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2020.06.10
雨の日が楽しくなる和傘の魅力をより多くの人に/和傘職人・河合幹子さん
数多くのパーツを組み合わせて出来上がる伝統工芸品・和傘。 岐阜市の長良川河畔から西へ続く街並み、通称「川原町」にある「長良川てしごと町家CASA」と工房を訪ねて、和傘作りの工程をほぼ一人で行っている「仐日和(かさびより)」の河合幹子さんにお話を伺いました。
プロフィール
河合幹子(かわいみきこ)/岐阜県出身。2016年7月にオリジナルブランド「仐日和(かさびより)」を立ち上げ。2018年5月からは「長良川てしごと町家CASA」内の「和傘CASA」で主に販売している。
すんなりと戻ってこられた なじみのある和傘作りの現場
夜にラジオを聴きながら作業することもあるとか
河合さんの母方の実家は、製造を手掛ける老舗の和傘問屋。幼少の頃から和傘作りの現場は身近にありました。 大学卒業後は東京で別の仕事に就いていましたが、27歳の時に和傘問屋を続けている親戚から声がかかったことをきっかけに、職人を志すことに。当時の職業からは大きな変化がありましたが、抵抗はなかったそうです。 「昔見た祖母の姿もよみがえりましたし、手に職をつけて、長く続けられる仕事に携わりたいという気持ちもありました。職人や出荷数が減っている岐阜和傘の現状も聞いていたので、自分に何かできることがあれば、とも思いました」
地道な作業の後にたどりつく 傘を開く瞬間の達成感
補強と装飾を兼ねた“かがり”
岐阜の和傘作りは分業が基本ですが、河合さんはほとんどの工程を一人で進めています。骨組みとなる竹や和紙など、さまざまな素材を組み合わせて作る和傘。和紙は地元の美濃和紙を中心に、京都などからも仕入れています。 現在、1か月に作れる数は20本ほど。1本ずつ作るのではなく、工程ごとにまとめて数本ずつ作っていきます。地道な作業の積み重ねで完成した傘を広げたとき、ようやく和傘作りの醍醐味を感じる瞬間が訪れるそうです。出来の良し悪しを見て、次につながる改良点を確かめていきます。 「昔の職人さんに比べると、製作を経験できる数は減っていますから、一本の製作で、より多くの経験値を得られるように心がけています」。
よりよい仕上がりを目指して 細部にわたる改良
「和傘CASA」のディスプレイ。伝統的な柄「月奴」(写真中央)もオレンジを使いフレッシュな印象に
2016年にオリジナルブランド「仐日和」を立ち上げた河合さん。主な販売拠点は2018年に開店した「和傘CASA」で、オンラインショップからの注文も可能です。 昔からある蛇の目や月奴(つきやっこ)などのデザインも、和紙の色や柄を工夫するとモダンになったりポップになったり、ぐっと印象が変わります。商品デザインの決定については、和傘CASAの店長、河口郁美さんと一緒に相談しながら決めていくことが多いとか。古くは〝女性は蛇の目傘、男性は番傘を使う〞とされてきましたが、イメージを払拭したいと思い、男性にも蛇の目傘を使ってもらえるように、グレーの縞模様など落ち着いたデザインに仕上げるなど、使う人をイメージした提案もしています。
手軽さを求めがちな今、和傘を持つ良さとは
「写し染め」という技法で藍の葉を染めた美濃和紙の日傘(49,500円)
一般的な洋傘に加え、安価なビニール傘の利用も増えている近年。和傘の良さをあえて河合さんに尋ねてみました。 「和傘を強くすすめる理由をあげるのは難しいのですが」と前置きしながら、「雨が和傘に当たる音は、洋傘にはないものです。和紙が弾ける音というか。〝和傘を使うようになったら、雨の日が楽しみになった〞という感想も頂いたので、和傘は初めてという方にも魅力を見出して頂きたいです」 和傘は特別な手入れが必要なのでは?という声もありますが、使った後、日陰などで広げて乾かしておけばよいだけだそう。「軽くて洋装にも合わせやすく、特に手入れもいらない日傘なら、さらに取り入れやすいかもしれない」とも話してくれました。
和傘を待つ人のもとに より良いものをより早く
河合さんは、傘を閉じたときの美しさや手触りの良さも大切にしている
現状、注文が入って新たに製作する場合は、3〜4か月ほどかかるとか。先の注文分から製作を進めていることに加えて、雨が降ると天日干しができないなど天候にも左右されてしまうためです。 「クオリティを上げつつ、製作のスピードも上げたい。現状の月に20本を30本くらいにはしたいです」 と意気込む河合さん。和傘の到着を心待ちにする人に、1本でも多く、早く届けたいという思いが感じられます。
惜しみなく託された技と知恵を次の世代にも伝えたい
受注生産で制作している美濃の手漉き和紙を使った日傘"桜和傘"(220,000円~)
現在は雨傘や日傘など日常使いの傘に加えて、SNSで話題にもなった"桜和傘"の受注生産も行っている河合さん。和傘作りをここまで軌道に乗せられた背景には、長く培ってきた製作の技術や知恵を惜しみなく伝えてくれた、大先輩たちの存在があります。 「10年後、20年後ぐらいかもしれませんが、私も〝次に伝える人〞になりたいです」 近い将来と遠い未来を見つめながら、河合さんの和傘作りは続きます。
長良川てしごと町家CASA
ながらがわてしごとまちやカーサ
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