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津軽のりんごに大きな価値を見出し、街の誇りと豊かな食文化を担う醸造酢に。[カネショウ株式会社/青森県弘前市]by ONESTORY

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津軽のりんごに大きな価値を見出し、街の誇りと豊かな食文化を担う醸造酢に。[カネショウ株式会社/青森県弘前市]by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から青森県弘前市の「カネショウ株式会社」を紹介します。

桶屋から味噌・醤油の醸造業、そしてりんご酢の醸造元へ。

桶屋から味噌・醤油の醸造業、そしてりんご酢の醸造元へ。 カネショウ株式会社の4代目・代表取締役社長の櫛引利貞氏。りんごの収穫期は猫の手も借りたいほどの忙しさ。
岩木山の麓、津軽平野は見渡す限り果てしなく、りんご畑が延々と続きます。車で走っても走っても、広大な敷地にりんごの木々が生い茂り、枝を広げています。カネショウ株式会社の本社は、りんご畑からもほど近い、弘前の郊外にあります。酢の醸造元としては本州最北端。ここで主に造られているのがりんご酢です。
カネショウ尾上工場。収穫されたりんごの洗浄から発酵、出来上がったりんご酢の充填(じゅうてん)などがこの工場内で行われている。
創業100年を超えるカネショウ尾上工場の玄関を上がると、まず目についたのが壁際にたくさん積み上げられた古い木桶。櫛引氏から聞いたところによると、カネショウの創業者・櫛引勝太郎氏はかつて桶屋を営んでいたのだとか。職人を30人以上抱える大きな事業だったそうで、酒蔵などに木桶を納めていました。しかしやがて木桶産業にも陰りが見え始め、明治後期から醸造業に着目。1912(大正元)年に醸造所を構え、味噌・醤油の製造を開始しました。初めの頃は初代・勝太郎氏や2代目の長男・忠三氏が自らリアカーを引いて売り歩くなど、苦労して業績を伸ばしたそうです。
積み上げられた古い木桶。酒屋が配達用に使っていた通い樽というものだそう。カネショウを表す「正」の焼印が歴史を物語る。
太平洋戦争後の1949(昭和24)年、櫛引食品工業株式会社を設立。高度経済成長に伴って、味噌・醤油は飛ぶように売れていきましたが、忠三氏の長男である元三氏が3代目社長となった翌年の1973年、第一次オイルショックが起こって売り上げが激減。スーパーマーケットの台頭などもあり、首都圏の大手企業が続々と地方に参入したことで、経営は更に悪化しました。周りでも廃業や倒産が続く中、元三氏は「醤油・味噌製造のみでの企業経営の範疇から脱却して、食品業界全体に目を向け、そこに活路を見出すべく模索していた」(自著『元三のひとりごと』より)といいます。自分たちが長年培ってきた発酵技術を使って、何か調味料を造れないだろうかと考えた末、津軽の産品といったらりんごであろう、と思い当たったそうです。そこから試行錯誤を繰り返し、りんご酢を造るにいたったのでした。

苦戦の末に完成したりんご酢は、津軽を丸ごと味わえる調味料に。

苦戦の末に完成したりんご酢は、津軽を丸ごと味わえる調味料に。 次々と運ばれてくるりんごを洗浄するスタッフ。たくさんのりんごが延々と流れてくる様子はなかなか迫力がある。
工場を訪ねた12月はりんごの収穫もそろそろ終わりの頃。最後の仕込みが行われていました。大量のりんごがベルトコンベアーで運ばれ、冷たい水の中で洗浄されながら次々と流れていきます。りんごは全て津軽で採れたもぎたての完熟りんご。品種を定めず様々な種類がミックスされています。その方が複雑な味わいになって良いのだそうです。
「この作業は年に一度、生のりんごが収穫された今の時期に一気に行います。仕込み方はお酒と一緒。りんごは洗ってすすいで、再度洗いにかけて。少しでも傷んだり、腐ったりしたりんごはスタッフがチェックして取り除きます。発酵にはそんなに影響がないかもしれませんが、腐敗につながるような要因はできる限り取り除くのがうちの方針です」と4代目・代表取締役社長の櫛引利貞氏。一つひとつ手をかけた丁寧な仕事は、カネショウらしさでもあります。
すりおろしたりんごはタンクに注いでじっくり低温で発酵させる。カネショウのりんご酢は、まずアルコール発酵でりんごのお酒を造り、それを更に酢酸発酵させて酢にする、昔ながらの天然醸造。ひと冬に約100t造るそう。
洗浄が終わったりんごは、大きな専用の機械で丸ごとすりおろします。皮も芯も全て一緒に。
「生のりんごを全部すりおろして、そのまま発酵させるなんていうやり方は、世界中探してもたぶんうちしかやっていないんじゃないかな」とちょっと誇らしげに話す櫛引氏。カネショウでもりんご酢の発売当初は、一般的な造り方である、りんごジュースを発酵させて造っていましたが、それでは他の大手企業と横並びになってしまい、勝負になりません。りんご酢を主力商品にしても、競合が増えるばかりで苦戦が続きました。この土地だからできること――カネショウの強みは、冷涼な気候の青森で、採れたてのりんごがすぐ手に入ることでした。そうであれば、りんごの新鮮さを生かして丸ごと発酵させることはできないか、ジュースとは違うものにならないだろうか……と必死で考えたそうです。何度も試作しては失敗を繰り返し、ようやく独自の技術である「すりおろし醸造」にたどりつき、現在のりんご酢が誕生したのでした。

