徳島・神秘の地、神山で不思議を求めて里歩き
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徳島・神秘の地、神山で不思議を求めて里歩き

連載「暮らしと、旅と...」今月は、徳島県名西郡にある神山町へ旅をします。 ITベンチャー企業のサテライトオフィスの移転や世界中からのアーティストが作品を作るために一定の期間滞在するアーティスト・イン・レジデンス、さらには求職者支援訓練を行う神山塾によりクリエイティブ人材の移住者が相次ぎ、2011年には転入者が転出者よりも上回ったという「創造的過疎の町」。一度足を踏み入れたら神山が好きになってまた戻ってくる人が続出するという不思議な魅力を放つ神山町は、実は、神秘の地、パワースポットでもありました。今回はそんな神山を歩いてめぐるべく、町内にある「粟カフェ」オーナーの中山竜二さんにガイドをお願いしてみました。

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大正ロマンの可愛らしい駅のような外観が印象的な「粟カフェ」は、神山の中心地、上角(うえつの)という地区の入り口にありました。ここは神山の情報収集の拠点である「道の駅 温泉の里神山」以外に、リアルな観光情報の集まるところです。 実は、1300年前に稗田阿礼によって編纂された日本最古の書物といわれている古事記をひもとくと阿波が浮かび上がってくるという説があります。徳島を舞台に古事記が書かれていると仮定して読んでみるとさまざな地名と物語の内容が符合する点が多く、中山さんはそんな阿波古事記に惹かれて、研究会に参加しています。 「うちのお店の名前につく“あわ”は阿波でもありますが、穀物の”粟”でもあるんです。ほら、この地図を見てください。真ん中に大粟(おおあわ)神社ってあるでしょう?」中山さんが指したところに”上一宮大粟神社”とありました。実は、ここに祀られているご祭神、オオゲツヒメが阿波古事記において重要な役割を担っています。

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中山さんが主宰する「だいすき神山!」が制作したまち歩きマップを広げ、ルートをチェック。万が一歩けなくなった場合の町営バス路線図とバス時刻表のQRコードを読み込んでおき、そしてiPhoneアプリ「神山のガイドさん」をその場でダウンロードしました。この地図はイラストマップなので集落の様子が地形を含めてよくわかります。神山はバス通りであれば挙手をすればバスが止まってくれるので、歩き疲れたタイミングで次のバスとタイミングよく遭遇できたらラッキーです。 私たちは粟カフェを出発してナチュラル系雑貨店の「楽音楽日」をのぞきながら郵便局の角を左に折れ、パワースポットとの誉れ高き上一宮大粟神社を参拝するルートを選びました。さあ、出発です。

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古い鳥居や趣のある神門をくぐると、先の参道は道らしき道はありません。滑らないようにはあはあと息を切らしながら上がって行くと、苔むした階段を上がった先に上一宮大粟神社が見えてきました。鬱蒼とした森に囲まれた社殿に一筋の光が射すさまは、まさに神域のごとく荘厳なムードが漂います。 「オオゲツヒメは、イザナキとイザナミの二神から生み出された阿波の国の穀霊で、穀物や養蚕の起源となっている神様です。その神様が鎮座しているのがここ、上一宮大粟神社なんです。古事記を阿波を舞台とするならば、いわば神山一帯が高天原になります。その中心に位置するのがこの神社。ということは、ここは高天原の中心ということになりますね」。 高天原というと、天の上の国。アマテラスオオミカミをはじめ、多くの神様が住んでいるところであります。確かに、1000m級の山々に囲まれているのもあり、ここでは現世と隔絶した世界として生きていられそうな気もします。中山さんいわく、人間の暮らしに必要な食物を司るオオゲツヒメの国である阿波の国こそが邪馬台国ではないかという説もあり、謎に包まれた古代国家の在処を神山と仮定して紐解こうとする研究者も多く神山を訪れるのだとか。確かに、”関西圏の食糧庫”として長く関西の台所を支えてきた徳島県だけに五穀の神様が祀られているのもさもありなんといったところです。 地図を広げてみると、神山はちょうど徳島県の中心部に位置する山間の地域で、邪馬台国の女王卑弥呼の伝承が残る「悲願寺」、天の岩戸ではとまことしやかにささやかれている「立岩神社」、四国八十八カ所一の難所といわれる「遍路ころがし」や「雨乞いの滝」、「神通滝」、「天の真名井」など神秘的な場所が点在しており、壮大な古代のロマンを検証していくのに興味は尽きません。 参拝を済ませ、背後にある大粟山をしばらく歩いていくと、携帯電話が鳴りました。見てみると先ほどダウンロードしたアプリ「神山のガイドさん」が起動していました。このアプリは神山町を散策する際にあちこちの名所やアートのある場所で写真づきでガイドをしてくれるスグレモノで、ITサテライトオフィスで話題の神山らしいガイドアプリです。画面を見てみると......

