毎日の食卓で活躍する金属の器やカトラリー

経年変化を楽しめる真鍮の食器は、扱いやすいのも魅力

カーン、カーンと真鍮を叩き、鍛金する高い金属音が響く川地さんの工房。作業場には、器のカーブを整えるためのあて金や模様を打ちつけるたがね、ハンマーなどが並びます。 「一人なのでなかなか制作が追いつかなくて…今は定番のものしか手元にないのですが」 見せてくれた作品は、大小はもちろん、形もさまざまなスプーンやフォーク、そして器の数々。真鍮の温かみのある輝きと、熊や小鳥をかたどった小皿などかわいらしいモチーフに心惹かれます。 「熊のお皿の名前は〝熊皿〟。使いやすくて、動物のかわいらしさもあって…そんな動物を選ぶのが意外と難しいです。実際に使ってみて使い勝手が悪ければ、形を変えていっています」 甘すぎずシンプル、控えめでありがながら存在感がある…日常に溶け込むバランスでひとつひとつていねいに作られています。

日々の暮らしで使う“道具”であることを意識した作品づくり

たがねを使って模様を打ち付けていく

金属工芸の技法にはいくつかありますが、川地さんは、主に素材を叩いて形づくる鍛金で作業をします。作業中は「アートなメッセージ性とかは…あまり考えていないかも」という川地さん。 「単純に自分の生活に必要なもの、欲しいものをつくればいいんだって思えるようになったのはここ3、4年のこと。制作や販売を続けていて、生活の道具として真鍮のものが需要があるな、とやっと思えたところです」

インタビュー中、自身の器を使ってもてなしてくれた川地さん。合成着色料を使わないナチュラルなお菓子が、真鍮の器に美しく映えます。カトラリーや器といった普段使いの道具たちが、使う人それぞれの暮らしを彩ってゆきます。

金属工芸作家だからつくれる遊び心たっぷりのお菓子

「おやつチケット」。喫茶店のコーヒーチケットをイメージ。1枚ずつちぎって食べて

全国各地の雑貨店やイベントで販売される川地さんの作品。金属の器のほかに人気なのが「カワチ製菓」としてつくる遊び心たっぷりのお菓子です。はじまりは金属工芸を専攻していた美大の学生時代。 「作品としてケーキ型を作成していた時から、自分の作品を使ったお菓子の販売もできるといいな、と思ったんです」

オリジナル焼印ももちろん川地さんの製作

もともとお菓子づくりが趣味で、ど派手にデコレーションしたバースデーケーキをプレゼントしては、“わぁ”と驚かせるのが好きだったという川地さん。型や焼印を自ら作ることで、愛嬌たっぷりのオリジナリティあふれるお菓子をつくり出しています。

山形で続ける創作活動では、新しい驚きがいっぱい

おなかがオートミール生地で2種類の味を楽しめる「オートミール子ちゃん」

川地さんが活動の拠点を、東京から知り合いもほとんどいない山形に移したのは5年前のこと。山形はクラフト作家やベーカリー、カフェなどの合同イベントが活発。作品をつくっている川地さんもすぐにイベントに誘ってもらい、参加の機会が増えていきました。 それでも、まだまだ旅人気分。“よそ者だからこそ感じる新鮮な驚き”を大切にしているそうです。地元農園とコラボレーションしてフルーツたっぷりのグラノーラをつくったのも、その新鮮な驚きがあったからこそ。 「たまたま声をかけていただいた地元農家さんのラ･フランスや赤すもものドライフルーツを食べたら本当においしくて。ドライフルーツとして食べたのも初めてだからびっくりしたんです」 なるべく地元のものを使いたいという思いから、小麦粉も山形県産のものを使用。毎日の暮らしの中で食べて、使うもの。川地さんのつくり出すものは、山形という土地とのつながりと、日々の暮らしを大切にする思いがつまっています。

川地さんの作品は、イベント出店のほか全国のショップで実施される企画展などで販売されます。今年11月、「CLASKA Gallery＆shop“Do”日本橋店」で個展も開催予定です。店内のギャラリースペースでは、カトラリー･器･お菓子を展示、販売します。 ※現在、オーダー受注はお休み中です。 毎日の食卓にすっとなじむ川地さんの作品をぜひ手にとってみてくださいね。 川地さんのインタビューは、ことりっぷマガジン2017年夏号でもご紹介しています▼