お客さんの顔が見たい。清澄白河の製本屋が工場前で「御朱印帳」を売る理由【製本屋のタネ】
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お客さんの顔が見たい。清澄白河の製本屋が工場前で「御朱印帳」を売る理由【製本屋のタネ】

ことりっぷwebスタッフが日々の中で出会った人・モノ・場所、個人的なおすすめなどを紹介する編集部コラム「きょうのタネ」。今回の担当はプロデューサーの平山です。 2015年のブルーボトルコーヒーの上陸を皮切りに、休日にはカフェや美術館を目指して人が行き交うようになった清澄白河。 そんなおしゃれな印象のこのエリアで「御朱印帳」を販売している製本工場があるのをご存知だろうか。 販売しているのは創業50年を誇る下町の製本屋「キョーダイ社」。 今ではテレビや雑誌にも紹介されるようになり、ひとつの観光スポットにもなりつつあるこの製本屋の二代目社長・小森豊章さんに、工場前で「御朱印帳」を販売し続けている理由を聞いた。

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お客さんに一番近くて一番遠い「製本屋」という仕事

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キョーダイ社の工場内。所狭しと製本用の機材が並ぶ

「このエリアは今流行りの清澄白河エリアとは少し離れていますが、それでもここ数年は休日になれば通りに若い人が増えましたね」 そう話す小森さんは生まれも育ちも清澄白河。 創業50年を迎える製本屋「キョーダイ社」の二代目社長だ。 東京都現代美術館ができたのが1995年、2000年に大江戸線、2003年に半蔵門線が開通し、そこから徐々に人が訪れる街へと変貌を遂げる清澄白河だが、もともとは印刷・製本の町であった。 「昔からこのエリアには印刷屋と製本屋が多くて。この地域だけでも400近い製本屋があるんです。でも、そもそも製本屋ってあまり聞いたことないでしょう?」

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ひとつひとつ言葉を選びながらていねいに話す小森さん

そういえば、と工場内を見て首をかしげる僕に 「みんな印刷屋さんと勘違いするんです。製本屋の役割は印刷屋さんが印刷した紙を綴じ、皆さんの手に届く形にする最後の行程を行う場所。いってしまえば、お客さんに一番近い場所にいるんです」 ただ、と続ける。「我々の仕事は完成した本やカタログなどを印刷屋さんにお返しすることで、実際にお客さんの顔を見ることはできないんです」 小森さんが先代である父から稼業を継いだのは約10年前。 「もともと稼業を継ぐことは決めていたのですが、その前に製本以外のものづくりの現場を経験したかったんです。当時はWebサイトが盛り上がりを見せている時期でもあり、ダイレクトにユーザーとつながることのできるWebの世界に興味が湧き、Webサイト制作会社に入社することに決めました」 入社してから退職するまでの5年間、Webサイト制作の企画営業として、大手自動車メーカーのディーラーや英会話教室のwebサイト制作を担当した。 「毎日クライアントと顔を突き合わせ、制作したサイトのユーザーからの反響を見ながら改修を加えていく仕事は充実していました。反響を見るということはユーザーの顔を見ているようなもの。直接ではないけれど、ユーザーさんと“つながっている”仕事は充実感がありました。だから製本屋を継いだ当初はお客さんの顔が見えないことに一抹の寂しさがあったんです」 継ぎ始めてほどなくして模索し始めたのは、本来一番近くにいるはずのお客さんとの接点を作ることだった。

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町内イベントをきっかけに御朱印帳の販売へ

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町内イベントにて販売した一作目の御朱印帳。「麻の葉綴じ」という手法を用いた

