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2023.03.24
高知出身の植物分類学者・牧野富太郎博士ゆかりの地をめぐる、心地よい春爛漫トリップ♪
北は四国山地、南は太平洋に抱かれた高知県は、独特な地形と温暖な気候に恵まれ、さまざまな草花が生育する“歩ける植物図鑑”。そんな自然豊かな高知の野山をフィールドに、幼い頃から植物の世界に没頭し、日本の植物分類学の礎を築いたのが牧野富太郎博士です。2023年にはNHKの連続テレビ小説のモデルになり注目を集めています。 今回はそんな博士ゆかりの植物園がある高知市、博士のふるさとである佐川(さかわ)町、学びの場となっていた越知町の3つのエリアへご案内。春色に染まる景色に心も彩られていくような、高知のボタニカルトリップへと出かけましょう。

日本の植物分類学の父、牧野富太郎博士ってどんな人?

高知県立牧野植物園の南園にある牧野博士の銅像
自らを「草木の精」ではないかと疑うほどに植物を愛し、94年の生涯を植物分類学の研究に捧げた牧野富太郎博士。1862(文久2)年に現在の高知県佐川町に生まれ、幼少期から独学で植物の知識を身につけてきました。生涯で集めた標本は40万枚以上に及び、命名した植物は1500種類以上。日本人として国内で初めて学名を発表するなど、その業績から「日本の植物分類学の父」と呼ばれています。
(左)フィールドワークをする牧野博士(写真提供:高知県立牧野植物園)(右)博士が描いたヤマザクラの植物図(所蔵:高知県立牧野植物園)
牧野博士の数ある功績のうちのひとつが、精巧で緻密な植物図。科学的でありながらも芸術性を併せもつ植物図は、まるでボタニカルアートのよう。単なる写生ではなく花期や果実期といったそれぞれの生長段階が正確に描写され、植物図からは確かな観察眼と曖昧さを許さない情熱が感じられます。

【高知タウン】春の花が園内をカラフルに彩る「高知県立牧野植物園」

春を迎えた「50周年記念庭園」(写真提供:高知県立牧野植物園)
そんな牧野博士と植物の魅力にふれられるのが「高知県立牧野植物園」です。ここは、博士の業績を顕彰して造られた日本有数の総合植物園。高知駅から車で約20分の場所にある五台山で、自然環境に調和させながらまるで植物が自生するかのように植栽されています。
(左上)カンナ&ローズ園に咲くバラ属の園芸品種‘キング’(左下)こんこん山広場 春のフラワーショーの様子(写真提供:高知県立牧野植物園)(右)50周年記念庭園の池にはスイレンやハスの園芸品種などの水生植物を植栽
約8haの広大な敷地を彩るのは、3000種類以上もの植物。記念館や温室といった多彩な見どころが集まるなか、春にもっとも華やぐのが「50周年記念庭園」や「こんこん山広場」といった植栽エリアです。「50周年記念庭園」では、4月になると博士が愛した桜やツツジの仲間が満開に。5月にはヒメアジサイなども咲き始め、ピンクから赤、水色へとカラフルに彩りを変えていきます。「こんこん山広場」では2年に1回、春のフラワーショーを開催。約100種類の花々が斜面を彩り、訪れる人を迎えてくれます。園内を歩くだけで、春の息吹が感じられるこの季節。鮮やかな景色に、心も彩られていくようです。

