鹿児島・里で、街で、ふだん着の和服で
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鹿児島・里で、街で、ふだん着の和服で

前回、vol.2でご紹介した薩摩焼のふるさと、美山を紹介する「クラフトマンビレッジ美山」のウェブサイトは、「お、ここは楽しそうだぞ」と旅心を刺激し、はるばる美山まで足をのばす大きなきっかけとなりました。そこで、気になっていたのがカフェもある呉服店「tawaraya」の存在です。 そもそも、クラフトマンビレッジ美山は「tawaraya」のご夫妻がご主人の俵積田寛志さんの実家のある美山でお店を開き、奥様のまりこさんがブログで地域情報を発信したことから始まったプロジェクトです。現在は、クラフトマンビレッジ美山のメンバーとして鹿児島市名山町にあるビル、レトロフトチトセ1Fの名山店と美山店を行ったりきたりしながら本業の着物と美山、両方の魅力を伝えるべく奔走中のおふたり。どちらのtawarayaも、センスのよいセレクトショップにいるような気分で和の装いを眺められます。

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アンティーク着物などをセンスよく着こなしている人たちを横目に眺めては「かわいいなあ、自分も着たいなあ」と思っていましたが、帯や着物の柄あわせの知識や、高そうな和装小物、極めつけは呉服屋さんに入るが最後、ローンを組まされてしまうかも…という恐れなどなど、お店に入るまでのハードルの高さが邪魔をして和装には手を出せずにいました。でも、美山でレンタル着物を借りてみて気づきました(写真はvol.2参照)。着物はもっと身近に感じられるものなんだ、と。 美山のtawarayaを訪れてパッと視野が開けたところで、鹿児島市内にあるもうひとつの店舗tawaraya名山へー。

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鹿児島市内で知る人ぞ知るビル、レトロフトチトセ1Fに2013年3月から3ヶ月限定で「tawaraya 名山」はオープンしました。限定オープン期間はとっくに過ぎているにも関わらず、無期限で延長オープン中。出店した理由は、美山のお客様だったビルオーナー、永井さんご夫婦の奥様、友美恵さんから誘われたから。 「レトロフトチトセのオープン1周年に、彼らのアイデアで竹久夢二の世界を着物で着るイベントを開催し、お客様にとても好評でした。ヘアメイク、カメラマンもスタンバイして、皆で大正時代をイメージした着物で装い、夢二の世界に浸りました」。 と話す友美恵さん自身が、何よりもとても楽しんだそうで、こういった創造的なイベントを出来る人たちならきっとこのビルに入ってもらったら楽しいだろう、と誘ったのだそうです。ちょうど彼らの妹さんの出産での里帰りという家庭事情も手伝って、いいタイミングに出店することに決めました。 それからは、ビル1F中央にあるリゼット広場でお茶会を開いたり、寛志さんが”能”で鍛えた謡いのような朗読を音楽イベントに参加して披露をしたりとレトロフトチトセを盛り上げる活動にも積極的に参加しています。ちなみにビルの2周年イベントは、テナントに入っているみなさんが着物を着てお客様を迎える「レトロノッテ〜キモノデナイト〜」でした。夫婦ふたりで19着もの着付けを行ったとか。どうやら、このご夫婦は普通の呉服屋さんではないご様子。そうそう、クラフトマンビレッジ美山のホームページも、店舗のシンプルで可愛らしいポップも、寛志さんによるデザインです。

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「結婚して、美山でお店を始めて6年目になります。もともとは夫の実家で義父が店舗を持たずに呉服屋をやっていたので彼も手伝っていたのですが、やっぱり自分たちでお店を開こうということになって、自宅を改築したんです」とまりこさん。 自分たちで自宅にウッドデッキを造り、そこに気に入った着物や和装小物をセレクトしてお店を始めました。そのうちお客さんにリクエストされたことから、キッチンを造り、カフェの営業許可をとりました。鹿児島が「葛の生産日本一」と知って葛切りを始めたと思えば、美山の器で食べる”美山あんみつ”なるものを美山の喫茶店と共同企画をして提供したりと、足を運ぶたびに何かしら目新しいことが始まっています。来る12月6日(土)には、美山店のとなりの竹林で、ろうそくと月明かりで夜の茶会をするようです。そんなアイデアフルで活動的なふたりの装いは、いつも和服。自分たちが実際に着て気持ちのよいものを選んでお店に出しています。 「ふだんから着物を着つけていない人が着物を売るのはおかしいよね、といわれて最初の3年はほぼ毎日着ました」とまりこさんがいえば、寛志さんも「最初からお客さんはいなかったので、着物を着る人のいる場所へ積極的に足を運び、自分も着るようにしました。お茶や能のお稽古、水墨画のお教室などなど、自分も参加し、生徒さんに注文をお願いしましたよ」と涙ぐましい営業裏話も。でも、それも楽しく!がふたりのモットー。 美山と名山の両方に足を運ぶとわかるのですが、それぞれ既存の環境に和のテイストがうまくなじみ、ディスプレイや扱う小物などに独特の組み合わせの妙があり、肩の力が抜けていてとても心地がよい空間に仕上がっています。「え?ここは呉服屋?」というような、カジュアルな雰囲気。まるで、私が美山でレンタルした木綿の着物のようでした。

