飛騨が誇る2つの宿。宿をひとつの「場」として考え、新たな文化をつくる。 [岐阜県飛騨] by ONESTORY
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飛騨が誇る2つの宿。宿をひとつの「場」として考え、新たな文化をつくる。 [岐阜県飛騨] by ONESTORY

「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から岐阜県飛騨の2つの宿を紹介します。

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飛騨高山にある『オーベルジュ飛騨の森』を営む中安氏。高山に移住して3年。料理、農業、コミュニティなど様々なアプローチで、飛騨に新たな文化を創出する立役者のひとりだ。

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外国人からも注目を集める飛騨の魅力を発信する、2つの宿。

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飛騨古川にある『蕪水亭(ぶすいてい)』。母屋は2004(平成16)年に水害に遭い水没したため、1835(天保6)年の古民家を移築した。元家主の親戚が訪れた時に、昔話に花が咲いたことが嬉しかったとオーナーの北平氏は話す。

岐阜県の県北に位置する飛騨エリア。古い町並みに老舗の商家が軒を連ねる高山市、白壁の土蔵が今も残る一方で、手つかずの自然も多い飛騨市、日本三名泉のひとつを有する下呂(げろ)市、合掌造りの集落など日本の原風景が広がる白川村の4市村で成り立っています。 最近は外国人を含めた観光客が増え、年々注目を集める飛騨。ここに、2つの特徴的な宿があります。ひとつは、1870(明治3)年創業、150年近い歴史を持ち飛騨古川の迎賓館と呼ばれる『蕪水亭(ぶすいてい)』。もうひとつは、15年以上海外で活躍した料理人が、先代から引き継ぎリニューアルオープンした『オーベルジュ飛騨の森』です。一見しただけでは対照的な2つの宿ですが、飛騨というエリアに様々なアプローチで新たな風を送り込んでいます。 単にその土地を訪れるだけでなく「宿泊する」という体験は、その土地やそこに住む人たちのことをより深く知り、新たな魅力を発見するための近道です。宿泊してみてこそわかる飛騨の魅力——―。その魅力を、2つの宿を通してお届けします。

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飛騨高山にある『オーベルジュ飛騨の森』。高山といえば古い町並みが人気だが、中心地から車を15分も走らせればこれほどまでに眩い緑に出合える。

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ピンチをチャンスと捉え、災害から見事に再生。

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「一水の間」は北平氏の祖父が設計。窓から眺める外の景色が見事だ。作家の若山牧水、池波正太郎、遠藤周作ら多くの文化人や、皇族も利用されたそう。

どこか懐かしく、情緒溢れる雰囲気を持つJR高山本線・飛騨古川駅。5分ほど歩くと古い家々や白壁の土蔵が続く町並みや、大きな鯉がゆったりと泳ぐ瀬戸川が見えてきます。観光地としての側面を持ちながらも、地元の人たちの普段の暮らしが垣間見える飛騨古川独特の景色が広がります。 今回訪ねた『蕪水亭(ぶすいてい)』は、町並みを抜けた先、荒城川と宮川が合流する川岸にあります。荒城川は別名「蕪(かぶら)川」ともいわれ、蕪水亭(ぶすいてい)の名前はそこからつけられたそうです。館内にも所々に蕪(かぶら)をモチーフにした装飾が施されています。

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「一水の間」は北平氏の祖父が設計。窓から眺める外の景色が見事だ。作家の若山牧水、池波正太郎、遠藤周作ら多くの文化人や、皇族も利用されたそう。

ロビーに入ると、英国製の「デッカデコラ」から美しく響き渡るオペラの歌声。「まぁ、1杯どうぞ」と、手際よくドリップしたコーヒーを淹れて出迎えてくれたのは、音楽好きでコーヒーマイスターの資格を持ち、料理人でもあるオーナーの北平嗣笥氏。お客様をもてなしたい、という素直な思いが伝わってきます。

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離れにある2階建ての「はごろもの間」。築110年の板蔵は総檜造り。家具は職人技が光る飛騨家具を設える。テーブルは飛騨の一枚板を北平氏が自ら磨いて仕上げた。

『蕪水亭(ぶすいてい)』は、母屋と全3室の客室から成る小さな宿。火災、水害と2度にわたる災害に見舞われたこともあり、母屋は築180年以上の古民家を移築したもの。また、客室のひとつは築110年の板蔵を移築したものだといいます。建物を現代風に建て替えるのではなく、明治から続く『蕪水亭(ぶすいてい)』の歴史に見合った建物を移築しているのです。『蕪水亭(ぶすいてい)』はそれまで、今よりも客室数が多い一般的な旅館でしたが、移築を機に客室と寝室を完全に分けた空間設計に。お客様に、より快適に過ごしてもらえる環境づくりに努めたのです。

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のれん、引き戸、柱など、蕪の装飾をあちらこちらで見かける。

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「薬草」というここにしかない地域の宝で、宿も町も元気になる。

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料理人でありオーナーの北平氏。『薬草で飛騨を元気にする会』の活動では、薬草についての講座や薬草茶のワークショップなども開催。北平氏は、若い世代にも薬草を食事に取り入れてもらえるような活動を考えている。

客室のリニューアルとともに、北平氏がこだわったのが宿で提供する料理。和食の料理人として35年、厨房に立ち続けてきた北平氏が注目したのは薬草を使った料理でした。きっかけは、薬草研究の第一人者である故・村上光太郎氏と出会ったことだといいます。村上氏は、飛騨古川には250種類を超える薬草が自生することを発見。飛騨市は薬草を活用したまちづくりを開始し、『薬草で飛騨を元気にする会』を設立しました。北平氏は、その会の理事長も務めています。 「薬草を摂取することは健康につながりますが、『苦い、渋い、えぐい』というイメージの薬草を美味しく、かつ見栄え良く調理するのは簡単なことではありませんでした」と北平氏。和食はアクや苦みを取り除き出汁で食べさせる文化である一方、薬草料理はアクや苦みが薬効のもとであるがゆえに、取り除くことができないのだそうです。薬草料理を作ることは、長年やってきた和食の技術を根本から覆す必要があったのです。

