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2021.02.05
スタイルは変えない、でも新しい。秋田で出会った、日本唯一の江戸料理店。[日本料理たかむら/秋田県秋田市]by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から秋田県秋田市の「日本料理 たかむら」を紹介します。
10両編成・定員34名という豪華ぶりで話題の「TRAIN SUITE 四季島」
2017年春に運行を開始した、JR東日本のクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」。定員は34人のみ、コースによっては100万円近く…そんな高級ホテルにも引けを取らない豪華ぶりが話題の列車ですが、もっとも高額な3泊4日のコースで、3日目の夕食、つまり“最後の晩餐”を担当するのが、秋田市内に店を構える『日本料理 たかむら』の高村宏樹さん、その人です。 市内出身の高村さんは、10代から江戸料理の老舗と謳われた東京・目白の『太古八』で修業、24歳の若さで料理長を任されたという華麗な経歴の持ち主。28歳で独立、地元・秋田に戻り開業した高村さんですが、その後、師の急逝とともに『太古八』は閉業。現在、唯一の正統派江戸料理の継承者といわれる中、高村さんは何を思いながら、秋田で江戸料理を作り続けるのでしょうか。
その答えは、さも当然のように、『たかむら』の店の中に、そして「TRAIN SUITE四季島」で提供される弁当箱の中にありました。ベースは丁寧に引いた鰹の一番出汁、季節感や素材感を大切にするという基本を守りながら、ときに郷土料理を新たなアプローチで繰り出したり、オリジナルの麺料理を開発したり。 「江戸料理は、決して東京でしか作れないものではありません。ひとことでいえば、江戸料理はスタイル。“粋”であること。食べ方、飲み方、そして生き方に通じるものです」。 故郷で江戸料理を始めて今年で18年。閑古鳥が鳴く日もあった店は、今や全国から食通が集まる屈指の名店に。北の地で、粋を貫いた料理人の生き様と出会いました。

豪華旅のクライマックスを担う。それも、出来合いの料理で
JR東日本のクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」。贅を尽くした内装や、100万円近い旅行代金で話題の列車ですが、高村さんが食事を提供するのは、3泊4日コースの3日目の夜。行程のクライマックスともいえる食事を高村さんが受け持つことになったのは、「TRAIN SUITE四季島」の料理監修を務めるJR東日本グループ『日本ホテル株式会社』の統括名誉総料理長・中村勝宏さんが、高村さんの料理に惚れ込んだからでした。中村さん自身、日本人で初めてパリでミシュランガイドの星を獲得し、2008年の洞爺湖サミットで総料理長を務めたほどの人物。しかし、その重鎮からの誘いをもってして、高村さんは当初難色を示したといいます。
「四季島」用の厨房は『ホテルメトロポリタン秋田』の上階に。外のテラスからは、秋田駅のホームや市内が一望できます
理由は、3日目の行程にありました。その日、乗客は「TRAIN SUITE四季島」から降り、別の列車で移動することになっています。夕食の時間は、ちょうどJR五能線「リゾートしらかみ」に乗車している時間。「TRAIN SUITE四季島」のようにキッチンがないため、できたての料理を提供することはできません。出せるのは、出来合いの弁当。悩んだ末、高村さんは依頼を引き受けます。「やるからには、最高の弁当を提供しよう」という決意とともに。
取材日の朝、妻・めぐみさん、スタッフ・山品さんとともに、揃いの「たかむら」の名入りTシャツで現れた高村さん
ほぼ毎週のようにある「TRAIN SUITE四季島」の運行に合わせて弁当が作られるのは、秋田駅前『ホテルメトロポリタン秋田』内の専用厨房。それまで使われていなかった厨房を、高村さんだけのために整備した特別な場所です。前日は店を休んで、朝から「TRAIN SUITE四季島」のための仕込みを行う高村さん。当日も含めると丸2日を準備に費やすわけですが、弁当の提供は毎度、たったの20食。そこまでして作る弁当とは、一体どんなものなのか? ホテルの裏口で待ち合わせると、高村さんは「お弁当作るところなんて、ほかに見せたことない。本邦初公開だよ!」と笑いながら、厨房に案内してくれました。

