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2018.05.28
「宿泊」を超えた、あたたかなもてなしに包まれて。[小とりの宿/長野県長野市]byONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から長野県長野市の「小とりの宿」を紹介します。
1日1組限定の、小さな住宅地の宿。

小さな木の看板が、旅の止まり木のような宿へ導く。
ひとり旅に出たくなったら、あなたはどんな宿を選びますか? 誰とも話さずに済むビジネスホテルだったり、高級な温泉宿だったり、ゲストハウスだったり。じっくり考え事をしたい時にはひとりで気楽に過ごせる宿もいいでしょう。でもせっかくの旅なら、ただ泊まって帰るだけの宿よりも、その先の日常に何か変化を起こすような、新しい出会いのある宿の方がワクワクしませんか? そんな宿が、長野県長野市にあります。
観光地にありながらひっそりと、女性ひとりで経営。

宿の名は、実は大家さんのお父さんが40年前に命名。「庭で小鳥が遊べる宿を作りたい」と家に看板をつけたそう。
『小とりの宿』とは可愛らしい名前です。善光寺から歩いて5分ほどの住宅街で、オーナーの福田舞子氏がそっと営んでいます。鳥のおうちのような看板を目印に小さな路地を抜けてたどりついたそこは、普通の民家のような平屋造りの一軒家。淡いピンクの漆喰壁に、木のドアが取りつけられ、「cotori」のサインが屋号を告げています。

インテリアは、店舗施工も手がける『美学創造舎マゼコゼ』の小池雅久氏や近所の仲間、夫などみんなで力を合わせた。
木の香りに囲まれ、山小屋で過ごすようにのんびりと。

染色家夫婦や大学院生らと協力し、木のぬくもりを感じる山小屋風の空間に。
入ると中は色合いの異なる古い木を組み合わせたデザインが特徴的な、あたたかみのある雰囲気。畳に一枚板のテーブルが配された部屋や、木造りのカウンターのある台所、洗面台も壁も木製のお風呂。どこもかしこも木の香りがする室内は、まるでロッジのよう。そう、この宿は「山小屋」をイメージして作られた空間なのです。何しろ、福田氏は山が大好きな筋金入りの「山ガール」。自身も山小屋やペンションで働いたのち、北アルプスに近いこの長野に「登山者が山に登る前後に泊まれるように」と、この宿をオープンしました。
「会社に行くより山に行きたい!」で退職(笑)。

柔らかな関西弁の福田氏(左)。隣は夫で大工の真享氏。
福田氏は大阪出身で、大学卒業後は旅行情報誌の制作に携わっていました。その頃から山が好きで、北アルプスの魅力にはまり、週末には毎週登りに行くという生活を送っていました。しばらく「平日は会社で休日は山」というスタイルを続けていましたが、ついに「会社より山」という気持ちが強くなり、2010年、28歳の時に退職。「9月30日に辞めて、10月1日にはもう山にいました(笑)」と福田氏。 よく訪れていた北アルプスの、電気も水道もない標高2,600mの地にある船窪小屋で小屋番として働くことに。そこでの経験が福田氏を大きく変えたといいます。 経営しているのは80歳を過ぎたお父さんとお母さん。自然に最も近い山での生活の中で、人は生きるために様々な工夫をしなくてはなりません。特に食べること。「山小屋での仕事って、ほとんど料理を作ることなんです。朝から登る人のために朝ご飯を用意して、夕方帰ってくる人のために昼間は夕ご飯の仕込み。食材が貴重なので、どう全部使い切るか、どう保存するかを工夫しなきゃならないんです」と話す福田氏は、会社勤めの頃から誰かに料理を作って食べてもらうことが好きだったといいます。 夏の時季には山小屋で、冬のオフシーズンはペンションで働くことで、長野の食材を生かしたご飯作りの知識を蓄積していきました。
食べ物の仕事、宿の仕事、両方やりたい。

