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よりボーダーレスに、より自由に。日本にとらわれない新しい沖縄料理のあり方。[Restaurant État d'esprit/沖縄県宮古島市] by ONESTORY

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よりボーダーレスに、より自由に。日本にとらわれない新しい沖縄料理のあり方。[Restaurant État d'esprit/沖縄県宮古島市] by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から沖縄県宮古島市の「Restaurant État d'esprit」を紹介します。

フレンチからの完全なる脱却。郷土への思いがつのる沖縄料理

フレンチからの完全なる脱却。郷土への思いがつのる沖縄料理 絶滅の危機に瀕している野生のマングローブ蟹。吉浜 祟浩氏は、入り江の保全のためにもマングローブ蟹を養殖しているという
「フレンチということを意識しなくなった。というか、もうフレンチと謳いたくないんです。新しい沖縄料理というものをつくっていきたい」

進化の途中。2月に取材した『Restaurant État d'esprit』はまさにそうしたレストランでした。沖縄の食材を使ったフレンチから、フレンチという概念を取っ払った、「進化する沖縄料理」へ。まさに料理、プレゼンテーションからもそうした想いがひしひしと伝わってきます。
たとえば、コースの幕開けの「オトーリ」。これは、酒宴の席で人々が車座になって泡盛を回し飲む、宮古島に古くから伝わる風習であるオトーリをオマージュ。イラブー(ウミヘビ)、カツオ、豚足、酒粕で仕立てたスープを、カラカラという伝統的な酒器に入れていただきます。
沖縄を代表する魚、イラブチャーはブダイの総称。写真は宮古島ではゲンナーと呼ばれるナンヨウブダイ
「宮古島に欠かせない食文化の象徴としてイラブーは必ず表現したかった」という言葉からも、沖縄料理に対する渡真利氏の想いが伝わってきます。
あるいは、沖縄を代表する魚、イラブチャー(アオブダイ)zzを使ったひと皿。刺し身で食べることが多く、火入れに向いていないイラブチャーは、皮目と身を切り離し、別々に火入れすることで、その弱点を克服。そのうえでソースにはイカ墨とケールのピューレを使い、イラブチャーの漁が行われる夜の海をイメージしていました。『孔雀』と名づけられた、沖縄そばのようなひと皿は、孔雀の肉や骨から出汁を取ったスープに宮古島の素麺を浮かべたもの。かつてペット用に宮古島へ持ち込まれたものが台風の影響で小屋から逃げ出し野生化、それが今では駆除対象の害鳥になった孔雀。そんな命を無駄にはしたくないと、渡真利氏が考案した料理でもあります。

単に沖縄の食材を使うだけでなく、その新たな可能性を見出し、さらにはそこから見える文化のあり方を知ってもらい、ときには沖縄の問題も提起する。これこそがフレンチから脱却し、渡真利氏が見出した“新しい沖縄料理”のあり方でした。フレンチに縛られることなく、沖縄のいまを切り取った結果でもあります。しかし、ここから10ヶ月で渡真利氏はさらなる進化を遂げることになるのです。

フィリピン料理からの派生、未来の創造。進化する沖縄料理の概念

フィリピン料理からの派生、未来の創造。進化する沖縄料理の概念 酔っ払いマングローブ蟹を豆腐ように漬けた「スンビューガニ」。100年後、沖縄料理の定番になれるよう美味しさを目指した一品
1度目に訪れた10ヶ月後、『Restaurant État d'esprit』はさらなる深化を果たした料理で我々を迎えてくれました。
コースの口火を切る、定番でもある「オトーリ」は、1度目の取材にも出てきた品。料理自体の内容は変わることはありませんが、そのプレゼンテーションは『Restaurant État d'esprit』という店を知るに重要なスタイルへとアップグレードされていました。スモークのなかからウミヘビの燻製が登場する一幕は、ゲストの心を掴むには十分すぎるインパクトです。
「オトーリ」が現在の沖縄を表現した一品だとすれば、5品目に登場した「スンビューカニ」は未来を見据えた料理としてユニークな一面も。
スンビューとは、地元の言葉で「泥酔」を意味する、つまりは酔っ払い蟹のこと。泡盛に漬け込んだマングローブ蟹を豆腐ようのつけ汁を使って味付けしています。
「ハトダス」。フィリピンのソウルフード「アディダス」から着想。新しい『Restaurant État d'esprit』の一面が
「この料理に限った話ではないですが、100年後にも残るような沖縄料理をつくりたいんです。たとえば、大昔にラフテーを考え出した人がいますよね。完成したときは美味しすぎてめちゃくちゃテンション上がったと思うんです。そういう料理が現代にあったら面白いじゃないですか」と渡真利氏。「スンビューカニ」も最初は泡盛と島らっきょう、島にんにくに漬け込んでいたそうですが、仕込み中にたまたま豆腐ようが目に留まり、それを漬けてみたところその味に「これ、最高に美味しいじゃん!」と興奮したそう。それはまさにラフテーを作り上げた先人のテンションにも似た感覚だったことでしょう。
山羊料理の一つ「山羊の炭焼き」。シンプルながら絶妙な火入れで山羊の旨さを実感できる
7品目は題して「ハトダス」。この料理を考案したのが、フィリピン帰りの宮内耕平氏です。実はこの「ハトダス」は、鳥の足を串焼きにした「アディダス」というフィリピンのソウルフードからインスピレーションを受けた一品。醤油と酢、赤唐辛子でマリネした肉に小麦粉を軽く振って揚げていますが、鶏肉のかわりに宮古島産の鳩肉を使用しているのだそうです。

