御茶ノ水から神保町に向かう坂道を下って行くと、ハンバーグ専門店の脇にある階段を登った先にある珈琲店である。 店内に入ると目に付くのはカウンターの奥の棚にずらりと並んだ名釜のカップの数々。 コーヒーの注文を済ませると、好きなカップを選んでください。と言われたから、一つ一つじっくりと眺めながら、これで飲んだら美味そうだなぁと思ったのを探して、カップと目が合ったのは、この金彩が施された美しいカップだった。 その美しさよりも気になったのが、まるで朝顔の花のように広く広がったカップの形状だった。 あぁ、このカップで飲んだら、さぞかしうまかろう！ そう思い、赤と青の二種ある方の片方を選び、そのカップでコーヒーをいただいたが、なんというか、飲み口がピタリと唇に貼り付くようで、なんとも飲みやすく、ただでさえうまいコーヒーがさらにうまかった。 飲み終わってからカップをひっくり返して見たら、双剣の模様があった。マイセンである。 後から聞いてみたら、このカップがこの店で一番高いカップなのだと言われた。 という事は私にはカップを選ぶ目利きの才能があったという事だろうか？ 家に着いてからあまりの飲み口の良さに欲しくなって、調べてみて、二度、私は仰天した。 そのとても通常使いなんて出来ない程の高価なカップの値段と、そんな高価なカップを平然と客に出せるという事に。 とても購入するのは不可能だ。 購入するよりも、店に通い詰めて、毎回このカップでコーヒーを飲むほうがはるかに安上がりだ。 そう思い、東京に行って神田に寄る度にここでコーヒーを飲んでいる。 ちなみに、他所の店でこのカップを見かけた事は一度だけあったが、カップを選んでください。などと言われた事はない。 そりゃあそうだ、一見の客にこんな高価なカップを選ばれて、なにかあったら大変だものなぁ。 それを考えると古瀬戸は本当に凄い店である。