森を本来あるべき姿に戻したい。[TAP&SAP/埼玉県秩父郡] byONESTORY
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森を本来あるべき姿に戻したい。[TAP&SAP/埼玉県秩父郡] byONESTORY

「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から埼玉県秩父郡の「MAPLE BASE」を紹介します。

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荒廃する森を憂いて一念発起。

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秩父のカエデから生まれた『秩父メープルシロップ』は、日本人の味覚になじむ風味。カエデの生命の源ともいえる『天然カエデ樹液』は、カナダ産にはない多数のミネラルを含む。

国土の約67%を森林が占める日本。ですが、その大半はかつて栄えた林業の衰退に伴って荒廃が進んでおり、植林された杉やヒノキの手入れも、本来の姿である広葉樹林への再生も困難な状況にあります。東京からほど近く、自然派志向のレジャー客が多く訪れる秩父も、その例外ではありませんでした。 秩父の森は、もともとはカエデが好んで生えていた環境だといいます。日本には28種類ものカエデが存在していますが、そのうちなんと21種類が自生。「秩父の森を本来あるべき姿に戻したい」――そんな想いを持ったひとりの女性が、「純国産のメープルシロップ」という稀有な特産品を手がかりに、豊かな森を未来へ残していくための取り組みを始めました。

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『MAPLE BASE』の外観。メープルを五感で体験できるメープルづくしの空間。

『TAP&SAP』という屋号に込められたのは、「自然と人の関わりを通して、未来に持続可能な遊び心溢れるホンモノの商品・サービスをプロデュースしていくこと」。2016年春には、秩父ミューズパークという広大な自然公園の中に、日本初のシュガーハウス『MAPLE BASE』をオープン。そこで秩父のカエデから採取したメープルシロップや、それをアレンジしたメニューを提供するなど、自らのポリシーを実現するために活動しています。

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とろ~り美味しい秩父の森の恵み。

シュガーハウスとは、メープルシロップの製造所であると同時に、それを用いたスイーツやドリンクなどを提供し、カエデから生み出された様々な商品を販売する複合的な施設のこと。更に製造工程の見学や、カエデや秩父の森にまつわるイベントやワークショップを体験できるなど、森林保全の取り組みまで学べる場となっています。

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森の保全活動に若者を呼び込みたい。そのきっかけとして「ホンモノ」を開発。

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豊かな植生を誇る秩父の森。メープル製品を購入することで森の保全活動に参加できる。

「秩父のカエデからメープルシロップを採取して、お土産品として販売する取り組み自体は、1999年から行われていました。秩父でのメープルの活動のきっかけをつくった『NPO法人 秩父百年の森』のエコツアーなどに参加するうちに、とても良い活動だし若者や女性にも訴求力のある商品なのに、そちらに向けたPRが少ないのではないか、と思い始めたんです」と、『TAP&SAP』代表の井原愛子氏は振り返ります。 まさに、若者かつ女性である井原氏は、「若い人たちにもっと参加してもらうためには、参加しやすいと思ってもらえるきっかけが必要だ」と考えたそうです。そこで、様々な人たちや団体にかけ合った末に、『MAPLE BASE』をオープンさせたのです。 秩父市が所有する秩父ミューズパーク内の建物を、秩父で樹液を買い取り製品化していた『秩父観光土産品協同組合』が借り上げ。更にその店舗全体のプロデュースを井原氏が担当しました。 「金銭的にも人手的にも、まだまだボランティアの域に留まっている活動ではあります。でも、単なる一過性の活動ではなく、全員が継続的に楽しんで行っているんだと伝えたいですね。どんなに意義のある活動でも、無理をしていると続きませんから。参加してくださった方々みんなが楽しめるように心がけて、森に恩恵を返せるようにしたい。全員がwin-winの関係でいられることを大事にしています」と井原氏は話します。 山の手入れもカエデの保護も、NPOや地元の人たちだけでは行き届きません。善意で手伝ってくれる人たちにメリットを還元して、意義とメッセージを伝えたい――そう願いながら井原氏は活動しているそうです。

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きっかけは「森を未来に残したい」という想い。

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秋には美しく紅葉するカエデの木。その由来や背景にも想いを馳せたい。

「“純国産メープルシロップ”の珍しさだけがフィーチャーされがちですが、きっかけは『日本の森の現状をなんとかしたい』という想いであることを知って頂きたいんです」と井原氏。単に物珍しさからメープルシロップを採取したり製品化したりしているわけではなく、その目的は森の保全にあるといいます。

