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2022.07.26
フランス人店主がつくる、パンとこだわりの料理。京都・西陣の優しく温かなお店『RIFIFI STUDIO』|by PARISmag
毎日の暮らしのなかで少しだけ心が弾むような豊かさをお届けするWEBマガジンPARIS mag(パリマグ)から、今回は京都にある『RIFIFI STUDIO(リフィフィ スタジオ)』をご紹介します。
日本を代表する伝統工芸品である「西陣織」。その産地として長い歴史を紡いできたのが、ここ京都・西陣エリアです。 静かな住宅地を歩き、細い路地の奥に見えてきたのが、今回の目的地『RIFIFI STUDIO』。2021年10月にオープンした、パンと地中海料理を楽しめるお店です。
店主のピチューさん
「ようこそ!」と、にこやかに出迎えてくださったのは、フランス出身の店主ピチューさん。調理から接客まで、たった1人でお店を切り盛りしています。 日本には、ほんの数年前に来たばかり。「まだ日本語のレベルは1だよ」というピチューさんは、なぜここ京都の西陣でパンと料理のお店を開いたのでしょうか? お話を伺いました。
ポルトガルでの野外レストラン、仙台のパン屋、そして京都・西陣へ
ピチューさんの家族はみんなおいしいものが大好きで、料理上手。ピチューさんもよく家族に料理を振る舞っていたといいます。 そんなピチューさんが料理の道に進んだきっかけは、友人と始めた野外レストランでした。 「2017年頃、友達と一緒にポルトガルで期間限定のレストランを開きました。お店はキッチンカーを使って、廃材を活用して客席を造って。数ヶ月間しかやらなかったけれど、クロージングパーティーには150人くらいの方が来てくれました」。 そんななか、現地で日本人のパートナーと巡り合い、来日。友人の紹介もあって、仙台のパン屋さんに勤めることに。パンづくりを1年半修行をしたそうです。 「僕は、いつか自分のお店を開いてみたいと思っていました。そして日本で住みたい街のひとつだったのが、京都。いっぱい物件を探してみましたが、なかなかいいところが見つからなくって。ちょうど条件が合ったのが、ここだったんです」。 京都・西陣というエリアについて、当時は何も知らなかったピチューさんでしたが、「まずはやってみよう!」と、飛び込んでみることにしたそう。引っ越しをしようと決めてから入居まで、わずか1ヶ月のことだったといいます。
巡り合った物件は、西陣織の元工場。お店の改装は、仙台で働いているときに出会った、イギリス人と日本人のご夫婦(2island traveller)に依頼。半分は飲食スペース、もう半分はギャラリースペースに。ピチューさんも一緒に現場に入って、作業を進めました。 「普通の工務店に頼むと、全部現場の作業はお任せになってしまうと思います。僕がやりたかったのは、どういう風に改装をするのか、一緒に作って学んでいけること。施工は、デザイナーの2人アドバイスのもと、約3ヶ月間現場に一緒に入って進めていきました」。
完成したのは、木の風合いが温かい広々とした空間。暖色の電球の光と、窓からのかすかな風が優しく、時間の流れがゆったりとしているようです。 「料理、1人で用意するから時間がかかるよ。待っていてね」。 全然大丈夫ですよと、窓際のソファに腰掛けて、キッチンからの包丁の音に耳を傾けました。
「Only one rule is “no rule”.」優しさあふれる、こだわりのパンと料理の日替わりプレート
日替わりプレート
テーブルに運ばれてきたのは、日替わりのプレート。パンと一緒に、さまざまな料理が添えられています。思わず「カラフル!」と声に出してしまうほど、色鮮やかな一皿です。 この日、プレートにのっていたのは、2種類の手作りパン。1つ目はフォカッチャ。クミンが良く香り、食感はカリッとハードな感じ。2つ目はクルミパン。ほのかに甘く、ふわっと優しい食べごたえでした。
