日本の原風景を守る「シェアビレッジ」プロジェクトとは【古民家のタネ】
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日本の原風景を守る「シェアビレッジ」プロジェクトとは【古民家のタネ】

「日本の原風景」と聞くとどんなイメージを浮かべますか? 苔の生えた茅葺の屋根、スイカを食べた縁側、つるりとした大黒柱…日本の古き良き生活の匂いが残る「古民家」を頭に思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。 しかしながら、近年古民家は減少の一途を辿っています。 「シェアビレッジ」はそんな古民家を再生し、日本の原風景を守るために2015年に立ち上がったプロジェクト。 「シェアビレッジは新しい暮らし方の提案なんです」 そう話すのはこのプロジェクトを立ち上げた株式会社kedama代表の武田昌大さん。 いったいどんなプロジェクトで、今後はどんなことを仕掛けていくのか。 同じく武田さんが手がける東京日本橋のおむすびスタンド「ANDON」で話を聞きました。 (メインカット写真提供:シェアビレッジ仁尾)

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取り壊し寸前の古民家との出会いから「シェアビレッジ」構想へ

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武田昌大さん。2010年から、秋田県米を生産する若手農家集団「トラ男」プロジェクトをスタート。クラウドファンディングを活用した農家と消費者のコミュニティ作りを行い、今までの「きつい、汚い、かっこ悪い」という農業のイメージを刷新している

武田さんは、秋田出身の1985年生まれ。 秋田の高校を卒業し、関西の大学に進学し、卒業後は東京に就職しました。 「都心に憧れる典型的な田舎の子ども」だった武田さんに転機が訪れたのは24歳。 帰省した際にシャッター街と化した地元の風景を見たときでした。 「日本一人口が減少している秋田(2017年時点)と、日本一人口の多い東京のギャップを目の当たりにしてはじめて、人口減少の課題が自分ごとになりました。このままいくと自分の故郷がなくなるのではないかと焦りを感じましたね」(武田さん)

人口を増やすためにはどうしたらいいんだろう。 ただ声高に「来てください」と移住者を求めたところで人は集まるわけではない。 そうかと言って観光客を増やしたところで一時の点の関係で終わってしまう。 「観光だけではなく、町の人や文化と触れて、もっと秋田を感じられるような滞在をしてもらう場所が必要だと思っていました」(武田さん)

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秋田・五城目町にある「シェアビレッジ町村」(写真提供:シェアビレッジ町村)

場所探しをはじめて間もない2014年5月、武田さんは知人の紹介で秋田県の五城目町にあるとある古民家を紹介されます。 紹介された築135年の古民家は、観光ポスターにも使われた見事な茅葺の古民家でした。 「古民家をひと目見て懐かしさを感じました。同時に古民家には昔から脈々と受け継がれた暮らしの工夫が残されていることにも気付かされたんです。まさに探していた理想の場所でした」(武田さん) しかし、そこでショッキングな事実を告げられます。それまでオーナーがなんとか費用を捻出して維持してきたこの家を、維持費が高額であることや住む人がいないことを理由に、やむなく取り壊すことを決めていたのでした。 「一目ぼれした人に出会ってすぐに余命宣告をされた気分でした(笑) 。あの古民家を後世に残したい。残すためにはどうすれば良いのか。その日、秋田から東京に帰る深夜の高速バスの中で寝ずに考えました」(武田さん) 家を一人で維持していくことが難しいという現実。そうであれば多くの人たちで支える仕組みにすることはできないか。そう武田さんは思いを巡らせます。 いきついた答えは、家の維持費をみんなで分け合う「シェアビレッジ」という仕組み。

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村民(会員)が古民家維持のために、自分のスキルを提供する「助太刀」という取組も行っている。一緒に掃除をすることも「助太刀」のひとつ。「現地の人と都市部の人が協力して村を作っていく。新しい村づくりが始まっています」(武田さん)(写真提供:シェアビレッジ町村)

「古民家を村に見立て、一緒に村(古民家)を守ってくれる会員さんを“村民”と呼び、年会費を“年貢”と呼んでいます。集めた年貢(年会費)を古民家維持に充てながら、村民(会員)はいつでも自分の村(古民家)に行き、宿泊して現地の暮らしを体験できるというのがシェアビレッジの仕組みです」(武田さん) シェアビレッジ。 直訳すると「村を分け合う」ということ。なぜ「村」なのか。 「あの古民家の理想の姿を想像してみたら、地元のおじいさんやおばあさんが土間に座り、都市からきた若者と談笑している風景が思い浮かびました。その風景そのものがひとつの“村”のようだったんです。いろんな人がまざり助け合うことで、村のように維持されていくことを願って、このネーミングにしました」(武田さん) その後改装費用をクラウドファンディングで集め、2015年5月「シェアビレッジ町村(まちむら)」がオープンしました。 古民家との出会いからシェアビレッジオープンまで、わずか1年のことでした。

