホッとできる。食が細い人も、うちのハンバーガーはぺろっと食べてしまいますよ」。
「濃厚プレミアムチーズバーガー」1,280円。それぞれの食材の味がしっかりと伝わってくる、記憶に残る美味しさだ。特別注文のバンズはイーストフード不使用
津軽エリア内に2店舗を経営し、地元産食材にこだわる井上氏ですが、生まれも育ちも兵庫県の関西人。実はデザイン事務所の代表を務め、画家という顔も持っています。井上氏がなぜ津軽へ移り住み、活動を続けているのか。その話こそが、今回の記事のドラマチックな主題です。
店内で飲める他、ボトル販売も行う「自家製ジンジャーエール」(右)と青森県産カシス使用の「自家製カシスジンジャーエール」(左)。井上氏の奥様がレシピを開発

きっかけは、津軽の情熱的な色彩。夢をかなえるため北国へ。

きっかけは、津軽の情熱的な色彩。夢をかなえるため北国へ。 平川市某所にある井上氏のアトリエには、大小様々な岩木山の絵が。先入観を持たずありのままに絵を感じてほしいと、全てタイトルはつけていない
井上氏が津軽と出合ったきっかけは、意外にも海外での出来事でした。高校卒業後、デザインを学ぶためアメリカに留学した井上氏。当時のアメリカはインターネット黎明期、とにかく色々なものをインターネットで検索するうちに、たまたま見つけた青森ねぶた祭の写真に衝撃を受けたといいます。「こんなにカラフルで独特な色合いが生まれる場所には、いったいどんな文化があるんだろう、いつか住みたいと青森に憧れを持ちました」と井上氏。しかし帰国後は地元企業に就職、結婚し子供にも恵まれ、いつしか年齢は20代後半に。「中学生の頃の夢は人間国宝(笑)。それはまだしも、20歳になってから決めた『青森に住む』という夢さえかなえていない。ふと、それまで何も成し遂げていない自分が嫌になったんです」と井上氏は話します。
「店ではニコニコしているけど、普段は眉間にしわが寄ってます(笑)。仕事でも店のメニューでも『次はどうやってみんなを驚かせよう』って考えちゃって」と井上氏
そうして井上氏は一念発起し、津軽移住を決意。印刷会社のデザイン部門に就職が決まり、家族で弘前市へやってきた27歳の時、井上氏の人生に影響を及ぼすもうひとつの出合いがありました。「道の駅の駐車場に車を停めて視線を上げたら、大きな岩木山がドーン!と見えて。不思議と『ようこそ』と言われた気がしたんです。その瞬間、自分はずっとこの山に会いたかったんだと確信しました」と井上氏。
「自分はこの山に呼ばれて津軽に来た」。井上氏が直感的にそう直感したという岩木山は、津軽の人々の心の拠り所。今も山岳信仰の対象として知られる霊峰だ
苦節8年、ようやく独立しデザイン会社を設立。そんなある日、井上氏は岩木山の絵を描き始めます。時に激しいエネルギーを感じさせる原色で、時に優しげな淡い色調で、自分の中の岩木山を無心に描く……。まるでミューズを見つけたアーティストのように創作意欲を爆発させた井上氏は、やがて岩木山だけを描く画家としても知られるようになります。

