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己の料理の在り方を突き詰めたどりついた、 「クラウドするレストラン」。[アコルドゥ/奈良県奈良市]by ONESTORY

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己の料理の在り方を突き詰めたどりついた、 「クラウドするレストラン」。[アコルドゥ/奈良県奈良市]by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から奈良県奈良市の「アコルドゥ」を紹介します。
「『アコルドゥ』とは単に場所や店の名前でなくその概念、世界観の総称です。その入口であり、出口である『アコルドゥ』は、どこからでもその世界に思いを馳せることができます」。店のホームページを開くと、オーナーシェフ川島 宙(ひろし)氏のメッセージとしてそう書かれています。正直、それだけでは取材班の「?」は拭えません。

「『アコルドゥ』はクラウドのように、いつでも、どこにいても取り出すことができる存在なんです」。取材中、川島氏から出てきたそんな言葉にも我々は疑問を禁じ得ませんでした。しかし、店へと足を運び、生産者を訪ね、厨房を覗き、料理を目の当たりにして味わうと、その言葉の真意がしだいにわかってきたのです。
肉を藁で炙るだけでなく、スープにも藁を浸し、ほのかに香り付け。シェフのメッセージを込めた
『アコルドゥ』とは、いわばこの店の料理を食べることで得られる、シェフの川島氏が思い浮かべるイメージという共有物。そこで得られた共有物は、いつでもどこでも記憶の中から引っ張り出せるのです。
 
2014年3月、建物の老朽化で一旦は閉店。2016年12月に東大寺の旧境内という厳粛たる地に再オープンを果たした新生『アコルドゥ』。シェフ・川島氏が語る「クラウド」とは? そして、彼が考える料理の概念とは? 古都奈良が誇る名店を取材してきました。

自叙伝としてとらえる料理に川島氏のイメージが宿る

自叙伝としてとらえる料理に川島氏のイメージが宿る 営業中、キッチンで火入れするものは最小限に。その分仕込みに時間をたっぷりと割く
川島氏の料理を語るうえでいくつか大切になる要素があります。そのひとつが生産者の想いが詰まった素材であり、ふたつ目はが旨みに頼りすぎず、旨みを重ねすぎないこと。そして、3つ目がしばしば川島氏が使う言葉として登場する、自叙伝ともいうべき料理であるということです。

それを端的に説明すれば、「自分たちが暮らしている環境があり、そこで自分が日々感じえるイメージをいかに皿に投影するかということ」だと川島氏はいいます。それは生産者の生き様だったり、収穫を控えた田んぼで感じる匂いや色だったり、はたまた奈良に息づく歴史だったり……、料理人としてでなく、ひとりの人間としての川島氏が感じ得るものはまさに無限大。そのことは川島氏が『ムガリッツ』での修業で吸収してきたことでもあり、スペインへ渡る前に自問自答を繰り返した「自分の料理か」に対する答えだったのです。
大和肉鶏のもも肉を低温火入れ。皮目はカリッと焼き上げた。ビーツのジュースを使ったソースが鮮血を思わせる
そして、その皿に投影したイメージこそが、『アコルドゥ』という概念を大きく形づくるものでもあります。つまり、味や香り、食感だけでなく、料理を食べることで広がる『アコルドゥ』の世界観。食べることで一度取り込んだイメージは、いつでも、どこからでも自らの記憶の中から引っ張りだすことができる。それが川島氏のいうクラウドだったのです。

鶏舎の雰囲気をも見事にイメージさせる大和肉鶏のひと皿

鶏舎の雰囲気をも見事にイメージさせる大和肉鶏のひと皿 大和牛のウチモモ肉を使ったひと皿。護摩木でいぶして、さらに桜の木でスモークし香りを重ねた
この日出された料理に大和肉鷄が登場しました。一見、ビビッドなビーツのソースの美しさだけが際立つひと皿ですが、同時にその佇まいからはどこか尊さも放たれています。聞けば、ビーツのソースは大和肉鶏の血をイメージしたのだそう。
「以前、中家さんの鶏舎で、鶏をしめる現場に立ち会わせてもらったことがあったんです。それがすごく強い印象に残っていた」。尊さを感じさせたのは、まさにその部分だったのでしょう。

あるいは大和肉鶏の背肝やせせり、脂などを浮かべたコンソメのスープに浮かべた一品もそうでした。コンソメには大和肉鶏の脂でわずかなアクセントを加え、スプーンにすくって口に運べば、鼻腔をくすぐる香り。「あれ、この香りとこかで」と首をかしげれば、川島氏はニヤリと笑います。
「中家さんが、『いつか自家栽培の米で鶏を育てたい』っていっていたでしょう。なので、肉は稲藁で炙って香りづけしました。それと同時に鶏舎の香りや雰囲気も出しています」
大和肉鶏の背肝とせせり、脂を藁で炙り香り付けしたひと皿。鶏舎の雰囲気を連想させた
さり気なく飾られた小さな花は鶏舎の脇の草むらに可憐に咲いていた花を川島氏が摘んできたものでした。

しかし、普段はこのようにゲストに説明することも多くはありません。「聞かれればお話しますが、答えを先に言うよりも、感じ取ってほしいんです。聞いて頭に入ることと、直感的に頭に浮かぶものでは違いますからね」

『アコルドゥ』の真骨頂を思い知らされた、雨上がりの若草山

『アコルドゥ』の真骨頂を思い知らされた、雨上がりの若草山 『三輪山本』の海藻麺を使ったパスタ。曇ったガラスの表面が雨上がりの若草山にもリンクする
そして、この日に供されたパスタは、まさしく直感的に訴えかけてくるものでした。というのも、この日は生憎の空模様。午前中までは雨が降り、古都奈良をしめやかな雰囲気に包み込んでいました。そのパスタを目の前にして、取材班は川島氏がはじめて店へ案内してくれた時の言葉を思い出すのです。

「向こうに見えるのが有名な若草山。晴れたときはもちろん、雨上がりの若草山は一段と美しいんです」
奈良県庁の屋上にある展望台から眺めた若草山。『アコルドゥ』は目と鼻の先にある
ハッとしたイメージが膨らんだ瞬間でした。そう、そのパスタから感じられたのは、雨上がりの湿っぽさの残る緑。そして、くるりと巻き上げられて盛られたパスタは、まさに山だったのです。フェンネルとその花であしらって山肌をイメージしつつも、緑の爽やかさを与え、フェンネルのグラニテで苔むした雰囲気を演出しています。パスタには、三輪山本という地元の企業が作る、伊勢湾産あおさと昆布を練り込んだ海藻麺を使用し、ネットリと絡むのは鮑の肝で作ったソース。そして、見た目だけでなく、これが味わってみるとそのイメージはより膨らむばかり。グラニテの爽快感と肝のソースのまったりとした味わい、あおさやフェンネルの香りが絶妙に溶け合い、店の裏手に佇む若草山の絵が、匂いがイメージとなって浮かんでくるのです。

小さなグラスの器のなかに描かれた雨上がりの若草山。その逸品が『アコルドゥ』の真骨頂を取材班に知らしめた気がします。そう、川島氏が『ムガリッツ』のスペシャリテ「ベルドゥーラス」で答えを見つけ出したときのように。

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