桐箱に詰め込むのは、こだわり抜いた料理と高村流ホスピタリティ
サポートに入ったホテルスタッフに「食べてみて」と試食を勧める高村さん。若手料理人にとってここは、貴重な学びの場
「TRAIN SUITE四季島」のロゴが貼られた扉を開けると、そこが高村さん専用の厨房。店で下ごしらえを済ませた食材を持ち込むため、「この厨房では揚げ物を揚げたり、箱に詰めたりする仕上げの作業をするだけ」と高村さん。それでも20食の弁当が完成するのに、いつも2時間ほどかかるといいます。
リクエストして『あいば商店』に仕入れてもらっている、宮崎県産の「黒皮かぼちゃ」は旨煮に。煮崩れず繊細な肉質
本日の品書きは全19品。前日市場で見た“ひでこ”などの山菜はしゃきっとしたお浸しに、「秋田錦牛」はしっとり艶やか、噛むほどに旨みがあふれ出す焼き浸しに。ほかにも白神山地の伏流水が流れ込む海で育つ“白神鮑”はぷりぷりの塩蒸し、高級魚・マナガツオは上質な脂をぎゅっと閉じ込め、ふっくらした幽庵胡椒焼きに仕立てるなど、贅沢な品が並びます。『たかむら』のために育てられる比内地鶏は、竹皮で包んだおこわ仕立てに。使う米は、地元の名産「あきたこまち」と、大潟村の『キクチファーム』菊地幸彦さんが栽培する「ミルキープリンセス」という品種のブレンド。産直食材は使わない高村さんが唯一、生産者を指定し買っているもので、冷めても適度なもちもち感がありベタつかない、高村さんこだわりの米です。
広大な「キクチファーム」の田んぼで、菊地さん夫妻と。「彼らのお陰で、米はブランドじゃなくブレンドが大事だと知りました」
この日の作業の間、何度もかかってくる電話に、めぐみさんが対応していました。アレルギーや苦手な食材がある人のための、特別な献立の確認です。「お客さんによっては、献立を変えるだけでなく、品書きにひとこと添えることもあります。以前、腸閉塞のため繊維質がだめだという方がいらして。ちょうど春先で、山菜の季節。ペーストにして食べてもらうのもいいけれど、僕はあえて、そのまま入れました。そして『見て香ってひと口味わって、秋田の春を感じてください。そしてどうぞそのまま、残してください』と手紙を添えました」と高村さん。その手紙を受け取った人がどんなにうれしかったことか。「ホスピタリティって、そういうものだと思うんです」。

店で食べるのと同じおいしさを、最適な温度帯と細心の管理体制が守る
ひとつひとつ手を掛けた全19品がぎっしりと詰まった『たかむら』謹製弁当。店名入りの桐箱や風呂敷も特注品
高村さんが「TRAIN SUITE四季島」の料理監修を務める中村さんから「ぜひ弁当に入れてほしい」といわれた料理があります。芝海老と大和芋を入れてふっくらと焼き上げた玉子焼き、そして豆腐をババロア仕立てにしたデザート。どちらも『太古八』時代から作り続けている、店の名物料理です。しかし、ババロアは温度帯によってダレたりするもの。それを防ぐため、レシピをどう工夫しているのか高村さんに聞くと、こんな答えが。「店で出しているものとまったく同じですよ。ほかの料理もそう。いかに店と同じものを、弁当で楽しんでもらうか。それができる温度を探すのが大変でした」。 調理の間、高村さんは頻繁に厨房のエアコンを調整します。それは作っている時も常に、弁当を一定の温度に保つため。「すべての料理をおいしく食べてもらえる、最適な温度帯を見つけたんです。これなら、デザートも出来立てと変わらない食感をキープできる。弁当だから出来立てではないけれど、店と同じおいしさを届けたい。だからほら、この『秋田錦牛』を見てください。この厨房で切ったから、初めて断面が空気に触れた状態です。さっきより、切り口の色が鮮やかでしょう。この後どんどん色も味も乗ってきますよ。この温度なら、ちょうど5時間くらいあと、弁当が提供される頃一番いい状態になるんです」。
完成した弁当を、ひとつずつ包む高村さん。店で出す料理と同様、一から十まで自ら手掛けるのがポリシー
レシピはまったく変えないかわりに、持ち運ぶ時間や温度には細心の注意を払う。「最初は、何度それで『TRAIN SUITE四季島』スタッフを注意したことか」と高村さん。 まるで命を宿しているかのように、数時間かけて味が乗り、食べられるときに一番おいしくなる。完成したのは、“弁当”と聞いて想像していた内容を、はるかに超えたものでした。弁当箱をひとつずつ風呂敷で包みながら、日本海を眺める『リゾートしらかみ』の車窓を思ったのでしょうか、「きれいな夕日見ながら、うまい酒と料理を味わってもらいたいよね」と呟いた高村さん。穏やかなその口調は、料理人としての喜びや充足感にあふれていました。
日本料理 たかむら
ニホンリョウリタカムラ
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