
80
2015.07.10
白壁造りの城下町でみつけた切り絵ギャラリー「くろくも舎」
※こちらの記事は2015年7月10日に公開されたものです。 かつて城下町として栄えた福岡県八女市は、未だ白壁土蔵の建物が多く残ります。その一角にある切り絵ギャラリーの「くろくも舎」では、切り絵のイメージにとらわれない自由な発想の作品に出会えます。
意外なきっかけから切り絵作家へ

福岡市街から約1時間、九州自動車道八女ICを下りて車を走らせること10分ほど。八女市中心部なる福島地区は、江戸時代初期に城下町として栄えたエリアで、手すき和紙や提灯などの産地として発展してきました。今も当時の面影が残る「白壁通り」には、江戸時代から昭和初期にかけて建てられた商家や古民家を再利用したカフェや雑貨店など約80もの建物が軒を連ねます。通りのすぐ近く、ブロック塀に囲まれた古びた木造家屋の玄関先に小さな立て看板を掲げるのが、切り絵ギャラリー「くろくも舎」です。ここは八女市在住の切り絵作家、松原真紀さんの自宅兼アトリエで、土・日曜、祝日はギャラリーとして開放しています。

もともと絵を描くことが好きだった松原さんが切り絵に出会ったのは、2008年のこと。図書館でたまたま目についた切り絵作家・柳沢京子さんの作品集を見て、心が動かされたのが創作活動のきっかけになったのだそう。 仕事から帰ってきてから作品づくりをするものの、独学のため失敗ばかり。それでも飽きずに続けてこられたのはなぜでしょう。 実は当時、職探しをしていた松原さん。そのときにふと幼少時代からの夢を思い出したそうです。 「夢は、手塚治虫さんみたいな漫画家や大好きなミュージシャン、憧れの俳優さんのように、人を感動させられる大人になることでした。だとしたら、今の自分に何ができるんだろう。そうだ“切り絵”だと思ったんです」。
八女の手すき和紙でつくる繊細な作品

ところで、切り絵といえば黒い紙を使った平面的な影絵のようなイメージをもっていませんか? 松原さんの作品には、モビールやランプシェード、行燈など立体のものが目立ちます。 使う紙は地元八女の伝統工芸である白い手すき和紙です。和紙の表面の凹凸や繊維によって陰影が生まれ、ランプシェードなどの立体作品はうしろから光を当てるとおもしろい表情を見せます。
一枚の紙と一本のアートナイフから生まれるアート

ギャラリーでひときわ異彩を放っているのが、天井から吊るしたクモのモビールです。わずか1mmほどの細い線が何十本も絡みあうクモの巣に、一本の糸で垂れ下がったクモがゆらゆらと揺れています。一方から光を当てたとき、壁に映し出されるクモのシルエットはなんともいえず幻想的です。そして驚くことにこの作品は、一枚の紙でできているんです。

松原さんの作品は、一枚の紙のみを使うことが原則。平面だけでなく、立体の作品もすべて複数の紙を貼り合わせることはせずに、絹糸のように細い線やレースのように繊細な模様を作り上げるのです。 「作業が細かくなればなるほど、なぜか燃えてきます(笑)」と話す松原さん。作業道具は何本ものナイフを使い分けたり、あるいは特別なナイフを使っていたりするのかと思いきや、298円のアートナイフたった一本だとのこと。高い技術力に舌を巻くばかりです。
世界に一つの切り絵はおみやげや贈り物に

ギャラリーに展示している作品はすべて購入することができます。額入りの切り絵は1500円からで、作品をプリントしたポストカードは一枚150円。販売のほかにオーダーも受け付けていますが、どちらもギャラリーのみでおこなっています。 また、JR筑後船小屋駅の駅舎では松原さんの作品を常設展示しています。ギャラリーまで足を運ぶのが難しい人は、ぜひそちらへ。

くろくも舎
クロクモシャ
※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。
※画像・文章の無断転載、改変などはご遠慮ください。
白石美貴
の人気記事










































