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津軽発・話題のクラフトビールの快進撃に、リミットなし。[TSUGARU Le Bon Marché・ビーイージーブルーイング/青森県弘前市]by ONESTORY

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津軽発・話題のクラフトビールの快進撃に、リミットなし。[TSUGARU Le Bon Marché・ビーイージーブルーイング/青森県弘前市]by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から青森県弘前市の「TSUGARU Le Bon Marché・ビーイージーブルーイング」を紹介します。

今日も全国から人が訪れる、弘前市郊外のビール醸造所。

今日も全国から人が訪れる、弘前市郊外のビール醸造所。 JR弘前駅からは徒歩15分以上。それでも開店後、タップルームの席は次々と埋まる。休日ともなると、そのうちの数割が県外からの訪問者だ。
もしあなたが大のクラフトビール好きで、津軽を訪れる予定があるなら、伝えておきたいことがふたつあります。ひとつはちょっぴり残念なニュース、そしてもうひとつはそれを補ってあまりある素敵なニュース。まず前者は、2019年現在、津軽エリアでクラフトビールを扱う飲食店はかなり少なく、醸造所にいたっては1軒しかないということ。そして後者は、その1軒が、全国的に知られる『ビーイージーブルーイング』というユニークな醸造所であること。
常時取り換えられる12種のうち、ほとんどが自社醸造のビール。ロゴマークと社員の名前が刻まれたタップハンドルに、「チームギャレス」の絆が感じられる。
『ビーイージーブルーイング』の醸造所とタップルームがあるのは、弘前市の中心部から少し離れた住宅地。それでもオープンの時間になると、次々とお客さんが訪れ賑わい始めます。「始めは、こんな場所では人が来ない、もっと繁華街じゃないとだめだとみんなに言われました。でも今は、わざわざここを目指して人が来てくれる。それも青森だけじゃない、日本のあちこちからだよ」。そう話してくれたのは、代表のギャレス・バーンズ氏。多くのクラフトビールファンから「ギャレス」と呼ばれ親しまれるアメリカ人醸造家です。

「2016年にここを始めてから、売り上げは毎年伸びていて、2019年は前年比1.7倍。周りの人たちは今、ここを見てびっくりしているはず」とバーンズ氏。「青森はいつか、ビールで有名になる」。バーンズ氏はかねてから、そんな確信を持っていたといいます。
ビールは290mlで550円~、400mlで650円~と相場に比べて破格の安さ。「本当はもっと高くしたいけど、青森の人に飲んでもらいたいから」とバーンズ氏。

元軍人、津軽三味線奏者、ローカルタレント。多彩な肩書の歴史とは

元軍人、津軽三味線奏者、ローカルタレント。多彩な肩書の歴史とは タップルームの店名は『ギャレスのアジト』。チームギャレスの隠れ家は、店主の思惑どおり、いつ行っても美味しいビールと人々の笑顔で溢れている。
バーンズ氏は、青森県ではちょっとした有名人でもあります。ローカル局で番組を持ち、津軽弁を自在にあやつるタレントとしてのキャリア、また津軽三味線奏者としてのキャリアは、醸造家のそれより長いほど。様々な肩書を持つバーンズ氏が最初に来日したのもまた意外な理由。高校卒業後に入隊した米国空軍の一員として、三沢基地に配属されたことがきっかけでした。
「どさゆさ」、「うだで」……呪文のようなビール名が並ぶメニュー。これらは津軽弁で、意味はそれぞれ「どさゆさ」=「どこ行くの?」「温泉だよ」。「うだで」=「すごい」。
軍での所属は、なんと爆弾処理班。「昔から、やるんだったら難しい道を選ぶ性格」と言うバーンズ氏。数十人の希望者のうち数人しかパスしない、難関の試験を乗り越えて掴んだポストでした。「爆弾処理の仕事はすごくいい経験だった。だって19歳の自分がFBIと一緒に、来日するアメリカ大統領が泊まるホテルをチェックするんだよ。自信も得たし、技術的なこと、人生への考え方、様々なことを学んだと思います」とバーンズ氏。
オリジナルボトルでの持ち帰りも好評。最近ようやく都市部で浸透してきたビールの持ち帰りシステムが、津軽で受け入れられていることに驚く。
22歳で退役し、日本のことをもっと知ろうと米軍の街・三沢から城下町の弘前へ。既に通信制の大学院も卒業し、軍ではそれなりの専門的ポストにもいたため、当初は1年ほどで帰国し関連組織に戻るつもりだったそうです。が、英語講師として働く傍ら津軽三味線に興味を持ち、大会に出場するほど熱中、その演奏をきっかけにテレビの仕事が来るように。元来の性格ゆえ「まだ足りない、まだやれる」と帰国を先延ばしていたバーンズ氏。4年が経つ頃に、定住を決意します。「リミット(limit)がないことをしたくなるんだよね」と言うバーンズ氏は、晴れて津軽人となったのでした。
「お金を儲けて高いものを買うとか、本当に興味がなくて」と話すバーンズ氏。取材中一番いい表情を見せたのは、『ギャレスのアジト』のお客さんと話している時。

醸造所実現の原点は、爆弾処理の仕事にあった!?

