ログイン / 会員登録するアカウントを選択

豪農の建てた古民家をわずか3室のホテルに改装。「禅」の思想を大切にしたミニマリズムを貫く空間で日本の家屋の「陰影」を味わう。[Zenagi/長野県木曽郡南木曽町] by ONESTORY

108
豪農の建てた古民家をわずか3室のホテルに改装。「禅」の思想を大切にしたミニマリズムを貫く空間で日本の家屋の「陰影」を味わう。[Zenagi/長野県木曽郡南木曽町]  by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から長野県木曽郡南木曽町の「Zenagi」を紹介します。
江戸時代後期から明治初期に建てられたという古民家を改装
長野県木曽郡南木曽町(なぎそまち)は、ほとんど岐阜との県境に位置する、奥深い山の中にあります。「日本で最も美しい村」連合にも認定されている、人口4000人あまりの小さな町です。南木曽には、中山道妻籠宿(つまごじゅく)という江戸時代の風情を色濃く残す古い宿場町もあります。じつはいまインバウンドの観光客が好んで訪れる穴場的存在になっています。伊勢神宮に納める木曽ヒノキの産地としても知られるこの町に、最高級ホテルが開業したのが、2019年の4月のこと。「Zenagi」と名付けられたホテルは、THE EXPEDITION HOTELという冠も戴いて、日本の田舎を探検するという意味が込められています。
エントランスをくぐると、大きなロビー空間が広がる
このホテルを開業した主は、地方創生を目指すと同時に、世界で最も古く、また過酷と呼ばれるアドベンチャーレースの「ドロミテマン」を完走し、オリンピックに参加した経験もあるアドベンチャー集団です。3食とアドベンチャー体験を含めたオールインクルーシブで¥120,000からという高価格帯にも関わらず、国内外からゲストが後を絶ちません。
剣持勇氏のソファ。テーブルの台は蚕棚を加工しガラスを嵌めたオリジナル
南木曽町田立(ただち)という、和紙の里でもある棚田の最上部に立つこのホテルは、部屋数はわずか3室。12名が宿泊人数の上限です。江戸時代後期から明治初期に建てられたという古民家を改装して開業しました。単なる古民家ではありません。材木取引などで大きな財を成した豪農が所有していた建物です。内部空間の梁を見るだけで、その贅を尽くした造りに圧倒されます。そこに、ガラス窓による明るい開口部を作り、木曽地方の木材や、漆器などの伝統工芸を取り入れたのが「Zenagi」です。オーナーの岡部統行(むねゆき)氏は、テレビドキュメンタリーの監督も務める、異色の経歴の持ち主です。開業までの山あり谷ありのプロセスと、このホテルの魅力について、存分に伺いました。

