14
2019.07.19
イタリア生まれの豪華な舞台芸術、オペラの魅力に迫る。指揮者・大野和士さんインタビュー
新国立劇場などのオペラ専門の施設ができて、近年は日本でも観やすくなったオペラ。この夏から一大プロジェクト「オペラ夏の祭典2019 -20 Japan ↔Tokyo ↔World」が始まり、日本でもさらなる盛り上がりが期待されます。今回はこの公演の総合プロデュースと指揮を手掛ける大野和士さんに、オペラの魅力についてお話しいただきました。 オペラを通して、洋の東西を超越した愛のドラマと圧倒的な声の魅力に酔いしれてみませんか。
プロフィール
大野 和士(おおのかずし)/東京生まれ。1987年「トスカニーニ国際指揮者コンクール」優勝。以来、世界各地でオペラやコンサートを指揮し、多くの歌劇場や交響楽団の音楽監督などを歴任。現在、東京都交響楽団、バルセロナ交響楽団音楽監督。新国立劇場オペラ芸術監督。
歌手の肉声とオーケストラの重なり合う〝音〟が醍醐味
リハーサルより。指揮者は端の楽員や舞台上を動く歌手に明確にサインを送るために、広い空間の把握が必要
オペラは1600年頃にイタリアで誕生しました。最初は王侯貴族の館で行なわれていたオペラですが、人情物の作品が出てきて、場所も何千人も入る劇場でやるようになり、次第に民衆のものへと変化します。
©Masahiko Terashi/New National Theatre,Tokyo 新国立劇場『ラ・ボエーム』より。プッチーニの音楽が物語をロマンティックに盛り上げる
日本語では歌劇といい、オペラは大半の部分が歌で進行するのが特徴です。歌手は声域によって役柄が振り分けられます。女性は可憐な高音のソプラノ、真ん中の成熟した声のメゾソプラノ、母性愛を表現するのにふさわしい低音のアルトに分かれます。男性は天地がひっくり返るような高い声を出すテノールがいまして。「オレがこの世で一番かっこいい男だ」というような、歌舞伎の団十郎みたいな連中です(笑)。次にバリトンという中音域の大人の声が、テノールの後見役や父親役を演じます。低音のバスは、大きな身体に響かせる歌い方をするのが特徴で、国王など権威ある者を演じます。これらのソリストのほかに、何十人ものコーラスが登場します。
オペラ夏の祭典「トゥーランドット」東京文化会館での最終舞台稽古より
同じく歌で進行するミュージカルはマイクで声を拡声しますが、オペラは肉声を響かせて数千人の観客がいる会場の5階席まで届けます。その声を、多いときは80人ほどのオーケストラが支えます。オーケストラが支えると、声はパーンと突き抜けて向こうまで飛んで行くんですよ。観客は、『オズの魔法使い』の竜巻のように、どこか別の世界へ連れていかれる感覚を味わえる、それがオペラの醍醐味です。
オペラ夏の祭典「トゥーランドット」東京文化会館での最終舞台稽古より
オペラを観に行く前には、あらすじをザッと読んでおくぐらいはしておくといいですが、今は字幕が出ますから、すごくわかりやすいですよ。ドレスコードもないですし、オペラグラスは劇場で借りることができます。構えることはありません。ただお洒落な場所なので、幕間の25分ほどの休憩もぜひ楽しんでください。ホワイエでシャンパンを飲みながら感想を言い合うのもいいですね。
オペラの大プロジェクトがいよいよこの夏スタート
オペラ夏の祭典「トゥーランドット」東京文化会館での最終舞台稽古より。世界や国内の名だたる歌手たちによる豪華な共演を楽しめる、またとない舞台
「オペラ夏の祭典」では2019年の夏に、中国が舞台の『トゥーランドット』を上演します。心を閉ざした姫・トゥーランドットと、なんとか心を開こうとする王子・カラフによる背筋がゾクゾクするようななぞの掛け合いが繰り広げられます。また、第3幕でカラフが歌う『誰も寝てはならぬ』という曲はトリノオリンピックで荒川静香さんが使ったことでも有名で、作品の最大の山場となっています。 そして来年の夏にはドイツが舞台のワーグナーの5時間に渡る大作『ニュルンベルクのマイスタージンガー』が開幕。東西が舞台の演目を上演してオペラネットで世界を結ぶのは、オリンピックイヤーに向けたこのイベントを手掛けるにあたって、私がやりたかったことです。 ぜひ劇場の素敵な空気に飲まれ、そして舞台に立つ人間の心からの愛や絶望の叫び、嫉妬の雄たけびといった声の魅力に酔いしれてください。