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着物のスタイリングって難しそう、と思っていたら、まるでナチュラル系の洋服を着るような気持ちで選べるリネンや綿麻の素材に、インド更紗やウールの帯をあて、鹿児島の作家、竹之内真弓さんによる陶器やこぎん刺しの帯留をささっとあわせたまりこさん。3年間毎日着物を着ていますから、スタイリングはお手のものです。3つを並べてみると、どれも明日から毎日着たいくらい素敵。しかも、帯はtawarayaオリジナルのベリベリッとマジッックテープで止めるだけのワンタッチ帯。これなら本当にすぐに着られそう! 寒くなる今からの季節には新潟で生まれたポンチョブランド「mino」のニットを羽織るのがおすすめとか。 「着物の生活をしたときにこれがあったらいいな、というものを揃えています。羽織ものなどは、特に着物用のものと限定せずとも着心地がよくて着ていて楽しくなるデザインのものがいいですね。麻の肌触りが好きならば生地の目や色を選べば冬でも着られますし、日常に取り入れるものは体感で決めてよいのではないかなと思います」とまりこさん。ケの日(日常)のための着物選びはもっと肩の力を抜いてもよさそうです。 まずは1着、と上下あわせて気になるお値段はいかほど?と聞いてみるとだいたい45000円前後で着物、帯、帯留が揃うそう。これは即決できないけれど、次のボーナスで奮発できるかも? あ、ちなみに私にはボーナスはないので、次に大きな仕事が決まったときのお楽しみに。 「ハレの日のものは、人のために着る着物でしょう。ケの日の着物は決まり抜きで楽しく、体感で着てほしいと思っています」と寛志さん。「ワンピースを着るような気持ちで、毎日のワードロープに入れてもらえたらいいなと思います」とまりこさん。 レンタル着物は名山でもできるので、観光客から地元カップルの食事デート、女子会などさまざまな用途で借りる人はいるとか。こちらは着付けも襦袢も借りられるので手ぶらで立ち寄ってぜひ着物で町歩き体験をしてみては、いかが? 12月いっぱいまでならば、たった3780円で借りられます。

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tawarayaで着物をレンタルしたらきっとふだんの生活のなかでも着たくなる、そう思います。それは女性だけではないようで、私が訪ねたときには年配の男性が相談に立ち寄っていました。 「鹿児島の家の押し入れや箪笥には、家に伝わる大島紬などのよい着物が眠っているはずなんです。町に呉服屋が1軒あれば、譲り受けた大切な着物をメンテナンスしたり、着たりできるでしょう?」寛志さんは町に溶け込んだ呉服屋としてこれからも存在し続けたいといいます。 「今は店舗を行ったりきたり。美山の情報発信も含めてやりたいことが満載で大変ですが、着物を着ることはお洋服選びのようにとても楽しいということが伝われば」。まりこさんは韓国に留学していた経験もあり、海外に着物の文化を伝えることにも興味津々です。 美山という陶器の町の魅力を発信している行為も、着物の良さをお店やイベントを通して伝える行為も、きっとどれもふたりにとっては同じこと。これからも、そのセンスを生かして色んな人たちに着物を着る楽しさを伝えてくれるような気がします。 次回は、tawaraya名山の入っているレトロフトチトセビルのお話を。この旅のなかで若いクリエイターや個人店主、地域活動をしている人たちなどに出会い、非常にのびのびとした印象を感じました。それはどこから来るのだろう?と思っていたら、ちゃんとムードを育む場所がありました。どうぞお楽しみに。

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