「現代にも琉球王朝があったと仮定すると、もっともっとアジアからいろんな文化が沖縄には入ってきたはずなんです。であれば、沖縄料理はもっと違う形に進化していたでしょうし、そう考えたときに彼のアイデアから生まれる料理は必ず出したいと思っていました」と渡真利氏は続けます。
「シュクサイ ヌ ピンザ」。中には冷めないように熱した石が入っており、熱々のままいただける仕組みに
「シュクサイ ヌ ピンザ」は、いわゆるヤギ料理。いまでも祝事があるとヤギを潰して皆で食べる習慣がある宮古島ならではの一品は、アニスやシナモン、クローブ、チリ、グースなどを加えたスパイシーな鍋仕立てに。脇にはウチバーやディル、コリアンダー、ベゴニアなどの香草を束ねたブーケガルニ風が添えられ、鍋に加えながら食べるといいます。これが実に痛快。美味しく味わい、楽しみながらも沖縄の食文化にふれるきっかけになってくれます。

宮古島にしかない唯一無二のレストランへ……

宮古島にしかない唯一無二のレストランへ…… 身と皮を別々に火入れした「ゲンナー」。イカ墨を使ったソースでゲンナー漁が行われる夜の海をイメージ
コース全体を通して言えるのは、“新しい沖縄料理”の可能性をさらに感じられたこと。そして、沖縄料理を日本という枠だけで考えるのではなく、過去を掘り起こし、現在を追求し、未来を創造し、さまざまなアプローチで“新しい沖縄料理”を築き上げたこと。
1度目の取材でも『Restaurant État d'esprit』の料理は、新しい境地を見出していました。その一方で、いま考えると料理としてというより“ゲストを楽しませる”ための完成度は足りていなかったのかもしれません。誤解を恐れずに言えば、それは渡真利氏のエゴイスティックな料理だったのでしょう。宮古島の食文化に触れてほしい、食材・環境問題を知ってほしい。そんな強い思いがあったからこそ、料理やプレゼンテーションそのものが難しくなりがちになっていたのです。
しかし、渡真利氏は自分でもきっとそのことに気づいていたに違いありません。それはガガン・アナンド氏という料理人に出会い、ゲストをもてなす意味を知ったから。だからこそ、渡真利氏は「ぜひもう一度取材にきてほしいんです」とわれわれに直訴したのではないでしょうか。
ゲストをいかにして楽しませるか。そのうえで、自分の想いをひと皿ひと皿にしっかりとのせる。
味わって美味しく、過ごして楽しく、ここでしか体験できない料理と時間。それはONESTORYが全国のレストランを取材する際にひとつの指針としている、「そのレストランへ行くことが旅の目的になる店」であることに通ずるものです。
『Restaurant État d'esprit』は、まさに宮古島にしかない唯一無二のレストランとなってわれわれを出迎えてくれたのです。
「2020-2120」と題された封筒。次なる100年を見据えて、渡真利氏の料理にはそんな思いがしっかりと込められている
最後に、渡真利氏に今後のやりたいことについて聞いてみました。すると、渡真利氏はからは驚きの答えが……。
「移転して新しいレストランをつくりたいですね。もっと、ジャングルのような店にしたい(笑)。料理も常に新しいものを考えているし、いまが正解だなんて思ったこともありません」。

このタイミングで『Restaurant État d'esprit』の記事公開に踏み切った理由。それは公開がさらに遅れれば、おそらく宮古島へもう一度足を運ぶことになるかもしれないから。もし、公開があと3カ月遅れていたとしたら、おそらく渡真利氏はわれわれにこう言ったに違いありません。
「やっていること全然変わっているんで、ぜひもう一度取材にきてほしいんです」
これこそが渡真利泰洋という料理人、『Restaurant État d'esprit』というレストランの魅力なのです。

Restaurant État d'esprit(レストラン エタデスプリ)

沖縄県 宮古島市伊良部字池間添1195-1 MAP

0980-78-6000

18:00〜22:00

不定休


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