4つの“ZEN”でおもてなしをするのがホテルのコンセプト

4つの“ZEN”でおもてなしをするのがホテルのコンセプト メインエントランス脇にある枯山水の庭。季節や天候によって様々な表情を見せる
Zenagiには、4つの“ZEN”がかけられています。木曽の山と森と川からなる大自然の“然”、農家や漁師・猟師が大切に育てた恵みをいただくお膳の“膳”、ミニマリズムを極めた空間で静謐な時間を過ごしてもらうような、坐禅の“禅”、地方創生につなげる善行や、お客様を喜ばせる意味の“善”。こうした“ZEN”をNagisoにおいて完成させることを目指し、Zenagiと名付けられたそうです。宿泊・食事・アクティビティのすべてをトータルで提供するという、オール・インクルーシブなホテルは、日本にはここにしか存在しません。
ライトアップされたZenagiの全景。シルエットになっている山が伊勢山だ
ホテルは、特急が停車する最寄りの中央本線・南木曽駅から車で10分ほどの場所にありますが、そこに至る道筋には、案内板一つ掲げられていません。ホテルに到着しても、迎えてくれるのは建物のみで、それとわかる看板もありません。
オーナーの岡部統行氏は言います。
「あえて道案内になるものは表示していません。 ほとんどの外国人客はこちらから出迎えますし、日本人のお客様には迷ってもらいたいので(笑)。せっかく田舎に来るのですから、道中も楽しんでもらいたいのです」。
南木曽がインバウンドで人気になっていることは前述しましたが、木曽の山中の秘境に来た、と感じるお客さんは多くいます。
メインのエントランスへのアプローチ。ホテルには当たり前にあるはずの看板や案内板も存在しない
「ですが、訪れた方の9割が通り過ぎるだけなのです。妻籠の宿場町の中は新しい開発ができないので、 民宿は5軒くらいしかなくて、六畳一間、仕切りは襖、バストイレ共同でプライバシーない世界。 欧米のハイエンド客にとっては厳しい世界です。また、食事は、五平餅にそばに山菜料理という定番のみ。1食ならばそれでいいんですが、連泊にはとても耐えられません。観光資源に恵まれた場所であったとしても、いろいろな宿泊施設が充実していないと、町にお金が落ちません。その上、木曽の大自然を楽しめるような体験型のコンテンツがまるでなかったのです。それでホテルを作って滞在してもらい、価値のある食事を提供して、アドベンチャーを味わってもらおうというのが僕らのプロジェクトの始まりでした」と岡部氏。
夜のロビーは、全く違う表情を見せる。日本人の陰影への感性が反映されている
開業から半年あまり、岡部氏にお客様の印象に残る言葉を伺ってみた。
「たくさんあるのですが、『特別な宿ですね』とおっしゃる方が多いですね。アメリカの大会社を経営する社長夫妻が滞在されて、後日、奥さんがメールをくれました。『私たちは世界中のいい宿に泊まってきたけれど、Zenagiが一番良かった』というメッセージには感激しました。 特別な宿、他にない宿が、僕らが目指しているところですので。ここに泊まって、他にない特別なものを感じるということは、イコール木曽という土地を感じてもらっているということだと思うんです。食にしろ、家具一つにしろ、アウトドア体験も然りです。それが本当の意味での地方創生だと思っています。
ベッド脇のあかりにも、行き届きたもてなしを感じることができる
日本の文化は奥が深くて、東京や京都にないものが、地方にはまだまだたくさんあります。外国の方もそのことに気づき始めていて、その目が日本に向いている今がチャンスなのです。 禅やお茶については、日本人のほうが無知なことも多いですね。僕自身も木曽に来て、漆器ってこういう奥深いものなのだとか、日々新しい発見があります。日本人は、いまだに北欧の家具とかに弱くて、フランスのお皿は最高、などと思いがちですが、足元にあるいいものを見捨て過ぎているなという思いがあります」。

日本の文化、木曽の伝統が凝縮された木の空間に癒される

日本の文化、木曽の伝統が凝縮された木の空間に癒される 「松」の間から枯山水の庭を見る。雨天時ならではのしっとりとした表情に
棚田の間を抜けた高台にぐるりと巡らされた石垣。母屋の隣りには蔵が残っています。この建物は、江戸時代に材木取引で財をなした大宮家の持ち物で、ここ15年ほどは、住む人もなく放置されていた物件でした。オーナーは、譲りたくないものの、使い道もなく、どうするべきか思案していたそうです。
現代では到底採れないような材木の柱や梁が巡らされたロビー空間
そこに、長野県内でホテルにできる物件を探していた岡部氏がアプローチして、大きな改装をして出来上がったのが「Zenagi」です。
入り口の引き戸をまたぐと、パブリックスペースである大きなロビー空間が広がります。材木の里である木曽の歴史を物語るような、柱と梁に目を見張りました。右手にカウンターキッチン、左手には枯山水の庭があります。奥のスペースが客室のエントランスになっています。客室に入ると、大きな檜風呂と、洗面台がしつらえてあります。階段箪笥から2階に上がると、そこがリビングスペースとベッドルームに。それがこのホテルのあらましです。
屋根裏部屋に寝ているような感覚で置かれたベッドはシモンズ製
2階のスペースは、元々は、“お蚕場”だったそうです。その半分を客室にして、手前側は天井を抜いた解放的な空間を作りました。2階の梁を見上げると、囲炉裏の煙で長い年月をかけて燻されたことを感じさせる黒光りする天井が、なんとも言えない味になっています。
客室はわずかに3つ。「松の間」は妻籠を愛する会の理事である松瀬さんから、「宮の間」は建物のオーナーである大宮さんから、そして「紀の間」は、物心ともに応援いただいた増田紀雄さんから、それぞれ一字をいただいたものだそうです。地方創生は、地域の人に受け入れられ、地域の人たちと一体になって推し進めるべきだという、岡部氏らの思いがここに反映されているのです。

