
愛と色気が織りなす魔法の9皿。代々木上原のレストラン「Gris’(グリ)」【街とお店のおいしいはなし。#4】
2018.01.14

※こちらの記事は2018年1月14日に公開したものです。
「はじめに言っておくと、うちの料理メチャクチャうまいですよ?」レストランで、いきなりそんなことを宣言されたら「本当に?」と疑ってしまいます。
しかし今回取材したお店、料理の見た目も味もシェフの人柄も、全てが予想を上回るスペシャルなお店でした。
「はじめに言っておくと、うちの料理メチャクチャうまいですよ?」レストランで、いきなりそんなことを宣言されたら「本当に?」と疑ってしまいます。
しかし今回取材したお店、料理の見た目も味もシェフの人柄も、全てが予想を上回るスペシャルなお店でした。

というわけで今回お話をうかがったのは、代々木上原にあるレストラン『Gris(グリ)』シェフの鳥羽 周作さんです。

―鳥羽シェフ、最初からそんなにハードルあげて大丈夫ですか?
鳥羽:そのハードルを越えるのがプロでしょ! 僕らはその日のお客さん全員の100点を狙って料理するから70点狙って料理しているようなお店とはわけが違う。
これ以上おいしいものはつくれない!って料理のためには惜しげもなく時間を使うし、料理を出すベストなタイミングでお客さんが席を立ったら躊躇なくつくりなおす。
まいっか、なんて料理は絶対に出さない。これだけ愛を注いでいたら、そりゃおいしいでしょ(笑)?
―も、ものすごい情熱です。それにしてもレストランって、なかなか来ないので緊張します。代々木上原っておしゃれだし、敷居が高いというか…。
鳥羽:うちはお金持ちでグルメな人たちのためだけのお店じゃないです。毎日レストランに通っているような人たちよりも、若い人たちがちょっと背伸びして来てくれるほうがよっぽどうれしいです。
ことりっぷを読んでる方たちも、気負わず料理を楽しみに来てもらいたいですね。
―ではリラックスして…お料理を、さっそくいただきたいと思います。
鳥羽:そのハードルを越えるのがプロでしょ! 僕らはその日のお客さん全員の100点を狙って料理するから70点狙って料理しているようなお店とはわけが違う。
これ以上おいしいものはつくれない!って料理のためには惜しげもなく時間を使うし、料理を出すベストなタイミングでお客さんが席を立ったら躊躇なくつくりなおす。
まいっか、なんて料理は絶対に出さない。これだけ愛を注いでいたら、そりゃおいしいでしょ(笑)?
―も、ものすごい情熱です。それにしてもレストランって、なかなか来ないので緊張します。代々木上原っておしゃれだし、敷居が高いというか…。
鳥羽:うちはお金持ちでグルメな人たちのためだけのお店じゃないです。毎日レストランに通っているような人たちよりも、若い人たちがちょっと背伸びして来てくれるほうがよっぽどうれしいです。
ことりっぷを読んでる方たちも、気負わず料理を楽しみに来てもらいたいですね。
―ではリラックスして…お料理を、さっそくいただきたいと思います。
想像を超える魅惑の3皿

ディナーのコースメニューは9皿のコース。内容は2カ月に1度変わります。「もの凄い鯖 ビーツ ざくろ」など食材の名前が並ぶシンプルなメニューからは、料理の姿が全く想像できません。
鳥羽:うちでは9皿できっちり満足してもらいたいからデザートまで出します。帰りにハーゲンダッツとか買わせません(笑)。
でも安定感ある料理が続いたら、途中で飽きるじゃないですか。だから真面目な皿もあれば驚くような皿もある。
次は何が出てくるんだろう?ってドキドキする構成にしています。
鳥羽:うちでは9皿できっちり満足してもらいたいからデザートまで出します。帰りにハーゲンダッツとか買わせません(笑)。
でも安定感ある料理が続いたら、途中で飽きるじゃないですか。だから真面目な皿もあれば驚くような皿もある。
次は何が出てくるんだろう?ってドキドキする構成にしています。


