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能登の里山里海の滋味を料理で伝える。遊び心とともに、まっすぐに。 [L’Atelier de NOTO/石川県輪島市]by ONESTORY

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能登の里山里海の滋味を料理で伝える。遊び心とともに、まっすぐに。 [L’Atelier de NOTO/石川県輪島市]by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から石川県輪島市の「L’Atelier de NOTO」を紹介します。


世界を見て、ようやくたどり着いた食の理想郷、能登。地場を愛し、地場に愛された料理人。

世界を見て、ようやくたどり着いた食の理想郷、能登。地場を愛し、地場に愛された料理人。
漆工技術の粋を集めた輪島塗、日本三大朝市のひとつに数えられる輪島朝市などで知られる石川県輪島市は、能登空港から車で30分ほど。その市街の中心部に『ラトリエ ドゥ ノト』はあります。建物はかつて輪島塗の工房である塗師(ぬし)屋だったもの。入口に掲げられたナイフとフォークをあしらったロゴマークが、ここがレストランであることをかろうじて伝えてくれますが、その外観からフランス料理店であることは読み解ける人は少ないはずです。店名の『L’Atelier de NOTO』を直訳するなら「能登のアトリエ」。オーナーシェフの池端隼也氏が、能登の食材を材料に料理という作品を創作し続ける工房と言えるでしょう。

今、この店が全国はもちろん、海外のグルマンたちから熱い注目を集めています。羽田―能登間のフライトは1日2便。午前便で能登に降り立ち、ランチをゆっくりと楽しんで、夕方の便で帰京するというツワモノも少なくありません。一体、何が人々の心を惹きつけているのでしょうか?
ひとつは全国でも稀な優れた食材の宝庫である能登のポテンシャルの高さ。もうひとつは、それら能登の優れた食材のショーケースとなり、消費の最前線で食材の一つひとつを最良の状態で提供すべく全力を傾ける池端氏の情熱。このふたつのかけ算が唯一無二の食体験を生み出しています。

国内外の名うてのレストランで豊かな経験を積んだ池端氏は、能登の食材を「おいしいから使う」と言います。このシンプルな一言には、「地産地消」という言葉では片付けられない重みがあります。池端氏は能登で何を見つめ、何を思って厨房に立っているのか? 能登に魅了されたひとりの料理人の姿を追いました。

うれしい驚きと遊び心に満ちた料理の数々。

うれしい驚きと遊び心に満ちた料理の数々。 ノドグロのグリルを椎茸といしるのソースで。ブランド椎茸「のと115」を使った会心作。
『ラトリエ ドゥ ノト』には料理名を記したメニューはありません。いくつかの料金設定でお任せコースがあるのみ。客はその日の仕入れの状況と池端シェフのインスピレーションに身をゆだねます。
この秋、ディナーには、5,600円、9,000円、12,600円の3つのコースに加えて、20,000円のコースが登場しました。最近は「予算はいくらでもいいから、思う存分やってほしい」という客からの要望が増えたことに対応し、「いくらでもいいと言われると困ってしまうもので」と新設したハイエンドのコースです。同店のスタイルが認知され、信頼を獲得している証左と言えるでしょう。
朝市で手に入れた食材を中心に、海山の幸を小松菜のクレープでくるんでいただく。
池端氏の料理は、うれしい驚きと遊び心に満ちあふれています。この日の前菜がそれを象徴する一皿でした。ざらざらとした土味と渋い黒色が印象的な珠洲焼のプレートを明るいグリーンのクレープ生地が彩っています。生地の上に盛り付けられているのは、全て能登各所から集められた食材たち。朝市で手に入れた朝獲れのサバは、軽く〆て炙りました。同じく朝市で出合った甘海老は翡翠色の卵をたっぷりと抱えています。そこに、パプリカのマリネ、春にスタッフ総出で山に分け入って摘んできた春蘭の甘酢漬けを合わせ、やはり朝市で手に入れた大根のお漬け物をアクセントに忍ばせています。もうひとつ、味のポイントとなるのが、海藻のふりかけをたっぷりとからめた自家製バター。ふりかけもジンバサ、ワカメ、青ノリ、ノリ、ハバノリといった能登特産の海藻から作る自家製です。
これらを客自らが手でくるくると巻き、豪快にかぶりついていただきます。小松菜が練りこまれ、ほのかな苦味があるクレープの中からは、磯の香りと大地の香りが広がり、さまざまな食感とともに五味が重層的に押し寄せてきます。海山の幸一つひとつの風味がしっかりと感じられると同時に、それらが渾然一体となった立体的な味わいを堪能できる楽しい一品。くるみ、頬張ることで豊かな自然を体感できる、能登の恵みのクレープです。
朝市で仕入れたサバはごくあっさりと〆て、表面はこんがりと炙る。