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薬草料理コースの一例。こしあぶら入り出し巻き玉子、あずき菜とえごま、うつぼぐさのお浸し、たんぽぽの豚肉巻きなど薬草があらゆる料理に使われている。食べにくさは全くなく、美味しい。

試行錯誤の末、薬草料理は今では『蕪水亭(ぶすいてい)』の看板メニューのひとつに。ここ数年は地域の人たちと協力して薬草の栽培も始めているのだとか。自分たちで収穫や栽培をすることで薬草に詳しくなり、食するようにもなりました。住民が元気になれば他の地域から人が来るようになり、まちも活性化するのではないかと北平氏は考えているのです。

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薬草の収穫や栽培をしている農家の田中良昭氏。子供の頃、薬草を取った経験はあるが本格的に始めて14年ほど。知識が増え、新しい品種を発見することや育てることが楽しいという。

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東京が世界で一番ではなかった! イタリアで気付いた暮らしの価値観。

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「東京にずっといたら価値観は変わっていなかったと思う。価値観の多様性を理解できない東京は文化的に遅れている。高山は自然と共存し、自分たちらしい働き方や暮らし方を選択できる。それはみんなが幸せになれることだと思う」と中安氏。

鬱蒼(うっそう)とした木々に取り囲まれるように立つ、緑色の屋根がかわいらしい『オーベルジュ飛騨の森』。オーナー兼シェフの中安俊之氏はオーストラリア、イタリアで15年以上にわたり研鑽を積んだ料理人で、3年前に帰国しました。ペンションを経営していた奥様の実家がある高山に移住し、先代から引き継ぐ形で2016年、宿をリニューアルオープンしました。

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イタリアやオーストラリアのオーガニックワインを取り揃える。オーストラリアでは近年、オーガニックやエアルーム野菜の価値が高まっている。「日本もそうなれるよう、次の世代につなぐことが僕の役目」と中安氏。

東京出身の中安氏ですが、「今は高山が面白くて、ここでやれることがたくさんある」と楽しそうに語ります。若い頃は東京が世界で一番だと思っていたそうですが、イタリアに渡り、その思いはあっけなく崩れ去ったといいます。 「イタリアのある田舎に行った時、『うちのトマトが一番!』と家でも外でも毎日トマトソースを食べるのです。最初はそれほどでもと思っていたのですが、一緒に毎日食べるうちに美味しさが増していく。自分の土地を愛して、自分たちが作るものに誇りを持っているからこその美味しさではないかと思いました」と、中安氏は当時を振り返りながら話します。

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ゲストルームは全7室。リニューアルの際、客室も改装。華美になりすぎないシンプルでモダンなインテリアは、海外仕込みのオーナー夫妻のセンスがうかがえる。海外からのゲストが全体の9割を占めるのだとか。(写真提供:オーベルジュ飛騨の森)。

その土地で暮らす人の気持ちひとつで、いつものトマトがぐんと魅力的になる。その出来事は中安氏の心を動かし、東京が世界で一番だという思いはどこかへいってしまい、地方での暮らしに自然と目が向いていったのです。

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地元の良さを再確認してもらうことは、外から来たものの宿命なのか。

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夕食時には飛騨の野菜(時期により異なる)を使ったイタリアンのフルコース、朝食時には自家製パンや野菜たっぷりのサラダなどが提供される。飛騨トマトが一番美味しい時期は秋ごろ。(写真提供:オーベルジュ飛騨の森)。

自分の土地に誇りを持ち、地元だからこそ忘れがちなその土地の良さに気付いてもらうことは、飛騨高山で中安氏が目指すことのひとつだそうです。エアルーム野菜の栽培は、その活動の一環ともいえます。

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冬が長い飛騨では作物の収穫時期が限られ、春先はほとんど収穫をすることができない。今は夏や収穫の全盛期を迎える秋に向けて土づくりに精を出す時期なのだそう。

エアルーム野菜とは50年継続して種を取り続けた野菜のこと。日本では在来種や伝統品種などと呼ばれることもあります。中安氏は、宿でエアルーム野菜を使った料理を提供しようと考えましたが、周りは誰も知らず、それどころかネギやカブなど伝統野菜の栽培をする人が減少している現実を知ります。 「トマトやホウレンソウの方が売れるから、伝統野菜を作らなくなる。伝統野菜を作ることはお金を稼ぐだけでなく、文化を形成すること。エアルーム野菜が今はないとしても、これから50年作り続ければそこに文化が生まれ、次の世代にもつながる。飛騨の若手農家を中心にエアルーム野菜の重要性を訴え、現在は仲間10人と情報を共有しながら飛騨ならではの野菜作りに励んでいる」と、中安氏は嬉しそうに話してくれました。若い頃、イタリアで衝撃を受けたトマトとの出会いを思い出すかのように……。

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山があり水が豊かな高山は全国的に見ても良い堆肥が作れる土壌があるという。エアルーム野菜は、たいていは化学肥料を使わず育てられるため生命力の強いものが多い。化学肥料なしで育てられた野菜は根が真っ白!

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「宿にとって一番重要なのはホスピタリティ。料理はコンテンツのひとつでしかなく、コミュニティや場をつくることが大切。相手を幸せにすることは、結局自分に返ってくる」と中安氏は話す。

オーベルジュ飛騨の森

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高山市新宮町3349-1

蕪水亭

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飛騨市古川町向町3丁目8−1

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