今回は、特別に3皿を食べさせてもらいました。
まず1皿目は「もの凄い鯖 ビーツ ざくろ」。
鳥羽:もの凄い鯖という干物を使ってるんですが、これはふつうの干物に比べても脂がたっぷりのってるんですよ。この脂をマッシュポテトで支えつつ、酸でひきしめる。
酸味の正体は、ビーツとフランボワーズとはちみつ、それにざくろ。官能的で甘美な香りが加わって、見た目に色気がでる。
まず1皿目は「もの凄い鯖 ビーツ ざくろ」。
鳥羽:もの凄い鯖という干物を使ってるんですが、これはふつうの干物に比べても脂がたっぷりのってるんですよ。この脂をマッシュポテトで支えつつ、酸でひきしめる。
酸味の正体は、ビーツとフランボワーズとはちみつ、それにざくろ。官能的で甘美な香りが加わって、見た目に色気がでる。

続いていただいたのは「かき ゆりね」。
鳥羽:菊芋のピューレにかきとゆりねのフリット。一緒に食べると魚介のシーフードシチューみたいな強い旨味のする一皿です。
ピューレとフリットだけだと、もわ~っとしちゃうんですけど、それを酸味のきいたおかひじきのサラダと辛味のある黒だいこんのサラダで、バシッと切ってます。
鳥羽:菊芋のピューレにかきとゆりねのフリット。一緒に食べると魚介のシーフードシチューみたいな強い旨味のする一皿です。
ピューレとフリットだけだと、もわ~っとしちゃうんですけど、それを酸味のきいたおかひじきのサラダと辛味のある黒だいこんのサラダで、バシッと切ってます。

そして最後にいただいたのは「ティラミス」
鳥羽:ティラミスって温度が中途半端で食感がないから飽きやすいスイーツなんです。なので山椒のアイスとごぼうチップスでバランスをとっています。
クラシックなスイーツもこうやって再構築することで新しい一皿になるんです。
鳥羽:ティラミスって温度が中途半端で食感がないから飽きやすいスイーツなんです。なので山椒のアイスとごぼうチップスでバランスをとっています。
クラシックなスイーツもこうやって再構築することで新しい一皿になるんです。

3皿とも鮮やかで驚くような組み合わせ。
でも食べてみると、見た目の派手さよりもずっとほっとする味なんです。そのギャップとバランスの秘密はいったい…? 鳥羽シェフに、さらに聞いてみました。
でも食べてみると、見た目の派手さよりもずっとほっとする味なんです。そのギャップとバランスの秘密はいったい…? 鳥羽シェフに、さらに聞いてみました。
「おいしさ」の秘密は、色気と愛
―食べたことのない見た目なのにどれも安心する味で、とにかく驚きました。
鳥羽:みんなの予想がつかない組み合わせで、みんなの食べたことある味の記憶に少しだけ寄せた料理をつくるのが、僕らのイケてるところ(笑)。
バターも油も極力使わずやさしい味にするぶん、酸味で輪郭をつけたり、旨味でボリュームをだしたり。とことん食べる人を想ってつくってます。
だから僕らの料理には、愛と色気がある。うちは現代フレンチじゃなくて現代ハレンチなんです(笑)。
鳥羽:みんなの予想がつかない組み合わせで、みんなの食べたことある味の記憶に少しだけ寄せた料理をつくるのが、僕らのイケてるところ(笑)。
バターも油も極力使わずやさしい味にするぶん、酸味で輪郭をつけたり、旨味でボリュームをだしたり。とことん食べる人を想ってつくってます。
だから僕らの料理には、愛と色気がある。うちは現代フレンチじゃなくて現代ハレンチなんです(笑)。