木曽の職人の手による、オリジナルの家具を愛でる

木曽の職人の手による、オリジナルの家具を愛でる 木曽といえばヒノキ。このお風呂に浸かるだけで、この宿に泊まる価値がある
部屋に入ると、ヒノキのなんとも言えない馥郁とした香りが漂ってきます。それぞれの部屋には、大きさとデザインの異なるヒノキ風呂が備え付けられています。JR東日本の豪華リゾート列車「TRAIN SUITE四季島」に備え付けられているヒノキ風呂を作った南木曽の職人による入魂の浴槽です。その湯に浸かりながら、浴室の大きなガラス張りの窓を通して裏庭を見上げると、地域の人から愛される伊勢山が浮かびます。
階段箪笥を上がればベッドルームにたどり着くメゾネットのしつらえ
「伊勢山は、織田信長が伊勢神宮に奉納するヒノキを切り出した山だと言われています。15世紀の昔から、木曽のヒノキはそれだけ貴重な材木だということです」と岡部氏。
ヒノキ風呂だけではありません。ロビースペースから、客室に至るまで、ふんだんに地元・木曽の職人の手によるプロダクトが置かれています。ソファや、椅子、そしてゴミ箱や照明に至るまで、「禅の思想」にインスパイアされた世界観で統一されています。
元々使われていた箪笥をリメイクし、木製ティッシュケースと調和させた
また、壁紙は和紙ですが、わざわざ鉄や銅で媒染したもの。これも、鉱山や銅山があったという木曽の歴史を語り継ぐため。ロビーの床も漆塗りです。前例がないことだけに、説得するのが大変だったそうですが、岡部氏らの情熱を理解してくれた一人の職人が、時間をかけて塗ったそう。
ミニマルを極めたような洗面台。木材と石材の調和がここにある
岡部氏は、学生時代にはバックパッカーとして世界中を旅していました。また、テレビドキュメンタリーの監督として忙しく働きながら、暇をみては、高級リゾートホテルとして知られるアマンを泊まり歩いたという、“アマンジャンキー”でもあります。さらには、アマンの最初のオーナーであるエイドリアン・ゼッカに大きな影響を与えたとされる、ジェフリー・バワというスリランカの建築家も大好きだという岡部氏。
坪庭の横に置かれた椅子も、夜のライトアップで違う表情を見せる
岡部氏は、学生時代にはバックパッカーとして世界中を旅していました。また、テレビドキュメンタリーの監督として忙しく働きながら、暇をみては、高級リゾートホテルとして知られるアマンを泊まり歩いたという、“アマンジャンキー”でもあります。さらには、アマンの最初のオーナーであるエイドリアン・ゼッカに大きな影響を与えたとされる、ジェフリー・バワというスリランカの建築家も大好きだという岡部氏。
繭玉をモチーフにした間接照明も空間演出の一つになっている
世界中の良いものを訪ね歩き、その背景を理解しながら、「木曽でしか作れないものを基本に、日本の職人の技で勝負した」(岡部氏)。だからこそ、このホテルの空間は日本の文化を強く感じさせながら、インターナショナルな雰囲気をも持っているのでしょう。そうして、「Zenagi」という唯一無二の世界観が生まれたのです。

THE EXPEDITION HOTEL Zenagi(ザエクスペディションホテルゼナギ)

長野県 木曽郡南木曽町田立222 MAP


※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。

「エリア/ジャンル」の関連投稿写真