「シェアビレッジ」の詳細はコチラ

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「里帰り」できる場所を増やすこと。地元の人との交流から見える移住対策

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年貢(年会費)には3240円~25000円までのコースがあり、それぞれに応じて受けられるオプションが異なる。たとえば5400円のコースであれば、シェアビレッジの古民家に宿泊する際のクーポンが届いたり、秋田産のお米が届くといったオプションが用意されている(写真提供:シェアビレッジ町村)

プロジェクト開始から2年半で集まった村民(会員)は2,000人。さらにはこのユニークな取り組みが評価され、2015年9月にはグッドデザイン賞を受賞。2016年5月には香川県三豊市仁尾町に第2村目「シェアビレッジ仁尾」をオープンしました。 「今は秋田と香川の2つの村しかありません。現実的に村に行くことができない村民(会員)は多い。そんな村民の方たちのために、都市部開催の“寄合”という名の飲み会を定期的に行っています。村民同士で“村”について語らうことや、チャットなどを通じて現地と会話をすることで村とのつながりを感じてもらっています」(武田さん) こうしたイベントを繰り返すと村民同士で仲間意識が育まれるそう。村民同士で現地に遊びにいくツアーを「里帰り」と呼び、現地の暮らしを仲間で体験できるアクティビティも実施しているとのことです。

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「里帰り」の様子。地元の人との賑やかな交流が生まれている(写真提供:シェアビレッジ仁尾)

「シェアビレッジ」の取り組みは、当初の課題だった人口減少についても解決の糸口になり始めています。秋田県五城目町の「シェアビレッジ町村」オープンからわずか1年で、シェアビレッジをきっかけに移住者が20人まで増えました。 移住者を増やすことができた理由に、地元の人との交流を挙げます。 「古民家で地元の人と一緒にご飯を食べること。たったこれだけのことでも、町を知り、町を好きになるには十分だと思います。その地に住みたいと思う決め手は、景色や美味しいご飯や文化だけではなく、“そこに行けば面白い人がいる”というワクワクと、現地の人が助けてくれるという安心感なのではないでしょうか」(武田さん)

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東京と地域をつなぐ拠点「ANDON」からこれからの日本の暮らしを考える

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「ANDON」は 、1階のカウンターは、昼はおむすびスタンド、夜は秋田の日本酒の立ち飲み屋として営業。2階は本屋兼飲食スペース、3階の座敷はイベントスペースとして利用できるなど、各階テーマの異なる展開をしている。2017年10月にオープン(写真提供:ANDON)

話を伺った日本橋・小伝馬町の「ANDON」は、武田さんが手がける「おむすび屋」さん。 「秋田のことを東京でもっと知ってもらうための拠点が欲しかった。おむすびをテーマにしたのは秋田のお米を食べてもらいたいという想いはもちろん、おむすびの具に他の地域の食材を入れることで地域間のコラボができるのでは、という狙いもあります」(武田さん)

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ランチメニュー。お好きなおむすび 2 個と香の物。具沢山のお味噌汁付きで650 円

実際に、日本中の町から具材を提供してくれる人が増えていて、具材を提供する人が具材と一緒に地域の課題も持ち込んでくるという面白い現象も起きているそう。 「僕は“ネオ参勤交代”と呼んでいるのですが(笑)。地域課題に取り組むプレイヤーが、おむすびの具材と一緒に地域の課題を運んできて、ANDONでおむすびを食べながら議論を尽くす。そして持ち帰って現地の取組につなげる、そんな流れができ始めています」

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3階の座敷では、貸切の宴会のほか、少人数のスクールも始めている

最後に、今後の展望を聞きました。 「僕らが目指しているのは、暮らし方の選択肢を増やしていくこと。そのために日本中に“村”を作り、楽しい暮らしを提案し続けたい。実は着々と次の“村”の準備を進めていて、すでに12村目まで計画されています。今後も増やしていきたいと思っています。それはすなわち“ふるさと”が増えるということだから。日本中に自分のふるさとがあると思うとワクワクしませんか?」(武田さん) ---------------- これからの暮らしを考えたい都市部の人を、地域へ運ぶ「シェアビレッジ」という“仕組み”があり、地域課題に取り組む人たちが、解決策を共有しあうために集まる「ANDON」という東京の“拠点”がある。 「ANDON」という名前には、町を照らす「行燈」のような存在でありたいという願いと、ずっと続けていく(AND ON)という願いをかけ合わせているそう。 「シェアビレッジ」と「ANDON」。武田さんが手がけるこれらの取り組みは、これからの日本の暮らしを考える人にとっては新しい灯台として、地域の課題に向き合う人にとっては道標として、これからも明るく灯し続けていくのではないでしょうか。

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「シェアビレッジ」の詳細はコチラ

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文・写真:平山高敏 編集:島田零子

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