そしてプレートを囲むのは、彩り豊かな料理。野菜や果物をメインとし、オリーブオイルをふんだんに使った健康的な味付けが特徴です。 「僕のおばあさんは、モロッコ出身。モロッコ料理は、小さい頃から親しんできました。僕なりのアレンジをした地中海料理、みなさんにも食べてもらいたいんです」と、一品一品、ゆっくり丁寧に紹介してくださいました。 プレートのメインは、ズッキーニやナスなどの、夏野菜のロースト。ソースとしてかかっているのは、自家製のチミチュリソース。ニンニクやパセリ、オリーブオイルが使われた、さっぱりとした味わいです。 その他にも、世界最小のパスタ・クスクスを使い、レモンミントのドレッシングで味付けされたタブレ。豆やイタリアンパセリをペーストにした、ハーブのフムス。砂糖とお酢、赤玉ねぎのチャツネ。紫キャベツ、りんご、クルミのサラダ。カラメルとごまがまぶされたチェリートマト。ガスパッチョという、冷たいトマトのスープなど、盛りだくさんの内容です。
食べる順番は決まっているのかな、フムスはパンにつけた方がいいのかなと迷っていると、「Only one rule is “no rule”」とピチューさんが一言。 「たったひとつのルールは、ルールがないこと。このお店では、色々悩まずに、まずは食事を楽しんでほしいです」。 優しい言葉もあって、おいしく楽しくプレートをいただくことができました。
ローカルプロダクトを、自分の目で見て選び、決めるメニュー
ピチューさん自身も、毎日メニューを楽しんで考え、作っているといいます。食材を仕入れるのは、基本的には近所のお店から。旬の野菜などを店頭で確かめて、メニューを決めているそうです。 「日本に来てから知った野菜は、大根や水菜。僕はあまのじゃくだし、流行っているものはあまり好きじゃないんです。それに同じものを作り続けていると、つまらないと思ってしまうタイプで(笑)。だからプレートの内容もよく変えるんです」。 また、少し前に八百屋さんで、きれいな色のキャベツを見つけたピチューさん。どうやって使うかイメージできなかったけれど、買って帰って、さっそくその日のディナーで使ってみたとか。知らない野菜にもどんどんトライして、料理の幅を広げているそうです。
近所の八百屋さんは、規模は小さいけれど、売っている野菜は全部無農薬。たまに、お店の人から「こんな野菜はどう?」とおすすめしてもらうこともあるそうです。 最近では、自分で畑を始めたピチューさん。採れた野菜は、瓶に詰めて自家製のドレッシングに。お客様に出す料理は、なるべくローカルプロダクトを使って、細かな部分でもこだわり抜きたいと言います。
また、メニュー表を見て「コーヒーはないの?」とよく尋ねられるそう。1人でやっているから、コーヒーをハンドドリップする時間がないし、だからといって適当に用意したものを出したくない。代わりにメニューに載っているのは、ピチューさんが知り合いから仕入れたハーブティーや、ナチュラルワイン。 「みんながやっていることを取り入れることもできるけれど、それはうちのお店のポイントじゃないかな。それよりも、ちょっと違うものにフォーカスしたいと思っています」とピチューさんは言います。 「それに、おいしいコーヒー店は近所にたくさんあるからね」と笑顔を浮かべました。
待ち時間も、ゆっくり楽しんで
『RIFIFI STUDIO』の“RIFIFI”とは、もう使われていないフランスの古い言葉。ふざけた喧嘩やじゃれ合いといった、”Funny Fight”のような意味があるそう。 そして“STUDIO”と名付けたのは、ここをカフェやレストランだけの空間にしたくなかったから。お店の半分がギャラリーになっていて、現在はパートナーの作品が飾られているように、今後はもっと活動の幅を広げていきたいとピチューさんは言います。
フランスから遠く離れた、京都・西陣での暮らし。最初は戸惑ったことも多かったそうですが、今ではすっかり気に入っているとのこと。近所の銭湯の番頭さんがお客さんとして来てくれて、店内新聞に紹介記事を載せてくれたこともあるそうですよ。 「外国に行ったときって、みんながんばってコミュニケーションを取ろうとすると思います。僕はまだ日本語レベルが1だけれど、いっぱい話しかけてくれるお客さんも多いんですよ。1人でやっているから、お待たせすることもあります。その分、ゆっくりお店での時間を楽しんでもらえたらうれしいです」。 お店の扉を開くとき、ピチューさんに話しかけるとき、もしかしたらほんの少しだけ緊張するかもしれません。でも、そんな勇気がいるのは最初だけ。細い路地の奥には、優しい料理と、温かい時間が待っていますよ。
RIFIFI STUDIO
リフィフィ スタジオ
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