この店で誰もが知る、「肉は、エンターテインメントだ」。[セジール/滋賀県草津市]by ONESTORY
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この店で誰もが知る、「肉は、エンターテインメントだ」。[セジール/滋賀県草津市]by ONESTORY

「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から滋賀県草津市の「セジール」を紹介します。

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駅から徒歩30分でも、世界中から人が来る。

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国内最上級の肉があり、切りたてを料理できるレストラン。世界のシェフが羨む環境だ。

滋賀県草津市。京都や奈良でもない、有名観光地とは言い難いこの地で、世界中から注目を集めるレストラン「セジール」。母体は精肉店の「サカエヤ」ですが、滋賀県=近江牛のセオリーに反し、ここにくる客は近江牛を目指していません。

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シェフの作る料理に合わせて熟成させ、挽き方も変えるという新保氏。だから、精肉屋と料理人は近ければ近いほど良いと語る。

サカエヤを経営する新保吉伸氏は、生産者から託された肉を「手当て」することで、その個性を最大限に引き出し世に送り出すことに全力を注いでいます。まるで、肉の魔術師。一口に手当てといっても「吊るし」「ドライエイジング」など牛によって手法は変えますが、「肉は生産者からの預かりもの」と考え、自分でできる限りの技術と試行錯誤を重ねて最高の味にして消費者や料理人のもとへ届けます。

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その道のプロたちが、本気で作ったラボラトリー。

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地元の木を生かし、窓を大きく取った開放感のある店内。

「肉屋の仕事は試食が主なんです」と新保氏。自身がヨーロッパに行くたびに目にした肉屋は、レストランを併設しているのが当たり前でした。「おいしい肉とは、生産者の努力、肉を手当てする肉屋の技術、料理人の腕の三要素が合わさって実現するもの」。したがって、肉屋と料理人が同じ場所にいることは必然であると考えたのです。

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建築家も、この店に全てを注ぎ込んだ。

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ため息が出るほど美しい建物。寺島氏の全てを注ぎ込んだ作品。

同時に新保氏のもとには全国から料理人が研修のために訪れ、彼らが試作をする場所も必要でした。そこで、ラボラトリーのような場所を作ろうと考えたのが「セジール」の始まり。ただ、やるからには何事も中途半端にしたくないという性格の新保氏。せっかく滋賀に足を運んでもらうのだから、ここで肉を買ってよかった、ここに食べに来てよかったと思えるような空間にしたいと考え、以前から「店を作るなら彼に」と決めていた地元の設計事務所「家吉建築デザイン」の寺島司氏に設計を依頼しました。伝えたのは、「あなたの作品は何か、と聞かれたらこれと答えられるような建物をつくってください」というオーダーだけ。そうして2017年9月に出来上がった店舗は、400坪の敷地に、美術品のようにショーケースで肉を販売する「サカエヤ」、ワインセラー、そしてゆったり落ち着いた雰囲気の「セジール」から成る建物。鉄骨ではなく木で組み、天井を支えるのは滋賀県木之本の山中から切り出した丸太。オープン後しばらく木がミシミシと音を立てるほど、生命力が漲っていました。

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「セジール」は「〜を掴む」の意味。「牛」「掴む」をイメージしたビジュアルデザインはMasahiro Minami Designによる。

後日談ですが、家吉の寺島氏は、この建物を完成させた時に「これ以上の作品はできない」と建築家としての第一線を退き、家業の梨農家を継ぐ道を選びました。現在は、「てらしま梨園」&「いえきち農園」の屋号で、滋賀県竜王町の果物の新たな魅力を世に広める前衛的な農家として注目を集めています。

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フランスで見た肉屋のスタイルが「セジール」をつくるきっかけだった。

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セジール、サカエヤのスタッフと新保氏。左から3人目がシェフ溝口氏。

