![冬は猟師であり、夏は農家。それこそが、厳しい真狩村でフランス料理をやるという決意。[マッカリーナ/北海道真狩村]](https://image.co-trip.jp/content/14renewal_images_l/510822/main_image_20210218175252949.jpg)
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2021.02.19
冬は猟師であり、夏は農家。それこそが、厳しい真狩村でフランス料理をやるという決意。[マッカリーナ/北海道真狩村]
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から北海道真狩村の「マッカリーナ」を紹介します。
2017年7月、我々『ONESTORY』取材班は、夏の北海道で、とあるシェフを取材しました。そして2017年11月、半年後に再びそのシェフを取材するためだけに、今度は冬の北海道を訪れました。その発端はシェフ・菅谷伸一氏の「夏と冬では全く別、それが『マッカリーナ』なんだよ。今度は冬に来るといいさ」というひと言でした。 そうして冬に訪れた北海道の真狩村で待っていたのは、夏とは別物のレストラン『マッカリーナ』だったのです。
空港から真狩村へと向かう道中。15時過ぎだというのに美しい夕景が待っていた
今回のレストラン取材記事は、1年の営業を真狩村の四季とともに変化させていく、レストラン『マッカリーナ』の記録です。 春の山菜に始まり、夏は菅谷氏自らが耕す畑の野菜、秋はキノコで、冬には自らが狩猟したジビエの数々。 土地に根ざしたレストランの本質とは。 そんな我々が追い求めるひとつの答えに触れられた気がします。
何の目印もない雪の中の竹やぶをかき分け狩猟は始まった
雪道を走りながら、狩りのために自然から様々な情報を仕入れる菅谷氏
ここからは、いよいよ冬の取材記事の始まりです。 今回、事前に菅谷伸一氏に指定されたのは、夜明け前の朝6時過ぎ、店の勝手口での集合でした。そして用意しておくのは長靴、汚れてもいい防寒着、手袋、帽子。 「とにかく寒いからね。この前なんて沼みたいな場所に落ちたから、大変だったんだよ。そんなこともあるから気をつけて」と菅谷氏。 どう気をつけるかもわからぬまま、真っ暗な夜道を車で走るものの、前夜からの雪で路面はツルツル。東京の道路事情に慣れた取材班では、減速に次ぐ減速、エンジンブレーキ多用で、目と鼻の先にある店までの道中すら、驚くほどの時間を要したのです。
車を降りるとすぐさま狩猟の準備。一気に緊張感が高まる
店に到着すると、待っていたのは迷彩服姿の菅谷氏。初めて目にするハンター・菅谷氏がそこにいました。そして簡単に朝の挨拶を済ませたかと思えば、すぐに愛車の四輪駆動に乗り込み、雪道など物ともせず疾走していくのです。 「朝は鴨。ここ数日、全く姿を見せないから会えるかはわからない。でもいくつか出合えそうなポイントを巡ってみよう。ほら、そこの竹やぶの先がまず最初のポイントだ」と菅谷氏は教えてくれました。 店から車で数分走るだけで、狩猟スポットは目の前まで迫っていたのです。心の準備もままならぬまま、いよいよ狩猟の現場はすぐそこに。
命の奪い合いは常に真剣勝負。プリミティブな自然との共存がそこに
菅谷氏が毎回散弾銃を構えるも、結局鴨には出合えなかった
ガサガサガサ。 笹のブッシュをかき分けると獣道のような道ともいえない小径があり、菅谷氏は人差し指を立てて唇に当て、「静かに」するよう促します。更に小声で、「ほんの数メートル先の角を曲がれば池があり、そこに鴨がいる可能性がある。見つけた場合には、すぐに散弾銃を使用する」と取材班に告げ、再びゆっくりと歩き出します。 氷点下の澄んだ空気の中、緊張で張り詰める空気。同行カメラマンも菅谷氏の後ろに陣取り、絶好のシャッターチャンスを今か今かとうかがっているのです。 そして角を曲がった瞬間、菅谷氏は散弾銃を構え、臨戦態勢に。
多い時には10羽以上の鴨が羽を休めているというポイントの池