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樹液採取の様子。一滴一滴にカエデの生命が宿る。

過去に日本全体で進められた杉やヒノキの植林政策は、安価な外国産木材の輸入によって頓挫(とんざ)してしまいました。林業に携わる人々も激減し、森の荒廃はとどまるところを知りません。更に、荒れた山から苦労して木を伐り出しても、補助金やボランティアの協力を得てさえ1本あたり1,000円にも満たない利益しか出ません。そんな現状を打破するために、井原氏は森の保全活動に一歩一歩取り組んでいます。

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『MAPLE BASE』の人気メニュー・『オリジナルパンケーキ』。『秩父産メープルシロップ』(今シーズンは完売)がたっぷりしみ込んだ、ここにしかない味わい。

「一般の方々が『森のために何かしたい』と思われても、直接山の手入れに参加するのは難しい面があります。でも、カエデの恵みを食べたり購入したりすることで、気軽に参加して頂けます。この活動を通じて、秩父の森の現状を多くの方々に知って頂きたいと考えています」と井原氏は言います。

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秩父ならではのメープルシロップと「第三の蜜」。

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可愛い蜜蜂が生み出す「第三の蜜」、『秘蜜』。日本ではほとんど流通しておらず、独特の味わいは貴重です。

『MAPLE BASE』は広大な自然公園の中にあるため、最初は単なる休憩スポットとして訪れる人が多かったそうです。しかし、徐々に『MAPLE BASE』そのものを目指してくれる人たちが増えて、井原氏は手ごたえを感じているそうです。 「『秩父産メープルシロップ』の特徴は、爽やかな甘さと黒糖に似た風味です。輸入物に比べて日本人好みの味なので、ぜひ味わって頂きたいですね」と井原氏。井原氏が胸を張ってお勧めするイートインメニューはもちろん、購入して持ち帰ることも可能。秩父産ならではの個性的な風味を味わえるように、シンプルにパンケーキにかけるなどして食べてほしいそうです。

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人と蜜蜂とのコラボレーションで生まれた、メープルシロップと並ぶ秩父の森の恵み。

更に「第三の蜜」と銘打った『秘蜜』も販売。「メープルシロップは、シーズン終わりの春先になると黒ずんでえぐみが出てしまいます。そのまま販売するには難があるため、秩父農工科学高等学校の生徒さんの発案で試しに蜜蜂にメープルシロップを与えてみたところ、これができました」と井原氏。

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秩父の森に生きる生命とともに。

埼玉大学・化学分析支援センターで分析してもらったところ、蜂蜜の組成がありながらメープルシロップの成分も入っていたといいます。「とても面白い物ができた!」と井原氏は喜んで、更なる量産化にチャレンジ。メープルシロップはまだ十分に採取できなかったため、果汁や野菜ジュースなどでも実験し、バラエティ豊かなフレーバーを商品化しました。 実は、この『秘蜜』こそが『TAP&SAP』が手がけた記念すべき最初の商品だったそうです。 可愛い蜜蜂が生み出す「第三の蜜」、『秘蜜』。日本ではほとんど流通しておらず、独特の味わいは貴重です。

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未来の森を、手をつないでつくる。

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日本人と森との共生関係を見つめ直して、共に未来へ。

『TAP&SAP』はNPOや山の持ち主たちと協力しながら、杉やヒノキの間伐をして、種から育てた秩父産カエデの植樹を行っています。2年前から本格化したこの活動は、将来カエデの樹液がたくさん採れるようにするためのもの。更に、秩父の森を保全して本来の植生に戻すためでもあります。 「秩父を誰もが認めるメープルシロップの産地にしたい。始めて間もなく、先も長い取り組みですが、いずれはメープルシロップを安定して供給できるようにしたいですね」と井原氏は話します。 更に、協力者を増やす活動も。一緒にメープルシロップを使った食事を食べて、メープルシロップの採取の様子を見学するエコツアーなどを開催。どういう風に樹液がとれるのか、どうしてこの活動が森の保全につながるのかを伝えて、秩父の森のファンを増やしていきたいそうです。 「カエデは地中深くまで根を張るので、山の保水力も高めてくれます。土砂崩れなどが起きにくくなるだけでなく、森が健康かつ豊かになるんです。葉っぱが落ちると土の養分になり、冬にはメープルシロップや樹液などの恵みをもたらしてくれる。一度伐ったら終わりの杉やヒノキとは違って、循環する環境をつくり出してくれます」と井原氏。秩父の森を本来あるべき姿に戻す――地道ながらも壮大な取り組みは、これからも続いていきます。 写真提供:TAP&SAP

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