【連載・暮らしと、旅と…】奄美群島をフェリーでめぐってみたら
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【連載・暮らしと、旅と…】奄美群島をフェリーでめぐってみたら

トラベルライター朝比奈千鶴による、暮らしの目線で旅をする本連載。奄美群島をめぐった最終回に、旅の行程をご紹介します。 奄美大島のほか、加計呂麻島、喜界島、徳之島などからなる奄美群島の島々は、鹿児島の南から台湾へと続く弧状に連なる島々、琉球弧に属しています。今回の旅はフェリーで与論島、沖永良部島、奄美大島をめぐりました。

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那覇から与論島まで、フェリーならば4時間20分、飛行機ならば30分くらいかかります。時間がかかるぶん、船の方が料金はお得です。「時は金なり」と考えるならば、飛行機を選んだほうが良さそうですが、島を転々としながらあちこちを物見遊山するのもいいものです。そうすることで、いろんな物事をつながりを持って見られるようになるから。ときにはリゾートスティをするように島に滞在することで、明日への英気も養えます。

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各島を結ぶ交通は、現在、那覇ー鹿児島間の定期便が2社、日替わりで出ています。早朝に那覇港を出て、途中の島に立ち寄って何泊かしながら奄美大島まで。そんな旅のスタイルをとるなら、あらかじめインターネット予約をして最初の寄港地までチケットを買っておくといいでしょう。そうすると、スムーズに船に乗り組むことができます。 二等船室に乗り込んで自分の居場所を決め、荷物を置いてあたりを見回すと、船内は家族連れや作業着姿の人だらけ。どうやら、フェリーは群島に住む人たちにとって”生活の足”の模様。那覇港からは早朝の出港だったため、おのおの朝食のお弁当を広げたり、カップラーメンにお湯を入れてきたり……慣れたふうに出港を待ちます。勝手のわからない私は、壁際で備え付けの毛布をかけて横になっていつの間にかウトウト…… 大きな揺れも感じないまま、お昼頃には与論島に到着しました。

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初めて足を踏み入れた楽園・与論島の天気は残念ながら曇り。雨に降られると困るので、レンタカーを借りてぐるりと島を一周しました。与論島といえば、黒糖焼酎の入った大きな盃を口上を述べて飲み、その盃を宴席に参加している全員が順番に受けていく「与論献奉」が有名です。与論に行くならぜひ体験すべきと勧められ、居酒屋でチャレンジ! 昔から島に伝わる客人をもてなす焼酎の回し飲みの慣習は、一説によると、昭和34年に「与論献奉」と命名されたといわれています。与論ならではのお酒の飲み方を、本場で体験できたのは大変光栄なことでした。初「与論献奉」ということで、氷を入れて薄めてもらってから飲んだので酩酊することもなく、楽しく儀式は終わりました。 「与論献奉」がずっと続いている理由に、与論島は猛毒を持つ危険なハブがいないからだと参加者のひとりがいっていましたが、確かに、与論島は酔っぱらっても砂浜で寝られるくらい安全な場所です。でも、飲み過ぎて倒れてしまったら、せっかくの旅も台無しなので自分で飲酒量を調整しましょうね。

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翌朝、二日酔いもなく、与論港から隣の沖永良部島・和泊港へ。正午あたりに出たフェリーは1時間40分後に到着しました。昼下がりの島はとても静かで人の姿が見えません。その代わり、車窓からはエラブユリの咲く風景が見られました。沖永良部島は、ユリをはじめ、ソリダゴ、グラジオラス、コチョウランなど花の名産地であり “園芸の島”といわれています。 ここでも、黒糖焼酎がつくられ、飲まれていますが、与論の人たちがお酒の席を早く切り上げるのに比べ、沖永良部では飲み終わりまでの時間がとても長いのだとか。奄美群島のなかでも特に実直だといわれている気質の島人のことだから、じっくりと相手の話に耳を傾けているかもしれません。

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観光立島の与論島、闘牛で有名な長寿の島・徳之島に挟まれた沖永良部島には、いったい何があるのだろう。正直、強い印象がありませんでしたが、到着するやいなや、カルスト地形で断崖絶壁の田皆岬の雄大な景色に驚きました。ケイビングのできる鍾乳洞では、奇妙な造形の中でたたずみ、ふと光が差し込む光景に神々しいものを感じました。こんな場所が奄美群島にあったなんて!

