ヒーローを巡る旅
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土日も仕事がある職場のため、通常より1日遅れた昨日、年度最後の勤めを終えた。そして新年度も通常より1日遅い4月2日から始まる。この1年無事に働けたご褒美と来年度もまた大過なく勤められることを祈って、松本に日帰り旅行することにした。
松本に着くと快晴で、コートを羽織っていると暑いくらいだ。バスターミナルから今回の旅のお目当てである、松本民芸館へ向かった。なまこ壁に覆われた蔵造りの建物で、門の車止めにも小さなお花があしらわれていて展示品を見る前から高い美意識を感じる。駒場にある日本民藝館のように瓶や籠などの展示された1階を見て、2階に上がった。こちらには創設者の丸山太郎氏の作品が多数展示されており、玉虫色の光を放つ螺鈿細工が美しいと感じた。奥に進むと、松本民芸館や丸山氏を特集したテレビ番組が流れている。伊藤まさこさんの「松本十二か月」という本でも丸山氏について触れられており興味があったので、「触りだけでも」と軽い気持ちで見ることにした。丸山氏は元々地元の商家の生まれだが、上京した折に日本民藝館を訪れ、民藝の美に魅了され、民藝運動に参加され、自ら蒐集し創作も行ったそうだ。「美しいものは直感で見てください」という館内にも掲げられた理念が素晴らしく、結局最後まで番組を見てしまった。改めてじっくり展示を見直し、美を感じたいと、元来た展示室に戻ったりもした。国内外の各地の民藝を蒐集し展示しているのは、日本民藝館など他の民芸館と同様だが、ここならではの目玉は、丸山氏自らの作品だと思う。卵の殻を細かく砕いて貼り付けた卵殻細工に、絵手紙のように温もりのある版画や絵画作品、文章をしたためた際の味のある文字。細部にまで丸山氏の美意識とこだわりが感じられ、季節にふさわしい設えなどもあり、居心地がよい空間だ。
予定より長居してしまったが、次は迷うことなく丸山氏が経営していた、ちきりや工芸店に向かった。なまこ壁の土蔵が軒を連ねる中町通りの辺りにあるようだが、Googleマップを見ても迷ってしまう。途中で女鳥羽そばという、民芸館で丸山氏の手がけた包装紙が飾ってあった店に出くわした。昼時だがすぐに席に着けそうで、丸山氏のご縁もあり、入ることにした。三重(みかさね)そばという、3段で3つの味が楽しめるものがおすすめのようだが、季節限定の信州産蕗のとうと菜の花の天ぷらが食べたく、合わせてざるそばを注文した。「まず揚げたての天ぷらから」と、蕗のとうを口に入れると、苦味とえぐみが口に広がり、春を実感した。おそばもピカピカ光ってきれいだ。道に迷った怪我の巧妙でいい店が見つかり、かえって得をした気分になった。
結局、ちきりや工芸店は中町通りにあることがわかり、食後向かうと店には多くの観光客がいて混んでいる。少し波が引いてからハンティング開始だ。砥部焼がたくさんあり、かわいいと思ったティーカップとソーサーも砥部のものだが、一応一昨年愛媛県を旅行した際に砥部まで足を運んだので、ここで砥部焼に手を出すのは負けな気がする。あれこれ頭の中で算盤勘定しながら、何周か店内を回り、益子焼の白い無地の小皿に落ち着いた。和菓子やケーキを載せるのにちょうどよく、何の器にでも合うのが決め手だ。
再び中町通りを歩くと、ぴあのという、これまた丸山氏が手がけた包装紙が展示されていたおもちゃ屋があった。丸山氏つながりで冷やかし半分で戸を開けると、80代くらいのおばあさまがひとりで切り盛りされているようだ。まず、土足厳禁でスリッパに履き替える必要があり、商品には触らないでとの表示があり、戸をピッチリ閉めるよう言われ、「敷居が高い店なのか?」と不安になる。しかし、民芸館に行ってから来たと話すと嬉しそうにされ、少しハードルが下がった気がした。シュタイフのぬいぐるみやクリスマスのオーナメントなど、西洋のおもちゃが並び、商品に触ってはいけないのでじっくりとは選べないが、しまうまの小さなマスコットに目が留まった。値段も手頃なので購入することにすると、紙袋とは別に丸山氏が手がけた包装紙を折り目がつかないよう筒状に丸めて付けてくださり、かわいい絵ハガキもおまけしてくれた。気難しい店なのかと身構えていたが、サービスがよく、包装紙は記念に額装して飾ろうと思った。
予期せず民芸館で知った丸山太郎氏を巡る旅となったが、民芸館のコレクションと土地建物を市に寄贈したり、松本においては英雄であると思うので、なによりの名所巡りとなった。