木の温もりを感じる建物は建築家・内藤廣氏によるデザイン
牧野植物園の楽しみは、草花の観賞だけではありません。花々や木々と調和し、五台山の景観に溶け込むように建つ「牧野富太郎記念館」も見どころのひとつ。回廊で結ばれる本館と展示館で構成され、展示館では博士の生涯を4つの年代で紹介。直筆の植物図や遺品類(複製)が展示され、博士の功績やフィールドワークの様子を知ることができます。
(左上)展示館中庭の水盤に草木が写り込む(左下)博士が描いたノジギクの植物図の陶板(右)展示館の常設展示室
植物図の精巧さとは裏腹に、天真爛漫な性格だったという牧野博士。展示館にある手紙や日記、数ある写真を通して、チャーミングな人柄も感じられそうです。また、博士が描いた植物図のうち12点(2023年春までは11点)は陶板となって園内に展示。博士ゆかりの草花を植栽する展示館中庭や回廊などで実際の植物と見比べながら観賞してみてはいかがでしょうか。
(左)温室の入口(右上)レストラン アルブルの「まきのロール」400円、「Makino original blend tea」600円(右下)ボタニカルショップnonocaで販売するオリジナルアイテム
広々とした園内には、植物の魅力にふれるスポットがまだまだ点在しています。高さ約17mの圧倒的なスケールを誇る「温室」では、熱帯の植物が生い茂りまるでジャングルのような雰囲気。みどりの塔では原始の森が再現され、アコウやリュウビンタイなどが壁一面を覆い絵になる景色が広がります。シェフの気まぐれランチやスイーツが味わえるレストランやカフェ、オリジナルグッズがそろうショップもあるので、散策途中に立ち寄ってくださいね。2023年春には、オープンラボやショップを備える新研究棟が誕生し、ますます注目が集まっています。
高知県立牧野植物園
コウチケンリツマキノショクブツエン

【高知タウン】新しくなった「桂浜」エリアに立ち寄り

日本の渚百選や日本の朝日百選にも選定される桂浜
高知県立牧野植物園から車で約25分の場所にある桂浜は、弓状に広がる白砂青松の名勝。幕末の英雄、坂本龍馬が郷里で特に愛した場所ともいわれています。一帯は桂浜公園として整備され、高さ約13.5mの坂本龍馬像や桂浜水族館、高知県立坂本龍馬記念館といった見どころが集まります。
(左上)土佐山ジンジャーエール 辛口・マイルド各200ml420円など (左下)「桂浜美食館 神」の藁焼きタタキ定食1780円(右)マンテンノホシ桂浜店の「焙じ茶専門店の焙じ茶ソフトクリーム」450円
なかでも注目したいのが、2023年3月4日にグランドオープンを迎えた「桂浜 海のテラス」。「食べる・買う・学ぶ・憩う」をテーマに全8施設で構成された複合施設です。お買い物は、700種類以上ものアイテムがそろう「SOUVENIR SHOP BOOTS」と「SHIP’S MARKET」、センスのある高知生まれのアイテムを扱うセレクトショップ「MODERNCA」の3店舗で楽しめます。レストラン「桂浜美食館 神」には、カツオや土佐あかうし、仁淀川のウナギといった県内各地のおいしいものが充実。高知県津野町のほうじ茶を使った大福やスイーツが人気の「マンテンノホシ桂浜店」ではカフェタイムも。桂浜ならではの龍馬モチーフのほうじ茶パフェやお団子串は、テイクアウトして桂浜を眺めながら味わうのもおすすめです。桂浜の歴史や自然、高知の文化や工芸品を紹介するミュージアムにも立ち寄ってくださいね。
桂浜
カツラハマ
桂浜 海のテラス
カツラハマウミノテラス

【佐川町】牧野博士ゆかりの春の花を探しに「牧野公園」を散策

桜が咲き誇る春の牧野公園
高知市内から車で約40分の場所にある佐川町で、牧野博士は酒造を営む商家の1人息子として生まれました。ここでは「植物を知ることの大切さを伝えたい」という博士の想いを町民が受け継ぎ、「まちまるごと植物園」をテーマに掲げ植物を身近に感じられる町づくりに取り組んでいます。 その拠点となるのが小高い丘に広がる「牧野公園」。400種類以上の博士ゆかりの山野草が植栽され、1年を通して観賞が楽しめます。博士からソメイヨシノの苗が贈られたことに由来する公園で、春になるとサクラ属の園芸品種‘仙台屋’をはじめ約30種、およそ350本の桜が見頃に。博士の分骨を埋葬した墓の裏に広がるバイカオウレンの群生地も見どころのひとつです。
バイカオウレンは、1~2月に開花する
牧野公園
マキノコウエン

