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2016.11.01
予約は手紙で。日常をしばし忘れさせてくれる築160年の古民家、岩手・野田村「苫屋」
※こちらの記事は2016年11月1日に公開したものです。 岩手県野田村にある「苫屋」は、築160年以上の南部曲がり家を改築した民宿&カフェです。電話がないので、予約のやりとりは手紙かはがきだけ。テレビも、インターネットもない小さな宿ですが、「不便」だからこそ味わえる時間を求めて、国内外から旅人たちがやってきます。
小さな集落にたたずむ、築160年の「南部曲がり家」
160年もの時間が積み重なった空間は、そこにいるだけで心が安らぐ
岩手県の県庁所在地・盛岡市から車でおよそ2時間半。北三陸に位置する野田村の小さな集落「日形井地区」に「苫屋」はあります。 昔ながらの山里にたたずむその宿は、今から160年以上前に建てられた「南部曲がり家」。岩手県と青森県にまたがる旧南部藩領の建築様式で、母屋と厩舎がL字型に隣接しているのが特徴。馬や牛を家族同然に大切にしてきた、この地方ならではの住まいです。
宿の周辺には昔懐かしい里山の風景が広がる
「苫屋」と染め抜かれた暖簾をくぐり中に入ると、左手には囲炉裏のある板の間。 夏でも火を絶やさないという囲炉裏からゆっくりと煙が昇り、静かな時間が流れています。 年月を重ねぴかぴかに磨かれた床と、燻されて黒ずんだ大きな梁。正時を知らせる振り子時計の音。ほの暗い空間で囲炉裏の火を見つめていると、慌ただしい日常が遠い世界のことのように感じられます。
返事を待つ時間が、旅を特別なものに
部屋の一角に飾られた国内外の古道具やオブジェ。エスニックなアイテムが和の空間に不思議となじむ
「苫屋」には、電話もインターネットもありません。 だから、宿泊予約の手段は手紙かはがきだけ。 不便ではないですか? 宿の主人・坂本充(みつる)さん、久美子さん夫妻にそう訊ねると 「国内なら、郵便なんて3日もあれば届く。それで十分でしょう? 」と笑います。
苫屋の古道具たちは今も現役。手動のコーヒーミルは、充さんが神戸で見つけたアンティーク
ネットで手軽に旅の予約ができる便利な時代ですが、ちょっぴりの手間と時間をかけた分、日常では味わえないゆったりした時間を過ごせるのが「苫屋」の醍醐味。 この古風なやりとりも、旅人をひきつけてやまない魅力のひとつなのです。 手紙を受け取る坂本さん夫妻も、文字や文面から「どんな人かな」と想像しながらおもてなしの準備をするのだとか。 手紙を書くところから旅が始まるなんてすてき。 返事を待つ間のドキドキも、特別な思い出になりそうですね。
囲炉裏を囲み、食事やおしゃべりを楽しむ
夕食は宿主夫妻も一緒に囲炉裏を囲む。写真は自家製野菜を使った前菜と、地元産の山ぶどうワイン
苫屋には客室が3つありますが、チェックインを済ませると、みんな自然と囲炉裏のある板の間に集まってきます。 食事ももちろん、囲炉裏を囲んで。宿主の坂本夫妻も一緒に食べます。 無農薬・不耕起栽培で育てた自家製の野菜や、近くで採って来た山菜、川魚など、出される料理のほとんどが地物&手づくり。素朴だけど滋味あふれる、優しい味わいです。 見知らぬ旅人同士でも、囲炉裏を囲むと心の距離が近くなるから不思議。 気づけば朝まで話し込んでいた…ということも珍しくないそうですよ。
一番小さな客室(6畳、ヒーター有り)
古民家のたたずまいそのままの「苫屋」ですが、水回りは使いやすくリフォームされ、トイレは洋式水洗、お風呂も共同ですが十分な広さがあります。 希望日に予約がとれない場合もあるので、予約の際は候補日をいくつか提示するのがおすすめ。また、苦手な食べ物やアレルギーあれば、それも一緒に伝えておくとベターです。
カフェ・ランチだけでも利用できます
この日のランチは「ズキニーのシチュー」。サラダ、自家製パン、コーヒー付きで1000円
民宿としてだけでなく、カフェとしても人気。 営業時間内なら予約無しで利用できます。 自家農園の野菜や地元食材を使ったシチュー、囲炉裏で焼き目を付ける自家製パンや手づくりケーキなど、ていねいに時間をかけたメニューばかり。空いていれば囲炉裏席、座敷席どちらでも座れます。
バナナのパウンドケーキ(左)とレアチーズ(右)はそれぞれ250円。
気軽に行ける場所にあるわけではありませんが、「わざわざ行く」からこその感動に出会える「苫屋」。 今年の秋冬、まずは手紙を出すところから、旅を始めてみませんか?
苫屋
トマヤ
http://www.noda-kanko.com/kankou/stay/tomaya.html
料金:大人1名(夕食・朝食付き)6000円 ※11月〜4月は暖房費として+500円、タオル貸出の場合(300円)、予約は手紙かはがきで(往復はがき利用、または返信用切手同封だとありがたいとのこと)
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