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2017.07.04
世界各国を旅してきた日本人監督による心温まるストーリー『ブランカとギター弾き』
映像作家として、映画『モンゴル』のスチール撮影や日本のミュージシャンのMV撮影なども担当、世界を旅しながら撮影活動を続けてきた長谷井宏紀監督。 そんな長谷井監督が、フィリピンの街並みを舞台に初の長編映画を手がけ、第72回ヴェネチア国際映画祭で2冠に輝いた『ブランカとギター弾き』が、ついに今夏公開されます。 メインカット:(C)2015-ALL Rights Reserved Dorje Film
世界各国の映画祭で才能を認められた長谷井宏紀監督

長谷井宏紀監督
受賞したのは、若者から贈られる「マジックランタン賞」、そしてジャーナリストから贈られる「ソッリーゾ・ディベルソ賞」の2つ。 このことからも、幅広い層のハートをつかむ作品であることが伺い知れますが、昨年から今年にかけても、続々と各国の映画祭の賞でグランプリ、最高賞、観客賞などを受賞しています。
両親のいない少女と盲目のギター弾きが手を取って

(C)2015-ALL Rights Reserved Dorje Film
『ブランカとギター弾き』は、両親のいないストリートキッズの少女ブランカが、“お母さんをお金で買うこと”を思いついたことからはじまる物語。 亜熱帯の空気漂うマニラのスラム街で、スリや乞食をしながらなんとかお金を稼ぎだそうとする彼女は、ある日盲目のギター弾きピーターと出会います。 ブランカはピーターから得意な歌でお金を稼ぐことを教わり、二人はレストランでのライブ演奏という、きちんとした賃金や住まいを得られる仕事につくことができました。しかし、ことはそう簡単には運ばず、ブランカの身には少しずつ危険が迫っていました…。
ヒロイン役=ブランカ、ヒーロー役=ピーターのこと

(C)2015-ALL Rights Reserved Dorje Film
ブランカ役のサイデル・ガブテロは、監督が歌を歌える女の子を探していたところ、イタリアのプロデューサーから大人顔負けの歌唱力を発揮しているサイデルのyou tube動画を教えられて存在を知ったそう。
直感で決まった、ブランカ役
「ブランカそのものだった。気の強さとルックス、直感でこの子しかいないと。映画では、彼女が持っている歌唱力の40%くらいで歌ってもらっているんですけどね(笑)撮影中は70人くらいの大人に囲まれ、プレッシャーも相当あったと思います。でも、僕が“BLANKA”と書いて貼っていた紙に、知らないうちに彼女が自分の名前をサインしていたり。それくらい役に対する圧倒的な意志の強さを持っている女の子です」(長谷井監督)

(C)2015-ALL Rights Reserved Dorje Film
盲目のギター弾きのピーター役は、本名も同じピーター・ミラリ。以前に監督が短編映画をマニラで撮影した際に、ストリートで演奏する彼と遭遇。ピーターに強く魅かれた長谷井監督はその後、ピーターにあて書きをした『ブランカとギター弾き』の脚本を作っていきます。
ピーターと映画を作ることが自分の夢だった
言葉をていねいに選びながら質問に答えてくれた、長谷井監督
「マニラのキアポ協会という、有名な場所にある地下道だった。ギターを弾いて、小さな子どもをお金の監視役にしていた(笑)ピーターは僕のヒーロー。彼と映画を作りたい、というのが自分の夢だったんです」(長谷井監督)

長谷井監督とブランカとギター弾きのピーター (C)2015-ALL Rights Reserved Dorje Film
生まれながら盲目の孤児で、乞食をしながら命をつなぎ、5、6歳でウクレレを覚えたというピーター。監督曰く、その気づきの感度は並外れていて、歩んできた人生の逞しさもあり、実生活ではとても女性にモテたそう。 しかし残念なことに、ピーターはヴェネチア国際映画祭での上映から3日後に他界。この映画は、俳優ピーターの遺作でもあります。
スラム街に生きる人々から放たれる魅力とは?

主演のふたり以外のキャスティングは、長谷井監督が約2ヶ月半、朝から晩までスラムをひたすら歩き回って発掘。(C)2015-ALL Rights Reserved Dorje Film
フィリピンという街、とくにゴミの山といわれるスモーキーマウンテンには14年ほど前から足を運んでいた長谷井監督。子どもたちとゴミをかき集め、クリスマスの時期には5mくらいのツリーを立てたという思い出も。

マニラの子どもたち (C)2015-ALL Rights Reserved Dorje Film
またある時、大人として子どもたちにアイスクリームを奢ってあげようとしたら、リーダー格の8歳の子から出たのは「いや、コウキ、俺がおごるよ」のひと言。 スモーキーマウンテンが遊び場であり仕事場でもある子供たちのプライドに衝撃を受け、どんどんこの土地の虜になっていったそう。

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監督はその子どもたちとも「いつか映画を撮ろう」と話していたことから、その約束を果たし『ブランカとギター弾き』には当時子供だった子のうち、数名の出演が実現。 貧困という社会問題を扱っていながらも、最初から最後まで、この物語には子供たちのピュアで力強いエネルギーが満ちているのも頷けます。
心に光が射すように、温かさが巡りだす作品

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いち早く長谷井監督の才能を見出した映画界の巨匠エミール・クストリッツァ監督(『アンダーグラウンド』、『黒猫・白猫』など)は、この映画を観て「強く心に響き、私を幸せにした。なんて美しい映画だろう!」とコメント。

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また、出演者のスタイリングはほとんど監督自身が行っていて、ピーターの衣装も監督の私物なのだとか。 長谷井監督とスラム街の人々の信頼関係から紡がれたこの作品、喧騒感と色彩が混ざり合うマニラの光景とともに、登場人物を魅力的に見せているディテールにもぜひ注目してみてください。
[後編]映画『ブランカとギター弾き』長谷井監督に聞く 旅を通じて教わったこと、伝えたいこと
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石塚久美子、撮影(長谷井監督):長尾明子
『ブランカとギター弾き』

シネスイッチ銀座他にて、7月29日(土)より全国順次公開
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