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2019.06.14
【旅に効く映画】6月14日公開『旅のおわり世界のはじまり』新しい自分を探しに旅へ行きたくなる作品
「本当は何を望んでいるの?」。 主人公の葉子が自分自身に問いかけるひと言に共感を得る人は多いはず。 第68回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」で監督賞を受賞するなど国内外の映画人からリスペクトされる映画監督であり脚本家の黒沢清氏が、シルクロードのウズベキスタンで、撮影された最新作は、旅好きな人におすすめの作品に。
シンプルで誰もが共感できる普遍的な成長物語の魅力
テレビのバラエティ番組で「巨大な湖に棲む“幻の怪魚”を」探す企画。リポーターを務める葉子(前田敦子)は、ベテランカメラマン岩尾(加瀬亮)、ディレクターの吉岡(染谷将太)、ADの佐々木(柄本時生)ら番組クルーと共にウズベキスタンへ訪れます。 通訳兼コーディネーターのテムル(アディズ・ラジャボフ)が加わり収録を重ねますが、なかなかお目当ての獲物は網にかからず長引くロケに苛立つスタッフ。 ある日の撮影が終わりに街に出た葉子の耳に、歌声が微かに聞こえてきます。実は、葉子の夢は「歌うこと」。美しい歌声に誘われて劇場に迷い込み不思議な経験をしてからの葛藤の日々。タイトルどおり、旅の終わりには何かがはじまるのか…。
見どころは、美しい風景の中で歌うクライマックス
作品は、ウズベキスタンでの1か月間に渡る全編オールロケが行われ、シルクロードの美しい街の風景が、誰もを旅に誘います。 また、今作は、女優としての前田敦子さんの存在感を感じさせ、標高2443mの山頂で「愛の讃歌」をアカペラで歌うシーンは心動かされます。前田さんは、日本ではもちろん、ウズベキスタンに入ってからも練習を重ねたそう。歌詞の一つひとつを真っ直ぐ届けることだけを考え歌われたとのことで、心の琴線に触れます。 異国を舞台にした設定は、海外渡航が多い監督自身の経験や思いをストレートに反映したもの。理解を超えた「他者」と対峙するというのは、一体どういうことか。そして、そこで一人の人間として認めてもらうには、一体何が必要なのかという思いが込められています。 鑑賞後は、改めて人生について考えたくなるかもしれません。
フレームに写っただけで独特の強さと孤独感を表現できるすごい女優
葉子という役について前田敦子さんは、「彼女には『歌いたい』という漠然とした夢があって。でも目の前のリポーターの仕事も大切にしている。真面目で慎重で、自分のことを客観的に見ちゃうから、かえって身動きが取れなくなってしまうというか…。自分の殻を破って知らない世界に踏み出すのは、誰にとっても難しいですよね。だけど新しい出会いだったり、ちょっとした環境の変化で、それまでとまるで違う風景が見えてくることだってある。ウズベキスタンの旅を通じて、葉子はきっと気付いたんじゃないかなと。私自身はそう思いながら演じていました。」と、語ります。
岩尾は、主人公・葉子を前向きな方向に少しアテンドする役割
カメラマン岩尾役の加瀬亮さんは、「脚本の第一印象は、閉塞感と希望の物語だと感じました。前田さんの演じた葉子という、恐怖や不安に縮こまっている、無理だと諦めている、肩肘張って『NO』とばかり言っている女の子に、よく見て、もっと聞いて、まだまだあるよ、きっと大丈夫、と言っているような。完成版を観たときには、とても澄んだ美しい映画だと思い、ラストシーンの空、前田さんの瞳や声に、光を感じました。」
黒沢清監督は、「プロデューサーから、日本とウズベキスタンの合作映画を撮りませんかと誘ってもらったのが発端。ホラーやサスペンスといった定型ジャンルを離れて、いつになく自分が素直に表れた作品になったかと。異国に放り出された彼女が直面する事態には、自分の経験が強く出ていますね。今回、自分の映画でははじめてタイトルに『世界』という言葉を用いましたが、主人公・葉子のように警戒しながらも先へ先へと進んでいけば、広い世界の未知の人たちとも、必ずどこかで理解しあうことができるはず。まさに劇中で通訳のテムルが言うように、『話し合わなければ、知り合うこともできない。』ここには映画制作という仕事を通じて、僕自身が日々直面し、感じていることがそのままストレートに表れているのかもしれません。」と、それそぞれ完成した作品の印象を話してくれました。 <作品情報> 映画『旅のおわり世界のはじまり』 公開:2019年6月14日(金) テアトル新宿、渋谷ユーロスペースほか全国ロードショー 監督・脚本:黒沢清 出演:前田敦子、加瀬 亮、染谷将太、柄本時生、アディズ・ラジャボフ 配給・宣伝:東京テアトル ©2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO
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土井淑子
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