
148
2025.09.05
秋の日のぬくもりを感じる、レトロでかわいい盛岡・二戸へ電車旅
ノスタルジックな城下町・岩手県盛岡市。北東北にありながら、新幹線を使えば東京から乗り換えなしで約2時間10分と、気軽に訪れることができるのが魅力です。レトロな街あるきを楽しんだり、列車で伝統ある手仕事のまち二戸エリアへ足をのばしてみたり。大自然に囲まれた秘湯ムードあふれる温泉に滞在するのも魅力的です。初めての北東北の旅にもぴったりの、心に残るシーンに出会えますよ。
“床もみじ”の美しさにときめく明治の邸宅「南昌荘」へ
古い映画のワンシーンのようにクラシカル「岩手銀行赤レンガ館」
レトロな路地や歴史的建築をめぐっててくてく歩き
盛岡きっての昭和レトロな喫茶「ふかくさ」でひと休み
ちょっとクセありのかわいい狛犬がお出迎え「盛岡天満宮」
“床もみじ”の美しさにときめく明治の邸宅「南昌荘」へ

床材に栗の木を使っているといわれる板の間は高床式になっていて庭園の眺めもひとしお。グリーンシーズンは“床みどり”がみごと
盛岡レトロさんぽでまず訪れてみたいのが「南昌荘」です。こちらは盛岡の実業家・瀬川安五郎の邸宅として1885(明治18)年ごろに建てられたもの。1100坪もの敷地に広がる優美な庭園と建物は市の中心部とは思えない静寂に包まれています。なかでも象徴的なのが30畳の板の間です。磨き込まれた床に庭園の木々が映える“床みどり”や“床もみじ”は、緑の季節、紅葉の季節ともに言葉を忘れて見入ってしまうほどの美しさ。
紅葉は例年11月中旬が見ごろ。カラフルな世界に包まれて。庭園は国の登録記念物

(写真左上から時計回りに)石橋の奥にシダレカツラがたたずむ庭園、付書院のかわいいあしらい、和菓子付きの抹茶500円でひと息、レトロな曇りガラスも当時のまま
盛岡の歴史を見守ってきた「南昌荘」ですが、約30年前にはマンション開発計画によって消滅の危機に直面したこともあるそうです。当時、盛岡市民生協(現いわて生協)が購入を決断し、今にいたるまで生協の活動の一環として保護・公開されているのだそう。各室の床の間や欄間、付書院など建物のすみずみまで見学したら、代々の庭師が守ってきた池泉回遊式の庭園も散策を。岩手県だけに見られるシダレカツラの木が2本並ぶ様も、盛岡の旅の記憶にとどめたくなる風景です。
南昌荘
ナンショウソウ
古い映画のワンシーンのようにクラシカル「岩手銀行赤レンガ館」

東京駅でも知られる辰野金吾が設計した建築として東北地方に唯一残る作品
「南昌荘」から中津川沿いを歩いて10分少々。市内中心部・中の橋のたもとに建つのが「岩手銀行赤レンガ館」。1911(明治44)年に建てられた優美なレンガ造りの洋館建築です。当初は盛岡銀行の本店行舎として建てられ、なんと2012年まで実際に銀行として営業していたというのも驚きです。現在は国指定の重要文化財として一般に公開されています。

(写真左上から時計回りに)天井の星形のモチーフ、大空間の多目的ホール、操舵輪を思わせる飾りや3か所ある階段のデザインもすてき
外観もすてきですが館内はそれ以上に華やかでクラシカルな空間。船の操舵輪をモチーフとしたデザイン、彫刻を施した青森ヒバの柱、岩手県の早池峰山で産出した蛇紋岩を使ったカウンターなど細部にも目を奪われます。スタッフによれば、入口の八角塔部分の天井にある東京駅と“おそろい”の星形のモチーフも必見だそう。無料の「岩手銀行ゾーン」に加えて有料の「盛岡銀行ゾーン」まで、ロマンチックな辰野式ルネサンスの世界にどっぷり浸ってみて。

