手と火でていねいに作られたガラスペンの魅力/ガラス職人・藤田素子さん
heart

59

手と火でていねいに作られたガラスペンの魅力/ガラス職人・藤田素子さん

火の力と職人の手加減でしなやかに形を変える、ガラスの美しさ。その持ち味を堪能でき、すらすらと心地よい書き味まで得られるのが「werkstatt t e t o h i(ヴェルクシュタットてとひ)」のガラスペンです。 作り手の藤田素子さんに、美しくも機能的なペンが生まれるまでの物語を伺いました。

プロフィール

藤田素子(ふじたもとこ)/長野県佐久市出身。2002年に倉敷芸術科学大学ガラスコースを卒業。その後、2005年に単身ドイツへ。ドイツ博物館ガラス工房、ラウシャ ガラス職業訓練校での修業を経て帰国。2011年より「werkstatt t e t o h i(ヴェルクシュタットてとひ)」として、軽井沢の工房を拠点に制作活動を続けている。

leaf

民芸のガラスが持つ 素朴な風合いに魅せられて

image

「ラウシャのガラスが持つ色彩が本当に好きなんです」と藤田さん

軽井沢駅から車で15分ほど。緑の小道の奥に、藤田素子さんの工房「ヴェルクシュタットてとひ」はあります。地元でもある長野県は、もともと生活道具の中に美を見出す〝民藝運動〞と縁が深い土地柄。ガラスに興味を持ったきっかけも、民芸の道具を集めていた父の持ち物の中に「倉敷ガラス」の創始者・小谷眞三さんの器があったことでした。 素朴な表情の中に、ガラスという素材の魅力を強く感じた藤田さんは、いつしか自分もガラスの器を生み出す職人になりたい、という憧れを抱くようになったそう。

leaf

バーナーの技術を高めたい 望みをかけて単身ドイツへ

image

清らかな小川をイメージした「バッハ」(各25,300円)。流れるようなデザインが手になじむ

高校卒業後、憧れの小谷さんが教授を務める大学に進学。しかし「落ちこぼれてしまって」と藤田さんは照れ笑い。というのも日本におけるガラスの器は吹きガラスで作るのが主流。大きな窯を用いるため、授業はペアでの実習が必須。一人ひとりで物作りに打ち込む職人をイメージして入学した藤田さんは、そこで行き詰まってしまったのです。 一人でも制作ができる方法を模索する中、たどり着いたのがバーナーを用いる技法。しかしこの技術は装飾品などの小物向けで、器作りには不向きとされていました。 ガラスの器を作る夢と、実力不足という自覚の狭間で揺れながら迎えた卒業。そんな折、以前見た雑誌で、バーナーひとつで器も含めたさまざまなガラス製品を作る旧東ドイツの村・ラウシャが紹介されていたことを思い出したのです。 「あの村に行けば器の技術を学ぶことができるかも」そんな思いが湧き上がりました。

leaf

ガラス職人を目指して 夢中で飛びこんだドイツ修業

image

腕のいいガラス職人が集まり、"ガラスの村"と呼ばれるラウシャ

大学卒業後、25歳で単身ドイツへ渡った藤田さん。ミュンヘンの語学学校でドイツ語を学びながら、ラウシャで修業するための糸口を地道に探していたある日、市内にラウシャ出身のガラス職人が営む工房を発見。学びたいという必死の願いを伝えたところ、見習いとして働かせてもらえることになり、そこで出会ったのがガラスペンでした。 器も含め「日常の中で使える道具を作りたい」と思っていた藤田さんにとって、ガラスがペンになることは大きな発見でしたが、実際に使ってみると、書き味は今ひとつ。 そのとき「もっと細部まで作りこめば、美しくて書き味のよいすばらしい道具になる」という確信にも似たひらめきを感じ、それ以来ガラスペン作りにものめり込むようになったのです。

leaf

美と使い心地を兼ね備えた 「道具」としてのガラスペン

image

ガラスペンづくりの工程。棒状の原料を一旦玉状にしてから、手作業で流線形に仕上げてゆく

ミュンヘンで修業を終え、ラウシャにあるガラスの職業訓練校に入学した藤田さんは、念願だったバーナーによる器作りの技術を集中的に学びました。 「こういうものが作りたかった、と実感する毎日。楽しかったですね」 しかし、日本に戻って活動を始める際、最初に選んだのは憧れ続けてきた器ではなく、ガラスペンでした。ミュンヘン時代から研究を重ね、「これなら自信を持って世に出せる」と品質に手応えを感じていたからです。 ドイツの工房で初めて見たガラスペンは、ガラスの棒にペン先を付けたシンプルな形状でしたが、藤田さんはいくつにも分けたパーツを接合しながら、ひねったり伸ばしたりして、丁寧に成形します。柔らかな曲線を描いて手になじむペン軸、滑らかに紙の上を走るペン先。「日常の中で生きる道具を作る」という信念をもとに、美しいだけでなく、書きやすさも大切にしているのです。

