自ら種を蒔き、畑を耕し、食材を収穫。東京のレストランにできないことを僕はする。[villa aida/和歌山県岩出市] by ONESTORY
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自ら種を蒔き、畑を耕し、食材を収穫。東京のレストランにできないことを僕はする。[villa aida/和歌山県岩出市] by ONESTORY

「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から和歌山県岩出市の「villa aida」を紹介します。

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「あの場所であの料理を出されたら、東京でやっている僕たちは太刀打ちできない」 東京で、否、アジアでも指折りのレストランとして知られる、『Florilège』の川手寛康氏は『villa aida』をそう評します。それは単なる料理人のテクニックや料理の美味しさだけを比べただけではありません。 和歌山県の岩出市川尻地区の住宅街に佇む一軒のレストラン『villa aida』。シェフである小林寛司氏は、自身の目指すべき店の姿を「東京からお客さんを呼べるレストラン」と位置づけます。

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キッチンに立ち、調理をしている最中、何かを思いついたかのように小林シェフは畑に走ることも少なくないとか

ただし、奇をてらった料理で人々の関心を集めるようなことはしません。それは、人間にとってごく自然な営みの一部といっても過言ではないでしょう。自ら耕した畑で収穫した、その時期にしか味わえない野菜。言葉にするのは簡単ですが、ここでは市場に出回らない野菜が、旬と『villa aida』の日常を切り取った料理として様々に調理されていきます。 4年に及ぶイタリアでの修業、そこで学んだ料理に対する精神、30歳を目前にした若かりし頃の経営難、そして料理に対する葛藤……。様々な壁を乗り越え、『villa aida』は全国から客が集まるレストランになっていきました。

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今とれる食材を使った結果、豆が主役になった驚きのコース料理

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この日登場したアミューズ。そら豆、パルミジャーノ、アーモンド、ハーブ……。これぞまさしく素材の組み合わせの妙

小林シェフからは「今日の食材は豆」と聞いてはいたものの、実際この日のコースは豆のオンパレード。しかし、これが食べてみると飽きるどころか、豆ひとつでこれほどまでに多彩で抑揚のある料理ができることに驚きを禁じえません。まず、アミューズとして登場したのは、チュイル(薄く広げて焼くこと。フランス語で瓦という意味。)生地にフローマージュブランがのり、黒胡椒、パルミジャーノチーズが振りかけられ、更にそら豆、アーモンド、ストリドーロというハーブが添えられたひと品。まだ、育ちきっていない若いそら豆の淡い風味に、チーズのコク、チュイルの甘み、ハーブの香りなどが複雑に絡み合って、黒胡椒の辛味がその輪郭を際だたせます。

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コースの後半のメインには成長したうすい豆とひよこ豆を使用。豚のジュ(肉汁)を含ませ、しっかりとした味付けに

続く前菜は、イカとそら豆をレタスで包み、チコリのクリームソースなどを合わせ、プリモピアットは米と豆の相性の良さに着目し、米のチュイルとうすい豆に大豆のムースを合わせたひと皿に。コースが進むほど、豆は成長過程を追うように小さいものから大きいものへ、生から火入れしたものへと変化。さらに、豆自体にも徐々に味を含ませていくという手法をとり、変幻自在に食材を楽しませるのです。それも、自らが畑で収穫し、一年を通して一番身近な環境で食材に接している小林シェフだからできること。調理中何かアイデアを思いついたかのように小林シェフは畑へ走り出すことも。それこそ、東京では作ることができない、ここでしか味わえない料理の真意なのです 。

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旬を切り取る食材に巧みなハーブ&スパイス使いを合わせて

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この日のメインは周参見産のいの豚のロース肉。チコリのクリームソースにミックススパイスのアクセント

そして、そんな小林シェフの料理のひとつの肝となるのが、ハーブやスパイスの使い方にあるのではないでしょうか。先に登場したアミューズのストリドーロや黒胡椒、プリモピアットにはタイムの花がちりばめられ、和歌山県西牟婁(にしむろ)郡周参見(すさみ)産のイノブタにうすい豆とひよこ豆を添えたメインには自家製のミックススパイス。絶妙なアクセントとして食材同士をつなぎ合わせるハーブ&スパイス。聞けば「ただ好きだからというのと、料理の香りを大切にしたい」との想いがそこにあるのだと言います。

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「環境が変わりすぎましたし、ここでやれることはひととおりできた」と、次なる場所を求め、少しずつ動き出す小林シェフ

小林シェフの話を振り返れば、イタリアから帰国した際、レストランの面接を受けたにもかかわらず断念したのも、思うようなハーブを使うレストランに出合えなかったことが理由。そして、独立して『villa aida』を構えた時に、店の脇に植えたのもハーブでした。そう、ハーブは小林シェフとは切っても切れない関係にあったのです。旬を切り取った食材と巧みなハーブ&スパイス使い。それは、センスだけでは到底なし得ない、食材への深い造詣と愛情があってのことなのです。

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高みではなく、精神的なより深い場所を求めて

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前菜はレタスにイカとそら豆を包んで。即席リコッタチーズにハーブやベコニアの葉、黒キャベツのパウダーなどを散らして

「イタリアで修業してきたから、はじめはイタリア料理でしたけど、今はイタリア料理とは名乗っていません」。 そう話す小林シェフは、自らの料理をイタリアンとは捉えていません。強いて言えば、「イタリア料理の精神を受け継いだ料理というニュアンスが近い」のだそうです。現在も小林シェフの中で息づくイタリア修業時代に学んだこと、そして財産となっていることといえば、まさにその部分なのでしょう。テクニックや調理法などの目に見えるものだけが全てではありません。それは郷土への愛着であったり、アイデンティティであったり、自然とともに生きる大切さだったり、そこから生まれる心の豊かさだったり、そうした精神が今の『villa aida』を支える根源となっているのです。ただ、小林シェフは「ここでやれることは、もう全てやりきった感があるんです。いい場所があれば、そろそろ次の所へ」と、近い将来に移転する可能性も示唆します。 それは、この和歌山に、岩出に愛着がなくなったのではありません。小林シェフは、自然とともに暮らし、自然とともに料理できる場所を求めているだけなのです。そして、環境や食生活の見直し、地域と生産者と消費者の関係性のあり方などを改善すること。誤解を恐れずに言えば、それは「高み」ではなく、より精神的な「深み」を感じる場所。小林シェフの安住の地であり、新たな挑戦でもあるのです。

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