有料エリアの「盛岡銀行ゾーン」。早池峰山の蛇紋岩を使ったカウンターや金庫室のほか、設計図(複製)や昭和レトロなノベルティなど見どころがいっぱい

岩手銀行赤レンガ館
イワテギンコウアカレンガカン
レトロな路地や歴史的建築をめぐっててくてく歩き

盛岡市内最古の洋風建築「旧石井県令邸」。ふだんは内部非公開
盛岡市内の移動はバスを使うのも便利ですが、秋風が気持ちいい日なら街あるきを楽しむのも一案です。「南昌荘」近くの住宅街や、中の橋・紺屋町にかけての一帯でも、どこか懐かしい雰囲気の路地や文化財建築、歴史的な建物を使ったお店などがそこかしこに。中津川と北上川、遠く眺める岩手山など身近に感じられる自然の風景にも心なごみます。

(写真左上から時計回りに)中の橋エリアの路地、日用品を扱う「ござ九・森九商店」、カフェなどが入る「紺屋町番屋」、旭橋から見る北上川と岩手山
盛岡きっての昭和レトロな喫茶「ふかくさ」でひと休み

ツタと銀ドロの木に隠れるようにひっそりと建つ
「岩手銀行赤レンガ館」から中津川の清流を眺めながら徒歩2分。外壁をすっかりツタに覆われた個性的なカフェに出会いました。「ふかくさ」がオープンしたのは1968(昭和43)年のこと。店の前に茂るのはポプラの一種で、宮沢賢治が愛したことで知られる銀ドロの木。開業時に先代が植えたそうですが、今ではこんもりと茂る大木になっていて静かな時の流れを感じさせます。

中津川のせせらぎが眺められる窓際の席が人気
古いピアノが置かれた店内はテーブル席が4卓の小ぢんまりとした空間。オーナー夫妻が好きなクリムトのアートボード、ビレロイ&ボッホの食器や絵皿、オペラ歌手でもあった先代マダムのモノクロ写真などが「ふかくさ」ならではの世界観をつくりあげています。静かに流れるジャズやシャンソンも心地よく、混雑していないときなら夫妻が集めた美術書や盛岡のミニコミ誌『てくり』のバックナンバーなど、店内の本を見せてもらうこともできるそうですよ。

(写真左上から時計回りに)サイフォンで淹れるコーヒーとケーキのセット800円~、ビレロイ&ボッホのコレクション、先代マダムが取材されている『てくり』の創刊号も発見、ときどき店の前の歩道でくつろいでいるオーナー夫妻の愛犬・ドクちゃん

ふかくさ
フカクサ
ちょっとクセありのかわいい狛犬がお出迎え「盛岡天満宮」

小高い丘の上にあり、さわやかな風が吹き抜けていく境内
「ふかくさ」からは歩くと23分、岩手山や盛岡市街をぐるりと一望できる小高い丘に盛岡市民に「おでんつあん」と呼ばれて親しまれている「盛岡天満宮」があります。菅原道真公を祀り、学業や病気平癒、厄除けにご利益があるという由緒ある神社です。こちらで全国規模の熱烈なファンをもつのが境内に鎮座する狛犬。まるで現代アート作品のような自由でちょっとクセのある表情は、一度見たら忘れられなくなりそう。

社殿前の参道の両側にある一対の狛犬。明治時代、近くに住む石工が自ら刻んで奉納したと伝わる

(写真左上から時計回りに)脇から撮るのもかわいい狛犬、ふれると病気が治ると伝わる撫牛、平安稲荷社のキツネ。形代を水に浮かべて禍をはらう形代祓い
旧制盛岡中学時代にこちらの境内で散策や読書に親しみ、特にこの狛犬を愛したことで知られるのが岩手出身の歌人・石川啄木です。後に「夏木立 中の社の石馬も 汗する日なり君をゆめみむ」などの歌を詠みました。「狛犬を石馬と見立てたということは、もしかすると狛犬に乗って遊んでいたのかもしれませんね」と笑うのは宮司の山口重法さん。近くには、まどろむようなやさしい顔をした「撫牛」、お稲荷さんのキツネなどもあり、少し不思議な石の動物たちとの出会いが楽しめます。

(写真左上から時計回りに)南部片富士と呼ばれる岩手山を一望。狛犬の授与品もいろいろ。御朱印帳2000円、木札守り1000円、「釜定」が手がけるの南部鉄器の狛犬セット4000円、一言帳400円など

