金沢・古くて変わらないもの、変わるもの。
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金沢・古くて変わらないもの、変わるもの。

※こちらの記事は2014年10月10日に公開されたものです。 連載「暮らしと、旅と…」、淡路島編はいかがでしたか? 今回からご案内する二つ目のエリアは、金沢です。 加賀百万石の城下町には、足を運んだことのある方も多いのではないでしょうか。私は金沢市内から車で30分ほどの場所で育ったこともあり、それこそ帰省のたびに訪れています。 ちょうど10年前、2004年の10月に金沢21世紀美術館がオープンし、それからは金沢駅のシンボル、大きな鼓門が完成。万年旅行者の視点で見ると、駅から行く最初の観光エリア、近江町市場周辺までの道路が広くなり近くなったような気がします。周遊バスや公共レンタサイクル「まちのり」システムのおかげで、ほうぼうに離れていて動きにくいように見えた東西の観光エリアへの導線がよくなるなど街の様子は年々変化しており、何度訪れても新しい発見と味わいがあります。自分自身も年を重ね、趣向も変化していき、同じ街を訪ねても、見るもの感じることが変わってきました。そんな目線で、金沢で今の暮らしにつながるエッセンスを見つけてきました。

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この頃、よく私が足を運んでいるのは、連句制の行われた明治時代に「七連区」といわれたあたり。国の有形文化財にも指定されている浅野川大橋の周辺は、金沢にある茶屋街のうちのふたつがあります。主計町(かずえまち)茶屋街とひがし茶屋街は、10〜20代の頃はまず足を運ばないエリアでした。でも、あの頃より大人になった今は、昔から変わらない凛とした佇まいと暮らしの風景が連綿と続いているこの地域で時間を過ごすのがとても楽しいのです。 すれ違う人の肩と肩が寄せ合うくらいに細い路地のある主計町は、観光客が少なく、昼下がりには芸妓さんがお稽古に向かう姿が見られたり、三味線の音が聞こえたり、花街の息づかいがあります。夜には町家にある出格子、木虫籠(キムスコ)から漏れる明かりからささやかに夜を楽しむ人たちの姿が見られ、そのムードを感じながら歩くのも風雅なものです。泊まるときは主計町に宿をとることが多くなりました。

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火の見櫓を眺めながら橋を渡り、おんな川と呼ばれた浅野川沿いを卯辰山に向かって東山河岸緑地あたりで左に折れていくと、ひがし茶屋街の周辺になります。茶屋街の入り口は本来ならば国道359号線から入っていくのがわかりやすいのでしょうけど、変則的に途中から入るほうが、暮らしの風景が感じられて私は好きです。 表通り二番丁はガイドブックなどの写真でよく出てくる、いわば目抜き通り。文政三年(1820年)に12代前田斉広公の許しを得て誕生した遊里の跡地には江戸末期の建造物が立ち並んでいます。 二番丁の両側にある一番丁、三番丁には、観光客以外の住人たちも足しげく通う、バーや喫茶店のほか、麩や水飴、乾物、米などの食料品店などがあります。試しに1軒ずつ入ってみると「うちは古いし、もう誰も継ぎ手がいないから、新しいお客さんは来なくていいの」と、観光客にモノをまったく売る気のないお店や「また来てくださいね」と、丁寧に対応してくれるお店などさまざまな姿勢のお店が混在していました。

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この街の裏通りは、住人の暮らしと観光地然としたものが渾然一体となっているところで「いま」という時間を紡いでおり、この先世代交代が進んだときにどのようになっていくのか目が離せないところにまた魅力があるのだろうと思います。だから、私は幾度となく足を運び、そこで自分が働いて得たお金を落としていく。旅行者は街の維持と関係ないように見えて、実は少しだけ参加している存在なのかもしれない気がします。

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さて、ひがし茶屋街の裏手をぐるぐる歩いているなかで、最近新しい息吹を感じる場所を見つけました。 古い建具屋さんの家を手直しして今風に使っている外観。「ひがしやま荘」と名付けられた建物には2つのアトリエと3つのショップが入っており、調べてみると金沢発“家を「おくる」プロジェクト”で“おくりいえ”をされた建物でした。 この“おくりいえ”は、何らかの事情で持ち主が手放してしまう家の最期を皆でそうじをして見送り、気に入ったものは持ち帰ってよいという内容で、伝統文化や歴史を伝える町家が多く残る金沢らしいイベントです。 初めてここを訪れた際は「本日は一般開放していません」と断られ、再び、ふとまた足を止めて中をのぞいたら「どうぞ」と言われ、吸い込まれるように中へ。すると奥のほうに活版の活字がたくさん並んだ空間がありました。昔懐かしい活版印刷です。 「ここでどんなものを印刷しているのですか?」と聞いてみると「おもに名刺を作っています」との答え。次に名刺を作るならばあたたかみのある活版印刷で、と思っていた矢先のこと、早速相談してみることにしました。

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活版印刷「ユートピアノ」を営む松永紗耶加さんは、旅行で訪れた金沢の町が気に入り、関西から移り住んでアート活動を行っていました。ある日、活版を使った作品制作をお願いしたことのある富山県小矢部市の印刷所が廃業することになり、その際に活字を金属業者に売ろうとしていたことを松永さんは知りました。「せっかく丁寧に作られた活字を溶かし、グラム単位で売られるなんてもったいない!」と彼女が全部引き取ることに。それにあわせて技術の習得もしなくてはいけないため、字を探すところから、版の組み方、刷り方など一から教わったそうです。 活版印刷は一文字ずつ活字を探して版を組んで作っていくので時間がかかります。また、足りない文字は遠方から取り寄せ、文字数や英文であるかそうでないかなど、必要な要素によってずいぶんと値段が変わってきます。一言一句、丁寧に紙に書き起こしていく松永さんの手先を眺めながらやりとりしていくうちに、不思議と自分の中心にあるものがすっと立ち上がり、名刺に仕事を表すひとことを入れてみることにしました。無駄に文字を使えない緊張感は、ふだん自分の書く文章にもつながってきて反省しきり。そのようなことで、ひとつ、気持ちが固まったところで新しい名刺が完成し、後日に手元に届きました。 茶屋街でのひとつの発見。古きものを古く美しいさまとして残すためには「精神」が必要で、そこにあるものは今となっては旅行者には目新しいものとして見えてくるのかもしれないなあと思ったりするのでありました。そこに暮らしている人たちは、特に意識していない感覚なのかもしれませんが。だから、観光地として有名なのに、観光地然としていないところがこのエリアにはあります。金沢の味わい深いところを、またひとつ知ることができた気がします。 さて、次回は金沢のスイーツといえば、和菓子。店頭販売していない特別な和菓子を求めて、東山の和菓子職人のもとを訪ねてみることにします。

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