ハンバーガーも絵も自己表現。表現の仕方を津軽が教えてくれた。

ハンバーガーも絵も自己表現。表現の仕方を津軽が教えてくれた。 最近は『ユイットデュボワ 八幡崎店』の横の空き地で、自然農法の畑もスタート。自家栽培の野菜を使ったメニューの提供も視野に入れ、目下農業を勉強中とか
「それまではいくら絵を勉強したところで、絵が楽しいとも、自分から描きたいとも思えなかった。でも岩木山を描き始めたら気持ちががらりと変わって、とにかく描きたい時に描きたいだけ、作品を作るようになりました」。そう語る井上氏が、初めてのハンバーガー店『カフェデュボワ』をオープンしたのは2015年、移住から13年目のこと。長年広告デザインの仕事に携わる中、自分が店を経営すれば、より依頼者の気持ちに寄り添うことができると考えたのがその理由です。「例えば八百屋の店主が『旨い野菜を作っても売れない』と悩んでいたら、解決方法を一緒に考えるのがデザインの仕事。だったら自分が毎日食べ歩くほど好きだったハンバーガーでそれをやろうと思って」と井上氏。
弘前市にある1号店の『カフェデュボワ』は、2017年、同じ弘前市内に移転。市役所や弘前公園に近いビルの2階で『カフェデュボワ上白銀店』として営業している
デザインの仕事を生かす場として始めたハンバーガー店ですが、店作りの方向性や提供するハンバーガーについては「絵と同じ、自己表現」なのだと井上氏。「おかげさまで今は、絵を買いたいと言ってくださる方がたくさんいます。それって、『僕の捉える岩木山はこうですよ』という表現が、受け入れてもらえているということ。ハンバーガーも、4年も店が続いているのは、『僕はこういう食べものが好きなんです。あなたはどう?』という投げかけに、賛同してくれる人がいるからだと思っています」と続けます。
『カフェデュボワ 上白銀店』店内。店の入り口脇では、近所の福祉施設から届く朝採れ野菜やジャムなどの加工品の販売スペースも
「津軽に来てわかったのは、感じたことをそのまま表現するのが大切だということ。住みたい所に住めばいいし、絵が描きたいなら描けばいい。なんだか、津軽に来てからすっかりスピリチュアルな感じになっちゃって(笑)。今、僕のライフワーク自体が自己表現なんです」。そう言い切る井上氏。津軽の地と岩木山に導かれ感性を開花させた井上氏には、少しの迷いも見えません。

津軽に暮らし続けたい。その想いが地域貢献につながる。

津軽に暮らし続けたい。その想いが地域貢献につながる。 チラシやポスター、ウェブデザインなどの制作を請け負う会社『0172』のオフィスで、若手スタッフと談笑。畑の作業も、スタッフみんなで行っているそう
ライフワーク=自己表現と語る井上氏ですが、その裏には常にひとつのテーマがあります。それが「青森の発展に寄与する」こと。青森県産食材を使うこともそのひとつですが、例えば『デュボワ』の2店舗では、働き口を見つけづらい子育て中の母親を積極的に採用。子持ちスタッフが多いことを考慮して夜営業は予約のみで受けつけるなど、働きやすい環境を整えています。また代表を務めるデザイン会社は、若手クリエイターの受け皿に。「働く場所があれば他県への人口流出も防げますし、県外からの移住者を助けることもできる。経営規模を大きくすることが、自分ができる地域貢献だと思います」と井上氏。
地元の小学校などで絵の講師も務め、「いつか津軽に美術学校を開きたい」と語る井上氏。「感じたまま描こう」と教える教室では、子どもたちの自由な感性が羽ばたく
2019年『ユイットデュボワ 八幡崎店』を郊外の平川市に作ったのは、自身が弘前市から平川市に引っ越したことがきっかけ。もともと近所同士のつながりが非常に強い地域のため、「若い人を含め、もっと人が行き交える場所を」と2号店の出店を決意したそうです。オープン時には地元の人たちを招待し、今ではハンバーガーを楽しみに通う70代の常連客を持つなど、地域に愛される店となってきました。
地域に根差した理由を聞くと、「津軽の人口が減少して街がなくなるようなことになったら、岩木山のそばに住めなくなるじゃないですか」と笑う井上氏。しかし、その根底には、自身の生き方を変えてしまうほど強いエネルギーを持った、津軽への並々ならぬ愛情が感じられます。1枚の青森ねぶた祭の写真から動き出した、井上氏と津軽を巡る物語。画家活動、ハンバーガー店経営、そしてその次は? 岩木山に導かれ、勢いが止まりそうもない井上氏のこと、今後ますます肩書を増やしながら活躍を続けるに違いありません。

(supported by 東日本旅客鉄道株式会社)

ユイットデュボワ 八幡崎店

平川市八幡崎松枝42-1

0172-40-2838


カフェデュボワ 上白銀店

青森県 弘前市上白銀町1-10 MAP

0172-88-6812


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