盛岡天満宮
モリオカテンマングウ
“用の美”を見つめた民芸品店の草分け的存在「光原社」へ寄り道

広々とした敷地内に建物が並ぶ
盛岡には、民藝運動の柳宗悦、染色の芹沢銈介、版画の棟方志功など名だたる作家と交流を結んできた「光原社」があります。盛岡駅から徒歩10分ほどの場所にある本店は、宮沢賢治の生前唯一の童話集『注文の多い料理店』を発刊した場所でもあり、美しい日用品を探す人や賢治ファン、観光客などでいつもにぎわっています。

(写真左上から時計回りに)羊毛を手紡ぎ・手織りする岩手のホームスパン製品、秋田の星耕硝子製品2420円~、型絵染のオリジナルポストカードセット770円など、1階店内
2階建ての本店には、岩手の漆器類やホームスパン、全国の陶磁器や手吹きガラス、和紙製品、ハンス・ウエグナーの家具、アフガニスタンのキリム、国内外の衣類などが並んでいます。産地がばらばらなのは、“工芸品は日常に使われてこそ美しい”という美意識によって広くセレクトされているから。手になじむ、生活に溶けこむ品々をゆったり眺めてみてはいかがでしょう。店内の一角では民藝運動や光原社、宮沢賢治などに関する書籍も扱っていますよ。

『光原社 北の美意識』、『クラムボンはかぷかぷ笑ったよ』など盛岡発の関連書籍も。北上川に面した中庭には賢治の詩碑やレリーフ、資料室や喫茶室などもある

光原社
コウゲンシャ
伝統ある手仕事の文化を訪ねて、酒蔵見学が話題の二戸「南部美人」へ

季節商品を含めて50種近くある多彩なお酒に出会える「本蔵 hongura」
岩手県北部エリアへも足をのばしてみましょう。盛岡駅から新幹線に乗って約25分、ローカルでのんびりした雰囲気の二戸駅に到着します。駅から車で約6分の街なかにあるのが、1902(明治35)年創業の「南部美人」。岩手を代表する蔵元の一軒です。こちらでは以前は倉庫だった古い蔵を「本蔵 hongura」としてリノベーション。酒蔵見学や試飲体験をはじめ、二戸観光の新しい拠点としてにぎわっています。

(写真左上から時計回りに)レトロな仕込蔵に新設されたフォトスポット、例年10~5月の酒造期間で運がよければ発酵の様子なども見られるかも、地元産の酒米を使用、2027年の発売を目指して貯蔵中のウイスキー
こちらで話題なのが酒蔵見学です。まずは半纏に手ぬぐいの“蔵人スタイル”に着替えて実際の「南部美人」の酒造りの現場をツアースタイルでめぐります。途中では日本初の“酒蔵フォトスポット”での記念撮影も。撮影した写真はすぐにオリジナルラベルのボトルに加工してくれるので、終了後に購入も可能です。場内では2023年から始めた岩手県初のウイスキー生産の紹介もあって興味がつきません。最後は「本蔵 hongura」に戻り、二戸市の浄法寺塗の漆器で味わう飲み比べ体験なども。他ではなかなか買えないレアなお酒のおみやげ探しもぜひ。

(写真左上から時計回りに)蔵見学で着用する半纏と手ぬぐい、あわさけスパークリング3300円~、特別純米酒539円~、スーパーフローズン3025円~、試飲コーナー、米からつくるクラフトウォッカやジンも手がける

南部美人
ナンブビジン
https://www.nanbubijin.co.jp/
酒蔵シンプル見学コース1980円(所要70分)、プレミアム体験コース6600円(所要140分)
知る人ぞ知る“うるしの国”・浄法寺町の「滴生舎」を訪ねて

古くから庶民の生活とともにあった浄法寺塗。使い込むことでツヤが出るのが特徴
縄文時代の遺跡からうるしを塗った石刀や土器が出土するなど、二戸一帯は古くからうるしとの関わりが深いことで知られてきました。「南部美人」から車またはバスで20~40分、北上山系の山々が連なる浄法寺町エリアは、そんな“うるしの国”の中心地。国産うるしの75%がこの地で産出され、今も約40人のうるし掻き職人が活躍しているのだそう。その浄法寺うるしを用いた伝統の工芸品が浄法寺塗。ショールームと工房を兼ねた「滴生舎」を訪ねてみましょう。

