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2018.09.11
人口500人のせとうちの小さな島に“お引っ越し”した女性二人組が作る「book cafe okappa」【離島カフェのタネ】
広島県尾道駅からバスで1時間、さらにそこから船に乗り継ぎ15分ほど揺られると、愛媛県の佐島に辿り着きます。人口500人程度のコンビニもスーパーもないこの島に、東京から女性の二人組が移住してきたのは昨年2017年春。 「ふたりともオカッパ頭だから」というユニークな理由でつけられた同い年のユニット「okappa(オカッパ)」が2018年9月1日、ここ佐島にカフェ「book cafe okappa」をオープンしました。 実はオープンから遡ること半年、カフェとなる物件が決まり改装が始まったとのことで、おふたりから編集部宛てにお便りをいただいていました。 「佐島の桜の木の下でお弁当でも食べませんか?青い海にピンクの桜、すごくきれいなんです」そんなかわいらしいお誘いが届いたのは3月中旬。 すぐに「行きます」と返事を出し、ちょうど桜が満開になった4月のはじめ、とびきりの笑顔のふたりに会いに行き、インタビューさせていただいていました。 今回は、そのときのおふたりのお話と、その後おふたりから届いたオープンまでの経過報告、オープン時の様子をダイジェストでご紹介します。
「不便が楽しい」自分たちの手でイチからつくりあげる島の暮らし
武田由梨さん(左)と鈴木彩美さん(右)。インタビュー中はずっと笑顔がたえない賑やかな雰囲気
「okappa」は元ゼネコン社員の武田由梨(たけだゆり)さんと、元雑貨屋店員の鈴木彩美(すずきあやみ)さんのユニット。2017年4月に東京からここ佐島に移住し、古民家で一緒に暮らしています。 住み始めてから約1年。佐島の暮らしについて聞けば、ふたりは満面の笑みで「楽しい」と声を揃えます。 「コンビニもスーパーも近くにないという不便さが面白いんです。食べ物も自分たちで育て、家具が壊れたら作り直す。あるものでどうにかすることが当たり前の生活。それがとてもクリエイティブだと感じます」(彩美さん) 「島の人に教えていただきながら私たちが住んでいる家の庭で野菜を育て始めています。自分たちの手で野菜を育て採って食べる。自然に寄り添っている感じがとても気持ちいいですね」(由梨さん)
ふたりが住む築90年の古民家。「縁側でのんびりすることがぜいたくな楽しみ」(彩美さん)
佐島では2人のような若い年齢の方は少なく、60歳~70歳くらいの人が多いのだそう。 それでも島の人たちは東京から移住してきた若いふたりを好意的に受け入れてくれているようです。 「島の人たちがとてもオープンなんです。男性は外との交流が活発な船乗りの方が多いし、島の外から嫁ぎに来ている女性も多いらしくて。だから私たちみたいな変わり者をすんなり受け入れてくれたのかもしれません」(由梨さん)
家の中には佐島で採れた柑橘類がどっさり。これからジャムにするとのこと
島の人たちとのほっこりとするエピソードも。 「この間も隣の家のおじさんが獲ってきたタコを生きたまま手渡ししてくれたんです。生きたタコを捌いたことなんでないからどうしたらいいかわからなくて、タコを手にしたまま近所のお母さんに調理方法を教えてもらいに駆け込んだりして(笑)」(彩美さん) そういえば朝起きたら玄関にバケツいっぱいのナマコが置いてあったこともあったね、とふたりは島の人たちとの交流を楽しそうに話します。 穏やかな時間が流れる佐島の暮らしですが、数ある移住先の中からなぜふたりは佐島を選んだのでしょう。
「この島での暮らしが想像できてしまったんです」【彩美さんの場合】
はじめて訪れた夏の旅以降、その年の秋のお祭りや正月にも訪れたという彩美さん。「その度に『おかえり』と迎えてくれる人が増えていくのが嬉しくて。どんどんこの島で住む実感がわいていきました」
