畑を味わい、畑の中で眠る。農村を体感する田園レストラン。[EKARA/北海道三笠市] by ONESTORY
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畑を味わい、畑の中で眠る。農村を体感する田園レストラン。[EKARA/北海道三笠市] by ONESTORY

日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から北海道三笠市の「EKARA」を紹介します。

「ONESTORY」公式サイトはコチラ

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のどかな農村地帯に幻のように現れる、瀟洒な建物群。

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刈り取りが終わった畑。「三笠すずき農園」では多種の野菜を育てている。

三笠市萱野。札幌市内から1時間半ほど車を走らせると見えてくる、畑と田んぼが広がる農村地帯。「本当にここにレストランが?」とそろそろ不安になってきた頃、「EKARA」の褐色の建物が姿を現します。 大きな棟はレストラン、二つの小さな棟はコテージ。ここは、宿泊も可能な「滞在型レストラン」なのです。

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北海道開拓の要となった三笠。今はひそやかな田園地帯。

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レストランのアプローチ。戸を開けると明るく開放的な空間が広がる。

この場所がどのようなところなのかを説明すると、まず三笠市萱野が位置するのは札幌から旭川に向かう途中、岩見沢市を過ぎたあたり。北海道開拓の要となる石炭産業「幌内炭坑」にまつわる古い鉄道の駅舎や線路が残され、歴史深い場所です。周辺には田んぼや小麦・大豆の畑が広がりますが、近年では良いワイナリーも作られ注目を集めています。 とは言え、目立った観光名所もなく「人が訪れる場所」とは言い難いのが現状で、若者の人口流出や過疎も地域の課題となっていました。

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都会の消費者に、もっと農村を体験してもらいたい。

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気さくで親しみやすい人柄の鈴木氏。「農村に人を呼びたい」とひたむきだ。

そんな地域の問題を解消しようと声を上げたのが、この地で農業を営む「三笠すずき農園」代表の鈴木秀利氏。3代前から北海道に入植し、米やタマネギ、カボチャなどを中心に生産していました。鈴木氏自身は約30年前から岩見沢市で八百屋を経営し、1年後に札幌に出店。「有機やさい アンの店」として自分の畑で採れた野菜や、仲間の生産物、加工品などを扱ってきました。 そうした都会での消費者との関わりの中で、「生産者から消費者へ食を届けるだけでなく、もっと農村や田舎を身近に感じてもらえることができないだろうか」と考えるように。三笠以外の人々との交流を通して地元を見た時、これまでと違った魅力があることに気付いたと言います。

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それは1本のリンゴの木から始まった。

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まだ生育中のリンゴの畑。大きな木は桜。

2017年、知人のイラストレーターやカメラマン、飲食店関係者、アウトドア関係者らと一緒に、三笠地域における「農」と「食」の連携推進協議会「MIKASA萱野プロジェクト」を立ち上げました。その中で柱となったのは「萱野にリンゴを植えよう」という計画。かつて、萱野エリアにはリンゴ畑があったそうですが、今は1軒のみとなりました。再び萱野をリンゴの名産地にするという願いを込めて農園にリンゴの木を植え、それをプロジェクトのシンボルにしました。 その後は、一日限りの畑の中でのレストラン「オーチャードテーブル」や、田植えや草刈り体験、味噌つくり、豆腐づくり教室など、さまざまな参加型イベントを開催し、多くの人に三笠エリアの農と食を体感してもらう活動を実施。その集大成といえるのが「EKARA」です。宿泊施設と地域の食材を活かしたレストランという形によって、外から来る人に具体的に「農」と「食」を体験してもらいたいと構想を練り、2019年4月にオープンを迎えました。

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ここから何を作るか、何ができるか。夢と可能性を秘めた場所。

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中央を貫く柱は古材を使用。岩見沢市にある武部建設は木を大切にする。