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携帯画面に表示された「隠された図書館」というミステリアスな題名。その先に木立にひっそりと建つ小さな小屋を発見しました。フムフム、ここに入る条件は「鍵を持って訪れること」「鍵が開いているときに訪れること」と書かれています。本を寄贈した町民のみが鍵を所有することができ、その機会は卒業、結婚、退職をした際の3回のみです。寄贈された本のみが所蔵されており、まだその数は少ないとのこと。中山さんは鍵を持つ稀少なひとり。今回、特別に開けてもらいました。 周囲の森になじむような無垢の木を生かしたインテリア。ベルリン在住のアーティスト、出月秀明さんが2012年神山アーティスト・イン・レジデンスの招聘で神山に約5ヶ月間滞在して地元の大工と一緒に作ったアート作品で、その存在意義は町民同士の大切な想い出を共有し、思い出すためのもの。運良く鍵が開いていて中に入れた旅行者はラッキー。ただし、ドアノブにひとりで本を読んでいる絵が描かれた木のプレートが下がっていたら後から来た人は入ってはいけません。ふたり以上が本を読んでいる絵が描かれていたら、入室オッケー。ソファに座り、木立から差し込むやわらかな光を感じながら一息。俗世から離れ、おとぎの国にいるような気分になります。もう、下界に帰りたくなくなるような居心地の良さにこれもまた、パワースポットのなせる仕業なのかと思ってしまうのでありました。

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「神山に来たら、この景色を見なきゃ!」と次に中山さんが向かったのは、大久保棚田。車一台入れるような狭い入り口を抜けたらそこには......里山の初冬の姿が広がっていました。 「11月後半だったら、樹齢500年の乳いちょうが見事だったんだけどなあ。でも、棚田の景色もいいでしょう? うちのカフェはここで採れたお米を使っていますよ」。 粟カフェの人気メニュー、古代米入り玄米カレー(700円+サラダ80円)のお米は、大久保の棚田の米をベースに対面式でしか販売しないという農家の赤米と黒米をブレンドしたもの。パンチのあるカレーにあわせるといくらでも食べられそう。徳島ならではのボリューム満点の量でも、最後までぺろりと平らげてしまいました。 地元のみなさんに粟カフェに行くなら絶対に食べて、とお勧めされたジェラートはデザートに外せません。えごまやすだち、ブルーベーリーなど地元の食材を使って作るアネラ・ジェラートファクトリーのジェラート(3種 450円 ランチと一緒の場合は400円)は日々、季節にあわせて採れる食材が変わっていくので、品物も変わっていき、地元の人たちは食べに行くのが楽しみなのだとか。気になる味のほうは、しっかりと果実味があり、特に中山さんおすすめのえごまジェラートはプチプチの種がこれでもかというほど贅沢に入っていて、今時期の人気商品なのも納得。珍しいところでは神山で育つポポーなるトロピカルフルーツのジェラートもありました。 2010年に高松から神山に引っ越してきて1年後に粟カフェをオープンさせた中山さん。カフェのほか、地域の人たちと恊働して特産の梅の加工品開発を行い、2014年徳島チャレンジメッセではその活動が表彰されました。そんな中山さんのもうひとつの顔が、神山古事記研究会の会長。地域の史実に基づいた、古代のロマンを研究しています。 「美しい里山を眺めるだけでも十分に神山を楽しめるのですが、実は地名と伝承を関連づけると不思議な一致があるので、その面白さを、ぜひ歩いて感じてほしいですね。実は、来年は物知りの地元のおじさんたちに地域ガイドをしてもらうシステムを作ろうとしているんです」。 中山さんは、自然が豊かでおばちゃんが元気なところは全国にはいっぱいあるけど、歴史が育んだ文化が残っていてそれを伝えることのできるおじちゃんがイキイキと日々を過ごしているのは神山ならでは、といいます。 ほうぼうから人が集まるだけでなく、昔からあるものを輝かせ続けられる土地。もし、それを可能にするのに土地に備わっている力も関係するのであれば、神山はやはり”真”のパワースポットなのかもしれない......と、仮説を立てて地図を広げてみると実際に行ってみたい場所がそこかしこに。こういう気持ちになったところから神山通いが始まっていくのでしょうか。今月はどうやら神山でいろんな角度からパワースポットを見つけ、検証していく旅をすることになりそうです。

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