並行して青森県産業技術センターと、すりおろし醸造のりんご酢の効能について、共同研究を始めました。一般的に酢は美容と健康に良い、というイメージはありますが、この実験データにより、他のりんご酢と比べても抗腫瘍効果(がんなどを抑える)がとても高いことがわかったのです。
「すりおろしたりんごの皮と実の間の成分が、発酵の過程で変化し、抗腫瘍効果のある成分になることがわかりました。1998年にフィンランドで行われた世界食品学会で発表し、高い価値を得ることできました」と櫛引氏。

木樽でじっくり熟成。手間と時間がかかっても本物を造ること。

木樽でじっくり熟成。手間と時間がかかっても本物を造ること。 熟成用の木樽がずらりと並ぶ様は圧巻。もともとはウイスキーに使っていた希少なオーク樽を酒造会社から譲り受け、再利用している。
続いて訪ねたのは、まるでワイン蔵のような、オークの木樽がずらりと並ぶ広い倉庫でした。倉庫の周りには田畑が広がり、冬は白鳥がたくさん飛来してくるそうです。カネショウで造られたりんご酢は全て、最終的にこの木樽に詰めて3ヵ月以上ゆっくりと熟成させます。すると木の香りがほのかに移り、ツンとすることなく、まろやかで奥深い味わいになるのだそうです。りんご酢を造る上でまず思い浮かんだのは、イタリアの醸造酢、バルサミコ酢でした。
「酢のメーカーとして、世界で一番素晴らしい果実酢は?と考えたら、やっぱりバルサミコ酢ではないかと思ったのです。造り方を調べてみると、煮詰めた果汁を樽に詰めて長期熟成していました。そこで、ものは試しと搾ったりんご果汁を濃縮して酢を造り、ひとつの樽で熟成してみました。数年経って味をみてみるととてもマイルドないい味になっていたのです。正直あまり期待していなかったのですが、ああ、これがまさに『酢角が取れる』という味わいなのだなと実感しました。これならりんごでもバルサミコ酢に負けない品質のものが造れるのではないか、と自信が湧いたのです」と櫛引氏は話します。
試験的に寝かしているという19年もののりんご酢。蓋を開けると樽の中からはふわりと甘い香りが漂ってきた。
そうして2年間の熟成を経て出来上がったのがバルサミコ酢のように濃厚なりんご酢「バルサミィアップル」でした。実際に味見をしてみると、その上品な味わいに驚きます。バルサミコ酢よりやや繊細で柔らかく、ふくよかな甘みがあります。「オリーブオイルと塩を混ぜてパンにつけたり、サラダにかけて和えたりしてもいいし、焼きりんごに添えたアイスクリームにかけても最高ですよ」と櫛引氏は嬉しそうに教えてくれました。
櫛引氏の甥っ子であり、取締役副社長兼工場長の櫛引英揮氏。製造部門を一手に引き受けている。ちなみに櫛引氏も英揮
「バルサミィアップル」はもちろん、そもそも木樽で数ヵ月も熟成しているりんご酢など前代未聞であり、手間も時間もかかります。しかし、それがカネショウのキモだと、櫛引氏は言います。
「私たちは手間をかけることが非常に大事だと思っています。大企業にとっては割に合わないことかもしれません。でもそこが私たちの生きる道です。津軽のりんごという圧倒的な存在がすぐ近くにある。そのおかげで、私たちは一歩も二歩も先に行ける。そして結果的に良いものづくりができる。今の時代の流れを見ても、世の中が本質的なものを求めていることを感じています。そういう意味でも私たちのやってきたことは間違っていなかったと確信しています」と語る櫛引氏。