EKARAとはアイヌ語で「~で~を作る(または~をする)」という意味。もともとのコンセプトである「三笠で豊かな食を楽しむ場を畑の中に作る」と、「この地で新しいチャレンジを作る」という意味を込めて付けた名前です。 建物の内部は北海道の木をふんだんに使い、古材も活かした温もりのある造り。窓を大きく取り、リンゴの木が眼前に望めます。設計は札幌の建築家・宮島 豊氏、建設は木を使った建物を得意とする武部建設が担当しました。

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一枚の絵のように、田園風景を眼前に眺められるように。

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居心地がよく、ランチスタートからラストまでのんびりする人が多いそうだ。

こだわった点は二つあります。一つ目は、「カウンター席からも窓が全面に望めること」。オープンキッチンを囲む店内は窓際にテーブル席、キッチンを挟んでカウンター席がありますが、カウンター側が一段高くなっており、キッチンとテーブル席よりも高い目線から窓を正面に望むことができます。これは、ゲストの頭に遮られることなくリンゴ畑を眺められるようにという配慮からです。

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火は、人の心にも身体にもぬくもりを灯す。

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どの席からも炎が眺められる。北海道の人にとって特に「火」は大切だ。

そして二つ目のこだわりは、「火」。店のドアを開けるとまず、厨房に構えるピザ窯のあたたかな炎が目に飛び込んできます。「昔から、田舎の暮らしに火は欠かせませんでした。そして火のあるところに人は集まってきます。店に入ったら最初に火が見えるように、真正面にピザ窯を設置しました」と鈴木氏は話します。

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畑の食材と、生産者の想いをプレートに詰め込んで。

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鈴木氏と同じ想いを持って店に立つ金子シェフ。食材への愛を料理に込める。

肝心の料理を作るのは、プロジェクトのメンバーで、札幌からこの店のために移住してきた金子智哉シェフ。鈴木農園で採れた野菜を中心に使い、3種のランチと予約制のディナーを提供します。ランチには、「農園のプレート」として季節の野菜を使った惣菜を6種ほど盛り合わせた皿が登場。メインをピッツァか肉料理を選ぶことができ、ピッツァも常時6種ほど用意しています。ピッツァの生地は、十勝産の小麦に鈴木農園で採れた米の米粉を混ぜ込むことで、もっちりした食感に。具やソースも、近くで作るチーズや自家栽培のトマトで作るソース、ジェノベーゼソースなど三笠の味を大切にしています。

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ランチの「畑」はピザと農園プレートのセット。農園で採れた野菜のピザは季節替わり。

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この日の野菜のピザは春菊。苦みやえぐみがなく、ルッコラのペーストと合う。

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インターネットもテレビもないからこそ、豊かな時間。

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2棟違った形に見えるが、実は同じ形の建物を方向違いで建てているそう。

宿泊棟は「隣を気にせずゆっくりできるように」と2棟用意。1棟4人が宿泊でき、ベッド2台にダイニングテーブル、洗面、風呂、シャワールーム、トイレが完備されています。旭川の木で作られたテーブルや古材を使った柱など、こちらも地元の自然を生かしたインテリア。ベッドに掛けられている布はEKARAのスタッフが手縫いし、飾られている絵も知人のイラストレーターによる作品です。 テレビもなく、Wi-Fiもつながらない。冬は雪の降る音さえ聞こえそうな静寂に身を委ね、夏は草のざわめきに耳をそばだてる。「都会で時間に追われるような生活をされている方が、何もない時間を豊かに過ごしてくれたら」と鈴木氏は願いを込めます。

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建物はこぢんまりして見えるが、中は驚くほど広い。

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シンプルなインテリア。「女子会にも人気です」と鈴木氏。

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いずれ、「三笠といえばシードル」と言われる日が来るかも。

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ビーツのドレッシング、エゾ鹿肉のコロッケなど。プレートの内容は季節によって変更

現在、畑のリンゴはまだ3年ほどですが、鈴木氏には「いずれこの木が育ったら自家製シードルを作りたい」という計画があります。食を生産する農村としてだけではなく、人が憩い、拠りどころのような場所になる農村に。その夢は、リンゴの木とともに着実に育っています。

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自家製野菜で作ったマドレーヌやクッキーなどスイーツも販売する。

EKARA

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北海道 三笠市萱野158-1

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