【佐川町】「紡ぎ工房kichi」の桜スイーツでカフェタイム

酒蔵やショップが点在する「酒蔵の道」
牧野公園から徒歩すぐの場所にある「酒蔵の道」は、東西に300m延びる通り。ここには牧野博士の生家跡をはじめ、幼少期に植物採集をしていたという金峰(きんぷ)神社、ハイレベルな教育を受けていたという名教館(めいこうかん)など、“植物分類学者”としての原点となるような場所が点在しています。徒歩圏内に、酒蔵やショップが集まるので散策してみてくださいね。
(左)かき氷「桜らんまん」1000円は6~10月限定(右上・右下)DIYで改装した、白を基調にした店内
町めぐりのあとは、JR佐川駅から歩いてすぐの場所にあるカフェでひと休み。築約70年の古民家を改装した空間で、仁淀川流域の食材を使う焼き菓子やドリンク、パンなどが味わえます。おすすめは佐川町の桜を使った自家製シロップのソーダや、夏期限定のかき氷といった桜メニュー。かき氷「桜らんまん」には、自家製の桜豆乳シロップや桜のメレンゲなどをトッピング。かわいい見た目と爽やかな味わいで、気持ちも晴れやかになりそうです。「ベーグルの日」や「白パンの日」など、日によってメニューが異なるので、事前にSNSでチェックして訪れてくださいね。
紡ぎ工房 kichi
ツムギコウボウキチ

【佐川町】「麴処えあな」で野草や薬草のボタニカルメニューをいただきます

8種類の前菜とメイン、燻製などが楽しめる「えあなランチ」2300円~(内容は日によって異なる)
佐川町を訪れたら、立ち寄りたいのが「麴処えあな」。博士の植物に対する愛情に魅せられたオーナーが、麹や薬草を使った薬膳料理を提供しています。看板メニューの「えあなランチ」の内容は日によってさまざまで、春には佐川町で採集したヨモギやアカメガシワといった野草を天ぷらに、薬草はスパイスや隠し味にと親しみやすく多彩な味わいで楽しませてくれます。
(左上)マキノジンマフィン1個380円(左下・右)2023年6月以降に移転予定
オリジナルの焼き菓子も見逃せません。おすすめは「マキノジンマフィン」。妻・壽衛(すえ)が亡くなった年に牧野博士が命名した植物「スエコザサ」をハーブやスパイスとともに漬け込んで蒸留したお酒「マキノジン」を生地に使っています。やさしい甘さと爽やかな香りが口に広がり、食後にもぴったりな味わいです。
麴処えあな
コウジドコロエアナ

【越知町】牧野博士の”学校”と呼ばれた横倉山の自然にふれる「横倉山自然の森博物館」

牧野博士が発見した「ヨコグラツクバネ」の模型
佐川町の隣町・越知町は、太古の地層をもつ横倉山が鎮座し、約1300種類もの草花が自生することから植物の宝庫と呼ばれています。若き日の牧野博士も頻繁にフィールドワークに訪れ、学びの場になっていたそう。「ヨコグラノキ」や「ヨコグラツクバネ」など横倉山で牧野博士が発見した植物も数多く、観察会も定期的に開かれています。
(左上)「牧野富太郎と横倉山」の展示室(左下)安藤忠雄設計の建物にも注目を(右上)アカガシ原生林の生態系をジオラマで紹介(右下)横倉山の成り立ちを展示する
そんな博士と横倉山の関わりを伝えるのが「横倉山自然の森博物館」。博士が横倉山で発見した植物やフィールドワークの記録を模型や写真解説パネルで紹介しています。ほかにも、横倉山で採集された化石や岩石の実物展示をもとに横倉山の成り立ちを解説。横倉山の尾根に広がるアカガシの原生林といった希少な植物や動物の生態が学べます。
横倉山自然の森博物館
ヨコグラヤマシゼンノモリハクブツカン

◎今回ご紹介した物件のマップはこちら

博士を知ったり、高知が育む植物の魅力に触れたり。牧野博士ゆかりの3エリアをめぐる、ボタニカルトリップへ。春の陽気に誘われて、奥深い草花の世界を体感してみてはいかがでしょうか。
4~5月に牧野植物園で開花するオンツツジは、牧野博士が精細な植物図を描いたゆかりの植物
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橘春花(フォレスト) 写真:森昌史(フォレスト)
連続テレビ小説を生かした博覧会推進協議会(事務局:高知県庁観光政策課内)
令和5年4月から放送されるNHKの連続テレビ小説『らんまん』を県観光の振興に最大限に生かすとともに、ひたすら草花を愛し続けた牧野博士の精神や功績を後世に引き継いでいく取り組みを推進することを目的に、県、市町村、関係団体等により組織する推進協議会を設置し、官民協働により事業を推進することとしています。
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