温泉地・下呂でゲストハウス開業を決意した中桐さんの挑戦【ゲストハウスのタネ】
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温泉地・下呂でゲストハウス開業を決意した中桐さんの挑戦【ゲストハウスのタネ】

【編集部コラム|きょうのタネ】 ことりっぷwebスタッフが日々の中で出会った人・モノ・場所、個人的なおすすめなどを紹介する編集部コラム「きょうのタネ」。今回の担当はプロデューサーの平山です。 日本三名泉にも数えられる、岐阜県の下呂温泉。 浴衣姿の人が歩く夜の川沿いの風情や、築80年を超える建造物を今に残す湯之島館の趣など、一度は訪れてみたい日本屈指の温泉街である。

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夜の温泉街(上)と昭和天皇が訪れた湯之島館(下)

そんな温泉街から15分程度車を走らせると景色は一転、のどかな田園風景がひろがる。 岐阜県下呂市上原(かみはら)。この地で2018年春、古民家をリノベーションしたゲストハウス「ソラノイエ」がオープンする。その発起人が今回紹介する中桐由起子さんだ。

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山と田園に囲まれた下呂市上原

東京の美大を卒業し、CM制作会社で働き、オーストラリア・ニュージーランドの生活を経て下呂に辿り着いたという彼女。 なぜこの地にゲストハウスを建てることになったのだろう。 今まさにリノベーション中の古民家の中で彼女に話を聞いた。

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CM制作会社のタクシー生活から「足るを知る」生活へ

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朗らかな印象の中桐由起子さん

中桐さんは現在、古民家をリノベーションしゲストハウスの発起人をする傍ら、NPO法人「みらいろ」の理事や下呂市の魅力発信サイト運営、えごま油の生産と販売を手掛けている。 「とりあえず朝起きたら畑に行きますね。そこから1日が始まります。社会の中の歯車ではなくなった途端に、自然の歯車の中での暮らしが始まっています」 そう笑いながら話す彼女だが、大学卒業後に6年間勤めたCM制作会社の仕事は、とにかく激務だった。 ほぼ毎日深夜まで残業をこなし、そこからタクシーで帰る日々。 そんな環境でも「憧れの職業でもあったし、とにかく作ることに没頭できたのでつらいとか苦しいとはほとんど思わなかったですね」と振り返る。 そして自嘲気味に「今だから言えますけど、その頃は自分の右手は“魔法の右手”だと思ってました(笑)」と回想する。 魔法の右手とはタクシーを呼ぶ時にあげる手のことで、この右手さえあげればどこにでも行ける気分になっていたのだという。

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古民家内部。眼前にはのどかな田園風景がひろがる

しかしながら3年4年と経てば「立場」が与えられるようになってくる。 クライアントとの折衝や社内の取り回しなど、今までにない役割を与えられてから少しずつ違和を感じ始める。 「ピュアに作ることに打ち込めなくなってきたんです。そのあたりからこれからの人生を考えるようになりました」 CM制作会社に入社してから6年目の頃に転機が訪れることになる。とある建設メーカーのCM制作の依頼だ。 CMのテーマは「自然との共生」。 クライアントの意向を知るため、田舎暮らしの本やライフスタイル誌を読みあさった。

「これだ!これこそ自分の求める生活だと思ったんです」 自然を壊さずに、自分が充足できるだけの食糧で暮らすこと。「足るを知る生活」こそ自身の理想の暮らしだということに行き着いた。 そしてそこからは早かった。 自然との共生をテーマにしたライフスタイルの先駆けであるオーストラリアに単身留学を決意しすぐさま渡豪。1年間オーストラリアで学び、翌年にはニュージーランドで農業を手伝いながら理解を深めた。 2年間の海外生活を送り、学んだこと、目の当たりにしたことの延長線上にある生活を日本でできないかと模索し始めた頃、自身の出身地に近い下呂で地域おこし協力隊の募集を見つけ、地域の魅力を向上させる業務内容に自身の暮らしの理想を見出し、帰国することに。

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地元の扉を300軒叩いた先に見出した「遊ぶ」ということ

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今では総勢20名程度が「ソラノイエ」プロジェクトに関わる

「まずはこのエリアの人全員に会って話を聞こうと思ったんです」 下呂に住まいを設けてまず始めたことは、ずっとこの地に住んでいる方々の扉をたたき話を聞くこと。その数はなんと300軒以上。地元の方の声に耳を傾けできることを模索した。 はじめの1年間は話を聞くだけでなにもできなかったと中桐さん。 しかし話を聞き続けた成果は徐々に表れ始め、2年目には地域の方を巻き込んだイベントや子どもたちを集めた農家体験なども行うようになった。 そこから地域の課題が持ち上がる度に中桐さんに相談が来るように。 今では連日地域の課題が生まれる場所に中桐さんの顔がある。

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ゲストハウスからの眺望。ゲストハウス開業後は農家体験を行いながら採れた野菜などで料理を振る舞う予定

それはそれでとても有意義なのだけれど、と前置きした上で中桐さんは問う。 「それでも地域のプロジェクトー移住先の候補地として訪れてもらうことだったり、新しい農作物の加工品を売っていったりーというようなことを決意し進めていくには、この地域を“遊べる人”が必要なんだと思います。このフィールドで面白く生きようとする人が増えれば増えるほど地域の活力になっていく」 地域の課題を慎重に受け止めるばかりに、新しいアイデアが出てきても一歩めがなかなか出ないことがある。 その一歩めを出すのは“遊び心”であり、地域には今、“遊び人”が必要だと訴える。 そして“遊び人”には、地域に染まっていない地域外の人に可能性があるとも。 「下呂に来てもう3年経ってるんです。会社であれば新入社員を卒業し、次のステップに行く時期。地域の人と一緒に次の新入社員を迎え入れるような風通しの良い雰囲気を作っていきたいんです。田舎には何もないんじゃない、遊び心があれば、生きることを最高に楽しめる場所だということを伝えて行きたい。そんな仲間が増えていったらいいなと思う」

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石垣の上に立つ建設中のゲストハウス「ソラノイエ」。ブルーシートのあたりはテラスにしたいと話す

---- 話を終え、古民家を出たとき、目の前の通りに停めてある車から声がかかる。 「いつできそうだい?」 「来年春くらいですかねぇ」 「もっと早く作ってくれよ。楽しみにしてるよ」 聞けばいつも声をかけてくれる近所の住民の方のようだ。 地域の方と交わりながら、地域を遊ぶ。 楽しそうに遊んでいるのを見付けた“新入社員”が地域に入る。 地域の人と一緒になって遊び方を教え合う。 それが結果として地域全体の「楽しみ」につながり、楽しみの輪に少しの間加わるためにこの地に訪れる人が増えていくこと。 そんな場所のひとつとして、このゲストハウス「ソラノイエ」は機能していくのだと思う。 ゲストハウスのオープンが楽しみになった。 ---- この「ゲストハウスのタネ」では、次回以降中桐さんからこれから、ゲストハウス「ソラノイエ」でやっていきたいことや下呂の魅力について語ってもらう予定です。これを読んでくれた方もこの「楽しみの輪」に入ってもらえたら嬉しいです。

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ことりっぷwebプロデューサー 平山高敏

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