瀬戸内海を旅行するのが好きだった彩美さん。2016年の夏、たまたまネットで検索してヒットした佐島のゲストハウス「汐見の家」に泊まることにしました。 「ゲストハウスのスタッフの方と仲良くさせてもらって。滞在中はずっと一緒にいたんです。一緒に海に遊びに行ったり、畑に連れていってもらって近所のおじさんとお酒を飲んだりしていました」(彩美さん) ほんの数日間の滞在にも関わらず、旅しているというより暮らしているような感覚を覚えたという彩美さん。 「佐島にいる間は毎朝散歩をしていました。3日目の朝に散歩していたら、ふとここに住んでいる自分の姿がありありと想像できてしまったんです。その時にはもう『あ。ここに住もう』って決意をしていました(笑)」 それまでは東京で雑貨屋をやっていた彩美さん。移住は考えていたのでしょうか。 「雑貨屋さんで働きながら次のステップは考えてはいました。いつかは“場所”を作りたいと思っていたんです。モノを売る場所なのか、ゲストハウスなのか、明確ではありませんでしたが。たまたま佐島と出会って『ここならできるかも』と感じて思い切って引っ越してきました」(彩美さん)
「暮らしをイチから作ってみたかった。この島だったらできると思った」【由梨さんの場合】
移住するまでは東京の阿佐ヶ谷に住んでいた由梨さん。移住について聞くと「移住というより隣の駅に引っ越してきた感覚なんです」と軽やかに答えてくれました
「暮らしをイチから作ることにずっと興味があったんです。食べるものを自分で育てることとか、古民家に住んで修理をしながら家を作っていくこととか」(由梨さん) 東京の阿佐ヶ谷に住んでいた由梨さん。2016年夏、勤めていたゼネコンでの仕事がひと段落つき「そろそろ次の“場所”を」と探し始めていた頃に、由梨さんの旅友達から佐島のゲストハウス「汐見の家」のオーナーを紹介されました。 「その時はまだ「汐見の家」はできていなくて。面白そうだったので、佐島へ開業準備に行くオーナーについていきました」(由梨さん) 当時の由梨さんにとって佐島は数ある旅先のひとつ。そのときは移住することは考えてなかったそうです。その数か月後にまた、「汐見の家」のオーナーから連絡が入ります。 「佐島にある2軒の空き家を借りられることになったと教えてもらったんです。そのときにずっとやりたかった暮らしがここならできるかも、と思えて。楽しい予感に引っ張られるように悩む間もなく引っ越すことを決めました」(由梨さん)
家から徒歩数分で海に出ることができる。「日ごとに海の表情が変わるんです。毎日見ていても飽きないです」(彩美さん)
偶然にも同じ時期に佐島に移住することを決めていた彩美さんと由梨さん。 そんなふたりを引き合わせたのは、先ほどから度々登場した佐島のゲストハウス「汐見の家」のオーナー。2016年秋にふたりを東京で引き合わせます。 佐島に引っ越したらやりたいことや自分たちの趣味や好みを話し合い、すっかり意気投合したふたりは、出会ってからわずか半年後の2017年4月に佐島の古民家で一緒に暮らすことになります。
2018年夏にオープン予定のカフェ「book cafe okappa」とは
2018年夏にカフェに変わる元保育所。水色の窓枠がかわいらしい24畳の部屋がふたつもある比較的大きな建物
おふたりにカフェになる予定の場所に連れていってもらい、リノベーションに着手したばかりの建物の中で話を聞きました。 なぜカフェというスタイルにしたのでしょう。 「最近は観光地として“せとうち”が人気になったこともあって、ここ佐島にも国内外から旅行者が来るようになりました。島の人たちからは、もっと旅人と話をしたいという声が多く聞かれるようになりました。だったら私たちが旅人と島の人が交流できる場を作ればいいと思ったんです。カフェであれば島の人にとっては憩いの場になるし、旅人にとっては休む場所になる。そうすれば自然と交流ができるなと」(由梨さん) 「旅人と地元の人がそれぞれ持ち寄ってくるものがうまく融合すると面白いなぁと思っていて。カフェに設置する予定の本棚には佐島のおじさんがセレクションした本を並べたり、たとえば秋田出身の旅行者が来たらみんなできりたんぽを一緒に作ったり。佐島と旅人をつなげられる場にしたいですね」(彩美さん)
取り壊し予定の親戚の酒造から譲ってもらった帳面箱。カフェでは本箱にするそう。「ことりっぷの編集が選書した本棚も作りますよ(笑)」(由梨さん)
「全員がサービスを受ける人でありながら、全員がサービス提供者になる、そんな場所ができたら面白いですよね」(由梨さん)
さらには「まだ構想段階で妄想レベルですが」と前置きしたうえで、今後やってみたいことを話してくれました。 「ピザ釜も作りたいし、海で釣りをしてもらうために釣竿も貸したいし、海で遊んだ人のためにシャワーブースも作りたい」(彩美さん) 「手前のスペースをカフェにして、奥の部屋はワークショップとか音楽のライブとか映画鑑賞とかができるイベントスペースにしたいと思っています」(由梨さん) これ以外にもアイデアはたくさん出てきました。どちらかがアイデアを出せば「あぁ!それ良いね」と会話が弾み、気付けば3時間ほど経っていました。 佐島と旅人を笑顔でつなぐ「book cafe okappa」の完成が待ち遠しくなりました。