料理が自然とシンプルなものに変わってきた。

料理が自然とシンプルなものに変わってきた。 能登はキノコの名産地。見るからに元気なキノコたちは、風味の強さも抜群。
2014年のオープンから丸5年。池端氏は料理が徐々に変わってきたと話します。
「初めは長年かけて修得したフランス料理の技法を駆使したいという気持ちが強かったですね。フォアグラもよく使いましたし、どうだ、これがフランス料理だと紹介したい、悪く言えば独りよがりになっていた面がありました。それが、能登の食材の持ち味を最大限に引き出す工夫を追求していくにつれて、料理が自然とシンプルなものに変わってきました。シンプルになると、仕込み段階の出来や火入れのタイミング、調味のわずかな加減などで仕上がりが大きく左右されます。そこが難しさであり、おもしろさでもあります。最近はフランス料理、西洋料理というジャンルにもこだわらなくなってきました。能登の優れた食材に開眼させられた部分は大きいと思います」
七面鳥のダシを使ったキノコのスープ。キノコの下には七面鳥の卵を使った茶碗蒸しが敷かれている。
キノコのスープは、そんな池端氏の言葉を体現する一品と言えます。寒暖の差が激しく、適度な湿気がある能登は良質なキノコの産地。この日は、ハタケシメジ、コノミタケ、イッポンシメジが集まりました。これらのキノコを七面鳥のダシでさっと煮込みます。七面鳥は輪島市の山間で一般的な飼育期間の倍以上である約1年半をかけて育てられた『阿岸の七面鳥』です。
茶碗蒸しに使った七面鳥の卵。その味わいは、鶏卵と比較にならないほどまろやか。
七面鳥とキノコから抽出された濃醇なうま味は、身体の隅々に染み渡っていくよう。みかんの皮でつけられた柑橘の香りを残して、心地よい余韻がいつまでも続きます。
さらに、キノコの下には、茶碗蒸しのサプライズが。卵はやはり七面鳥のもの。ひと匙ひと匙をしみじみと味わう取材班に、池端氏は「慈悲深い……ですかね? 僕は慈悲深い味だと思いました」と問いかけます。なるほど、“慈悲深い”とは言い得て妙。やさしさに包まれ、自分も自然とやさしくなれるような感覚が、そこにありました。

試行錯誤の末にたどり着いたシンプルイズベストの発明的ソース。

試行錯誤の末にたどり着いたシンプルイズベストの発明的ソース。 能登名物・ノドグロを楽しみにする人も多い。池端氏はノドグロ本来の上品なうま味を引き出す調理を心がけている。
今年、『ラトリエ ドゥ ノト』には新たなスペシャリテが誕生しました。輪島港に水揚げされるノドグロのグリルに椎茸のソースを合わせた極めてシンプルな料理です。使用する椎茸は、能登名産のブランド椎茸「のと115」。「115」とは全国で椎茸栽培に使われている種菌115号のことで、大きく肉厚な椎茸が育つことで人気が高まっています。先述のように、能登はキノコの生育に気候風土が非常に適していることから、この115を使った椎茸も特に大きく、そして風味よく育ちます。池端氏はこの「のと115」が大のお気に入り。丸ごとコンフィにして炭の香りをつけた料理も同店の名物となっています。
ノドグロのグリルには、テーブルの上でソースが注がれる。このシンプルな組み合わせが奥深い味わいを生み出す。
かねがね「のと115」のうま味を生かしたソースを作りたいと考えた池端氏は、試行錯誤を重ねました。さまざまな香味野菜をローストして使ったり、動物性脂肪と合わせたり、試作品は数知れないと言います。かくしてたどり着いたのが、最後に片口で注がれるこのソースです。
「実はこのソース、『のと 115』の干し椎茸の戻し汁に、いしるを加えただけ。これをノドグロに合わせた時には、我ながら“発明だ!”と興奮しましたね。今日は青茄子の焼き茄子を添えています。能登の海の幸と山の幸、保存食や発酵食の文化を盛り込むことができた、これまでの料理人人生で一番の会心作です」

皮目をパリリと焼いたノドグロをほっくりくずし、焼き茄子とソースを纏わせていただく……。脂がのったノドグロの上品なうま味と茄子の甘み、椎茸といしるによる澄んだコクが口いっぱいに広がります。能登の里山里海の魅力が、まるでパズルのようにカチッとはまった一皿。『ラトリエ ドゥ ノト』の新たな地平を開いた、記念碑的なスペシャリテです。
「おいしかったですか。よかったです」
控えめな言葉から、料理人としての矜持が静かに伝わってきました。

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L’Atelier de NOTO

石川県 輪島市河井町4-142 MAP

0768-23-4488

月曜日


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