朝食も土鍋ご飯。善光寺平産のキヌヒカリを近所で精米してもらうという。
「宿泊業」ということにも魅力を感じていました。特に登山者との交流。「山が好きな人ってみんな、山の話をする時は目がキラキラするんです。自分も山が好きなので、聞いていても話していても楽しいし、幸せを感じます」と福田氏は言います。都会でサラリーマンをしていると、パソコンだけでのコミュニケーションや、顔の見えないやりとりばかり。「だから、人ってこんなに反応が返ってくるんだ!と驚きました」と福田氏。ありがとう、美味しい、嬉しい……。そんな手応えを直接感じられる「宿」の仕事と、最も人の笑顔を見られる「料理」の仕事の両方ができることをしたい。そう思って開いたのが、この『小とりの宿』です。
コツコツと仲間の手を借りながら、ほぼ廃屋(!)を改修。

「最初、ひとりで掃除していたら近所の人が『何だろあの子』って心配して、手伝ってくれた(笑)」と福田氏。
知り合いの不動産屋の紹介で見つけたのがこの古民家。10年以上も空き家になっていて、「借りてくれるだけでもありがたい」とまで言われるような、ボロボロの廃屋状態でした。それを1年かけて掃除し、長野に通ううちに知り合いになった美術家、染織家、信州大学の建築系学生などで改修。最初は野良猫屋敷だった家が、母屋や離れに庭も綺麗に整えられ、あたたかみのあるログハウスのような宿に生まれ変わりました。
「知恵が食べ物を美味しくする」と知る。

ある日の夕食のメイン、『豚肉とりんごのシチュー』。肉とリンゴは相性が良いという。
お客さんは、1日1組と限定的ですが、不思議と宣伝をしなくても口コミで予約が埋まったといいます。訪れた人に感想を聞くと、誰もが「料理が美味しい!」と口を揃えます。

「土鍋でご飯を炊く時は水ではなくお湯がいいんですよ」と福田氏は教えてくれた。
高級素材というわけでもなく、長野にある野菜、お米、山菜、肉などを使い、発酵調味料の力で食材の持つあらゆる栄養と美味しさを引き出して、どれも滋味深い味わいに仕上げたメニューが夕食や朝食に並びます。 例えば桃を仕入れたらサラダにしたり、スパイスをきかせて豚肉と桃の煮込みにしたりと、桃づくしのコースに。こういった料理のアイデアには、今まで働いてきた山小屋や、近所で仲良くなった人たちから教わった知恵が存分に詰まっています。
帰った後も暮らしに生かせる「小ワザ」がいっぱい。

夕食の前菜プレート。豆腐も、季節の柑橘を絞って塩でシンプルに。
夕食の時、福田氏は料理一つひとつについて丁寧に話をしてくれます。食事を妨げながらのレクチャーなどではなく、「カボチャでも何でも種を素揚げすると美味しい」「身体の熱を下げる夏野菜をあたたかいスープにすると良い」など、誰もが「帰ってからやってみよう」と思えるような、ちょっとしたコツや小ネタがいっぱい。料理だけではありません。「入浴剤の代わりにハーブをお風呂に入れる」など、食だけでなく生活を豊かにするちょっとした工夫もたくさん見せてくれます。宿泊者は、帰ってからも教わった「小とりの宿の知恵」を毎日の暮らしに生かすことができるのです。
小とりワールドを形にして発信したい。

ご近所さんも待ち望んでいたランチ営業。福田氏の味に気軽に出合える。
「宿」だと近所の人がなかなか来られない、ということで最近、要望が多かったランチ営業を始めました。火・水・木曜の12時から『小とり食堂』としてランチセットを提供しています。メニューは前菜プレート+メインプレート+土鍋ご飯のランチセットで1,500円。メインの一例は、マスタードをきかせた豚肉の黒ビール煮込みや、サワークリームソースのロールキャベツ、チキンのバターカレー煮込み……。ランチのためだけにでも長野を訪れたくなるほど魅力的です。更に料理を食べたら絶対、「今度は泊まりに来よう」と誰もが思うのです。

今でも、レシピ本の監修などを手がけることも。
今後は、これまで蓄積した小とりの味を伝える料理教室をスタートさせる予定で、いつか「小とりの台所」として本にする計画もあるとか。刊行が今から楽しみです。 写真提供:小とりの宿

小とりの宿
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ONESTORY

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