弘前大学と共同研究し、りんごから酵母や菌まで全て青森産を目指す。

弘前大学と共同研究し、りんごから酵母や菌まで全て青森産を目指す。 商品開発や検査などを行う研究室。スタッフは理化学系の大学出身者ばかりではない。「料理が好きで調味料開発に興味がある」ことが募集条件だったとか。
津軽の風土に根づいた、この地だからできるものづくりを、という思いはカネショウの商品開発のベースになっています。りんご酢は、青森そのものを表した商品。全て津軽産のりんごを使うことはもちろん、実は酵母もこの土地のもので、弘前大学が青森県南西部にまたがる白神山地から採取した「弘前大学白神酵母」を使っています。白神山地といえば、世界的にも最大級のブナの原生林が広がり、多種多様の貴重な生態系が保たれている、ユネスコ世界自然遺産の認定地でもあります。
「弘前大学白神酵母」の菌株は、マイナス70℃の冷凍庫で大切に保管されている。
「弘前大学で酵母研究をしている先生を紹介してもらい、一緒に研究開発を始めました。実は白神酵母自体は何十種類もあり、白神山地の樹皮や腐葉土から採取・分離された天然酵母で、その中からうちの醸造に適したものを探しました。香りや味わいなどを何度も試作して見極め、青森県内で初めて実用化にこぎつけることができました。私たちの活動をきっかけに、白神酵母が青森の産業のひとつとして広まり、津軽のイメージアップにもつながればと思っています」と櫛引氏。現在は酢酸菌についても、白神山地から採取したもので研究が進められているそうです。まだ試作中とのことですが、オール青森にすることが目下の目標。
「ものづくりは楽しいですね。新しいアイデアを具現化して商品にして、その評判が良く、お客様が喜んでくれるのならば、やっぱり造り手としては嬉しい。私たちはメーカーで良かったなと思っているんですよ。いろんなものをゼロから創造できるのはメーカーだからこそ。そういう楽しさがありますよね」と櫛引氏は言います。
商品は、右の3つが料理にも使いやすい定番のりんご酢(赤いラベルがプレーン、その隣はハチミツ入り、右端は甘さ控えめのライト)。左から3番目の黄色いラベルはハチミツと生姜入りで飲みやすい「青森スウィッチェル」。その隣が「バルサミィアップル」。一番左端は話題のプロテオグリカンをたっぷり配合した「女神の林檎」。
ちなみに弘前大学が開発した成分には、他にプロテオグリカンがあります。コラーゲンやヒアルロン酸に続く美容健康成分として以前より注目されていましたが、これまで抽出が難しく、1gで3000万円という大変高価なものだったため、なかなか商品化が実現できませんでした。同大学では鮭の鼻軟骨に高濃度のプロテオグリカンが存在することを突き止め、本来は廃棄物だったその骨から、安価で安全に高濃度のプロテオグリカンを抽出する技術を確立し、高付加価値をつけることに成功。「あおもりPG」としてブランド化し、今後の躍進が期待されています。カネショウでは「バルサミィアップル」の技術をベースに、木樽熟成の濃縮した黒りんご酢とプロテオグリカンをたっぷり配合した「女神の林檎」という美容飲料を開発。「あおもりPG」の広まりを後押ししています。
津軽の呑兵衛が集まる場所ともいえる弘前の「かだれ横丁」には、カネショウの各種りんご酢を使ったハイボールを飲める屋台があった。「くしびきハイボール」と名づけられ、街の人々に親しまれている。
最後に、熱心に製造現場を取り仕切る、取締役副社長兼工場長の櫛引英揮氏とも少し話をする機会があったので、カネショウの今後のビジョンについてうかがってみると、こんな答えが返ってきました。「醸造業は可能性がありすぎると思っています。未知の部分がたくさんあって、まだまだ行けるなって思う。私たちのベースはやはりこの青森という恵まれた土地で、地域資源を有効に活用しながら、発酵・醸造技術の研鑽をしっかりと積んでいきたいです。でもこれ、ちょっとよそ行きのコメントですかね。本当のところは従業員がそれぞれアイデアを出し合ってお互いに成長し、みんなが幸せに暮らしていける会社になっていければいいなと。それが根本にあった上で、時代を読みながら決断していきたいです」。
カネショウが想像を超えるような発酵・醸造の未来を醸し出す現場になるかもしれません。年月をかけて熟成された青森愛が底辺に流れるカネショウの今後に、ワクワクせずにはいられないことでしょう。

カネショウ株式会社

青森県


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