しかし木々に囲まれた美しい冬の池は静寂のまま、鴨の姿は見えませんでした。すると菅谷氏は「うぉ、うぉ、うぉー」と突如叫び出したのです。 「もし鴨がいれば、声にびっくりして飛び出すこともあるからね。ここまでをいつもやるんだよ。でも残念。次に行こう」と菅谷氏。 その後もいくつかのポイントを回るも、吹雪が強まる一方で、鴨は一向に姿を見せてくれなかったのです。道なき道を歩き、暴風に耐えながらも、ポイントごとに緊張感を保ち、その都度準備を怠らない菅谷氏。そんな菅谷氏の姿を見ていると、狩猟の現場に行けばいとも簡単に決定的瞬間が撮れると思っていた我々取材班が間違っていたと思い知らされるのです。そこには歴然たる命と命のやりとりがあり、この場で生きるということは、常に真剣勝負の連続なのです。
「今日は全然、いねぇなー」と悔しがる菅谷氏
「視界が悪すぎる。今日は天候が鴨の味方だね。残念だが諦めよう」と菅谷氏。時計の針が8時30分を過ぎた頃でした。そこからランチの仕込みに店に戻り、「ランチ営業後に天候が回復していたら、今度は鹿を狙いに行こう」と菅谷氏は言い、こともなげに料理人の顔へと戻っていくのでした。
雪山に銃声が響き渡る、その時がいよいよ
菅谷氏が引き金を引いた瞬間、雪山全体が震えるような振動が
昨日同様、15時を回るとすでに夕方のような空の色。再び店の前で待ち合わせをすると、迷彩服姿の菅谷氏が。コックコートの料理人からハンターへと、すでにスイッチが切り替わっている顔つきでした。 「実は鹿はもう少し後、12月から2月にかけて狩りに出ることが多くて、今シーズンは今日が初なんだよ。いるかな〜」と菅谷氏。 午前中の狩りが不猟だったことで、菅谷氏は普段は出ないというランチ営業後、仕込みをスタッフに任せ、無理をして狩りに出てくれたのです。 夕闇が迫る雪山を滑るように走る菅谷氏の四輪駆動。鴨は水辺が狩猟ポイントなのに対し、鹿は様々なフィールドが狩猟ポイントだと教えてくれます。 「山の裾野、畑、水飲み場の近く。ぽつんとした見通しのいい所に動かずに1匹だけでいたりするから、車中からも目を凝らしていてね」と菅谷氏は言います。
獲物は大きな角を持つ勇壮な姿の牡鹿だった
そんな話をしつつ、狩りをするということ、野菜を育てスタッフを育てるということ、そして真狩村の自然の厳しさと豊かさ、素晴らしさなどを教えてくれる菅谷氏。それはこの地で20年にわたり、シェフを続けてきた菅谷氏だからこそのセリフなのだと感じた直後、同行カメラマンが「あれ、鹿じゃないですか?」とひと言。ゆっくりと車を止め、目を凝らす菅谷氏が「牡鹿だね、ここから300mは離れているかな。もう少し近づくね」と冷静に話すと、車はジリジリと牡鹿を目指して動き出します。距離にして200m弱まで近づき、静かに車を降りて銃を構える菅谷氏。 直後、ズキューーーーーーーン。 冬の山に甲高い銃声が響き渡りました。その刹那、200m先の黒い物体は、飛び跳ねるような動きをして裏の山へと消えていったのです。 「あーーーーー、ちっくしょう。外しちゃったよ」と残念そうに話す菅谷氏。
急遽行うことになったシーズン最初の鹿狙い、銃のスコープの調整がうまくいっていなかったのかもしれません。菅谷氏はごめん、ごめん、本当にごめんと、何度も何度も謝ってくれるのですが、むしろ我々の方こそ申し訳なく思うのです。すでに夜の営業時間は近づいていました。車を走らせる帰りの道中。無理を続けてくれた悔しそうな菅谷氏の横顔は、いつしかまた料理人の顔へと戻っているのです。ハンターから料理人へ。この繰り返しこそが菅谷氏の冬なのです。 「今度は道東か道北だな。絶対、狩猟の現場を経験させてあげたい」と菅谷氏。 やり残したことがある、撮れなかったものがある。それもまた、地方を追い続ける我々取材班の醍醐味なのかもしれません。北海道の大自然を相手に、料理を作る菅谷氏の覚悟を知るという、獲物ではないもっと大きな収穫は確実にあったのだと思います。
レストラン・マッカリーナ
レストランマッカリーナ
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