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ザッツ・エンターテインメント。ようこそ、『tsumons』のスフレ劇場へ。[WINE & SWEETS tsumons/福岡県福岡市] by ONESTORY

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ザッツ・エンターテインメント。ようこそ、『tsumons』のスフレ劇場へ。[WINE & SWEETS tsumons/福岡県福岡市] by ONESTORY
日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から福岡県福岡市の「WINE & SWEETS tsumons」を紹介します。
お酒とスイーツのマリアージュを楽しめるお店は、東京をはじめ全国にいくつもあります。けれどその多くは、レストランメニューの一部としてや、あるいはカフェ利用がメインで、ピンポイントでお酒にも合うスイーツを提案している場合がほとんどです。

しかし、福岡県中央区高砂にある『WINE & SWEETS tsumons(つもん)』は、少し、いえ、全くと言っていいほど、それらの世界観とは一線を画します。なぜならこちらのスイーツは、ワインに合う、お酒に合う、ではなく、それら両者がひとつになって初めて、世界が完成するのです。
スフレ登場の瞬間は、思わず感嘆の声を上げてしまうほど。圧倒的な膨らみは衝撃的。
そんな独自の世界観を創り上げるのは、パティシエールでありソムリエールの香月友紀氏。

彼女が作るスイーツの中でとびきりのスペシャリテは、2014年3月のオープン以来、変わらず「スフレ」です。ふわふわでこんもりと膨らんだ、淡雪のように繊細な口どけの「スフレ」と、香月氏が選ぶワインは、口の中で溶け合い、鼻腔で混じり合い、蜜月を迎えます。

その甘美な世界を求めて、県内はもとより県外、時には噂を聞きつけたフーディーな海外ゲストが足を運ぶ『tsumons』。今回はその魅力と香月氏の素顔を、お伝えしたいと思います。

一人ひとりのために、その都度時間をかけて焼き上げる。

一人ひとりのために、その都度時間をかけて焼き上げる。 カシャカシャカシャ……から次第にリズムと音が変化していく。その間約2分半は一瞬たりとも手を休めない。
『WINE & SWEETS tsumons』とその名が示すように、ここはスイーツとともにワインもしくはスピリッツを愉しむお店。紅茶やコーヒーの用意はなく、どちらかといえばバーに近い存在といえます。

供するスイーツは季節替わりで約10種(2018年5月現在)。そのうちの半数を占めるのが、この店のシグネチャースイーツであり、香月友紀氏を語る上で欠かすことのできない「スフレ」です。

メレンゲが潰れないようそっと器に移し、オーブンへ。この焼き時間はゲストにも香月氏にとっても、ドキドキの時間だ。
全ての「スフレ」は「oven fresh(焼きたて)」で、オーダーを受けてから焼き上がりまでおよそ30分かかります。ゲストの目の前で卵白を泡立て、メレンゲを作るところからスタートするのですが、あまりに自然な流れで香月氏が泡立てを始めるので、カウンターに座る私たちはよほど覗き込まない限り、何かが始まったとは気が付かないほどです。

今回は改めて、その動きをじっくりと観察してみたところ、最初は右手で泡立て始め、次に左手に替えてまた泡立て、その後は約10秒毎に左右の手を替えながら、都合約2分半、ひたすら泡立て続けていました。途中、砂糖を加える時以外は、途切れることなくずっと、です。言葉で約2分半と言えば簡単ですが、一度でも卵白の泡立て経験がある人ならば、それがどれほどキツい作業かは想像がつくのではないでしょうか。
連続でスフレを作ることをなんら厭わない香月氏。「一番楽しいし、好きな時間ですね」と話す。
「でも私はですね、メレンゲを作るのが一番好きなんです。落ち着くっていうか……。昔から洗濯機がぐるぐる回っているのを見るのが好きだったので、もしかして攪拌(かくはん)作業は自分にとって精神安定剤みたいなものなのかも(笑)」と、ケラケラと笑いながら博多弁で話す香月氏。実際、泡立てている時は、手に余計な力や負荷はかかっていないのだそうです。ゲストと会話をしながらも、流れるような所作で泡立てを続けられるのも納得です。

彼女の作る「スフレ」は、砂糖の量が控えめ。これはワインやスピリッツなどとの相性を考えると、とてもバランスのいいことなのですが、実際のところ、メレンゲ作りに砂糖は不可欠なのです。多いほど早く泡立ち、膨らみのキープ力も高まります。けれど香月氏は、砂糖には頼りません。目指す味わいとマリアージュのためには、一つひとつ、そして一人ひとりのために、労力を惜しまないのが香月氏なのです。

夢ならば醒めないで。まるで魔法にかけられたようなスフレたち。

夢ならば醒めないで。まるで魔法にかけられたようなスフレたち。 チーズの「スフレ」の中でも、モッツァレラを使ったものは特に面白いほど伸びる。日本のチーズと日本のワインは、そのまろやかな相性の虜となる。
「スフレ」は、ベーシックなものをはじめ、フレーバーやトッピング違いなど5種ほどの用意があります。この日は、「エクストラ チーズ スフレ」と「きょうのもやしスフレ」を作ってくれることに。

