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2020.10.01
ローカル線で行く房総さんぽ♪JR久留里線に乗って小さな城下町や湖畔の温泉へ
房総には地元の人がこよなく愛する小さな鉄道があるのをご存知ですか? 千葉県内のJR線としては唯一のディーゼル線である久留里線(くるりせん)もそのひとつ。車窓から見わたす限りの美しい田園風景を眺めたり、木造の小さな駅に降り立ってローカル感あふれるカフェを訪ねたり。さらに終点まで行けば湖畔の温泉も。いつか夢見た小さな鉄道の旅を、首都圏から日帰りで気軽に楽しめますよ。
旅のスタートは「木更津駅」。田園風景を眺めながら、かわいい駅舎がむかえてくれる「久留里駅」へ
東清川~横田間ではレトロな鉄橋を通過(左上)、四季折々に美しい田園(左下)、かわいらしい小さな駅舎の久留里駅(右)
1912(大正元)年に、当初は千葉県営鉄道として開業した「久留里線」。上総エリアの人々の生活の足として長い歴史をもつ路線です。 旅の起点となるのは、JR東京駅から総武線快速で約1時間30分の木更津駅。この駅で唯一架線のない4番線ホームへと乗り換えたら、ローカル線の旅の始まりです。 駅を出た列車は市内の住宅街を走り抜け、やがて広大な田園地帯へ。まっすぐ延びる線路の先には上総の山々が遠く眺められ、車窓の両側にはどこまでも田んぼが広がっています。あぜ道を犬を連れてゆっくり歩くおじいさん、サギなどの大きな野鳥が優雅に羽を休める姿など、のどかな里山風景に見入ってしまいそう。 出発から約50分。車窓に緑が迫り、自然豊かな房総丘陵へと入っていくと最初の目的地・久留里駅に到着します。
“雨城”の別名をもつ絶景の山城跡「久留里城址」
天守や薬師曲輪からは険しい地形と城下を一望できる。写真は天守からの眺め <a href="https://pixta.jp/">画像</a>提供:ピクスタ
久留里駅から車で7分、徒歩だと約35分と少々離れるのですが、この町でぜひ訪れたいのがこちら。戦国時代に里見氏、江戸時代には土屋氏・黒田氏など徳川の大名が居城とした久留里城の城跡です。 入口となる駐車場までは比較的平坦な道のりですが、その先は少々気圧されるような登り坂に。久留里城址資料館の方によれば、この険しさこそが「守りに長けた山城らしさ」だそうで、約10~15分で登りきると視界が一気に開けます。 眼下に広がるのは昔ながらの里山風景と、それを幾重にも囲む緑濃い上総の丘陵地帯。まるでタイムトラベルしてきたかのような光景に思わず言葉を忘れてしまいそう。
整備された歩道が続く(左)、天守台と模擬天守(右上)、甲冑などの展示も興味深い久留里城址資料館(右下)
こちらでは薬師曲輪展望台、天守台、ひときわ眺望のいい2層3階の模擬天守、久留里城址資料館などが見もの。 それほど広くはなく、歩道も整備されているので、案内板に沿って気軽に歩いて房総の知られざる眺めと歴史、自然に親しんでいきましょう。入館料は無料です。 築城時に雨が多かったことから“雨城”とも呼ばれた久留里城。晴れた日の眺望はもちろんですが、一帯が雨や靄に包まれる日は秘境感もひとしおでこちらも印象的ですよ。
久留里城址
クルリジョウシ
ノスタルジックな「久留里町家珈琲」でひと休み
ハンドドリップコーヒー400円、日替わりのケーキ250円
久留里街道を歩いて久留里駅前まで戻ってきたら、かつて割烹旅館だった古い建物を使うカフェでひと休みするのはいかがでしょう。 お目当ては、注文を受けてからゆっくりとハンドドリップで淹れてくれる香り高いコーヒー。店主の真室武士さんが季節ごとに選んだ3~4種類の豆を店内で自家焙煎していて、いつでも至福の1杯が味わえます。
丁寧なハンドドリップもおいしさの秘密(左)、久留里街道沿いの入口(右上)、店内では不定期でライブなども開催(右下)
甘いものが恋しくなったら、キャロットケーキやきな粉と豆乳のビスケットなど、奥様が手作りする日替わりの焼き菓子を。地元産の野菜などを使うナチュラルな味わいのスイーツです。 間口から奥に細長い独特の商家建築は、およそ90年前に建てられた昭和初期のもので、ほぼ建築当時のままの姿を保っているのだとか。久留里街道に面している土間の席のほか、趣ある奥の和室にもレトロなソファなどを配置。あまりの居心地のよさについ長居をしてしまいそうな一軒です。
久留里町家珈琲
クルリマチヤコーヒー
歴史を感じさせる「久留里街道」をのんびり歩いて
久留里街道を歩いて城下町散策
久留里は城下町であると同時に交通の要衝としても栄え、江戸時代には江戸へと続く久留里街道が大いににぎわったのだそう。街道沿いには「久留里町家珈琲」以外にも歴史を感じさせる古い建物が残っていて、まち全体にレトロな雰囲気が漂っています。 清澄・三石山系に降る雨に恵まれた久留里は、環境省の「平成の名水百選」にも選ばれるなど名水の里としても知られています。町内各地に伝統的な自噴井戸が掘られていて、一般開放されている井戸も豊富。散歩がてらおいしい水めぐりを楽しむのも一案ですよ。
旅とパンを愛する夫妻が手がける「cafe 旅ヲスル木」へ
パン2種と自家製トマトカレー、サラダが付くぱんプレート900円