そんなことを模索し始めた折、町内イベントに製本屋として出店することが決まった。 オーダーされた内容は製本屋ならではの商品の販売。 「商品を作るといっても、我々は印刷屋ではないからプリンターもないし。だからできることは限られているから頭を悩ませたんです」 工場内を見渡し、大量にある“白紙”が目に留まる。 印刷できないなら“白紙”を綴じることでできることを考えた。 メモ帳、スケッチブックと試作を経て辿り着いたのが「御朱印帳」。 「メモ帳だと使ったあと捨てられてしまう。それではもったいないと思って、手元に“残るもの”が良いと思ったんです。たまたまその頃、御朱印帳集が流行しているのをテレビで見て。実際に自分で作って使ってみたんです。これが面白くて。御朱印帳があると出かける理由になるんですよね。それで御朱印帳に決めました」 これが当たりイベントでは想像を超えて売れた。 「でも売れることよりも、僕が作ったものを直接手渡しできたことがなにより嬉しかったんです」 その手応えのまま、本業は継続しながら御朱印帳を制作、販売するように。 工場の入口を開放し、入口付近にスペースを設け専用の棚を用意し、通りかかる人に自らが売り子となって販売するようになった。

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色とりどりの華やかな御朱印帳が並ぶ

工場前で御朱印帳を販売している珍しさが目を引き、今ではテレビや雑誌の取材が入り、大手百貨店の催事で販売する御朱印帳のオーダーまでくるようになった。 最近ではホームページ上で問い合わせ窓口を作ったり、Instagramを開設するなどしてWeb上でもお客さんの対応を行っている。 遠くは愛媛に住む方から、数か月に一回のペースでオーダーが入る。 リピートする理由について小森さんは 「地元にある御朱印帳は地味で、僕が作った華やかな御朱印帳を手に取ると出かける気分があがるらしくて」と嬉しそうに教えてくれた。 ときには、本業を圧迫しそうなほどオーダーが入る月もある。 忙しい本業が終わり、家族が寝静まったあと、ひとり工場で御朱印帳を作ることもあるという。

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創業当時から利用している刷毛と糊盆(糊を水で溶きながら練るための容器のこと)

御朱印帳を作るには大きな音を立てる機械は必要ない。 50年前の創業当時からある工具を利用し作っている。 「新しい工具も使うけれど、なじみが良くて仕上がりも良いのは圧倒的にこっちなんです」 こういう発見も御朱印帳を作り始めて気付いたことと刷毛を触りながら話す。

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誰かの一生とつながる仕事を

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問い合わせが増えても工場前のスペースでの販売をやめるつもりはないという。 「御朱印帳は、もって出かけてはじめて役割を果たせるもの。買った人の顔がわかると、その人が御朱印帳をもってでかける姿が想像できるんです。それが嬉しいんですよね」 それにもうひとつ効果がある、と続ける。 「僕を含め工場のみんなの背筋が以前より伸びたような気がするんです」 工場を開いていると近隣の方や通りすがりの人が立ち寄るようになる。 それは理想としていた“お客さんの顔を見る”機会が増えるということであり、そのちょっとした緊張感が仕事に張りを与えてくれるという。 「そういう空気になるとね、当たり前ですけど手は抜けないんです。今までも抜いてるわけではないないけれど、そういう気持ちって大事だと思うんですよね」

これから何をしたいですか?という問いに対して 「なんでしょう」と首を傾けながら言葉をさがす小森さん。 数秒の沈黙のあと「そういえば先日前職の後輩の女性から連絡がありまして。子どもが産まれたという連絡だったのですが、その子の誕生日ごとに手形のスタンプを押す本を作ってほしい、ていうオーダーがあったんです」 「だから...そうですね。僕がやりたいことはきっと、誰かの人生の“1ページ”に寄り添う仕事なんじゃないかなぁ」 ---- 実は小森さんは僕の前職の初めての上司である。 上司時代の彼がとにかく口酸っぱく言っていたのは「楽しめ」「巻き込め」だった。 そんな彼の言葉がそのままつまったこの工場は、今後も変わり続ける町の中で変わらずそこで開いていて、通りがかりの人も、いつも通る人も楽しませ、そして巻き込んでいきながら関わっていくのだろうと思った。 誰かの人生の1ページに彩りを与えながら、時にはページを増やしながら。

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ことりっぷwebプロデューサー:平山高敏

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