![「農園×レジャー」「農作物×ファッション」という新発想。[大野農園/福島県石川郡] byONESTORY](https://image.co-trip.jp/content/14renewal_images_l/248740/main_image.jpg)
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2018.05.14
「農園×レジャー」「農作物×ファッション」という新発想。[大野農園/福島県石川郡] byONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から福島県石川郡の「大野農園」を紹介します。
大きな桃の木の下で、お酒を飲むともっと美味しい。

農園に、若い人たちの「カンパーイ」が響き渡る。
春はお花見、夏はビアガーデン。お洒落なチラシに導かれて訪れてみたら、会場は農園! 入り口では屋号が書かれた都会的なデザインの看板に、鋏(はさみ)のマークが目立っています。『大野農園』は、福島県阿武隈地域・石川町で1975年に創業した農家。

見よ、この蜜!糖度17~18度というリンゴの収穫も体験可能。
主に栽培しているのは桃、梨、リンゴです。毎年全国8,000人を超えるリピーターから支持されている理由は、果実の大きさと甘さにあります。基準値を大きく超える糖度と「特玉」と呼ばれるサイズが特長です。ですがこの農園で驚かされるのは、味以上にそのユニークな取り組みや、栽培の背景に込められたストーリーです。
イケメンが農家に!モデルからの転身に迷いも後悔もなし。

『大野農園』では大野氏の家族の他に、新規就農を目指す若者も働いている。
この農園の経営者はなんと元モデル。祖父の大野 峯氏の跡を受け継いだ、現在34歳の大野栄峰氏です。仙台の大学に進学後、18歳でモデル業を始め、東京で芸能活動をしていました。しかし2011年の東日本大震災をきっかけに帰郷。原発事故の風評被害で実家の作物が売れなくなり、両親が気落ちしていることに心を痛め、家業を継ぐことに。華やかな世界から一転して田舎で農業――。しかも農業経験は全くなく、経営の知識もゼロでした。その大胆な転身に迷いはなかったかという問いに、「なかった」と大野氏はきっぱりと言います。そして「実家をなんとかしなきゃという想いだけで頭がいっぱいで、必死でしたから」と言葉を続けます。
福島の人は、素朴すぎてアピールが苦手。

鋏(はさみ)のマークは「剪定こそが作物に栄養を行き渡らせる」という代々の教えから。
帰郷後は、昼は畑で農作業を教わり、夜は経営者として経理などをこなす日々。そんな中で大野氏は、農業は作物を作るだけではビジネスとして限界があることに思いいたります。農家はもっと自ら発信し、買い手に訴えていかなければならない、と。大野氏は福島の「食」においても、ある特徴に気付きます。「福島の人は、ものづくりはプロフェッショナルで、とても良いものを作るのですが、プレゼンテーションが得意ではないと思います。『とにかく旨いから食ってみろ』では駄目なんです。その根拠を明確にし、他との差別化を図らないと、いつまでも農業は儲からない商売になってしまいます」と大野氏。
“畑違い”だからこそ違うベクトルに向けて展開できた。

ジャム、紅茶、ヨーグルトなど、他の業者と共同開発し、ビジネスを創出する。
そうした課題に挑むため、農産物を使って通年販売できる商品を作る計画に取り組みました。ただし、ジャムやジュースは農家が作る加工品としてあまりにも定番的。スーパーでの大量生産・低コスト商品との競争にもかないません。そこで、こういった加工品を雑貨のようなデザインにし、ファッションブランドとコラボレーションして雑貨店に置くなどして、新たな客層の開拓を狙いました。

リンゴ、桃など果実のフレーバーが味わえるフルーツラガーが人気。秋には梨も。
2013年に「福島路ビール」とコラボレーションした「りんご・もものビール」は、当時としては珍しい商品。「『農家ってこんなこともできるんだ』というアプローチを他の生産者にも見てもらうことで、福島の農家全体が盛り上がればいいな、という想いもありました」。もともと農業経験者ではなかったからこそ、全く違う方向に商品を展開できたともいえます。
福島の美味しいものと作り手の想いを、ピザにのせて。

『大野農園』のリンゴにシナモンを利かせたシンプルなピザ。オール500円。
実は、2012年にもうひとつのユニークな事業をスタートしていました。それは「スイーツピザ」。県内生産者の野菜や果物を使ったピザをキッチンカーで販売するお店で、その名も『農園窯焼きピザ オラゲーノ』。本場イタリアの生地に旬の具材をのせて焼いたピザは、「ぶどうとマスカルポーネピザ」「チェリー&ベリーのカスタードピザ」「ブロッコリーと福島牛ボロネーゼピザ」など、どれも旬の具材をチーズや福島産の肉などと組み合わせた魅力的なラインナップで、オール500円と価格も手頃。

『関谷農園』のトマトに『大野農園』のバジルを合わせたマルゲリータ。
これをイベントなどに出店すると、それまで農業とは縁遠かった若い人たちも「農園がこんなことやってるんだ」と、その存在や作物の美味しさを知り、その後野菜や果物を買いに来るようになったといいます。自分の農家の作物だけでなく、「さくらんぼ(石井農園)」「パプリカ(とまとランドいわき)」など様々な農家の名を入れたメニュー作りにもこだわっています。それは、いいものを作るけれどアピールが苦手な生産者たちの作物の美味しさを、多くの人に伝えたいからです。

『農園窯焼きピザ オラゲーノ』は、主に福島県内の県中から県南のスーパーやイベントなどに出店。
農園は楽しい、美味しい、集まれる場所。

バーベキューの野菜や肉も、福島県産や国内産にこだわる。
こうして商品を人に届けることの道筋はついてきましたが、農家のものづくりに触れてもらうためには「足を運んでもらうこと」が大事。農園に来て果物が育つ過程を知り、穫れたてを食べることで、これまで「商品になった果物」しか見ていなかった子供たちや若い人に「人が育て、美味しくなるために手をかけている」ということが伝わります。果物狩りなどの体験イベントは定番ですが、緑に囲まれた広い自然という舞台を、人々が交流する場として有効活用したいと大野氏は考えました。それが「農園イベント」です。

ビニールハウスがビアガーデンに。毎回楽しみにしている人も多いという。
毎年人気の「農園花見」では、バーベキュー食べ放題と飲み放題がセットで4,000円。例えばある年の食材は、福島県産肉(牛、豚、鶏)8種、県産のニンジンやキャベツなど新鮮野菜7種、キムチなど漬物5種、ご飯に焼きそば……と農園で行われるバーベキューとは思えない豪華さです。 また「りんごの枝で焼きりんご」などユニークな催しも。これは剪定作業で切り落とした枝をみんなで集めて焚き火をし、焼きリンゴやじゃがバター、焼きトマトなどを作って味わうイベントです。これらのイベントは年を追うごとに人々に周知されるようになり、今では毎回参加者が1,000人を超えるとか。大野氏のこうした活動によって、しだいに農園が「面白い場所」として親しまれるようになってきたのです。

農家は作物を作るだけではない。農園は作物が育つだけの場所ではない。そして日本には、こんなに「攻めている農家」があってもいい。また地方から、アグリカルチャーの未来に新しい風が吹きそうです。 写真提供:大野農園
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