取材を終えて
取材日はゲストハウス「汐見の家」に泊まりました。 彩美さん、由梨さんとゲストハウスのスタッフと一緒にご飯を作り、海外から旅行で来たサイクリストの3人と食卓を囲み、とても賑やかな宴となりました。 翌朝、帰りのフェリーを港で待っていると「okappa」のふたりが見送りにきてくれました。「はい」と手渡されたのは佐島で採れたデコポンと呼ばれる大きな柑橘、そこにはふたりの似顔絵とメッセージがサインペンで書かれていました。ふたりの人柄がわかるとても嬉しいサプライズでした。 ふたりはインタビューの中で何度も「作る」という言葉を使いました。 カフェをイチから作ること、農作物をイチから作ること、それら作るという工程を通じてひょっとしたらふたりはこれからの若い人のひとつの道しるべとなるような「暮らし方」を作り上げていくのかもしれない。そんなことを思いました。
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【佐島からのお便り①】取材から2か月経った「book cafe okappa」の今 by okappa
ここからは、お二人から送られてきた今の「book cafe okappa」を紹介したいと思います。取材から2か月が経ち、現状カフェはどういった姿になっているのでしょう。 お二人からのメッセージと写真をお楽しみください。
木の温もりを感じられるカフェ空間
「できることはやる、できないことは教えてもらってできるようにする」 そう2人で決めて日々コツコツとマイペースに、友人の大工さんに手伝ってもらいながら改修作業を進めています。 私たちの活動を知った地元の学生さんがお手伝いしてくれたり、ご近所さんが様子を見に来てくれたり…。 人の出入りがあると、空間が生き生きしていきます。 建物の空気が日々変化していくことを嬉しく思う毎日です。 ご覧のとおりまだまだ工事途中ではありますが、8月上旬のオープンを目指して、またコツコツとつくっていきます。
使っている木材は、ほとんどが島の解体予定のお家から頂いてきたものです。 これからよろしくという気持ちを込めて、綺麗に洗って使っています。 作業の様子を見にきたご近所さんが、古いものが好きなんでしょ?と、解体予定のお家を紹介してくれたこともとても嬉しい出来事でした。 島の財産を形を変えて生かしていければと、思います。 「book cafe okappa」の完成を楽しみにしていてくださいね。
【佐島からのお便り②】2018年9月1日、無事にオープンしました! by okappa
オープン当日の店内
しっとりと雨が降る9月1日。朝からたくさんの方にご来店頂き、とても賑やかでたのしい初日を迎えることができました。 パソコンを開いて仕事をする方、畳の部屋でのんびりごろごろする方、カウンターでわたしたちとお話しをして下さる方、地元の方に混ざって楽しく過ごす旅の方、「そうそう、そうやって過ごしてもらいたいんです!」という光景が見られたのは、私たちにとって何よりも嬉しい事でした。
こちらでは、佐島のあおき農園の無農薬野菜を使ったランチも、おすすめのひとつ。旬の時期に普段の食卓感覚で食べてもらいたいと思い、毎朝採れたての野菜を届けてもらっています。まったりのんびり島時間を楽しんで下さい。
※※※※※ 公共機関を利用した佐島へのルートは以下の通り。 ①尾道駅前-(路線バス 約40分)-因島 土生港 -(芸予汽船 約20分)- 佐島港 ②福山駅前-(高速バス シトラスライナー 約1時間)-因島 土生港 -(芸予汽船 約20分)- 佐島港 ③三原港-(土生商船 高速船 約40分)-因島 土生港 -(芸予汽船 約20分)- 佐島港 ④今治港-(芸予汽船 約1時間)- 佐島港 自転車でしまなみ海道を通るルートもあります。 ①尾道から:所用時間3~4時間(約30km) ②今治から:所用時間4〜7時間(コースにより30〜60km)
文・写真:平山高敏
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ブックカフェ オカッパ
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