細部までこだわった、美術や演出にも注目を
オペラ夏の祭典「トゥーランドット」東京文化会館での最終舞台稽古より
今回ことりっぷ編集部が、一足先に『トゥーランドット』を観せていただきました。この作品は、迫力のあるソプラノとテノールの声の応酬が見どころ。強くドラマティックな声を必要とするトゥーランドットのソプラノ、もう一人のヒロインともいうべき、カラフに思いを寄せる女奴隷リューのソプラノ。同じソプラノでもトゥーランドットとリューの声の違いも印象的です。オーケストラピットではバルセロナ交響楽団が、物語をドラマティックに盛り上げます。 美術や演出にも世界から一流アーティストを招聘。アルフォンス・フローレンス氏がデザインした、どこか近未来を思わせる舞台装置にもご注目ください。天井から吊るされた宇宙船のような城からトゥーランドットが現れるシーンは幻想的な美しさです。舞台両脇が階段状になっているのも特徴的で、そこに群衆が並んで歌う合唱は圧巻の迫力です。実は『トゥーランドット』はプッチーニの未完の遺作。今回はアレックス・オリエ氏が「権力」と「主人公たちの持つトラウマ」という独自の視点で解釈して演出。あっと驚く結末からも目が離せません。
普遍的な愛の物語が胸を打つオペラの魅力を広く届けたい
オペラ 夏の祭典2019-20 Japan ⇔Tokyo ⇔World
大野和士氏が発案した、2020年に向けて2年に渡り展開する国際的なオペラプロジェクト。東京文化会館、新国立劇場そのほか日本を代表する各地の劇場にて上演。 ◎2019年夏公演 「トゥーランドット」 【新国立劇場】 7月20日(土)、21日(日)、22日(月) 【滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール 大ホール】 7月27日(土)、28日(日) 【札幌文化芸術劇場 hitaru】 8月3日(土)、4日(日) ◎2020年夏公演 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 【東京文化会館】 2020年6月14日(日)、17日(水) チケット発売:2019年11月9日(土) 【新国立劇場公演】 2020年6月21日(日)、24日(水)、27日(土)、30日(火) チケット発売:2020年3月8日(日) 【兵庫県立芸術文化センター】 2020年7月(予定)
公演の詳細、チケットのご購入はこちらから
新国立劇場
シンコクリツゲキジョウ
東京文化会館
トウキョウブンカカイカン
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
シガケンリツゲイジュツゲキジョウビワコホール
札幌文化芸術劇場 hitaru
サッポロブンカゲイジュツゲキジョウヒタル
***** インタビューのさらに詳しい内容は2019年6月8日発売の「ことりっぷマガジン2019夏号」で読むことができます。ぜひ本誌を手に取ってチェックしてみてくださいね。 *****
【ことりっぷマガジン Vol.21】
特集「アートな瀬戸内たび」
島々が連なり鏡のようにおだやかな海、美しい里山の風景、山の恵み、そしてアートが見事に調和する瀬戸内。『瀬戸内国際芸術祭2019』が開かれる今年、新しい発見を求めて瀬戸内の旅をしてみませんか?
※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。
※画像・文章の無断転載、改変などはご遠慮ください。
text:Asako Goto photo:Hiroaki Shibata edit:Kana Matsushita 編集:ことりっぷ編集部
アート・カルチャー
の人気記事