久留里駅前から街道沿いをさらに5~6分歩いていくと、ちょっと見では見落としてしまいそうな隠れ家のようなカフェがあります。20代で世界各地を旅してまわったというご主人と、地元で評判の天然酵母のベーカリー「紡」を営む奥様が手がけるお店です。 こちらではランチタイムを設けず、どの時間帯でも食事が可能。人気の「ぱんプレート」や「本日の酵母パンのサンド」など「紡」のパンを使ったメニューのほか、「鶏のレバーとゴルゴンゾーラのパスタ」、「ヒヨコ豆のトマトカレー」などオリジナリティあふれるこだわりの料理がそろっています。
外からは想像がつかないかわいい雰囲気の店内。旅の本や写真集も並ぶ
カフェのモットーは「できることは自分たちで」。カフェとベーカリーを営むかたわら、野菜やフルーツ、パンの一部に使う小麦の自家栽培にも取り組んでいるのだとか。毎週木曜と土曜には「紡」のパンがこちらにも並び、パン目当てに来る人でもにぎわっています。 お店で使っている水は、町内各地にある井戸の中から実際に飲み比べて選んだ“久留里でいちばんおいしい湧き水”だそう。中煎りか深煎りを選ぶとこの水でゆっくりと淹れてくれるブレンドコーヒー(450円)で、そのおいしさを味わってみてはいかがでしょうか。
cafe 旅ヲスル木
カフェタビヲスルキ
車止めのある終着点「上総亀山駅」へ
車窓から眺める小櫃川
久留里駅に戻ったら再び久留里線に乗り、終着駅となる上総亀山駅を目指しましょう。ここからは運行本数がぐっと減り、1日に5便ほどなので事前の計画が肝心です。 久留里駅を出るといよいよ房総丘陵エリアへ。トンネルも登場し、車窓風景も山岳地帯を走る列車のような雰囲気へと変わっていくことに気づくはず。線路に付かず離れずで流れていた小櫃川の谷も深くなってきて、途中では美しい渓谷も眺められます。18分ほどで木造の小さな駅舎が建つ上総亀山駅に到着します。
久留里線の終点、上総亀山駅の車止め。電車はここで折り返しとなる
25の橋めぐりも楽しめる「亀山湖」
亀山湖のシンボル、亀山水天宮の赤い鳥居 <a href="https://pixta.jp/">画像</a>提供:ピクスタ
上総亀山駅から車止めを過ぎ、7分ほど歩くと「亀山湖」の湖畔に出られます。こちらは小櫃川の上流部に千葉県で初めてつくられた多目的ダムで、県内でも最大規模を誇る亀山ダムの施設です。 人工的に造られた湖とはいえ、緑の山々と切り立った崖に囲まれた湖畔は自然の宝庫。湖面に映える亀山水天宮の赤い鳥居も神秘的な雰囲気で、四季折々に美しい風景が広がっています。
秋には橋めぐりや紅葉クルーズを楽しんで <a href="https://pixta.jp/">画像</a>提供:ピクスタ
複雑に入り組んだ地形の湖畔にはぜんぶで25の橋がかかっていて、1周約1時間の遊歩道を歩きながら橋めぐりを楽しむこともできるそう。 毎年11月下旬~12月上旬には、房総でも屈指の紅葉の名所となる「亀山湖」。例年、この時期には「亀山湖紅葉狩りクルーズ」も運航され、多くの人でにぎわいます。
亀山湖
カメヤマコ
湖を見下ろす「亀山温泉ホテル」で濃褐色の湯を楽しむ
2020年にオープンした貸切風呂(貸切料60分3000円)。デザインが異なる2タイプがあり、どちらも湖を一望
「亀山湖」を散策したら、湖を眺める湖畔の宿に立ち寄ってみてはいかがでしょう。上総亀山駅から湖畔を歩いて徒歩15分。昭和初期に開業し、1975(昭和50)年に亀山ダム建設にともなって現在の高台に移転したという歴史ある宿が「亀山温泉ホテル」です。 こちらの自慢は、チョコレート色とも黒湯とも表現される濃褐色の天然温泉。ほのかに硫黄のような香りがする湯はメタケイ酸や炭酸水素イオンを豊富に含み、保湿力の高さから美容液効果もあるのだとか。大浴場や貸切風呂で湖を眺めながら日帰り入浴が楽しめますよ。
昭和レトロな雰囲気の館内。こちらはラウンジ
入浴後は湖に面した庭やロビーで休憩ができるほか、ラウンジでドリンクなどをオーダーして旅の余韻を楽しむことも。 こちらのホテルでは湖畔散策に便利な電動アシスト付き自転車の貸し出し(1000円)も行っています。アクティブに遊ぶならチェックしてみては。
亀山温泉ホテル
カメヤマオンセンホテル
房総半島でもっとローカル線の旅を楽しむ
いかがでしたか?房総半島には、今回ご紹介した「JR久留里線」以外にも旅情を盛り上げてくれる単線のローカル線がいくつも走っています。 木更津と同じくJR内房線の「五井駅」で乗り換えられる「小湊鉄道」、JR外房線の「大原駅」で接続する「いすみ鉄道」、さらにJR総武本線の「銚子駅」から出発する「銚子電鉄」。起点となる駅へは、JRの特急列車や快速列車を使えば首都圏から1~2時間で到着するので、ローカル線ののどかな雰囲気を日帰りでもゆっくり楽しめますよ。
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佐藤史子 写真:山下コウ太
JR東日本千葉支社
久留里線の起点となる木更津駅へは、JR東京駅から内房線に直通する総武線快速でダイレクトにアクセスできるほか、土休日には新宿駅から直通する「特急新宿さざなみ号」も運行しています。東京駅からは総武線快速で約1時間30分、新宿駅からは「特急新宿さざなみ号」で約1時間20分です。お出かけ前にルートや運行情報をチェックして、列車旅をどうぞお楽しみください。
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