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ほかにも、取材で出会った宿やカフェを営む島人の創造に満ちた暮らしぶりに触れて、わくわくと胸が躍りました。 沖永良部島の次は奄美大島へ。この旅では、船が途中で寄港する徳之島は立ち寄らず、奄美大島を目指しました。ちなみに、沖永良部島から奄美大島への船旅は6時間40分かかります。 「船旅の醍醐味は船の上以外どこにも行けないこと、それを楽しむこと」と、以前船乗りに教えてもらったことがあります。とはいえ、飛行機ならばビューンと外国まで行けるような時間だけにどう過ごそうかと寝転んでいたら、隣にいた島のおばあとおじいが数人集まって話していたので、寝たふりをしながら耳を傾けていました。 数日、島々を歩いて聞こえてきた島言葉が耳にやさしく響きます。でも、どこの島の人かわかりません。沖縄の言葉にも似ているような、鹿児島の言葉にも似ているような。どうやら、おばあは世の中に対して文句を言っているようですが、何を話してもやわらかく聞こえるのは、方言ならでは。おばあの抑揚のある話し方が子守唄のように聞こえて、前回乗船時と同じくウトウトと夢の世界へ。

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方言といえば、同じ意味でも島によって言い方がずいぶん違います。与論島で「ありがとう」は「トゥートゥガナシ」。でも、沖永良部島では「ミヘディロ」になり、徳之島は「オボーラダレン」、奄美大島では「アリガトサマリョウタ」になります。与論島の人たちの話し方は沖縄の方言のイントネーションに近く、沖縄に近い島だなあという印象がありますが、奄美大島まで行くと、また違ったイントネーションになります。 奄美の島々のことをよく知らないと、全体をひとくくりに見てしまいますが、よく眺めてみると、それぞれの島には、海を隔てて独自の文化が息づいていました。

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隆起サンゴの島で大きな山がなかった与論島や沖永良部島に比べ、奄美大島には山や原生林があります。ここでは、ハブの話をよく聞きました。奄美大島で参加したエコツアーでは「この頃は噛まれても早く病院に行けば大丈夫。でも、病院に行くのが遅れて毒がまわって死んでしまう人もいるから気をつけないと」と怖いアドバイスも。草むらに入るときは、ハブがいないかおそるおそる確認しながら歩くようになりました。 その昔、陸続きだった島々が海面上昇によって標高の低い島はすべて沈み、海面が少し下がった約100万年前に現在の奄美諸島になりました。結果、標高の高い島にのみハブが残ったのだとか。だから、その島に標高の高い山があるか平坦かが、ハブが生息している島かどうかを見分けるポイントになるそうです。 季節ごとの行事や、自然現象などを記した「奄美旧暦カレンダー」を見かけたので、パラパラとめくってみたら、一番最初のページには、どどんとハブが登場。このように、島人たちと話す何気ない話題や身の回りのものから、この島ではどんなことが暮らしに重要なことなのかが見えてきます。

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そういう意味では、奄美群島でいろいろな人からの口から聞いたのが、シーズンになると頻繁に島を襲う台風の話題。「昨年の台風でここが吹き飛ばされて」という話をあちこちで聞きました。私の乗っていたフェリーも台風や高波のときは、途中の島をスルーして「抜港」するときもあるのだとか。 ハブや台風に関するエピソードは、奄美では日常の話題で、どれも大変そうだなあという内容ばかり。「昔の人は苦しい、大変だという話しかしなかったよ。それを子どもたちに伝えることで注意を促し、のちのち彼らに難を及ぼさないようにしていたから」という話を、与論民俗村の創設者で島の語り部でもある菊千代さんから聞いていたのもあり、その通りであれば、伝承は今も生きているようです。実際に、奄美群島の人たちは控えめで、旅人に対してよいところをほとんどアピールしてきません。その理由は、昔からの暮らしを伝え、よいことをあまりいわないで厄事に備える精神性が昔から脈々と受け継がれているからかもしれません。

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今回、奄美群島を旅をし、島をとりまく環境や歴史と人がどのようにつながっているのか、少しだけ触れることができました。人びとに出会い、ひとつ踏み込んで島人の精神に触れると、いつも懐かしく、嬉しい気持ちになります。その理由はなぜなのかとしばらく考えていたら、細く長くつながった歴史の糸をぷつんと切らずに何とかつなぎながら生きようとしている人たちに触れ合ったからでした。 さて、自分の幼い頃を振り返ってみる。子どもの頃にお年寄りから教えてもらった大切な知恵は、どのくらいあっただろう? 手元に残っているものは何かあるのだろうか? そう考えてみると知恵の掘り起こしをしてみることで、身近なところに大切なものがあることに気づきます。自宅に帰ってからも、暮らしのなかでまだまだ旅は続きます。

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