醸造所実現の原点は、爆弾処理の仕事にあった!? 弘前市『カフェデュボワ 上白銀店』にて。右にあるのが、青森県限定ビール「青森エール」のサーバー。県内20店舗の飲食店に卸す限定ビールだ。
その後、自身で英会話教室を設立。ひとりで80名ほどの生徒を指導し経営を軌道に乗せたバーンズ氏でしたが、「やれることはやりきった」と感じて、次の段階へ進むことを決意します。それが、以前から好きだったビールの醸造でした。バーンズ氏曰く「当時はよく東京のクラフトビール専門店に飲みに行っていました。でも青森に戻って『クラフトビールを造りたい』と話しても、誰にも相手にされない。前例がないからと、銀行の融資を立て続けに断られたことも。話さえ聞いてもらえなくてつらかったね」。
2018年から始めた平川市の自社農園では、無農薬で野菜を栽培。『アジト』の料理に利用する。カスケードというアロマ系ホップも育て、収穫祭も行った。
しかし冒頭に書いたように、既にこのプロジェクトの成功を確信していたバーンズ氏。根底にあったのは爆弾処理の仕事で培った考え方でした。「やっぱり仕事とはいえ、爆弾を前にしたら怖いよ。でも目の前の怖いものをきちんと理解し、安全な方法で処理さえすればクリアできる。そのことがわかってから、実は世の中の全てが同じ、すごくシンプルで、難しいことは何もないと気付いたんです」とバーンズ氏は話します。
料理のメニューは数ヵ月ごとに変わる。左は「野菜スティック 味噌マヨディップ」650円、中央は「3種の自家製ソーセージ」950円。
英会話教室の仕事と並行しながら、まずは1年かけて銀行を説得し融資を獲得。醸造用の機材や配管も自分で海外から取り寄せ、インターネットで調べながら、数ヵ月かけて組み立てたそうです。「数百万円かけて業者に施工を頼んでも、壊れたらどうする?また頼むしかない。でも自分で組めば仕組みがわかるから壊れても直せるし、また醸造所を作れといわれても、問題なく同じものが作れるよ(笑)」とバーンズ氏。醸造技術も、2週間ほど山梨県の『アウトサイダーブルーイング』で研修を受けた以外は、ほぼ独学。シンプルにこつこつと時間をかけ、まさに「手作り」で醸造所を築き上げたのでした。

ビールを通して伝えたい、フリーな生き方がある。

ビールを通して伝えたい、フリーな生き方がある。 『アジト』に飾られている岩木山の絵には「Be Easy」の文字。社名であると同時に、バーンズ氏の生き方そのものを示す言葉だ。
完成したビールは、早くから好評に。最初は東京や大阪といった都市部で、その後一気に日本中へ広がりました。ファンの間でよく話題になるのは、『ビーイージーブルーイング』の不思議な商品名。「あずまし」(心地いい)、「けやぐ」(友達)などの津軽弁から「青森の認知度を高めたい」とバーンズ氏が命名しました。「色々言っているけど、結局は青森が好き。自分のソウルは青森県民なんです」。そう話すバーンズ氏が2019年から始めたのが、ご当地ビール「青森エール」の取り組み。もっと地元の人にクラフトビールを知ってほしいという思いから生まれた、県内20店舗の飲食店のみで提供される限定ビールです。
妻、娘と暮らす自宅から自社農園までは、車で数分の距離。田んぼと畑に囲まれた一帯は、バーンズ氏が毎朝犬と歩くお気に入りの散歩道でもある。
バーンズ氏とご近所仲間で、以前「津軽ボンマルシェ」でも紹介した『ユイットデュボワ』オーナーの井上信平氏は、「青森エール」を発売当初から提供。「クラフトビール初心者にも飲みやすい味わいでリーズナブル。彼自身が冷蔵庫を改造したサーバーも無料で貸し出してくれる。地元のために採算度外視でもの作りをする姿勢に頭が下がる思いです」と話します。

「青森は住みやすくて安全で、冬はスノーボードし放題、春は桜が最高(笑)。でも14年住んでいると、精神的に安定しない人が多いのも、所得が低いのも実感する。自分はできないと言われたことをやって、雇用と地域の名産品を作ったけれど、それを見たみんなが『やれるんだ』と真似してくれればいい」。そう話すバーンズ氏は、笑いながらこう続けました。「信頼できるスタッフがいて、全国のビールファンとつながっていて……忙しいけど、今が一番フリーで気持ちがいいね」。ひとつずつ難題をクリアしながら津軽で生きる場所を勝ち取ったその姿は、頼もしくも自然体。第二、第三のギャレスの誕生が、今から待ち遠しくなりました。

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