(写真左上から時計回りに)ショールーム、ミズメ材を使ったカップ11330円、小田中染工房の手ぬぐい1430円など、山間の静かな環境
約1200年前の歴史をもつ浄法寺塗。一度は途絶えてしまったものの、うるし掻きの技術をつなぎ続け、昭和50年代にスタイルを見直して復興したのだそう。こちらには岩手県内を中心に長野県、石川県など十数社の工房の作品が並んでいます。店内の奥が工房で、塗師による製作風景をガラスごしに眺めることも。聞けば、うるしを身近に感じながら製作できる環境に魅了され、この地にやってきた人も多いとか。そんなうるし愛をいかして新しい漆器のほか雑貨なども手がけています。美しくてかわいいものたちにときめいて、つい長居したくなるスポットです。

工房内での製作風景。通常はガラス越しに見学 (写真右下)うるし掻きの道具の展示

滴生舎
テキセイシャ
岩手山麓の一軒宿で秘湯体験「休暇村 岩手網張温泉」に宿泊
自然のままの滝と沢に囲まれた「仙女の湯」。秋の紅葉もダイナミック
岩手の旅では秘湯ムードあふれる温泉を訪ねてみるのも一案です。こちらは盛岡駅から送迎バスで約50分。その歴史は1300年前までさかのぼる網張温泉の一軒宿で、岩手山系の中腹、標高770mの高原に広がる山岳のリゾートです。温泉ファンに知られているのが、滝が流れ落ちる沢沿いにある野天風呂「仙女の湯」。男女別の脱衣小屋はありますが今なお湯船は男女混浴。湯浴み着を着用しつつ、古の温泉文化を味わってみてはいかがでしょうか。

(写真左上から時計回りに)本館「大釈の湯」の女性用内湯と露天風呂、3名まで泊まれる展望側洋室、第1リフトを上がった先にある「天空の丘」
男女別に楽しめる入浴施設も充実しています。本館には露天風呂付き大浴場にくわえて内湯のみの浴場もあるほか、吊橋を渡って歩いた先にも露天風呂と内湯のある温泉棟が。湯は日によって乳白色に濁る硫黄泉。どの湯船でも源泉掛け流しの名湯にどぼんと浸れますよ。隣接するスキー場のリフトに乗って、山の上から絶景を眺めるアクティビティも好評です。条件が合えば幻想的な雲海、10月中旬からは一面の紅葉が楽しめます。

(写真左上から時計回りに)開放感あふれるダイニング、きのこやりんご料理が登場する秋の夕食ビュッフェのイメージ、店内で淹れるコーヒーにソフトクリームと南部せんべいをのせた網張黒800円、小岩井チーズたっぷりトースト600円
「休暇村岩手網張温泉」では、2025年7月に「テラス&ダイニング 岩手山」をリニューアルオープンしました。雫石の街並みを見下ろす雄大な眺めが特徴で、夕・朝食はこちらで岩手・東北の旬の食材や伝統料理を取り入れたこだわりのビュッフェが楽しめます。ランチ&カフェタイムの営業も行っており、小岩井農場のチーズを使ったトーストや南部せんべいがトッピングされたフロートなども登場しています。
休暇村 岩手網張温泉
キュウカムライワテアミハリオンセン
秋の岩手は楽しみがいっぱい

9〜11月、岩手では「秋は短し 旅せよ岩手」キャンペーンを開催中。今回ご紹介したスポット以外にも、地域に受け継がれる秋祭りや、錦秋湖・須川岳などの紅葉絶景、みちのくトレイルの美しい自然、そして地酒や旬の味覚を味わえるイベントが目白押しです。 せっかく岩手を旅するなら、秋の岩手ならではの旅を計画して訪れてみてくださいね。
「秋は短し 旅せよ岩手」キャンペーンサイトはこちら

レトロな趣を感じながら、てくてくめぐる盛岡・二戸の岩手旅。大きな空と美しい自然、よいものを大切に守りつづける地元の人の心意気にふれながら、秋の一日を楽しんでみてください。
※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。
※画像・文章の無断転載、改変などはご遠慮ください。
佐藤史子、写真:山下コウ太、関係各施設
~秋は短し 旅せよ岩手 WANDER IWATE~

2025年9月~11月まで岩手県では秋の観光キャンペーンを開催しています。 夏が終わり、あっという間に過ぎ去る岩手の秋。ただ、その一瞬の季節にこそ岩手の魅力がたくさん詰まっています。この季節にしか味わえない岩手の自然・文化・食を楽しんでみませんか。
たびレポ
の人気記事
の人気記事





