実は、新保氏がレストランを開こうと思ったのは、フランスで訪れた肉屋の影響が大きかったといいます。肉を注文してレストランで食事をする。食事を終えて頼んでおいた肉を受け取る。そのスタイルが理想的だと思ったのだとか。 もう一つは、取引先のシェフたちにもっと相性の良い肉を届けたいとの思いがあったからだとか。納得のいく手当てをしたからといっても実際に料理という形にしたときに果たして思い通りの仕上がりなのか。そのためには、すぐに結果がわかるレストランの併設が必要だと思ったそうです。 オープン時のシェフはホテルのフレンチ出身のため、コース料理を切望しましたが、新保氏は首を縦に振りませんでした。あくまでも肉にこだわり、その他はすべて副菜という考え方だったからです。 お客様を肉で驚かせたい、肉で感動させたい。肉屋がやる意味を考えると答えは直球しかなかった。「シェフと二人三脚で毎日肉を焼いて食べた。薪、炭、フライパンと試した。肉によって使い分けた。シェフと炭との相性も何度も実験した」。 当時のシェフはもともとは新保氏の肉に惚れ込み、「ホテルには卸さない」という前例を破ってサカエヤと取り引きしていた人物。新保氏もまた、シェフの食に対する考えに共感し、彼になら任せられると考えました。料理はアラカルトで、シャルキュトリや炭火焼きなどがメイン。特に、とろけるような脂を楽しめる「近江牛のタルタル」は名物料理の一皿として知られるようになりました。

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〝第二章〟はイタリアンに一転。「中華にだってなるかも」。

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近江牛の内臓を煮込んだカラブリア州のピリ辛スープ「モルツェッロ」。

しかし2019年秋、前シェフは家庭の事情から実家の熊本に帰ることに。少しの間、東京の一ツ星レストラン「ブリアンツァ」の奥野シェフをアドバイザーとし、若いスタッフとともに切り盛りしていましたが、イタリアを旅していた気鋭の溝口真哉氏シェフを料理長として迎えることが決定し、11月から〝第二章〟をスタートさせました。

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隣の「サカエヤ」では美術品のように肉を販売。入荷情報はHPにアップしている。

新生セジールの料理は、「豚の血のタリアテッレ」「近江牛ホホ肉のパッパルデッレ」といったパスタや「ほうき鶏のカチャトゥーラ」などを味わえる本格イタリアン。これまでと同様、ファンの期待を裏切らないパフォーマンスを発揮し、日本トップクラスのビストロノミーとしての地位を不動のものに。ただ、新保氏は「あくまでもここはラボであり、牛肉・内臓・豚肉をいかにおいしく提供するかを表現する場。シェフが違うものをやりたいと言うかもしれないし、突然中華になることだってあるかも」とおおらかに先を見据えます。

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肉屋が料理人の視点を持つことが非常に重要。その逆も。

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あまり知られていない肉を味わうイベント「肉Meets」を不定期で実施。東京などでも。

いつしか「日本一肉を旨くする男」と呼ばれるようになった新保氏ですが、ここを頂点だとは考えていません。むしろ、ビジネスは縮小して「小さな肉屋」であり続けたいと願います。その代わり、計画しているのは「若手の育成」。ヨーロッパのように、店同士、料理人同士が繋がり、研修して腕を磨き合い、お互いを補填しあえるような関係を作ることを目指し、現在は、「ブリアンツァ」と提携してスタッフが行き来しています。料理人が肉を勉強するのも、肉部門のスタッフが料理を知るのも、互いにとって大きな成長となるからです。サカエヤにはプロの料理人が多く訪れますが、スタッフがプロの目線で応対することで、料理人の肉の使い方にも幅が広がります。ジャンルレスなコミュニティを広げ、人材を育成できる「仕組みづくり」が重要だと考えています。 新保氏が楽しみにするのは、サカエヤ・セジールで育った若者が、いつか自分の店を開く日。そして私たちも、日本にまた一つ、世界を驚かせるレストランが誕生する日を心待ちにするばかりです。 写真提供:サカエヤ、世界文化社

セジール

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滋賀県 草津市追分南5-11-13

clock-icon11:30~13:00(L.O)/18:00~21:00(L.O)
pin-icon水曜・最終火曜
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