leaf

五感を駆使した集中の時間 そこには上達の喜びがある

image

温度の違いによってバーナーの炎の色は赤や青に変化していく

安定する軸の太さや重さ、インクをよく吸い上げる溝の深さ、紙滑りがよいペン先の丸み。何本作っても「もっと良いものにしたい」という思いがいつもあるのだそう。 「書く道具」である以上、軸からペン先にかけての重心が一定でなければ求める書き心地は得られません。高温で熱するガラスは直接触れることができないので、500℃〜1200℃まで工程に合った温度かどうかを炎の色で判断し、加工・調整をしています。 「複数のパーツを、いかに元から1本のペンだったかのような自然な形に仕上げるか、を意識します」と藤田さん。自分の利き手や利き目のクセを見極め、五感を総動員して調整するその作業は、まさに職人技。 「作っても作っても毎回そこには上達の喜びがあるんです。飽きることがないですね」

leaf

ラウシャとの出会いが ガラスの世界を広げてくれた

image

オリジナルインク「ラウシャ」は、緑あふれる町をイメージした青緑色

必死の思いでドイツに旅立ってから早10数年。藤田さんのガラスペンは日本各地に旅立ち多くのファンを持つ看板商品になりました。 「ラウシャ産のガラスは日本のものより硬く、だから器のような大きいものもバーナーひとつで作りやすい。ガラスペンとの出会いも含め、ラウシャが私のガラスの世界を一気に広げてくれたんです」と藤田さんは振り返ります。 自身の工房も完成した今、いよいよ長年温め続けてきた夢であるガラスの器作りに挑戦する機が熟してきた、そう予感しています。 「ラウシャで学んだ技法をさらに追求することと、人生における残された仕事時間を考えると、そろそろ器を作り始めなければいけない時期に来ているな、と思って」

leaf

大切な夢に向かって 新しい挑戦がはじまる

image

これから取り組む目標であり、夢であるワイングラスが工房の窓辺に飾ってある

今、藤田さんの頭に浮かんでいる器のイメージは、素朴で温もりのあるワイングラスです。「少しのフォルムや厚みの差でワインの香り方や口当たりまで変わる、そういうガラスと液体の関係性はペンとインクの関係とも共通点がある気がして」とにっこり。優しく手になじむ、ガラスペンのデザインはワイングラスの足に応用できるかもしれない、と今は想像を膨らませている最中です。 新たな夢を乗せ、これからも素敵なガラス製品が〝手と火〞から生まれてゆきます。

werkstatt t e t o h i

ヴェルクシュタットてとひ

pin-icon不定休(営業日時はHPにて告知)
pin-icon

http://www.tetohi.com
ガラスペンは東京・大阪などでも購入可能。取り扱い店の情報はHP参照。

heart
3
left

ことりっぷ編集部おすすめ

このエリアのホテル

right

※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。
※画像・文章の無断転載、改変などはご遠慮ください。

sunshine
pin長野県
×

雑貨

の人気記事

sunshine

おすすめ記事

sunshine
pin長野県

× したいことから

他の記事を探す

旅プラン日帰り旅ひとり旅ご利益めぐり絶景旅街さんぽいやされる避暑地花さんぽニュースポット雨の日ランチ
sunshine

あわせて読みたい

onlinestore
onlinestore
magnifier
アプリでもっと便利に
おすすめスポット90,000件を掲載
あたらしい情報を毎日お届け
季節の景色や名所、おいしいスイーツやグルメ情報などこれからの旅、週末に行きたい素敵なスポットが見つかります♪
point
自分だけの旅行・おでかけ
情報がみつかる
map
気になるスポットを
お気に入り登録
これから行きたいスポット情報や記事投稿を
クリップしてあなただけのリストを作れます。
search
便利な検索機能で
行きたい場所が見つかる
旅行前の情報収集で使える観光エリア、
ジャンル、ハッシュタグ検索から、
今いる場所から周辺の見どころや
カフェを探せる現在地まで
役に立つ検索機能がたくさん。
passport
電子書籍が手軽に読める

ことりっぷガイドブック・マガジンの
電子書籍版の購入ができます。
旅行・お出かけ中にさくさく閲覧♪
月額500円で100冊以上が
読み放題になる「ことりっぷpassport」も。
point
旅の思い出を共有、
旅好きユーザーとつながる
photo
かんたんに
思い出の写真を投稿
旅先のとっておきの瞬間や、
お気に入りのスポットをアップすることができます
app
さぁ、あなただけの
小さな旅を
見つけましょう♪
ios_download