まずチーズは、鹿児島県鹿屋で、2018年の5月より始動したチーズ工房『Kotobuki CHEESE』のモッツァレラを使用。このチーズの開発には、香月氏も関わったといいます。そしてチーズの上には、フランスのスパイス専門店『イズラエル』で購入した、香り高いクミンがたっぷりと振りかけられます。

さて、「スフレ」作りの見せ場は、その焼き上がりです。初めて『tsumons』で「スフレ」を経験する人は皆、「こんなに膨らむの!?」と目を疑うほど。何しろ、ココット(陶製の容器)の倍の高さにまで膨らんで登場するのです。驚きなしには迎えられません。
フランベの用意をする香月氏。まるで子供が理科の実験室で遊んでいるような表情になっている。
差し出された柄の長いフォークの先で「ぷすっ」と真ん中を突けば、モッツァレラのミルキーな香りがふんわりと。思わずうっとりしていると……。
「チーズ、すくってみてください。びよ〜んと伸びるので。早く、早く!」と香月氏に急かされました。言われるまますくい上げてみれば、なんとまぁ伸びる伸びる。「スフレ」を食べるだけなのに、なんだか笑いが止まらなくなりました。これはまさに、tsumonsエンターテインメントです。

この「スフレ」に合わせたワインは、日本ワインのドメーヌ・ポンコツ「おやすみなさい」。山梨県産巨峰から造られる微発泡のこのワインと鹿屋のモッツァレラは、どちらも優しく穏やかで、日本人ならではのものづくりの繊細さに溢れています。「スフレ」とワインが、穏やかに抱擁し合うのです。
「もやし」はただのパフォーマンスではない。「草」を思わせる八女(やめ)の抹茶の香りを、ハーブリキュールがこれでもかと引き立てる。
その次に登場したのは、森のように深い緑が迫り上がった抹茶の「スフレ」。これを、「もやし」にすると香月氏。メニューにも、「もやし」とあります。
「よくお客様に、もやしってあの“もやし”ですか? と目を丸くされるのですが、その反応が楽しくて。正解は“燃やし”、フランベにするんです」と香月氏。

話し切らないうちに、間髪入れずフランベにしたジンとシャルトリューズを、焼き上がった「スフレ」にさっと注ぎます。この瞬間、私たちゲストが「おぉ~」と声を上げるのは当然なのですが、実は香月氏自身が一番楽しそうなのです。まるで子供がいけない遊びをしているような、やんちゃな表情になっているのです。

香月氏は、抹茶という素材を草(=ハーブ)と捉えています。そしてフランベで使ったお酒も薬草香るリキュールとスピリッツ。そこへ合わせるのは、ほんのり青々しさを感じさせる、にごり系の白ワイン、ソーヴィニヨン・ブランです。
「もう、草草草! 草ワールドです」と香月氏。またしても彼女自身が誰よりも嬉々としているのが、印象的なのでした。

まじめにもほどがある。スイーツと向き合う姿勢は馬鹿正直。

まじめにもほどがある。スイーツと向き合う姿勢は馬鹿正直。 コクと酸味が感じられるチョコレートのアイスクリームはなめらかで軽やか。オリーブを散らしたチップスやベリーが好対照。これに合わせるバニュルスは、フレンチでいうところのソースの感覚。
「スフレ」以外のスイーツは「TODAY'S SWEETS」として、パフェやアイスクリーム、シャーベットなど4、5種の用意があります。しかしこれらも先ほどの「もやし」同様、ネーミングが少し、普通じゃありません。チョコレートアイスクリームのパフェは「ケンタウロス」、ラズベリーのメレンゲとアイスクリームのコンビネーションは「メレンゲ御殿」、スピリッツのジンが香るシャーベットには「ジンジン」……。どれもが実にユニークなのです。
最近特に気に入りのラム『ドン・パパ』(中央)と、香月氏が愛して止まないドイツのスピリッツ『スティーレ・ミューレ』(左)。
けれど、そんなネーミングセンスとは裏腹に、素材と向き合う姿勢は、恐ろしいほどにまじめで真摯。例えば、アイスクリームに安定剤は不使用。使用する副材料もできる限り、作れるものは全て自分で作るといいます。
「スイーツを作り始めた時から、心の師匠はずっと『オーボンヴュータン』(東京都・尾山台)の河田勝彦シェフでした。パティシエールとして生きていくと決意するきっかけを与えてくれたのも、氏の本。副材料を自分で作ることと、職人である以上は白衣を着るということを、そこから学びました」
ロックフォールのアイスクリームは『ドン・パパ』とともに(右)。シェーブルのアイスクリームには『スティーレ・ミューレ』のアブサンとブラッド・オレンジの蒸留酒をふりかけていただく。香月氏曰く、『tsumons』4年間の集大成のスイーツに仕上がっている。
修業時代に応募したコンクールの中でも、「第4回 メープルスイーツコンテスト」では金賞を受賞した香月氏。その時の審査委員長が河田氏だったということで、コンクールの勝敗や結果よりも、自分のお菓子を河田氏に食べてもらえるということが、最大の喜びだったとか。思い出すたび、その時の興奮と熱が、全身を駆け巡るのだそうです。

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