―見た目には色気、味には愛。なるほど「現代ハレンチ」って言葉も、ものすごく説得力があります。1皿目の「もの凄い鯖」をはじめ、食材にもこだわりがみえますが…?
鳥羽:そうですね。産地の人たちのことが好きで、彼らの食材でしか完成しない料理ってあるんです。今は誰でも、生産者さんの畑に行ってきました!ってアピールができますけど、問題はその食材じゃなきゃできない料理になっているかどうかなんです。
結局、彼らの顔を潰すのも生かすのも、僕ら次第なんですよね。料理っていうツールをつうじて、食べる人たちへ生産者さんを紹介していくんですから。だから彼らに恥ずかしい思いなんか絶対させちゃだめなんです。
万が一、彼らのつくった食材がクオリティ低く伝わってしまうようなことになるなら、お客様に出しません。何があってもやりなおします。
鳥羽:そうですね。産地の人たちのことが好きで、彼らの食材でしか完成しない料理ってあるんです。今は誰でも、生産者さんの畑に行ってきました!ってアピールができますけど、問題はその食材じゃなきゃできない料理になっているかどうかなんです。
結局、彼らの顔を潰すのも生かすのも、僕ら次第なんですよね。料理っていうツールをつうじて、食べる人たちへ生産者さんを紹介していくんですから。だから彼らに恥ずかしい思いなんか絶対させちゃだめなんです。
万が一、彼らのつくった食材がクオリティ低く伝わってしまうようなことになるなら、お客様に出しません。何があってもやりなおします。

必然性と高いクオリティがあるからこそ、お客さんに対して食材の良さをプレゼンできる。お客さんへの愛だけでなく、生産者さんへの愛の深さに、圧倒されてしまいました。
世界の先に見ているもの
―ところで、先ほどから「僕“ら”」とおっしゃっていますが…?
鳥羽:うちは、全員がスターなんですよ。もちろん僕もつくれますけど、今は若いスタッフたちに料理を任せています。
鳥羽:うちは、全員がスターなんですよ。もちろん僕もつくれますけど、今は若いスタッフたちに料理を任せています。

鳥羽:彼らが試合に出る機会を与えなければ、チームとしてのレベルは上がらないです。僕がつくらないとおいしくない店なんて、価値がないですから。
だから僕の仕事は、機会をつくることなんです。そしてその期待に応えてくれている彼らに対しては、自分の家族と同じくらい大切にしています。
だから僕の仕事は、機会をつくることなんです。そしてその期待に応えてくれている彼らに対しては、自分の家族と同じくらい大切にしています。

―若い人たちの育成に力をいれているんですね。
鳥羽:今って食材のサスティナビリティが叫ばれてるけど、それ以前に、料理業界の人材のサスティナビリティについて危惧しています。安い賃金で長時間働くのがストイックかっていうと、そうじゃないじゃないですか?
でもこの業界では、それが当たり前になってる。料理におけるストイックさっていうのは、出てきたものでしか計れないじゃないのに、長年やってきた人たちからしたら、現状の環境は変えようがないんですよね。でもこのままだと、必ず息切れしてしまう。
―なるほど、今の労働環境のままでは若い人たちも疲弊しきってしまいますね..。
鳥羽:これからの時代、シェフが料理以外で稼ぐモデルケースをつくっていくべきと考えてます。たとえばメニュー開発とかレストランのコンサルティングとか。
そういうところでお金をいただいて、自分がもらっていた給料は、若い人たちへ配分する。若い人たちのモチベーションをつくって、きちん環境を整えれば、料理業界はもっとよくなるんですよ。
鳥羽:今って食材のサスティナビリティが叫ばれてるけど、それ以前に、料理業界の人材のサスティナビリティについて危惧しています。安い賃金で長時間働くのがストイックかっていうと、そうじゃないじゃないですか?
でもこの業界では、それが当たり前になってる。料理におけるストイックさっていうのは、出てきたものでしか計れないじゃないのに、長年やってきた人たちからしたら、現状の環境は変えようがないんですよね。でもこのままだと、必ず息切れしてしまう。
―なるほど、今の労働環境のままでは若い人たちも疲弊しきってしまいますね..。
鳥羽:これからの時代、シェフが料理以外で稼ぐモデルケースをつくっていくべきと考えてます。たとえばメニュー開発とかレストランのコンサルティングとか。
そういうところでお金をいただいて、自分がもらっていた給料は、若い人たちへ配分する。若い人たちのモチベーションをつくって、きちん環境を整えれば、料理業界はもっとよくなるんですよ。

―ものすごい発想です。料理業界全体を変えるためには、どうしたらいいんでしょう。
鳥羽:自分のまわり10人を幸せにしたいならきれいごとだけ言っていればいいんですけど、業界全体を変えるぞ!1万人単位で人を幸せにするぞ!ってなるとビジネスライクなこともやっていかなくちゃならないって思ってます。
現状を変えていくためには、評価されて、有名になる必要がある。分母を増やさないと背負える分子も増えないから。そのために僕はしたたかに世界を目指します。世界で評価されて有名になることで、業界の当たり前を変えます。
―「世界で評価されること」とか「有名になること」がゴールじゃないんですね…!
鳥羽:そう。5年先・10年先の料理業界を変えたい。そこへ最短でいくための通過点でしかありません。でも、僕らならやれます。
毎日100人に話をして20人が僕を応援しようと思ってくれるとして…それを5日続けたら100人もサポーターができる。だから今日もこうやって語っているんです(笑)。
料理への情熱もさることながら、食べる人、食材をつくる人、若手の料理人のこと、業界の未来のこと… 鳥羽シェフをとりまく人や環境への愛情の深さに、感激しっぱなし…。
こんなお話を聞いたら、応援したくなってしまいます。ぜひみなさんも、驚きと愛に満ちた料理を楽しみに、気軽な気持ちでGrisへ訪れてみてください。
鳥羽:自分のまわり10人を幸せにしたいならきれいごとだけ言っていればいいんですけど、業界全体を変えるぞ!1万人単位で人を幸せにするぞ!ってなるとビジネスライクなこともやっていかなくちゃならないって思ってます。
現状を変えていくためには、評価されて、有名になる必要がある。分母を増やさないと背負える分子も増えないから。そのために僕はしたたかに世界を目指します。世界で評価されて有名になることで、業界の当たり前を変えます。
―「世界で評価されること」とか「有名になること」がゴールじゃないんですね…!
鳥羽:そう。5年先・10年先の料理業界を変えたい。そこへ最短でいくための通過点でしかありません。でも、僕らならやれます。
毎日100人に話をして20人が僕を応援しようと思ってくれるとして…それを5日続けたら100人もサポーターができる。だから今日もこうやって語っているんです(笑)。
料理への情熱もさることながら、食べる人、食材をつくる人、若手の料理人のこと、業界の未来のこと… 鳥羽シェフをとりまく人や環境への愛情の深さに、感激しっぱなし…。
こんなお話を聞いたら、応援したくなってしまいます。ぜひみなさんも、驚きと愛に満ちた料理を楽しみに、気軽な気持ちでGrisへ訪れてみてください。

Gris(グリ)
03-6804-7607
12:00〜13:30(L.O.) ※土、日、祝日のみ、18:00〜21:00(L.O.)
水曜、月2回火曜


白方はるか
1988年生まれ、清澄白河在住。ビールと日本酒が大好きな編集者・ライター。ふだんはGMOペパボ株式会社のWebメディア『よむよむカラメル』(http://pickup.calamel.jp/ )をはじめEC事業部のPRディレクターとして活動中。『街とお店のおいしいはなし。』ではイラストも担当。
※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。
文:白方はるか 写真:冨樫実和 編集:島田零子